提督の娘
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第七章
第七章
「暫くぶりです」
「少尉もこのパーティーに呼ばれていたのですね」
「そうです、ミス=サエコ」
ここで彼女の名前を呼んだのであった。
「貴女もでしたか」
「はい、父に連れられてです」
だからだというのであった。今日も美しい白のドレスを着ている。その城が実によく似合っている。そのうえで彼に対して言ってきているのだ。
「それで」
「そうですか。今日もなのですね」
「今日はとりわけです」
サエコはその気品のある笑みと共に述べた。
「海上自衛隊は何しろ」
「御細君の祖国の海軍だからですね」
「ええ。それでです」
一応自衛隊は軍隊ではないということになっている。しかしそれは日本以外の国では誰も見ていないし思っていないことであった。どう見ても軍隊だからだ。
「母は海軍とは関係ありませんが」
「そうなのですか」
「ここに旅行に来ていたのです」
「ここにとは?」
「この国にです」
イギリスにというわけである。
「母の実家での仕事の休暇の時に。それで父と知り合いまして」
「そうだったのですか」
「一目惚れで。それででした」
そうした事情からなのだった。サエコが話す彼女の両親の出会いはかなり偶然が入っていたがそれ以上に運命の引き寄せを感じさせるものだった。
「父と母は」
「そうだったのですか」
「はい、そしてです」
さらに話すサエコであった。
「私達はここにです」
「神のお引き寄せですね」
まさにそれだと述べたダスティであった。
「まことに」
「私もそう思います」
サエコも気品のある笑みで返してきた。
「まさにそれだと」
「そうですね。それでですが」
「はい」
「今お父上もやはり」
「この場に来ています。ただ」
「ただ?」
「日本の祖父達も来ていまして」
彼等もだというのである。つまり義父母に会っているというのである。
「今はそちらにいます」
「そうなのですか」
「それで私も」
言葉が少し申し訳なさそうなものになった。
「今から。すいません」
「いえいえ」
にこやかに笑って返すダスティであった。
「それではまた」
「はい、また」
こう笑顔で言い合って別れる二人であった。彼女が去るとそれまであえて沈黙を守っていたウィルマーが彼に対して言ってきたのだった。
「奇麗な人だな。それに気品もあって気遣いもできる人みたいだな」
「そうだよ。この前あの後で基地を紹介して回ったけれどその時もね」
「いい人だったか」
「とてもね。最後まで楽しい時を過ごさせてもらったよ」
「それは何よりだな」
ウィルマーもそれを聞いて微笑んだ。
「君にも相手ができたみたいだな」
「相手か」
「そうさ。恋人だよな」
その笑顔でダスティに問うてみせた。
「まだそこまではいかないか?」
「そんなのじゃないよ」
ダスティもそれは笑って否定した。実際にそこまでは思っていないのだ。
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