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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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絶剣 対 影の剣士

その後、村からやってきた男たちはその竜の死体を見て一様に口と目を丸くし、ついで盛大な歓声をあげた。

口々に俺とユウキに感謝の言葉をかけ、軽く解体した後、この空間から運び出して行った。

「……若干鈍ってたな」

いくら武器が足りないとはいえ、もう少し上手くやれたはずだ。対竜戦を回想すると、いくつか判断ミスがあった。

「え……あれは全力じゃなかったの!?」

「今出せる全力だったな」

ついでに相性が悪かった。キリトならもっと楽に倒せただろう。……今言っても詮無きことだが。

今回見つけた粗は猛省し、次に生かすとしよう。

「ふふん、リンは本当はもっと強いんだから!」

と、何故かユウキが自慢げにレアに語り出す。周囲の村人たちも興味があるのかユウキの周りに集まり、ユウキによって過度に美化された話を聞き始めた。

……ユウキ、真実が一割しかないぞ?いや、真実が一割あるから余計に質が悪いのか。

そして、俺を見るレアを始めとした村人たちの尊敬の視線が非常に痛い。

「その誇張されて英雄史のようになっているモノを話すのはいいが、そろそろ戻らないか?」

「えー……今からいいところなのにー……」

口を尖らせて、小さな身体をいっぱいに使って抗議するユウキ。

「そんなに大層なことはしてないだろうが。あの主人公カップルがほとんどやってるだろう?」

「相変わらず自己評価が低いなぁ……。それもリンの美点の一つなんだろうけどさ。あー、リン。ボクだけじゃなくてしののんやリーファからも言えることだけど、ボクたちの英雄(ヒーロー)はリンだからね?何度も言ってると思うけど」

「ああ、耳にタコができるくらいな」

シノンの時は確かに俺が主体になって動いたが、ユウキの時、俺は完全に裏方だった。アスナに任せてたしな。

……言われて嫌ってわけじゃないんだが……正直身にあまる。

「まあ、リンって割りと頑固だし、少しずつ認めさせてあげるから覚悟してね?」

「シノンにも言われたような気がするな。……覚悟しておくよ」

キリトみたいに女難の相でもあるのだろうか?

まあ、自分の選んだ道なので、受け入れるしかないが。

「そろそろいいですかー?」

「……あ、居たんだ」

レアが横から自身の存在をアピールするかのように跳ねる。

そしてユウキの言葉でコントのように転んだ。

「最初から居たよね!?」

「あはは……ゴメンね」

ユウキがレアを宥めている……というより慰めてる様から目を離し、竜の死体に目を向ける。

何人もの男たちが群がり、竜を解体していく。手際よいその手つきに、竜を解体した経験があるのかと思ったが、初めてだったらしい。

蜥蜴なら解体したことがあるから、むしろ巨大な分楽だった、ということらしい。

それから数ヶ月、村では丁重に扱われ鍛冶(というよりも成形)と裁縫により鋭い犬歯や鋭い骨から片手剣を三振り。竜皮からレザーアーマー。そしてその他諸々の小物が完成した。

その間、俺とユウキは多数の求婚を受けた。……まあ、どちらも断ったのだが。

暴力重視の支配下では力あるものに惹かれるのはわかるが、正直こちらは引くだけだった。三人も彼女を作っといてなんだという話ではあるが。

「そういえば、なんで三振り?」

「いざという時のためにユウキも戦えるようにした方がいいだろう」

選択肢は多ければ多い方がいいしな。

「んー……私はリンの剣に為れればいいんだけど……。まあ、あって困ることはないか」

納得して剣を受け取り、素振りを何度か確かめるようにした。

「一応、ALOでリズに作ってもらったユウキの剣、ソリディフィダークネスに近いとは思うが……」

「うん……うん! 手に馴染むよ!」

嬉しいのはわかるが振り回すな。風が起こるから。

「手入れはどうすればいいんだ?」

ユウキを止めつつ、鍛冶師の男性に話し掛ける。

これから先、手入れ出来ずに折れました……は避けたいからな。

「その剣の天命は膨大で、しかも自動修復の能力までついておる。手入れは必要ない。さらに硬度、軽さ、切れ味、どれを取っても最高だろう」

我が子を自慢するかのように大仰に解説してくれる鍛冶師。

「……なら、いいか」

「ん?なにがいいの?」

「いや、せっかくだ。ユウキと一回剣を合わせてみたくてな」

そう言うとユウキの表情は呆然としたものから一気に笑顔になった。好戦的な笑みを。

……俺の周りにはバトルジャンキーしかいないのだろうか?

「うん、やろう! 今すぐに!」

待ってるから、と言うが早いがユウキは剣を掴んだまま、扉から外へ飛び出していった。

「……元気だな」

鍛冶師に一つ礼を言ってから、俺は剣を二本、掴んで外に出た。















†††
















「……ユウキ、なんでこんなに観客がいるんだ?」

「私がリンと仕合いをするって言ったら集まってきたよ?」

外に出ると、かなりの人数が集まっていた。ユウキと外に出る時間にさほど差はなかったと思うのだが。

そして、その人数は時間が経つ毎に少しずつ増えている。

「……そうか」

まあ、見られるのは想定内だが……こんなに集まるのは想定外だった。

「そういえば、リンと戦うのは初めてだね!」

「あの時は忙しかったからな」

ユウキと十メートル程の距離を取って向かい合う。

「誘ったことはあったよ?それで、その時リンが言った言葉、覚えてる?」

「'ユウキの剣は素直過ぎる'……だったか」

俺の剣はある意味邪剣。絡め手、不意打ちありありの、とても綺麗とは言えない剣だ。つまり、相手を殺すためだけの剣。他のSAO生還者たちも似たような剣を使うが、俺のはさらにそれに特化している。

対するユウキは決まった型はないものの、ユウキ自身の桁外れた戦闘センスと身体能力の高さ。そこから磨かれた剣技。剣士としては間違いなく一流。しかし、戦士としては素人に近い。故に絡め手を使う俺との相性は最悪と言っていいのだ。

「うん。確かに、ボクは駆け引きとかあんまりよくわからなかったよ。……あの時は」

ユウキが剣を正眼に構え、腰を落とす。普段の陽気さは消え、真剣な空気を身に纏った。

「……リンの隣に立つために努力してるのはしののんだけじゃない。ボクだって前に進んでる」

「なるほど……なら証明してくれるんだろう?」

そのユウキから目線を外さず、いつもの構えを取る。

騒がしかった周りの村人はぶつかり合う闘気を感じてか、今は物音一つ立てず静まりかえっていた。

「もちろんだよ。そして必ず勝つ!」

そう叫んでユウキは地面を蹴った。踏み込んだ地面がえぐれるほどの力を込めて一気に加速したユウキは俺の懐目掛けて走ってくる。

「……せっかちだな」

ユウキの加速を見て、こちらから走りよるという選択肢を瞬時に放棄。

左手の剣を横に寝かせ、肩に担いでいた右手の剣を振るために右肩を少し下にさげた。

「せやぁ!!」

ユウキは走ってきた勢いそのままに、思い切りよく袈裟斬りを放ってきた。

これが訓練だというのにユウキは剣を全く止める気はない。その理由は目的を忘れたが故か、これくらいなら受けられるという俺への信頼か。まあ、十中八九後者だろうな。

リンなら避けられると思った!

なるほど、ユウキなら笑顔で言いそうなことだ。

それを証拠に、斜め下に受け流しても体勢が崩れていない。それどころか、剣を握っていない方の手を固く握って追撃を放ってきた。

後ろに自ら跳んで衝撃を逃がし、ダメージを最小限に抑える。前方ではユウキが殴ったままの体勢で首を傾げていた。

「……感触が弱い?」

「自分で跳んだからな。拳は見事だったが……それよりも不意打ちは酷いと思うぞ?」

「そうでもしないとリンの不意を打てないでしょ?」

てへっ、と舌を出すユウキに悪びれる様子はない。

「ちなみに拳はアスナに習ったんだよ?」

アスナお得意の鉄拳正妻か。確かに言われてみれば似たような技に見える。

「まあ、それは置いておいて……今度はこちらから行くぞ」

ユウキが瞬きをしたその瞬間に地面を蹴って、ユウキの側面に回り込む。

視界から消えた俺に、ユウキはその姿を探すように左右を見るが、その時には既に俺は間合いに入っていた。

「ッ!」

殺気と気配を可能な限り薄くした俺は短く鋭く吐いた吐息とともに、移動する途中で鞘に納めていた剣でユウキの体幹部を狙って片手居合いを放った。

「ちょっ!?」

当たる寸前、俺の存在を発見したユウキはとっさに剣を自分と俺の剣の間に滑り込ませた。自身の身体を引いて時間を稼ぎながら。

俺の剣がユウキの剣にぶつかり、衝撃波が周囲に撒き散らされる。

ソードスキルこそ使っていないし、本来両手で放つものである居合いを片手で放っているのだが、それでも速さだけをみればまさに神速。それに反応できただけでも普通ならば称賛されるべきことだが、ユウキはそれを的確に防いだ。

そして、そんな速度で剣がぶつかり合っても欠けすらしない剣。それが確認できたのだから、この打ち合いの目的は達成されたと言える。

しかし、止まらない。

居合いが迎撃されたのは想定内。ならば次の一撃を用意しておくのは当然。

居合いは防げたものの、無理な体勢で受けたため、ユウキの身体は若干泳いでいる。そのユウキを狙って、居合いに使った剣を引き戻しつつ、斜め下から剣を斜め上へ薙いだ。

さあ、どう防ぐ?

そう心の中で問い掛けるとユウキは剣から手を離し、素早く逆手で掴む。そして剣の重心を肩に乗せて即席の盾を作り出した。

俺の剣の軌道に対し、ほぼ水平なその剣の表面を火花を散らしながら剣が滑って行く。

また、完全に水平では無かったため、ユウキの身体には俺の剣の軌道から90度異なる向きのベクトルがかかった。しかしその力を利用し、次の技への溜めを作る。

ユウキは再び剣を逆手から順手に握り直すと大きく引き絞る。途端にその剣に集まる黒い光。

俺が居合いを放った剣を引き戻した、その剣で放とうとしている技と同じ。

片手剣単発重攻撃《ヴォーパル・ストライク》

「はぁっ!!」

「シッ!」

今までの比ではないほどの力を秘める上位ソードスキル同士のぶつかり合いに、黒みがかった煙とともに爆風、衝撃波が発生。

後ろに吹き飛ばされる。煙で見えないが恐らくユウキも。

煙が薄れ、ユウキの姿が見えた瞬間に再び地を蹴った。同じくユウキも俺と同時に地を蹴っており、ほぼ中央で剣と剣がぶつかり合った。

剣と剣がぶつかり、弾かれた瞬間引き戻し、逆の手に持った剣を突き出す。

しかしそれをユウキは半身になってかわし、同時に構えていた剣を横に薙いだ。

それを俺は下から剣を絡めるようにして上に軌道を逸らす。ユウキの鋭い剣閃が髪を掠るのもいとわず、跳ね上げた剣をそのまま強引に振り降ろした。

「くっ!?」

ユウキはそれを見て剣を横に振った勢いを利用して横に跳ぶ。急なことで完全に体勢が崩れており、立て直そうと手を付いた。

そこを狙う。

若干痛む手首を無視し、伸びきっていた剣を引き戻しながら中腰のユウキを攻め立てる。

この状態で剣以外の武器を使えば確実に仕留められるだろう。だが、俺には使う気にはなれなかった。ユウキは成長している。そのユウキと戦うのが途方もなく楽しいのだ。

「ッ!」

二刀流ならではの素早い連続攻撃。ユウキはその不安定な体勢から回避してみせた。

一撃目、左の剣による突きは上体を逸らしたユウキに回避される。二撃目の右の剣による袈裟斬りは横に転がったことによって狙いが外れ、三撃目の足による震脚はユウキが仰向けの状態からの後ろに下がりながら跳び起きたため回避された。

続く数撃に渡る斬撃も剣によって捌かれ、最終的に最初と同じ距離を空けて睨み合うことになる。

「……リンは剣以外使わないの?鋼糸とか、暗器とか」

「何故そんなことを聞く?」

「だってリンがそれを使ってたらボクはもう負けてただろうし……」

自己鑑定がしっかりとできているようだ。拳など、まだわかりやすいフェイントなどは対応できるようになっているが、鋼糸や暗器など、不意打ちやトリッキーな使用に特化した武器に対しての
自分の弱さを自覚している。だからこそ疑問だったのだろう。戦闘(殺しあい)で勝利を得ることに手段を選ばない俺が使わなかったことが。

「まあ、なんだ。ユウキとは純粋に剣での戦いがしてみたかっただけだな」

そう言うとユウキは一瞬ポカンとした後、満面の笑顔になった。

「そうなんだ! まあ、リンに使われたらボクはすぐにやられちゃうしねー。うん! 嬉しいよ、リン。こんなに楽しい戦い、すぐに終わらせるのはもったいないしね!」

そして口には好戦的な笑みを浮かべたまま腰を落とし、剣を構えた。

「でも、戦いでは勝てなくても剣ではリンにも負けないよ。だからこの勝負、ボクが貰う!」

そう叫んでユウキは走り出す。最初とは違い、全力疾走ではなく、こちらの様子を見ながら走っている。

経験はユウキに負けるとは思わないが、確かな才能に裏打ちされた剣では一歩譲るだろう。

だから、自分が挑戦者だと思え。

こちらからも動く。距離がゼロになったとき、ユウキが斜め下から斜め上へ振った剣を流す。そして逆の剣を突き込もうとした時、ユウキが笑っていることに気づく。

まて、なぜユウキは斜め下からというわざわざ威力の下がる振り方をしたんだ?

その直後強烈な悪寒が背筋を走る。

背筋に走る警告に従い、肩に担ぐように構えていた剣を肩で跳ね上げながら後ろに下がった。

ユウキの放った袈裟斬りが跳ね上げた剣とぶつかり、衝撃が手に響く。その瞬間に前に向かって払うことで袈裟斬りをかわす。

その際に放った突きは中途半端過ぎて軽くユウキに回避され、そのまま剣を腰溜めに構えたユウキが追撃を放ってきた。

先程のユウキの攻撃、俺が受け流すことを見越して全く力を入れてなかったのだろう。フェイントのために攻撃に力を入れないということは俺もするが、ユウキのはさらに入れていなかった。もし、弾かれれば完全に死に体を晒すことになっただろうに。まさか、こんな賭けに近い方法でくるとは……。

俺の戦術が逆手に取られた。俺がまだまだであると実感する。

体勢的にかわすことも弾くこともままならないだろう。できなくはないが次でチェックメイト。ならばいっそ。

「これは……」

俺の首筋に添えられたユウキの剣。少しでも押し込めば即座に切断されそうな位置にある。

「……引き分け……だね」

対してユウキの胸部の下方。ちょうど心臓に当たる位置に切っ先が向けられた俺の剣。これもギリギリで静止していた。俺の悪あがきだ。

「いや、俺の負けだろう。鎧があれば俺がユウキに致命傷を与える前に俺の首は飛んでる」

なんとか引き分けに見えるような状態に持っていっただけである。

剣の腕では勝てんな。

「いや……でも……」

「安心しろ。すぐに越えてやるからな」

軽く口角を上げてやると、ユウキは釣られて困ったような表情から好戦的な表情になった。

「……負けないよ!」

ユウキは扱い易くて助かる。シノンだったら簡単に看破されてぐずりそうだし。

ユウキの説得(?)に成功し、改めて周りを見回すと散々な有様だった。無駄に振った剣閃から出た風圧や、ぶつかり合った時の衝撃波が凄まじかったらしく、地面はえぐれ、あれだけいた見物人たちは半数ほど地面に転がっていた。ちなみに耐えられたのは戦闘に携わっている連中らしい。

「武器の使い心地はどうだ?」

目的が途中からズレていたが、本来の目的はそちらである。

そう言うとユウキは確かめるように二、三度武器を振った。

「うん、違和感はほとんどないよ。ちょっとあったはあったんだけど、リンとの戦いで消えたから」

「なら問題ないか。明日は休みにして明後日出るか」

「そうだね!」

一ヶ月の間、世話になったこの村を離れる時が来た。 
 

 
後書き
どうも、最近死に体の蕾姫です。

この話を書く際、アニメのユウキVSアスナ(書いてる当時はアニメがマザロザ編)に多大に感化されました。おかげて入れる予定になかったユウキVSリンをやるハメに……。結果は見ての通り、ユウキ有利の引き分けです。鋼糸等を使えばユウキは手も足も出ません。というか、姑息な手を使うので勝てるやついるのか……。

まあ、強いて言うなら小細工ごと叩き潰してくる薬味マンガのバグや遠距離からの大火力を使う型月のAUOなどが苦手です。

武器的には鈍器がちょっと苦手だったり。

リンの手札の多さは異常です。一つ一つは弱くとも重ねることでそれは相乗効果を生む。それがリンの強さです。ハイスペックだから器用富豪になってるし……。

いろいろ(特にイラスト)お待ちしています。次回もよろしくお願いしますね。

ではでは。 
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