| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百八十四話 木津川口の海戦その十五

「挙兵されるとは。だが」
「だが?」
「だが、とは」
「何処に兵糧なり銭があったのか」
 信行がいぶかしむことはこのことだった。
「今の幕府に」
「天海殿と崇伝殿がです」
 幕臣の一人が彼等の名を挙げてきた。
「そうしたものを」
「用意したのか」
「はい、それに」
「それにか」
「兵もです」
「闇の衣や具足の兵をじゃな」
「左様です」
 そう聞いてだ、また言う信行だった。
「また闇か」
「そういえば闇の衣は」
「それは」
「津々木にな」
 信行にとっては最も忌まわしい相手だ、今も。
「それに何時ぞやの僧兵達に」
「一向宗のですな」
「あの者達も」
「そうじゃ、何かというと闇じゃな」
 こう言うのだった。
「当家に向かって来るのは」
「ですな、織田家の前に出て来るのは」
「闇の者達ですな」
「何かと」
「そして今も」
「そうじゃ、そこが気になるのう」
 信行は袖の中で腕を組み述べた。
「どうにも」
「何故闇の者達か」
「それがどうも」
「わからぬ、しかしな」
「はい、ここは」
「すぐにも」
「こちらも兵を動かしてな」
 そしてだというのだ。
「帝をお守りして民達もな」
「救い」
「そうして、ですな」
「攻めはせぬ」 
 信行は、というのだ。
「公方様は二条城じゃな」
「はい、あの城において」
「挙兵されています」
「それでは二条城を囲みな」
 そうして、というのだ。
「攻めずにじゃ」
「兵を置き」
「そのうえで」
「兄上に早馬を送る」
 今すぐに、というのだ。
「そしてじゃ」
「殿が来られたら」
「その時に」
「案ずるな、兄上はすぐに来られる」
 確信と共にだ、信行は周りの者達に告げた。
「そして来られたらな」
「そこで、ですな」
「いよいよ」
「わしは戦は駄目じゃ」
 自分でだ、戦下手を認めた言葉だった。
「だからのう」
「だからですか」
「攻められるのはですか」
「殿ですな」
「そうじゃ、兄上じゃ」
 彼を置いて他にはいないというのだ。
「だからじゃ、わしは攻めぬ」
「殿が、ですな」
「幕府を攻められますか」
「それで一瞬で終わる」
 信長が攻めれば、というのだ。
「これで幕府も終わりじゃ」
「室町幕府も」
「これで」
「そうじゃ、終わり」
 そこにだ、信行は感慨も込めて言った。
「新しいものがはじまるのう」
「そうした意味もありますか」
「都での戦は」
「そうなる、公方様は気付いておられぬが」
 幕府が終わりそこで古いものが終わることがだとだ、信行はそれを感じ取りそれで言ったのである。そうして。
 そのうえでだ、周りにこうも言うのだった。
「そうなるわ」
「この度の戦はそうしたものにもなるとは」
「ただ天下を決めるだけでなく」
「新しきこともですか」
「はじまるものであるとは」
「そうした意味でも大きい」
 非常に、というのだ。
「ではよいな」
「はい、では殿を」
「待ちましょう」
「そうするぞ、兄上はすぐに来られる」
 早馬を送った、それでだというのだ。
「都の戦もな」
「すぐに」
「終わりますな」
「その通りじゃ、幕府は神輿じゃった」
 言葉は既にだ、過去のものだった。
「神輿を担ぐ者に何かをすればな」
「それで、ですな」
「終わりですな」
「それがわからぬ様では」
 義昭もだというのだ。
「終わりじゃ、何もかもな」
「ですか」
「幕府も間も無く」
「数日の間に終わる」
 幕府のことも、というのだ。
「あっという間じゃ」
「その数日で」
「幕府も」
「そうじゃ、終わりじゃ」
 また言う信行だった。
「尊氏公の時からの幕府もな」
「そして幕府の後は」
「いよいよですな」
「我等が殿が」
「天下を」
「そうなる」
 信行も確信していた、このことを。
「だからな」
「はい、我等も」
「その殿の御為に」
 幕臣達もだった、彼等は既に義昭から離れていた。そのうえで信長の家臣即ち織田家の家臣として働くことを決意し信行の下に入るのだった。
 義昭は挙兵した、そしてそれと共にだった。信行は兵を動かしそのうえで即座に早馬を信長のいる摂津に向かわせた。毛利水軍を退けた織田家はもう一つ厄介な事態を迎えていた。


第百八十四話   完


                       2014・6・1 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧