ソードアート・オンライン 神速の人狼
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第五十層ボス戦
sideアスナ
現在、第50層転移門の前でぞろぞろと50人近くのもの攻略組と呼ばれるトッププレイヤーが集結している。これから第50層のボス戦の攻略へと向かうところだ。
「まだ来ないか…………。全く何やってるのよ」
思わず不満の声を漏らしてしまう。
ユーリとシィの二人を待っているのだが一向に姿を現さない。
一向に出発しないことに不信に思ってか、ところどころ不満の声が漏れ始める。
「もうさすがに待てないか……。」
ユーリ達には次会ったときはお灸を据えてやろうと心に決め、集団の前に出る。するとざわざわとしていたプレイヤーたちは一瞬にして静まりかえり全員の目線が私に向けられる。
「絶対に勝って、次の階層へと進みましょう!!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
私の掛け声に対し、みんなが各々の武器を持ち上げ、今のモチベーションを表すかの如き大声で応えてくれる。
「コリドー・オープン!では、行きましょう!」
目の前の空間に不思議な渦が現れ、ぞろぞろとプレイヤー達が入っていく。そして、視界が開けた先にあったのは重々しい雰囲気を放つ鋼鉄の大扉。
今回はクウォーターポイントと呼ばれる階層でクウォーターつまり四分の一層をさす単語。他の階層と最も大きく違う点はボスの強さ。一度目のクウォーターポイントである第25層では多くのプレイヤーが死に、通称"軍"と呼ばれるギルド《アインクラッド解放軍》は壊滅級の被害を受けるなど相当の損害を与えた。そして、そんな悲劇を繰り返さぬよう事前に偵察隊を編成し、何度もボス戦の下見をするなど準備は万端。
今回も死亡者無しでクリアしようとプレイヤー全員が心に決める。
大扉が開けられると即座にそれぞれのパーティーが、ポジションにつきボス部屋中央に鎮座する四つ脚のドラゴンを取り囲む。名前は《ザ・ティアマット・ドラゴン》。
『グゴォォォォォォォ!!!』
「戦闘開始!!」
私の掛け声と共にボスへのアタックが開始される。
◆
ボス戦が開始され、はや一時間。心配されていた第50層ボス戦は順調に進んでいた。いや、今思い返せば順調過ぎたのかもしれない。あんな事になるとはこの時誰もが思っていなかっただろう。
スタンするティアマットへとプレイヤー全員によるフルアタックを仕掛け、ついに五本もあったHPバー全てを削りきり、ティマットはその身体をポリゴン片へと変える。そして、プレイヤーたちからは歓喜の声が上がる。
だが、それは歓喜から悲鳴へと変わり、プレイヤー達を絶望の淵へと叩きつける。散ったはずのポリゴン片が再度集結し、別の個体を作り上げる。
「なっ……嘘……でしょ⁉︎」
私は驚きのあまり声が掠れる。
集結し、再構成された個体はより禍々しく、より凶悪なオーラを放つドラゴンへと作り変えられる。
《ザ・ティアマット・ロアード・ドラゴン》
復活したボスの頭上に表示され、同時に七本ものHPバーが表示される。
『GyAAAAAAAAAAAA!!!』
悪夢のような雄叫びと共に剛爪により攻撃が放たれる。すぐさま前衛のパーティーは立ち直り、防御行動を取る。だが……
「「うわぁぁぁぁ⁉︎」」
防御に特化しているはずのタンクがいとも簡単に吹き飛ばされ、ポリゴン片となり散っていく。
「うそでしょ……一撃で……」
ソードアート・オンライン屈指のハイレベルプレイヤーがたった一撃でポリゴン片へと変えられた事実はプレイヤー達を戦慄させる。
そして、戦線を立て直せないままに次々とプレイヤーが追い詰められて行く。
そして、また一人。吹き飛ばされ未だ立ち直れないプレイヤーめがけまた攻撃が悪魔のような繰り出される。
(間に合わない!)
また人が死ぬ……。第25層で起こった悲劇がフラッシュバックする。
「あぁ…………嫌だいやだぁぁぁ!!」
死を直前に泣き叫ぶも無情にも振り下ろされる。
ギャィィィィィィンン
突如、薄暗いボス部屋内に強烈な閃光と共に耳障りなサウンドエフェクトが鳴り響く。
「え…………」
ボスの攻撃を弾きかえす事はおろか、防ぐことも無理かと思われていた攻撃がボス戦へと乱入して来たプレイヤーによってパリィされていたのだ。
その光景に信じられず素っ頓狂な声を出してしまう。
「悪い……遅くなった」
聞き覚えのある声と目深に被られたフードから覗く銀髪。
「ユーリ……くん……」
「諦めたら、そこで試合終了だよ♪ そうでしょ!あんざいせんせー!!」
鮮やかな紅色のした髪をポニーテールで結んだ少女が陰湿なボス部屋には不釣り合いなほど明るい声が響かせ、アスナの横へと並ぶ。
「シィちゃん!!」
絶望的な局面に一筋の希望の光が差し込む。
◆◇◆
sideシィ
「行くぞ、シィ!」
「オーケーオーケー!任せんしゃい!」
パートナーの呼びかけにできるだけ明るい声で、諦めかけたプレイヤー達を励ますような声で応え、ユーリの後ろを追随する。ユーリはすでに刀を納刀しており、《抜刀術》は使う気のようだ。
ユーリはロアード・ドラゴンへと接近し、射程圏内へと入ると即座に視認できないほどの速度で刀が抜刀され、強固な鱗を傷つける。目に見えて、ボスのHPが減少する。そして、返す刀で斬り裂き、バツの字に斬りつける。
「スイッチ!」
「ハイな!」
すぐさまユーリと場所を入れ替わり、ソードスキルを発動させる。
大鎌 八連撃 デスワルツ
踊るように身の丈ほどある大鎌を振り回し、次々と強烈な斬撃を一点集中して叩き込んでいく。
ここに来て私の愛鎌《冥福の大鎌ーレクイエムー》の特殊能力が活きているようだ。この鎌には、相手の武器や防具の耐久値を通常より大きく削るという【アームド・ブレイク】というスキルが備わっており、一撃当てるたびに強固な竜鱗が脆くなっていくのがわかる。そして、八連撃目を叩き込んだ時、ついに一つの鱗が破壊でき、無防備な部分が露出する。だが、それによってボスのタゲが私へと移行してくる。
「うわっ!危なっ!」
何人ものプレイヤーを屠ってきた剛爪の連撃が私に襲いかかるが危なげなく躱し、同時に鎌で切り裂いていく。
「破っ!」
『ギャァァァ⁉︎』
ボスはマークから外れていたユーリによって無防備な部分へと強烈な一撃を入れられ、悲鳴をあげる。もうすぐで一本目のHPバーを破壊できるところまできていた。
完全に崩されていたフォーメーションもようやく修復でき、後方からレイドリーダーの指示が飛ぶのが聞こえてくる。攻撃部隊が次々とボスへと攻撃を繰り出し、放たれた攻撃を防御部隊が攻撃部隊とローテーションし、重そうなタワーシールドを前面に押し出し、攻撃をカードする。
八パーティーあったのは、まともに機能しているパーティーは四つと半分まで減らされ、壊滅的な危機に陥ったものの今はマトモにやりあえている。そして、一番大きい要因は血盟騎士団の団長、ヒースクリフだろう。
「むんっ!」
ヒースクリフは二、三人のタンクでようやく受け止めているボスの攻撃をたった一人で受け止めている。おそらく、彼が居たからこそ戦線崩壊しても持ちこたえれたのだと思う。
「全く、ふざけてるだろ、その防御力。分けてくれよ。」
「なら私は君の俊敏値を頂こうかな?」
ユーリの呟きははっきりと聞こえていたらしく、ヒースクリフに冗談混じりで返されている。ボス戦、しかも一度でもミスればゲームオーバーな状況で何やってんのと思ってしまう。
「それは勘弁だな、っと!」
「そうか。」
二人を狙うボスの攻撃をユーリは刀ではじき返し、ヒースクリフは受け止める。私も負けてはいられない。そして、それは他のプレイヤーも同じようで士気が上がってきている。
着実にダメージを積み重ね。ようやく三本目のHPバーの全て削りとる事ができた。
このまま何もなければいける!そう心の中で確信する。だが、今思えばこれがフラグだったのかもしれない……。
side out
◆◇◆
何時間かかったかわからないがついに五本目のHPバーまでを削りきり、残すところあと二本。だが、その時悲劇が起きる。
大抵のモンスターはHPが少なくなると行動パターンに変化が起きたり、増えたりする。今回のボス《ティアマット・ロアード・ドラゴン》もその例に漏れず、HPバーを破壊するたびに攻撃パターンが増え、初めは単調だった攻撃もフェイントが混じり、ブレス攻撃や範囲攻撃なども追加された。だが、その度に順応し的確に対処していった事により被害を最小限に抑えていた。
残り二本となった時、ティアマット・ロアード・ドラゴンは一際大きな雄叫びをあげ、折りたたまれていた翼を拡げる。
「マジか……。」
思わず声を漏らすユーリ。それもつかの間、すぐに接近し、攻撃を再開していく。
抜刀術 重単発技 紫電一閃
紫の光を迸らせながら、巨躯を傷つける。だが、ヒットの際の感触に顔を顰める。相手が空中に居る分、衝撃が分散され、ダメージが減ってしまっているのだ。だが、それだけではなく、空中に相手がいるぶん、普通の片手剣などではリーチが届かず、攻撃を当てようとして接近すればすぐさま返り討ちにあう。一気に窮地へと陥る。
「くそ、こうなったら!」
ボスのスタンプ攻撃を避けるとそれを踏み台にし、さらに上へと飛び上がる。そして、ティアマット・ロアード・ドラゴンの背中めがけ落下しつつ、ソードスキルを発動させる。
刀 四連撃 氷麗
蒼い光を纏った刀は高速の二突きのあと、十字に背中を斬りつける。だが、ティアマット・ロアード・ドラゴンのステータスが強化され、防御力が上昇したのか、刀は竜鱗を浅く傷つけただけで対してダメージになっていない。
「よっと。」
無事に背中へと着地する。ボスが空中にいることから、攻略組の面々は攻めあぐねて居る様子。完全ノーマークとなっているユーリはバランスを取りつつ、背中へと刀を打ち付ける。しかし、生半可な攻撃ではカキンと甲高い音と共に弾かれてしまう。
「くそ……なんかないのかよ」
打開策を見つけようと攻撃の手を緩めずに思考を加速する。
「っ!まさか!って、うわっ⁉︎」
何かに気付いたユーリだが、それを実行する前にティアマット・ロアード・ドラゴンが急に上昇をしたために振り落とされてしまう。
「大丈夫か、ユーリ!」
ちょうど着々した付近にキリトがおり、声をかけてくる。
「ああ、なんとかな。」
何かに気づけそうだった時に振り落とされ、もう一度、背中に乗れないかと思案する。
「あ、そうだキリト……。」
何かを考えついたユーリは悪い笑みを浮かべる。ユーリの作戦を伝えられたキリトは思わず声をあげる。
「おまっ⁉︎マジでやんのか⁉︎」
「あぁ、もちろん。できそうか?」
「やってみなきゃわからない。けど、その前に動き回ってるボスの動きを止めないと無理だぞ」
必死に反論をするキリト。
「ほう、何か面白い事を考えているみたいだな。ぜひ私も協力させてもらおうか」
「ひ、ヒースクリフ⁉︎」
「へぇ、こりゃまた意外な人が……」
いつの間にかユーリ達の側にkobの団長 ヒースクリフが立っていた。その顔は悪戯を仕掛けた子供のような表情をしている。
「ほう、なかなか面白そうだな。ボスを止める役目は私が引き受けよう。」
ユーリの作戦を聞くと面白そうだと駆け出して行ってしまう。
「マジでやんのかよ……」
「頼んだぜ、黒の剣士様?」
ニヤリと笑うと横幅の広い肉厚な剣を渡す。ボスの方を見るとヒースクリフ率いる血盟騎士団が動きを抑えていたところだった。
◆◇◆
「いくぞ!ウオォォォォオ!!」
気合と共に足を踏ん張り、刃を横に向け、力強くスイングする。キリトがスイングし始めると同時にユーリが走り出し、キリトと並んだ瞬間に跳び上がる。跳んだ高さはちょうどキリトの剣が通り過ぎる高さで、ユーリの靴底と大剣の側面がぶつかる。
「いっけぇぇぇぇ!!」
両腕にかかる重さに耐え、大剣を振り抜き、ユーリが宙高く発射される。
「うわっ……自分で考えたけど怖ぇ……」
そんなことを言いつつも、ユーリはティアマット・ロアード・ドラゴンを越え、見下ろせる高さまで来ていた。物体は最高点まで上昇すると自由落下をし始める。ユーリもボスの背中めがけ落下する。着地する時、刀を抜くと背中へと突き立て、ブレーキをかける。なんとか着地に成功すると、すぐさま背中を見回し、龍種特有のあるものを探す。
「あった!」
背中に一枚だけある逆向きに生えた竜鱗ーー逆鱗を見つけると刀を一閃し、それを破壊する。
『ギャァァァァァ⁉︎』
逆鱗を破壊されたティアマット・ロアード・ドラゴンは悲痛な叫びをあげ、全ての竜鱗にヒビが入る。
「破ァァ!」
抜刀術 重単発技 紫電一閃
渾身の一撃がティアマット・ロアード・ドラゴンの背中を深々と抉り、目に見えてHPが減少する。
「っ⁉︎ボスの防御力が低下している!チャンスだ!」
誰かの掛け声と共に総攻撃が開始され、あっという間にHPバーが破壊され、残り二本となる。
『グルワァァァァァァァァァ!!!!』
強烈な咆哮をあげ、目を血走らせるティアマット・ロアード・ドラゴン。異質なオーラを纏ったボスに攻略組は一瞬たじろぐ。だが、アスナやヒースクリフの呼びかけに士気をあげる。ここで引いたら負けると全員が理解しているのだ。ユーリの奇策のおかげでボスの防御力は皆無となり、流れはこちら側にきている。
攻略組の面々は攻撃を再開する。だが、やられたくないのもティアマット・ロアード・ドラゴンも同じで決死の覚悟でプレイヤーたちに応戦し、苦戦させる。
「さて、あと少しだからサクッと殺っちゃおうか!」
大鎌 重単発技 ヘルスラッシュ
攻めあぐねている攻略組の頭を飛び越え、大上段から大鎌を振り下ろす。光さえ塗り潰さんとする漆黒の輝きを放つ大鎌がティアマット・ロアード・ドラゴンの尻尾の付け根を捉え、切断する。
悲痛な叫びをあげ、血走った眼を向けると硬直時間のせいで動けないシィめがけ、食い千切らんとする。絶対絶命なのだがシィは笑ってみせる。直後、ティアマット・ロアード・ドラゴンの死角からユーリが飛び出してくる。
刀 三連撃 出雲
ユーリの放った斬撃がティアマット・ロアード・ドラゴンの顔面を捉え、攻撃を強制中断させる。
「スイッチ!」
「あいさー!」
ユーリの掛け声で硬直時間から解放されたシィがソードスキルを放つ。
大鎌 七連撃 フルール・ダンス
クルリクルリとステップを踏みながら、斬りつけていき、一瞬の溜め時間の後、下段から大鎌を振り上げティアマット・ロアード・ドラゴンの顎をかちあげる。
「セイッ!」
直後にユーリが頭頂部めがけ紫電一閃を放ち、地面へと叩きつけられ、スタン状態に陥るティアマット・ロアード・ドラゴン。
「今!全隊、総攻撃!!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
チャンスと判断したアスナが全隊に総攻撃を命令し、勇ましい雄叫びを上げながらティマット・ロアード・ドラゴンへと攻撃を加えていき、ついにHPバーが尽き、その巨躯をポリゴン片へと帰る。
多くの死者をだし、数時間にも及んだ激闘はプレイヤー側の勝利という形で終幕を迎えた。ユーリはその結末にホッと安堵の息を吐いた。
◆◇◆
「………………物凄く不快なんだが。」
「まぁ、しょうがないよ。こうなることは百も承知だったんだし。」
不機嫌な表情を浮かべるユーリをシィがあははと笑いつつ、宥める。
現在、長かった激闘は終わりを迎え、各々のパーティは談笑したり、ドロップしたアイテムを確認しあったりしてりしていた。だが、共通して全員が疑惑、興味、畏怖等様々なな視線を向けていた。…………ユーリに。
そんなものを向けられているユーリは落ち着いて休めるわけなく、不機嫌な感情を露わにしていた。
「よぉ、ユーリ。ひっさしぶりだな〜。さっすが、舞姫さんだな」
ユーリはどうやって、この状況を打開しようか迷っている中で手をひらひらさせながら、赤いバンダナを巻いた武士風の男が近づいて来る。
「はぁ、クラインか……。そのワード出すってことはキルされてもいいってこと……だよな?」
ユーリはにっこりと笑みを浮かべながら、刀の柄へと手をかける。
「待て待て待て⁉︎じょ、冗談だからな!この場の雰囲気を和ませようと思ったすえの行動でな、って、おいあぶねーな、オイ⁉︎」
ユーリの刀が頬を掠り、クラインが抗議の声をあげる。シィが間にはいったことで事なきを得る。
「しっかしよ〜。おめーさんの生えてる耳と尻尾ってなんなんだ?新しいアクセサリーか?」
ついに攻略組の全員が気になっていた事案に触れ、皆ゴクリと生唾を飲む。
「スキル、"人狼"……の影響だ。出現条件はクエストクリアの報酬みたいだな。」
ユーリは歯切れ悪そうに言う。
「へー、また奇怪なスキルがあったもんだな。けどよ、ユーリ。お前、見たことねスキル使ってたがその人狼とかいうスキルと関係あんのか?」
そして、恐らくユーリ自身がもっとも触れられて欲しくない点へと触れる。ユーリは一瞬、話さずに逃げてやろうかなどと考えたがそれだと話すまでしつこく聞いてくるので、諦めて話す事にする。
「…………。いや、別物だな。"抜刀術"。多分、ヒースの奴と同じユニークスキルだと思う。出現条件は知らん。いつの間にか出てた。」
「なっ⁉︎おめー、ユニークスキルってマジかよ!」
新たなユニークスキルと聞き、静まり返っていたプレイヤーたちが一気に湧き上がる。
「まぁ、お前が一時期攻略から外れていた理由がわかった気がするわ。特段に目立つ事を気にするおめえに獣耳とユニークスキルじゃあな……ぷぷぷ、それにしても犬耳ってよ〜、似合い過ぎだろ。」
「悪かったな……。そーいえば、こんなものドロップしてたんだが、欲しいひとー!」
アイテムウィンドウを弄り、一本の漆黒に輝く片手直剣をオブジェクト化させる。その剣の出現にキリトを筆頭に攻略組の片手剣持ち達が食いつく。
「こ、これって……」
「第50層のLA」
「は?」
キリトは恐る恐る尋ねたがあっけらかんとして答えるユーリに皆揃って素っ頓狂な声をあげる。
「おま、LAって……。自分が使ったりとかしないのかよ」
「いや、俺、刀だし。使わないし」
理由が理由なだけあって、さすがに呆れるキリト。ボスから得られるLAで得られる武器は魔剣級と呼ばれるほどの超レアアイテムの武器であり、プレイヤーなら喉から手が出るほど欲しくなる一品である。それをユーリはただで渡そうとしているのである。
「お、俺に売ってくれないか?」
などとユーリに詰め寄るプレイヤーが数人いたが金に困ってないからじゃんけんなり、決闘なりして誰の物にするか自分達で決めろと一蹴。
「まあ、ユーリだし……」
シィの一言でみんな納得したのだった。
その後、ユーリがドロップしたLA《魔剣 エリュシデータ》をかけたじゃんけん大会に50人近くのプレイヤーが参加したとか。
手に入れた幸運な持ち主はキリトだったとか……。その結果に対し、攻略組全員が口を揃えて「またお前かよ!!」と叫んだのは、言うまでもない。
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