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戦国異伝

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第百八十四話 木津川口の海戦その十一

「ですから」
「左様か、ではじゃ」
「はい、今ならまだ退けば」
「力は残るな」
「とりあえずはそうしましょう」
「そうじゃな、それしかないわ」
 隆元も決断するしかなかった、それでだった。
 彼もまた苦い顔だった、だがそれでも全軍にこう命じた。
「皆の者、退くぞ」
「安芸にまで、ですか」
「そうじゃ、そこまで退くぞ」
 まさにそうするとだ、隆元は元春にも告げた。
「わかったな」
「はい、それでは」
「村上水軍にも伝えよ」
 彼等にもだというのだ。
「退け、そして逃げよとな」
「ではすぐに」
「うむ、まずは砲の届かぬところまで退いてな」
 そうしてというのだ。
「そこで陣を整えて安芸まで退くぞ」
「さすれば」
 こうしてだった、毛利水軍は砲撃の中を何とかだった。
 その届かない場所まで退いてだ、そこで素早く陣を整え。
 すぐに安芸まで退いた、毛利の緑の軍勢は瀬戸内から消えていった。
 織田軍の勝ちだった、勝鬨が海の上において響き。
 そしてだった、信長はその勝鬨が終わると満面の笑みでこう言った。
「二郎の勲功、見事じゃ」
「ですな、この戦は」
「二郎殿あってのことです」
「全くじゃ」
 こう家臣達にも言うのだった。
「これは褒美を弾むか、そしてじゃ」
「はい、毛利水軍を退けましたし」
「次は」
「石山じゃ。しかし」
 だが、だとだ。ふとだった。
 信長は都の方を見てだ、こうも言った。
「少し時がかかるやもな」
「といいますと」
「やはり」
「うむ、その時はな」
 まさにというのだった。
「石山は暫し囲んだままでじゃ」
「そこを収め」
「そのうえで」
「あらためて石山を攻める」
 そうするというのだ。
「石山はもうかなり士気が落ちているがな」
「そこが収まればですな」
「最早完全に、ですな」
「そうなればおそらく城壁を崩せばな」
 最初の壁、それをというのだ。
「後はじゃ」
「こちらが声をかければ」
 林が言って来た。
「さすれば」
「うむ、降る」
 そうなるというのだ。
「その時はな」
「ですな、では今は」
「そうじゃ、まずは二郎への褒美は戦が終わった後に論攷で与える」 
 その時にというのだ。
「御主達も同じじゃ」
「天下を定める戦が終われば」
「その時に」
「ふんだんにやる、だから皆生きよ」
 その褒美の為にもとだ、信長は彼等の心も鼓舞した。 
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