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戦国異伝

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第百八十四話 木津川口の海戦その十

「全く以て」
「左様ですな、嘘の様です」
「若しやと思いますが」
 家臣の一人がこう村上に言ってきた。
「あの大筒は皆」
「偽物ではないかというのじゃな」
「はい、細工をして作った」
 そういうものではないかというのだ。
「あれだけの大筒を揃えるなぞ出来ませぬ」
「しかし織田は一千万石を超えるぞ」
 別の家臣が織田家の力からその言葉を否定した。
「それに堺や都も抑えておるし鉄砲の鍛冶村も多い」
「そうしたところの銭や職人も使ってか」
「そうじゃ、あれだけの大筒を作ることもな」
 出来るのではないかというのだ。
「織田じゃからな」
「そう言われると」
「殿、ここは気をつけましょう」
 あらためてだった、その家臣は村上に言った。
「織田信長は油断ならぬ者です。ですから」
「そうじゃな、ここは」
「どうされますか」
「斬り込むか、いや」
 相手の船を見るとだ、まるで塔の様に高い。斬り込みを行うにしても高い。しかも甲板には多くの兵達がいる。
 その彼等を見てだ、村上は言った。
「それは無理じゃな」
「高うございますな、斬り込むには」
「どうしても」
「ううむ、攻め方をどうするか」
 村上はあらためて考えた、しかしその間にだった。
 織田の水軍は動きを整えていた、そのうえで。
 船達にそれぞれある多くの砲からだ、次々にだった。
 砲撃を行って来た、無数の砲弾がだった。
 毛利水軍に向けて放たれる、それはまさに雨の様であった。
 砲撃により波が揺れ船が崩れる、そして次々と沈んでいく。
 その中でだ、村上は砲撃の雨の中これ以上にはないまでに大きな声をあげた。
「いかん!このままではじゃ!」
「はい、これでは」
「為す術もありませぬ」
 家臣達もこう言うのだった血相を変えて。
「あまりにも砲撃が強く」
「大筒の数が尋常ではありませぬ」
「何十あるかわかりませぬ」
「これだけの砲撃を受けては」
「とても」
「しかもです」
 砲撃だけで終わらなかった、さらにだった。
 これまで退き身を潜めていた織田家の小舟の水軍が戻って来た、その彼等がだった。
 鉄砲に弓矢を放って来た、織田の水軍は炮烙は使わないが。
 矢は火矢だった、その矢で。
 毛利の舟を燃やしていく、砲撃にその二つの攻撃でだった。
 毛利水軍は一転して劣勢になった、その有様はというと。
「先陣、壊滅しました!」
「第二陣大きく崩れております!」
「右陣、左陣も間も無く」
「このままでは」
「何ということじゃ」
 隆元もだ、弟達と共に大船の上で唖然としていた。織田家のその鉄船から繰り出される無数の砲弾を見て。
 目の前で自軍の舟達が波に揺れ沈んでいく、それを見てだった。
 隆元にだ、隆景が言ってきた。
「兄上、このままでは」
「我が軍がじゃな」
「はい、全滅します」
 そうなってしまうというのだ。
「あれだけの砲撃、それに鉄砲に火矢を受けては」
「とてもじゃな」
「最早戦になっておりませぬ」
 あまりにもだ、織田家の砲撃が凄まじくだ。
「ですから」
「退くしかないな」
「はい」
 苦渋の顔でだ、長兄に言うのだった。 
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