魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos55真なる目醒めの刻は今/紫天の盟主~Yuri Eberwein~
前書き
ここに来て彼女の名前が入ったサブタイトルが無いのはどうかと思ったので、少々強引にもう1話追加する事にしました。というかもう色々とネタバレなサブタイと前書きだなぁ。
システムU-D最終戦イメージBGM
魔法少女リリカルなのはA's-GOD-「ユーリ・エーベルヴァイン」
http://youtu.be/GyOpjVf0d3c
一体どれだけの永い年月が掛かったのだろう。何十では足りない、何百年という永きその年数の旅路。彼女は歩んだ。たとえ、彼女の目覚めが破滅の兆しであろうとも、行く手にあるモノを破壊することになろうとも、その足音が周囲に絶望を撒き散らすものあろうとも、化け物だと後ろ指を差されようとも、永い年月を歩み続けた。
――砕け得ぬ闇・システム:アンブレイカブル・ダーク――
彼女はそう呼ばれていた。“闇の書”と呼ばれる、魔導書の主と共に旅をして、各地の偉大な魔導師の技術を蒐集し、そして研究するために作られた蒐集蓄積型の巨大ストレージ。その魔導書の奥深くに彼女は眠っていた。それは何故か。
――“闇の書”。その本来の名は、“夜天の魔導書”。元は健全な資料本だった――
“夜天の魔導書”は旅をする。そして壊れた蒐集データを復元する機能も備わっている。そして蒐集した魔法は、完成後かつ魔導書の管制プログラムである融合騎と融合しなければならない、という条件付き、さらには元々の術者との魔法資質の違いによっては別の効果となったり、術式を組み直す必要があったりするが、それでも魔導書の持ち主にも扱うことが出来るという機能まである。
そんな機能を持ち得た歴代の持ち主の中には、当然その強大な力を持った魔導書を悪用しようという考えを持つ者も居た。持ち主だからこそ魔導書に干渉し、プログラムを書き換えることが出来る。そう、自分の思うが儘に。
――そのような悪意あるプログラム改変が幾度と行われ、そして“夜天の魔導書”は・・・・狂った――
元は研究用の資料本が邪な改悪によって暴走した。壊れたデータを修復するためだったプログラムは、どれだけ破壊されようとも必ず無限再生する機能に。持ち主と共に旅をする転移機能は、魔導書を扱える資質ある魔導師の元へと転生する機能へと変貌。さらには、一定期間魔力の蒐集を怠れば、“闇の書”の持ち主の魔力から強制蒐集を行い、果てには持ち主を殺してしまう。
――そして夜天の魔導書は、闇の書となり、呪われた魔導書とも呼ばれるようになった――
“闇の書”として活動を始めてまた永い年月が経つ。その中でまたも別の持ち主が、魔導書へとあるプログラムを加えた。それこそが、“紫天の書”。狂い壊れた“闇の書”を乗っ取り、“闇の書”の全プログラムを支配しようというプログラムだ。しかも大元となる“闇の書”からの干渉を受けないように施されていた。だが、その“紫天の書”プログラムには問題があった。
――システムU-D。永遠結晶エグザミアを核とする、特定魔導力を生み出し続ける無限連環機構。それが彼女の正体――
砕け得ぬ闇――彼女には、自分の制御統制プログラムが備わっていないのだ。彼女はあくまで未知の魔力素を無限に生み出し続ける動力炉。その無限の力に惹かれて、彼女を起動したとしても、彼女自身に制御プログラムが無いのであればその膨大な力は暴走するだけ。
彼女の制御には、“マテリアル”というプログラムが必要なのだ。システムU-D1基とマテリアル5基、計6基が同時に起動されることで、その真価を発揮できる。それを知らなかったその後の持ち主たちは、ただでさえ凶悪な機能を持っていた“闇の書”の狂気だけに留まらず、彼女の暴走に巻き込まれて息絶えることとなった。
――そしてシステムU-D――彼女は、自らの復活が及ぼす悪影響を憂い、“闇の書”の奥深くへと自らを封じた。デコイプログラムで自らの存在を知られるようなことにならないよう、奥、ずっと奥へ。二度と自分が復活できないように、自身に繋がるプログラムを切り離してまで――
彼女とて、破壊を望んでやっているわけではない。本当の彼女は優しかった。彼女の起こす破壊行為は、彼女の核であるエグザミアの生み出す特定魔導力による自壊を防ぐための自己防衛だ。破壊に魔力を消費することで、駆体の自壊を防いでいたのだ。
そして、彼女を構成するプログラムの複雑さがいけなかった。システムU-Dの起動と同時に連動して起動することのない、彼女の制御プログラム群であるマテリアル。だがそれを知ろうとせず、力に魅了されるだけの持ち主たち。悲劇・惨劇が繰り返されるのは必然だった。
――だから彼女は、自分の救いを諦めた。夢を持つことも、希望を持つことも、前向きになる感情も、その全てを諦めた――
しかし、その悪夢の終わりの兆しが見えた。数ヵ月前、“紫天の書”の後に組み込まれたプログラム・“ナハトヴァール”の撃破。それが彼女やマテリアルにとってのあまりに永き絶望の旅路の終焉を齎す要因となった。
“闇の書”に組み込まれたばかりのナハトヴァールの肥大化していく膨大なデータ量によって、システムU-Dとマテリアルはその頃より強制的な休眠期へと入らされた。意識はあっても何も干渉できず、他のプログラムとのコミュニケーションが取れない、ただナハトヴァールに抑え込まれて好きなように動けない。それがマテリアルにとっての悪夢。しかし・・・
――行くよ、夜天の主とその守護騎士の名の下に――
――眠れ、ナハトヴァール――
――お前はもう、居ちゃいけないんだ――
――あなたの旅路も、今日これまでよ!――
――終わらせてもらう、この歪みきった呪いの運命を、ここで!――
――さようならや。アウグスタさん。ナハトヴァール――
最後の夜天の主・八神はやてと、彼女の下に集いし夜天の守護騎士ヴォルケンリッター、そしてその仲間たちによって、ナハトヴァールは消滅した。それが切っ掛けとなり、抑え込まれていたマテリアルが半端ながらに不覚醒、起動した。
それゆえに問題もあった。マテリアルは、不完全な形で目覚めたことにより自ら達の存在意義を忘却していたのだ。半覚醒状態だったこともあって、自分たちがナハトヴァールの一部と誤認し、“闇の書”の復活を望んでいた。最終的に、その間違った目的を果たす事無く敗れ消えた。
――エルトリアのギアーズ、キリエ・フローリアン。あなた達にちょーっとだけお願いがあるの――
――この世界の運命を護るため、エルトリアのギアーズ、アミティエ・フローリアン! 参ります!――
現在より遡ること約33時間前、未来からこの時代へとやって来た姉妹によって、さらに事態は加速する。砕け得ぬ闇・システムU-Dの核である永遠結晶エグザミアを求めるのは、妹のキリエ。その妹の行為を止めようとする姉のアミティエ。
フローリアン姉妹の出現によって、まるで引っ張られるように復活を果たしたマテリアル。今回の復活では、強制的ではあるが以前のように半覚醒ではなく、ほぼ完全な形での起動。しかし、それでも本来の存在意義については半分ほどしか思い出せなかったが。
――漲るこの力ぁぁッ! 溢れる魔力ぅぅッ! 震えるほど闇黒ぅぅッ!――
マテリアルのリーダー的存在、“王”のマテリアル。名を、闇統べる王ロード・ディアーチェ。方舟の王という意。彼女こそが、システムU-Dの制御を行える唯一の存在。彼女が手にする、色違いだが“夜天の書”と同じデザインである紫色の魔導書の名は、“紫天の書”。
“紫天の書”とは、システムU-Dの制御を始め、記されている数多くの魔法、データ検索、行使・管理・制御など行うための制御プログラムという位置づけとなっており、その魔導書を扱えるディアーチェは、正に“紫天の書”の王であり、管制人格とも言える。
さらには、ディアーチェがオリジナルである八神はやてを参考にした際、“夜天の魔導書”に記されている魔法データや機能を丸ごとダウンロードしていて、マテリアルのデータやシステムU-Dの制御プログラムも合わせて膨大なデータ量を誇っている。
――シュテルとは、そう言えば私の名でしたね――
マテリアルの参謀的存在、“理”のマテリアル。名を、星光の殲滅者シュテル・ザ・デストラクター。ロード・ディアーチェを支える補助プログラム――王下四騎士の1基。“理”を冠するに相応しい頭脳明晰で、自分らマテリアルのデータ復旧時の演算・機械設計・細工物、さらには拠点の手配、管理局組への交渉・協調策を考えるなど、効率・合理性を第一に考える。
――レヴィ! よく覚えてないけど、その名前すっごくカッコいいからいいや!――
マテリアルの末っ子的存在、“力”のマテリアル。名を、雷刃の襲撃者レヴィ・ザ・スラッシャー。ロード・ディアーチェを支える補助プログラム――王下四騎士の1基。“力”のマテリアルということもあって、身体能力における力・魔法における力、共にマテリアル最高レベル。しかし力にリソースが回り過ぎている所為か、少し頭が弱いアホな子。
――フラム! 燃えるわたしには相応しい名前でありますな!――
マテリアルの使えない良心的存在、“義”のマテリアル。名を、炎壊の報復者フラム・ザ・リヴェンジャー。ロード・ディアーチェを支える補助プログラム――王下四騎士の1基。マテリアルそれぞれが違った目的を持ってしまったことによる行動理念の破綻・暴走を食い止めるためのプログラム。末っ子レヴィよりか頭は良いが、それでも自分の“義”しさを信じて猪突猛進する場合もあるため、やはりアホの子。
――アイル・・・、我が名前ながら惚れ惚れするほどに美しい名前ですわね――
マテリアルのブレーキ的存在、“律”のマテリアル。名を、氷災の征服者アイル・ザ・フィアブリンガー。ロード・ディアーチェを支える補助プログラム――王下四騎士の1基。マテリアル全基の、魔力暴走を食い止めるためのプログラムで、特に“力”の強いレヴィの暴走ブレーキに一役買っている。同じ頭脳派とされるシュテルにライバル意識を持ち、アホなレヴィの好き勝手には少々苛立っているが、仲は良い。
――本当はまた会えて嬉しい・・・って、心から喜べれば良かったのに・・・――
キリエ・フローリアンの協力もあって、マテリアルはようやくシステムU-Dの復活に成功した。しかし待っていたのは、彼女によるマテリアルの撃破・破壊。システムU-Dはこうなることを嫌って眠りについていたのに、それを知らずに、思い出せずに彼女を復活させたマテリアル。悲劇はまた繰り返された。しかし・・・
――少し思い違いをしていたようです。私たちがシステムU-D――あの子を求めていたのは、大いなる力、を手にするためだけではないのです。あの子と私たちは、元々は1つなんです。ディアーチェ、シュテル、レヴィ、フラム、アイル、そしてあの子の6基が揃うことで初めて、紫天の書、は完成するのです――
そのおかげでシュテルは、マテリアルは、自分らの真の存在意義を、目的を思い出すことが出来た。“紫天の書”の完成。それが彼女たちの目指すべき目的。それが叶えば“夜天の書”へと戻った“闇の書”から真の意味で独立が出来、自由に生きることが出来る。こうなれば後の行動は1つに絞られる。暴走している彼女を食い止め、“紫天の書”に迎え入れる。
――なのは達にこう伝えてください。砕け得ぬ闇を倒す方法を教えますから、その代りに、私たちと交渉の機会をください――
シュテルは、自分らマテリアルのシステムを早期復旧させる為に、先に再起動させたレヴィとアイルにそう告げた。シュテルの頭の中に生まれる、彼女を食い止めるための作戦。その為にシュテルは、管理局と協調してことに当たることを考えた。その結果生まれたのが、対システムU-Dプログラム。彼女の戦闘機能の一時不全を陥らせる干渉制御ワクチンだ。
――まずいですね。充填状況はすでに8割超と言ったところでしょうか――
だがそのワクチンを以ってしても、全てを諦め、暴走と破壊の限りを尽くすことになる完成を待っていた彼女の魔力には敵わないと判断したシュテル、フラム、アイルは、彼女を食い止める為に・・・
――今できるのは、後の勝利へと繋がる布石を打つこと――
――これ以上の充填を阻止することでありますな――
――王の為、今後の私たちの為、ここで布石となるのも良いですわね――
――ごめん、王様。王様はここに残って――
自らを犠牲にしてまで、彼女の魔力充填を阻止し、戦闘によってその魔力を消費させ、備えている多層防壁を削って弱体化させようというのだ。正に特攻。もちろん王であるディアーチェはそれを許すわけもないが、バインドで拘束されたことで止める術を封じられた。
――救えるかどうか・・・――
――試してあげる!――
――そして知りなさいな――
――何事にも終わりがあるということを、であります!――
ディアーチェに未来を託し、王下四騎士は決死の思いで彼女の為にも、彼女へと戦闘を仕掛けた。一撃一撃で彼女の多層防壁を砕き、魔力充填を止め、蓄えた魔力を出来るだけ削ることに成功。今後に活かす布石は確かに打てた。
だが、やはり彼女の停止には至らなかった。圧倒的な力による反撃を受け、王下四騎士4基、撃破。消滅寸前にまで追い込められてしまった。その破壊の爪痕を目の当たりにした彼女は逃避。この一件がさらなる決定打となり、彼女は頑なに自分が救われる選択を消した。
――シュテル! レヴィ! フラム! アイル!――
――我々はもう、この体で戦うことは出来ません――
――だから陛下に託すのでありますよ――
――私たちの悲願。そして・・・――
――王様の夢。砕け得ぬ闇を手に入れて、本当の王様になること――
――一緒に行きましょう。U-Dを止めるために――
――私たちは共に在る、でありますよ――
――どうかご武運を――
――負けないでね、王様――
ディアーチェを拘束していたバインドが解け、王は王下四騎士の元へ。そこで想い、力を、魔力を託される。ディアーチェへと残り少ない魔力を、自分たちの力を流し、王下四騎士は消滅した。ディアーチェと自らの為という行動理念の下に王下四騎士をむざむざと死地に赴かせてしまった己の無力感、1つとなったとしても4基を失ってしまったことに変わらない孤独感に、ディアーチェは悲鳴を上げた。
だが悲嘆に暮れている暇もない。ディアーチェは立つ。王下四騎士に託された想い・魔力・力を無駄にしないためにも。そしてシュテルの立てた第二プラン・管理局と共闘することになった。先陣は、さらなる魔力と多層防壁を削る第一チーム。
――俺たちは君を救いたいんだ。嘆き苦しんでいる君を――
――あなたを、我が儘で駄々っ子な迷子ちゃんを、保護者のところへ連れて行ってあげないとね!――
――ヤミちゃんも諦めないで! 諦めなかったその先できっと待ってる! ラッキー・ハッピーな明日が!――
――もうダメだって思っても、それでも結構なんとかなるもんだって思う!――
――信じろ。君を大切に思う王や他のマテリアル達のことを!――
――ディアーチェは、エグザミアじゃなくてあなたを待ってるんだってば、U-D――
彼らの健闘もあって、彼女を護る防壁や魔力は大きく削がれた。次は、そこからさらに彼女の力を削るために第二チームによる戦闘。
――言葉で、体で触れ合えたら、世界はきっと広がる。だからあなたもきっと変われる――
――その幻想を、夢を、今こそ現実にしましょう!――
――無限の運命なんて、私が、私たちが終わらせてあげます!――
――ヤミ! あんたの目を覚まさせてあげるわ!――
――しっかりと目を開いて、君の目の前にある希望を見て!――
――目を閉じちゃうなら、わたしが開かせてあげる!――
――もうちょっとや! ヤミちゃん! これまでの悪夢は今日、ここで醒めるから!――
――この後にお前を待っているのは、光に満ち溢れた希望の明日!――
第一チームに続き、第二チームもまた彼女から力を削ぎ取ることが出来た。そしてついに、彼女は被ダメージによってその戦闘行動が止まった。
――王様!――
――ディアーチェ!――
――ディアーチェさん!――
◦―◦―◦―◦―◦―◦
管理局組・未来組の活躍によって、砕け得ぬ闇、またをシステムU-Dの戦闘行動が停止した。それを確認した第二チームのメンバー全員が、彼女を唯一制御できるロード・ディアーチェの名を呼んだ。結界維持組となっていた第一チームの元をすでに離れて現場に向かっていたディアーチェは、頭を抱えて叫び続けるU-Dの元へ到着。
「もう泣くでない、U-D! 貴様の抱く諦観、絶望、その全てを・・・我が闇で打ち砕いてくれるわ!」
「う・・ぅく、あぅ・・・くぅ・・・う、うぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!!?」
VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
其は孤独より救われるのを求め望む者・砕け得ぬ闇
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS
第一チームと第二チームの必死の戦闘によってようやく止まった、U-Dを暴走させる要因だった永遠結晶エグザミアが、ここに来て再稼働。消えかけていた魄翼が元に戻り、
――ヘカトンケイルフィスト――
彼女を制御するためのプログラムを打ち込もうとしていたディアーチェへ向けて怪物の前腕部を射出。ディアーチェは「おのれ、まだ止まらぬのか・・・!」歯噛みし、飛来した2本の腕を右に左にと移動して避けたが、微かに掠ったことで防護服・暗黒甲冑デアボリカの左袖が裂けた。
「王さま!」
「貴様らは下がっておれ! 」
対U-Dプログラムの効果が切れたことで、彼女への決定打を与えることが出来なくなってしまった第二チームはディアーチェに言われるがままに遠のいて行く。戦場に残るのは闇統べる王ロード・ディア―チェと砕け得ぬ闇システム:アンブレイカブル・ダークの2基のみ。
「王・・・! 」
――バレットダムネーション――
広げられた魄翼から発射される魔力弾幕。ディアーチェはその弾幕の合間を縫うように翔け、躱していく。
「もうしばし待て、U-D! 必ず貴様を我が手に収めてくれよう! さすれば我らは、自由となるぞ!」
彼女の纏う防護服・紫天装束インペリアルローブの色彩が、白と赤、せめぎ合うように変色を続ける。そして彼女は「ダメ、です・・・こんなわ、わけの、解らない・・・状態・・私に・・・近付いちゃ・・・!」自分の暴れる力を抑え込むように体を抱いて、ディアーチェに逃げるよう伝える。通常人格が戦闘人格を抑え込もうとしている。これ以上の破壊を行わせないために。
「馬鹿を言うでないわ! ここで我が逃げるとでも思うてか!」
――アンスラシスドルヒ――
ディアーチェが放つのは血色の短剣型高速射撃魔法。20発を超える短剣が一斉に発射され、U-Dへと殺到する。短剣を防ぐのは怪物の腕と変わった魄翼の右。大きく横に振るって、迫って来ていた短剣全弾を薙ぎ払った。
「でも・・・私には・・・敵わない・・・!」
――ジャベリンバッシュ――
空いていた左の魄翼から射出される大槍。ディアーチェは「貴様の今の状態に敗れるほど、落ちぶれてなどおらぬわ!」と怒鳴り返しつつ、魔力付加した“エルシニアクロイツ”による打撃・アンサラーシュラークで大槍の横っ腹を打って真っ二つに叩き折った。
「ぅく・・・。私は・・・シュテルも・・・レヴィも・・・!」
――バイパー――
間髪入れずにディアーチェの足元より数基の槍が突き出して来た。スッと後退することで躱し、“エルシニアクロイツ”を横に振るって数基の槍を纏めて打ち砕いた。
「あぐ・・・。フラムも・・・アイルも、私が・・・壊した・・んですよ・・・。束になった・・・彼女・・たちを・・・!」
――ヴェスパーリング――
リング型の射撃魔法が10発と連射される。その弾幕を速度で以って躱しつつ「笑止。あやつらは壊れてなどおらぬ」そう返し、砲撃アロンダイトを“エルシニアクロイツ”の先端より発射。対するU-D、というよりは魄翼は翼状になり、彼女を覆うような防御態勢を取った。そして砲撃が着弾する寸前、勢いよく魄翼を開いて砲撃を反射したが、すでに射線上にディアーチェは居ない。
「U-D! 貴様、目を逸らし過ぎた年月が永すぎた所為で節穴となったか? 見よ、我が翼を!」
ディアーチェの翼は本来深紫一色だが、今は5色という異質な色合いとなっている。根元がディアーチェ本来の深紫、フラムの黄、シュテルの赤、アイルの翠、レヴィの水色というように折り重なっている。
「あやつらは、わが身に力を託し、今は休んでおるだけよ! そうとも、我が内に居るのだ!」
――雷刃衝――
“エルシニアクロイツ”の先端に生まれる水色の雷撃。ディアーチェが杖を振るって発射するのは雷撃の槍。高速で迫る雷撃の槍を横移動して躱すU-D。彼女は「でも、やっぱり無理・・です・・・!」と言い、大きく広げられた魄翼の両面より100発の砲撃・アルゴス・ハンドレッドレイを発射。
「それに、こんな・・・暴れるだけ・・私を・・・手に入れて、どうしようと・・・言うんですか・・・!?」
「無論、貴様の力を我が物として、制御しきってくれるわ。それこそ我らの悲願! 我に託された、あやつらの夢!」
――ディザスターヒート――
砲撃の雨の中を翔け避けきったディアーチェは、“エルシニアクロイツ”の先端から火炎砲撃を3連発。1発目を躱すU-D。2発目が掠る。3発目が、彼女の張ったパンツァーシルトに着弾して爆発を起こし、彼女が炎と黒煙に覆われた。
「うっく・・・。先ほどの子たちが・・言ってました・・・けど、・・・私を、仮に制御できたと・・して・・・、王・・・あなたは、何を成そうというの・・・ですか・・・?」
――エターナルセイバー――
黒煙を切り裂いたのは2本の炎の剣。右の炎剣がディアーチェに振り下ろされた。
「ふむ。貴様を手に入れ自由になった後か。そうさのう・・・。やはり、この世界の蹂躙よな」
腕を組んで考える仕草をしたディアーチェがそう答えながら、1撃目をスッと横移動して躱した。U-Dの表情が悲しげなものへと変わり、「そう・・ですか・・・。また、繰り返す・・んですね・・・」間髪入れずに2撃目の左の炎剣が横に振るわれた。
「待て。冗談だ。我は、我らは・・・」
身を屈めることで2撃目を躱したディアーチェは「塵芥のような人間どもが1人も居らぬ地に赴こう」と言い直す。と同時に魄翼から発射される魔力弾幕バレットダムネーション。
「そして――」
――ムンム――
前置きしたディアーチェは前面に氷の鏡を1枚展開。着弾した魔力弾幕をそっくりそのままU-Dへと反射させて行く。回避行動へと移る彼女へと「ゼロから我が王土を築こうぞ!」と新たな答えを告げ、火炎の槍アウラール6発を、前面に展開した黄色いミッド魔法陣より連射。反射してきた弾幕を避けきった彼女は、「本当に・・出来ると、でも・・・?」そう返しながら、炎の両剣エターナルセイバーでアウラールを薙ぎ払った。
「なんと下らぬ問いか。出来るか出来ぬかなど知らぬわ。そんなことを考えても答えなど出ぬ。何せ始めてもいないのだからな。いま考えるべきことは、やるかやらぬか、だ。無論、我はやるぞ」
――ドゥームブリンガー――
ディアーチェは剣状射撃魔法を8発と放射状に発射。それらが弧を描きながらU-Dへと襲い掛かる。前進することで躱した彼女へと、「貴様の思考は、出来るか出来ぬかで止まっておるのだ!」と言い放った。
「え・・・?」
「我には、貴様を制御できる術が有る、と言うておろうが! しかし貴様は、出来ない、と諦めてばかり! 考えよ! 出来るか出来ぬか、ではない、やるかやらぬか、だ! さぁ今一度考えよ! そして答えるがよい!」
――スパークヴェスパー――
放電する“エルシニアクロイツ”を横に振るって発射するのは、水色の雷光リング型の射撃魔法。U-Dは歳相応とも言えるような、泣き出しそうな表情を浮かべた。そんな彼女から撃ち出されるのは、同じリング型射撃のヴェスパーリング。2つのリングが、2基の間で衝突して相殺し合った。
「ですけど・・・私は・・・!」
――ジェベリンバッシュ――
「っ! ええい! うじうじするでない!」
――ファイネストフレア――
魄翼から創られた大槍6本と、先端が燃える“エルシニアクロイツ”から発射されたボーリング玉大の火炎弾が真っ向から衝突し、互いの魔力が干渉し合って大爆発を起こした。魔力爆発の中より突き出て来るのは、魔力弾幕バレットダムネーション。
「よいか、U-D! 我はもう、このような問答を続けるのにも飽いた!」
――ヨルムンガンド――
高められた魔力を、蛇の如くうねる砲撃として発射したディアーチェ。砲撃は、ディアーチェへと向かって来る弾幕を食い散らしながらU-Dへと向かう。彼女は回避行動を取るものの追撃してくるその砲撃へと、対象を魔力と炎で創られた魔力球に閉じ込め、尚且つ重力で押し潰すナパームブレスを発動、迎撃した。
「貴様はどうしたいのだ! 救われたいのか、救われたくないのか! それが出来ないからと言って諦めるのか、我を信じるのか! 答えよ、U-D!」
「っ!・・・救われたいに・・・決まって・・るじゃ・・ないです・・か・・・! だけど、でも――」
――ヘカトンケイルフィスト――
2つの魄翼から射出されるのは、怪物の両前腕部。右に左にと計4つの腕が射出された。
「阿呆が! 要らぬ心配などするな! この身には、星と雷、氷と炎の魔力が託されておるのだ!」
――クインタプルミーティア――
それに対しディアーチェは、“エルシニアクロイツ”の柄を両手で持ち、杖の先端に展開したミッド魔法陣より氷、炎、雷、光、闇、5種類の砲撃を高速5連射。砲撃1発で、怪物の腕1基を迎撃していき、最後の闇の砲撃で「ぅくぅあ・・・!」U-Dの展開したパンツァーシルトを破壊した。
「貴様を我らの元へ導いてやれ! そう支えてくれておるのだ! ゆえに、我が身は決して砕け得ぬ! この力を以ってU-D、貴様を今、永き絶望の牢獄から連れ出してくれようぞッ!!」
ディアーチェの足元にベルカ魔法陣が展開されると同時、彼女の前方と足元にベルカ魔法陣2枚、その四方にミッド魔法陣4枚が展開される。色はそれぞれ別。足元と前方にあるベルカ魔法陣は、ディアーチェの魔力光である紫、ミッド魔法陣はそれぞれ、赤、黄、翠、水色、王下四騎士の魔力光だ。
「今こそ我が闇に集え、星氷炎雷! これぞ我が砕け得ぬ闇! 王たる力ッ!」
――アルゴス・ハンドレッドレイ&バレットダムネーション――
U-Dの意思に反して迎撃行動を行う魄翼。全方位に砲撃を放つアルゴス・ハンドレッドレイも、今回ばかりはディアーチェの居る方向の面のみから100発と発射され、さらには魔力弾が何十発と砲撃に交じって発射された。
「これで幕だッ! エクスカリバー・カタストロフィィィーーーーッッ!!」
四方のミッド魔法陣から4つの特大砲撃が発射され、ディアーチェに向かって来ていた射砲撃弾幕を蹴散らし、遅れて中央のベルカ魔法陣から発射された闇の砲撃が、先に発射された4つの砲撃と共に「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」U-Dに着弾した。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
ディアーチェの放った、システムU-D制御プログラムを含んだ多弾砲撃エクスカリバー・カタストロフィ。その魔力爆発によって空が白に包まれる。そこは“紫天の書”が創り出した一種の精神世界。その白の世界の中、彼女はゆっくりと墜落していた。周囲には、最後の最後で砲撃を防御しようと怪物の腕へと変化していた魄翼の残骸。
「・・・機能・・・破損・・・。永遠結晶に・・・ダメージ・・・。私は、壊れた・・・のでしょうか・・・? 見えない、聞こえない・・・何も・・・。こんなに静かなのは・・・いつ以来・・・」
薄らと開かれていたU-Dのまぶたがすぅっと閉じていく。このまま再び眠りに付こうかとしていた彼女は「え・・・?」落下が急に終わり、何かに受け止められたような感覚を得て、閉じていた目を開けた。
「しっかりせぬか、U-D! よもやあれしきで潰れたと言うではないぞ!」
「王・・・?」
U-Dを横抱きに抱き止めたのはディアーチェだった。その表情はU-Dの無事を気遣う色に満ちていた。彼女から反応が返ってきたことでディアーチェはホッと安堵の息を吐き、「我らの戦術が上手く嵌ったようだ」と呟いた。ディアーチェの取った戦術は、シュテルが提示したU-D停止作戦だ。
飽和攻撃によって暴走していた彼女の核・エグザミアの活動を強制的に止めさせ、その隙にシステムU-Dの制御プログラムであるディアーチェが、彼女へと制御プログラムを打ち込んでシステムを上書きする。その作戦は「エグザミア・・・本当に、止まって・・る・・・」彼女のその一言で成功したことが窺える。
「必然の結果よな。何せ、我らが成すことなのだ、失敗などありはせん。それに、こう言うのも癪に障るが、他の連中の助けも・・・それなりに使えたからな。ほ、ほんの少し、無いよりはマシな程度だがな」
ディアーチェには珍しく、共にU-Dを止めるために動いてくれた管理局組・未来組に感謝をしていた。そして小さく咳払いを1回し、「まぁ何はともあれ、U-D。貴様はもう、無闇な破壊を繰り返すこともない。しばらくは不安定な状態もあろうが、この我が監督するのだ。安心せい」と伝えた。
「何故、そんなことを・・・?」
「貴様は憶えておらぬか? 永遠結晶と、それを支える無限連環の構築体。つまり我ら6基が揃って初めて1つの存在なのだ」
U-Dが少し口を閉ざす。思い出そうとしているようだが、思い出せないようだ。すると「よい。無理に思い出さずとも」とディアーチェが制した。
「・・・闇から暁へと変わりゆく紫色の天を織りなすもの、紫天の盟主とその守護者。我、ディアーチェが王であり、シュテルとレヴィとフラムとアイリが臣下であり騎士。そしてお前は、我らの主であり、我らの盟主なのだ」
「私が・・・主・・・?」
「うむ。我らは永く、お前を捜していた。我らが我らであるがため、お前が独りで泣いたりせぬよう、ずっとだ。とは言え、惰眠を貪り、さらには捜すのにも随分と手間取ってしまった。本当に、待たせてしまったな。
しかし。たった今より、お前のことをもう二度と独りはさせぬし、望まぬ破壊の力を振るわせるようなこともさせぬ。お前の憂い、シュテル達もすぐに戻ってくる。ゆえに安心して、我が元に来い」
優しい声色でそう言うディアーチェに、「・・・王。私は・・・」U-Dの瞳が潤み始める。そんな彼女にディアーチェは「待て。我ら以上にチビだが、曲がりなりにもお前は我らが盟主なのだぞ。王などと呼ぶでない。名で呼べ」と苦笑交じりに叱責した。
「・・・はい。ディアーチェ」
「うむ。それでよい。っと。お前にもう1つ、伝えねばならぬことがあった。それは、お前の真の名だ。砕け得ぬ闇、システムU-D。そんな無粋な名などではなく、お前が生まれ時に付けられた名だ」
「私の・・・本当の、名前・・・? そんなものが在るんですか・・・?」
U-Dは、自分の本当の名前があるなど思ってもいなかったようで驚きに目を見張った。「うむ」と頷いたディアーチェは彼女の名前を口にするために、今一度口を開いた。
「お前の真の名は、ユーリ。ユーリ・エーベルヴァイン。それが人として生まれた時のお前の名だ」
人として生まれた時の名前。ひょっとすると、ユーリにもまたオリジナルの人間が居たのかもしれないが、それはまた別の話であり、ここで詮索するのは無粋なことだ。
「私は・・・、ユーリ・エーベルヴァイン・・・」
「そうとも。・・・これよりお前をユーリと呼ぶ。無論、他の連中にもそう呼ばせよう。それで良いな?」
「・・・うん・・・!」
とうとうU-D――ユーリの瞳から涙が零れ落ちた。ディアーチェはユーリの肩に回している手に僅かばかり力を入れ、彼女を自身へと引き寄せた。ユーリはようやく永遠にして絶望に満ちていた、孤独の旅路を終点へと辿り着いた。その安堵感からか、彼女はその優しげな瞳を閉じ、眠りについた。
「・・・さて。戻るぞ、ユーリ。外に居る阿呆と塵芥どもは、ここでの状況が判らん。我とお前のことで馬鹿面を下げて気を揉んでおるだろうからな。・・・それについて我が気を揉むのもおかしな話だが・・・」
寝顔を浮かべるユーリにそう独り話すディアーチェ。そしてディアーチェとユーリは、外の世界へと戻る。外はすっかり日も暮れ、夜となっていた。雨も止み、遥かなる夜天には美しい月と星々が煌めいていた。
「ディアーチェ、ヤミ!」
真っ先にディアーチェとユーリに気が付いたイリスが、2基の元へと翔ける。遅れて「大丈夫、2人とも!」なのは、「ヤミ、もしかして気を失ってる?」フェイト、「ちょっと大丈夫なの?」アリサ、「すぐにシャマル先生をっ。はやてちゃん!」すずか、「うんっ。シャマル、ヤミちゃんを診たって!」はやて、「ディアーチェ。お前は無事か?」リインフォースが、2基の元へと翔けた。
「やかましいぞ、貴様ら! ユーリはいま眠っておるだけよ、起こすような真似をするな、阿呆ども! まったく。この王たる我の成すことに、そんな不備や不手際が起こるはずがなかろう!」
ユーリを気遣っての発言だろうが、一番声が大きいのはディアーチェだった。シャマルや他のメンバーと共に遅れてやって来たルシリオンが「ディアーチェ。君が一番うるさいぞ」ポツリと漏らすと、「何か言ったか? 女男」と睨み返すディアーチェ。と、ルシリオンの眉やこめかみがピクッと動いた。が、「ユーリとは、その子のことか?」と怒鳴り返すような無粋な真似はせず、気になっていたことを訊き返した。
「ああ。こやつの名だ。ユーリ・エーベルヴァイン。貴様らも、ユーリ、と呼べ。そして二度と、砕け得ぬ闇、システムU-D、ヤミ、などと呼ばぬように。良いな?」
ディアーチェから聞かされた問答無用の話に、みんなが「判った」と頷き返した。
「その名前は、あなたが付けたのですか?」
「だとしたら、良いセンスじゃない。綺麗な名前よ♪」
アミティエとキリエにそう言われたことでディアーチェは「違う。元々こやつの名前・・・って、説明するのも面倒だ。こやつの名前がユーリであり、これからそう呼ぶように。それだけで良い」とだけ返した。詳しい話を聴きたいはやてら少女たちからは「えー? 聞きたい~」軽いブーイング。
「ええい、黙れ、子鴉、塵芥ども。それより、我もユーリもだいぶ消耗しておるのだ。休める場所くらい早々に提供、そして案内するくらいの奉仕をせんか」
「はーい。みんなー、手伝ってくれるかー!」
「声量を下げんか、馬鹿者!」
「いやだから、君がうるさいんだって」
わいわい騒がしい中、ユーリは起きることなく「ありがとう・・・」小さな寝言を言いながらもとても安らかな表情で眠っていた。
後書き
イアオラーナ。
はい、次回予告の内容をいつも破る作者です!
今話は、ディアーチェ1人を主人公にし、そして砕け得ぬ闇、ユーリ・エーベルヴァインを取り戻すまでの話となりました。前書きで書いたように、マテリアル達の正式名をサブタイトルに出しているのに、最重要存在である『ユーリ・エーベルヴァイン』だけサブタイトルにしていない事に気付き、急きょこの話を仕上げました。
文字数1万文字以上1万5千文字以内にするため、前半はおさらいのような話になりました。ちょっと整理したくなったという思いもあったので。読むのが面倒だな、という読者さまは、どうぞ戦闘開始まで飛ばしてやって下さい。・・・と言うのが遅いですよね。
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