戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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二十三章 幕間劇
鬼の強さ×川中島の戦後話×一真流講座
部屋にて、少々ノーパソを出して作業をしていた。主に拠点である外史『D×D』の様子見とアスモデウスが毎日俺のパソコンに、送られてくる報告書を読んでいたところだった。ここに黒神眷属が来ている以上は、アグニ、オーフィスとルシファー達元四大魔王と元神のシャルロットによる地獄の鍛錬をテロ組織特殊対策チーム「D×D」を鍛えているからだ。ここに来るまでは、黒神眷属もトレーニングに加わっていたが今はここにいるので、アグニたちを一時的に分家に住ましてやっているそうだ。
テロ組織特殊対策チーム「D×D」は俺ら黒神眷属は入っていない。といっても、最後の最後で俺らの活躍により倒すはずが俺らでやってしまうからだ。本当はソーナ、シーグヴァイラ、レイヴェルもこちらに来れるが、ソーナとシーグヴァイラには眷属がいるため一緒には来れない。「D×D」のメンツは、リーダーがデュリオ・ジェズアルド、サブリーダーを孫悟空、技術顧問は堕天使総督アザゼル。メンバーはサイラオーグ・バアル眷属、シーグヴァイラ・アガレス眷属、リアス・グレモリー眷属、ソーナ・シトリー眷属、御使い、幾瀬鳶雄。ドラゴンについては、「黄金龍君」ファーブニル、「西海龍童」玉龍、「黒邪の龍王」ヴリトラだ。あとはこちらにいるドライグ、アルビオン、ティアマット、サマエル。邪龍は『PMW』のマスターボールで手懐けたが、破壊しか楽しまないバカばっかりだからか、たまにしか外に出さない。まあ手懐ける前後では性格は、ある程度変化しているがな。ちなみに待機状態のボールは空間にしまってあるが、自分からは出れないようにしてあるから安心ではある。あとフェンリルのボールはルフェイに持たせている。
というのが、今の現状であるというふうである。現在どの程度まで鍛錬しているかも、報告書のところに書かれているから毎日見ているのであるが、こことあちらの時間が違うので、こちらが1日経つとあちらでは7日経つようなので、時間があるときにまとめて読んでいるのだ。そして今に至ると、それでようやく読み終わったので庭に行くと何やら女子だけの会話をしていたらしい。
「何しているんだ?随分と賑やかじゃねえか」
「あ、一真様!
「おー。一真さんじゃないっすかー」
「綾那と歌夜に柘榴と松葉か。あんまり日数経っていないのに、もう馴染んだんだな」
綾那や歌夜は、こちらに来てから随分経つが柘榴と松葉のリラックスぶりは、越後にいた頃とあまり変わっていなかった。ここは春日山じゃなくて躑躅ヶ崎館な。
「新しい城に来るの、珍しくない」
「そうっす。知らない所に来ていちいちびっくりしてたら、こんな稼業やっていけないっすよ」
「まあそう考えれば、そうだな」
まあトレミーに来たら、驚きっぱなしになるに違いないと思うが。まあ一真隊の主要メンツに、一部の者には船に来てもらったしな。
「そーいうことっす。落とした城だと思えば、別に普通っす」
「そんなことは武田の前では、言うなよ?」
「分かってるっすよ。・・・・それに一真さんのハリセンはある意味怖いっすから。それとここには湖衣はいないんすか?」
「分かればよろしい。もう俺のこれは武田家の一部の者には畏怖しているからな、それに湖衣は躑躅ヶ崎館にはいないよ。駿河との国境で向こうの鬼を監視中のはずだ」
「へぇ・・・・・川中島にはいなかったから、何をしてるのかと思ったっすけど、そんな所にいるんすかー」
「・・・・鬼、いるの?」
「そっちからはどうやら来るようだ。俺達もそちらから来る鬼とはぶつかった事はないけど(黒鮫隊の新たな兵器の的にはしたことあるな)」
「柘榴、その鬼とやらも戦った事ないんすよねー」
そういえばそうだったな。九頭竜川では美空がお家流で薙ぎ払ったあとに俺の神仏セールで倒しまくったからか、そこしか見たことはないんだったな。神仏セールというより大量生産した夜叉の試し戦でもあったけど。
「御大将や一真さんがサクッと片付けてたっすけど、あいつらホントに強いんすか?」
「・・・・強いですよ」
「まあな。・・・・少なくとも、俺ら黒鮫隊以外で一真隊がいくら鬼に対して力があったとしても、油断していたら足元を掬われるくらいだと思うな」
武田の事は知っているのか知らないのかは分からんが、砥石崩れの事は黙っといた方がいいだろうな。
「・・・・・・・詩乃と雫がいて?」
「その二人がいてもな」
「・・・・・・」
「・・・・今考えたら、一真さんや綾那たちだけならともかく、あの二人が足元を掬われるって考えづらいっすけどねぇ」
「でも事実なのです」
「そうですね・・・・。少なくとも、金ヶ崎では不覚を取りました」
「まあ、それはそれで楽しみっす。これからそいつらと当たるんすよね?」
「ああ。そん時は柘榴たちの力も協力してもらう事になるよ」
「腕が鳴るっすねぇ。ね、松葉」
「松葉はめんどくさい」
「気持ちは分からなくもないけど」
と言ってもな、もっと面倒なのは鬼からドウター化したドウターである。あいつらを倒すには、俺か黒神眷属と黒鮫隊の力でないと倒せられない。それにここにいるみんなは鬼を倒さないと、いつまでも日の本は平和にならないとでも思っているだろうしな。ドウターについて詳しく知っているのは、少なくとも二条館にいたメンツと一真隊の主要メンツだろう。
「ゆっくり寝るためには、今後の敵であるのを倒さないといけないんだ」
「・・・・分かってる」
「それで、みんなはさっきから何を話していたんだ?何だか楽しそうに話していたけど」
「はい。川中島の話を皆で」
「ああ、そういうことね。ぶつかるまでは武田と長尾だったもんな」
俺は分身体となって、地上での仕事をしていたけど。綾那と松葉は戦っていたし、双方の陣営からの視点しか見えていなかったからな。面白い話にはなるだろうな。
「それだったら、俺も混ぜてもらっても構わんか?俺は地上と上空での仕事をしていたし」
「いいっすよー」
「じゃあ、一真さんも座る」
「はいはい」
「一真様一真様ー」
「何かな?綾那」
「あのですね。今回の戦い、綾那はとっても、とっても頑張ったのです!」
「そうだなー。綾那と歌夜が先陣切ってくれたし、もしいなかったら俺が先陣していたけどあの時は助かったよ。ありがとば、二人とも」
「はいっ」
「ええっと、それでですね・・・・」
「何かな?」
何か綾那が喋りにくそうに、うーとしか言わないな。綾那は珍しく、妙に恥ずかしい顔をしていたけどな。
「綾那、一真様からご褒美が欲しいのです・・・・」
「褒美・・・・?別に構わんが、何が欲しいんだ?何でも言ってみん」
資金はたくさんあるし、こっちの本業は人間の夢や願いを叶える神だ。しかも神の頂点である創造神だから、目の前で叶えられる事は本望だ。まあ立ち位置は創造を司る神となってはいるけど、本当は何でもできる万能な神ということは、一部の者だけ知っている。
「うぅぅ・・・・。恥ずかしくて言えないです~」
「言ってくれないと、褒美あげれないぞ?何がいいんだ、金なのか武器なのか馬なのか。何でもいいから言ってみん」
「一真様。綾那の褒美というのは、物ではないのですよ。そこに座りたいだけなのですよ」
「か、歌夜ーっ!」
「そこということは・・・・。なるほど、そういうことか」
今俺はあぐらで座っている。綾那の欲しい物ではなく、単に身近に触れ合いたいということか。まあ俺の妻たちは、二人の時間になると他の者は邪魔しないようにするのがルールとなっていたかな。まあ大抵は二人っきりではなく三人だったり四人だったりと俺と複数でいることもあったが。
「うぅ・・・・いいですか?一真様」
「そんなんでいいのなら、いくらでもいいぞ」
「いいですか!?」
「無論だ。俺の気が変わらん内に来い来い、綾那」
「えへへ・・・・」
そう言ったら、膝の間にちょこんと身を沈めてきた綾那をそっと後ろ抱きをしたら、綾那は白い歯を見せて幸せそうな笑みを浮かべる。こういうことは何だか久しぶりだなと思ったな。璃々をよくそうしていたいたな。まあ全員歳は止まったように、璃々も歳も背も子供らしさも止まったままになっているけど黒の駒を入れたらどうなるかは想像してみたけど。紫苑がもう一人になりそうだったからか、マスコットキャラのようなポジションになったんだっけ。
「でも綾那、いつもだったらすぐに座ってくるだろ?」
「今日はご褒美だから、特別なのですよ」
「なるほど。綾那も頑張ったんだから、歌夜にも何か褒美を与えないとな。何がいいんだ、褒美は?」
「・・・・・よろしいんですか?」
「あの戦の功労者には、褒美をやるのが上司というか頭の役目だ。何がいい?」
「でしたら・・・・くっついて、いいですか?」
「それでいいのか?他に思いつくのであれば『今はそれでいいのです』なるほど、ならば来なさい。俺の気が変わらない内に」
綾那同様これでいいのかとたまに思うときがあるが、妻たちもプレゼントで物とかをあげるがこういう身体を密着させるだけというのもあったな。膝枕とか隣に座るとか、プライスレスだが、これも愛情の一つかと思うと俺としてはありがたいし。全て金で買えるというような者ではないからな、逆に金では買えない見えない何かというのも一種の褒美だし。
「えへへ・・・・・」
回した腕に伝わってくる歌夜の温もりを感じながらではあるけど、これでは褒美をあげてる方なのかくれてる方か分からない。まあ妾の一人だし、この二人は。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・と、悪いな。こちらが盛り上がったままで」
「別にいいっすよー。その二人は一真さんの妾なんだから、そういう褒美もありだと思うっすよー」
「旦那の本領発揮」
「まあ旦那なのは間違いないな、それに綾那も歌夜も俺の妾の一人だからな。ここにいる一葉、美空、光璃は将軍や一国の主だけど愛妾だから序列なんてない。同等の愛を捧げるのが、未来の旦那の役目だと俺は思う」
というか、部屋の温度が上がっているような気がするが気のせいだろか。越後の寒さより、暑くはなっているけど。
「なら、一真さん。ウチの御大将にもそうして欲しいっす」
「そうしたいのは山々だが、お前らも美空の性格知っているだろ?」
「御大将、恥ずかしがり屋だから自決しそう」
「自決したとしても、蘇生はさせるよ。旦那の目の前で死んだらシャレにならんって」
「そうなったら、一真さんも巻き込みそう」
まあ美空の性格上、周りに人がいるとからかわれるからな。ああいうのは、二人っきりじゃないと無理だな。美空のはツンデレだし、しかも王道のだからな。まあそういうタイプのでいるからなー。今のところ二人っきりになる以外方法はないと思うけど。
「ところで、話はどこまで進んでたの?」
「ああそれは・・・・。どこまででしたっけ?」
「綾那と歌夜が長尾の本陣に突っ込んだところまでです!」
「っということは、松葉が出てきた辺りか」
結構進んでるんだな、まあ松葉たちがどういう動きをしていたのかは、トレミーで監視していたし。俺の本体はトレミーにいて分身体は皆が気付かずに行動をしていた。
「松葉とも本気で殺り合えて楽しかったです!」
「・・・・・・・」
「そこら辺は、船で見ていたな。まあ分身体と本体である俺は別々に仕事してたしな。ところで、何か不満そうだな。松葉」
「別に」
「まあ一真さんの本物と見分けることはできないっすからね。あと松葉は綾那に勝てなかったっすから」
「・・・・綾那に勝てなかったのは、柘榴も同じ」
「ぐ・・・・。ざ、柘榴の時はただの手合せだったっすから!戦場じゃなかったすから!」
越後にいた頃に手合せしてたもんな、あん時は柘榴は一本も取れなかったと聞く。
「柘榴は全然本気じゃなかったっすよ!」
「・・・・ふっ」
「な、何なんすかー!じゃあ松葉は綾那に一太刀でも浴びせかけられたんすかー!」
カウンターを食らった柘榴の問いにも、松葉は顔色変えずにいたけど。まあ綾那も俺が試合をしているからな、俺は剣で綾那は自前の槍で戦ったが一度も負けた事はない。そっちは戦国最強だとしたら、三国志最強なのは間違いなく恋だろう。まあその恋にも負けた事はない。唯一負けた事があるのは、強化体ゼットンとの戦いで負けて外史が崩壊したなんてことがあったからだ。
「で、どうだったん?」
「松葉さんもお強かったですけど・・・・」
「綾那は一発ももらわなかったのです!」
「じゃあ松葉の負けっすねー!柘榴は綾那とは引き分けだったから、柘榴の方が強いって事っす!」
「・・・・松葉の役目は、御大将のための足止め。勝ち負けなんて関係ない」
「だな。まあ俺の足止めというのは出来ていなかったけど、一真隊の足止めに成功した時点で松葉は目的達成できている事になる」
試合では負けも、勝負では勝ったという事だけど。俺は俺の役目を果たしに行っただけだし。一葉たち足利衆と合流したあとの前から、夜叉による双方の無力化を行ってはいたけど。夜叉を妖呼ばわりだったらしいからか、一部の夜叉たちは不満あったそうだが、八大夜叉大将の一喝で何とかなったと聞く。
「むー。だったら柘榴だって最後まで立ってたんだから引き分けじゃなくって勝ちっすよ」
「柘榴のは試合。お互い立ってたら、引き分け」
「じゃあ一真様、綾那は松葉に負けたって事なのですか!?」
「正面対決では勝ったというわけではないだろう。途中から双方の無力化という俺の命により、夜叉たちがしてくれたし。あの時綾那と松葉に邪魔したのは、妖じゃなくて夜叉だからな。松葉は一真隊の足止めを成功したし綾那は一真隊のために動いたのだから、両者引き分けじゃないの?」
「ええええ・・・・・。綾那、すごーく頑張ったですのに・・・・。それにあれは妖じゃなくて夜叉だったのですかー」
というと、何やら降りようとするがそれを止めた。頑張った褒美としてやっているのだから、気にすんなと言った。それに綾那と歌夜は十分すぎるほど、活躍をしたみたいだし。
「ありがとうございます、一真様」
「ふにゃー」
小さな頭を撫でてやれば、それで綾那は何でもない事にして再び俺の胸に寄る。
「それで、松葉の機嫌悪いのはなんで?」
「・・・・一真さんの足止めが出来なかった。足止めする前に、光となって消えちゃったから」
「それはそうだろうな。あそこにいた俺は分身体であり、やる事があったのだから」
あとはあのメンツで足止めは正直キツイと思うな。一真隊の主要メンツが揃っていたのだから。
「一真さんの言う通りっすよー。御大将もそこまでは予想できていなかったっす」
「それが悔しい」
「だったら、今度はちゃんと決着つけるですか?綾那はいつでも来いなのですよ!」
「・・・・やだ」
「えええ・・・・・!?」
「あの時は、御大将のお役目だから戦った。・・・・・もう一度戦うのは、面倒」
「それは綾那が、強いってことですか・・・・?」
「それでいい」
「そうですか。一真様、綾那、強いって言われたですよ!」
「自信つくんなら、俺を倒してから言うんだな。今の所全戦全勝だから、まあ勝つためにも綾那と歌夜には俺との鍛錬に付き合ってもらうけど」
「それを言われちゃうと、綾那は一真様に勝つという目標があるですー!」
「私もですね。一真様のためでもありますし、目標でもありますしね」
歌夜も内心は手柄というより、不安だったらししのか。俺の肩にそっと頭を寄せてくるがな。
「一真さんって、もしかして一番強いってことっすかー?」
「まあそうだな。人間相手なら誰にも負けた事はないよ、あの森親子にも負けた事はないし」
「綾那の槍もすごかったっすけど、一真さんとは戦った事ないっす」
「何なら、綾那たち同様に俺が鍛えてあげようか?」
相手の強さを理解して、戦う以外に何か得たい事もあるだろうし。それに皆強いって思っているだろうけど、隙もあれば無駄な動きもあるからな。
「ひょっ?」
「何だ、変な声だして」
もしかして、こういうのはダメだったかな。よくよく考えれば戦国時代の武将個々の力がある訳だから、お家流とか一子相伝とか、強さの秘伝があると思っているのか。綾那たちも同じリアクションだった。鞠や他の将にも教えていたしな。
「いいんすか?」
「別に構わんさ。言っとくが、一真隊の主要な将とかを指導したり試合とかはよくするから。だからなのか、前より強くはなっている。それとも取り消した方がよかったか?」
「一度鍛えてもらえるんなら、取り消しや反故にしたりとかはナシっすよ!」
「冗談だ。さっそくだから、やるか」
「分かったっすよ。ちょっと準備してくるっす!」
「準備?」
「戦う時の技なんだから、きちんとした格好でないと意味ないっす!首を洗って待ってるっすよー!」
そう言い残して、柘榴はばたばたとどこかへ走って行った。
「ホントによかったのですか?」
「んー?別に構わんさ。俺の場合はお家流とかではなく、槍術とかで無駄があるところを指導するだけだし。お家流で言えば、綾那のは聞いたことないな」
「綾那の家のお家流ですか?さあ・・・・お婆様かお母様の頃にはあったかもしれないですけど・・・・綾那は教えてもらってないですよ」
「そういえばそうだったな」
綾那が小さい頃にお母さんもお婆さんも、確か桐琴さんによればド派手に討ち死したらしいし。
「綾那はお家流なんかなくても強いから、平気なのです。それより一真様のは見たことないですけど?」
「俺?そんなのなくても、俺は強いからいいんだよ」
と綾那を撫でようとしたら、右手に寄りかかってくる柔らかい感触があった。
「・・・・・あれ?」
はて?左は歌夜がいるし、中心には綾那がいる。柘榴は何やら準備するといって出て行った。ということは・・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・っ!?」
右を向いたら、いつの間にかこちらを見上げる眼鏡越しの瞳だった。
「んー。どうしたんだ、松葉?」
「・・・・・・」
その問いの答えは黙ったままだったが、答えの代わりに右腕をきゅっと抱きしめて細い体を寄せてきた。
「松葉・・・・?」
「・・・・・・」
腕が沈み込めば、漂ってくるのはほんのりと香りがするのと柔らかい感触ではあったが」
「何してんだ、松葉?」
「・・・・・こんな感じ」
「こんな感じ?どういうことだ」
松葉の言葉はいつも一言で終わるような感じだからなのか、いまいちよく分かっていない状況ではあった。
「松葉さん、もしかして・・・・」
「綾那と歌夜、嬉しそうだったから。どんなものかって、気になった」
「ああー。そういうことか。で、どうなんだ?」
「ふーん。・・・・って感じ」
松葉的な個性だなとは思った。良い悪い関係なくのようだし、過剰な期待をされて失望させるという手もあると聞く。
「一真さんはどう?」
「感想?くっつかれて、悪い気はしないよ」
「・・・・・・そう」
その一言で、不満があるという訳でもなさそうだし喜んでいるという訳でもなさそう。まあ理解できるのは、松葉が嫌がっていないという感じはあった。
「松葉は一真様にくっつくの、嫌ですか?」
「別に嫌じゃない」
「だったらそうしてたらいいのです。そのうち、一真様の良さというのが分かる気がするですよ。ね、歌夜」
「うん。・・・・まあ、そうね」
「・・・・・そんなもの?」
「そんなものなのです」
「じゃあ、もう少しこうしてる」
綾那の言葉に小さくそう呟いて、松葉は俺の腕を抱きしめてきた。前に綾那がいて、左右に歌夜と松葉がいる状況だから背中が空いているな。久々に翼でも出すか、そう思い翼を出しては三人を包むかのようにした。
「暖かい・・・・。これは何?」
「これは人の心に癒す効果がある・・・・。何か言いたそうだな」
「一真さんは・・・・。・・・・一真さんだからいいよね」
「まあここに男は俺だけだし、妾じゃなくてもいいんじゃないのか」
「一真さんだからかもしれません」
「一真様だから平気なのです」
「それなら、別にいいか。こういうのは役得とも言えるな」
と、そんな事をしていたら、廊下の向こうから元気の良い足音が戻ってきた。
「一真さーん!準備してきたっすよ!」
「あーらま。ホントに完全武装という感じだな」
「当たり前っすよ。これ着てないと、鍛錬の感覚が全然違ってくるんすよ」
「なーるほど。ということで、俺も準備するか。三人とも離れてくれ」
さっきまで、普段着だったのを量子変換機で戦闘服にしてから空間から剣を出した。まあ本来なら綾那が教える側となると、さっきまで普段着だったのがいつの間にか戦闘服になっているからだ。柘榴も困った顔をしてたけど。綾那の戦闘服は胴当てに大きな数珠に鹿の兜、それを一瞬にして着替えるのは俺の量子変換機並みだったがな。あとは槍もな。どこから出したのか、俺も気になるところではあるけど。そして今は俺が一瞬にして、着替えたので同じリアクションをする諸君だったけど。
「いつの間に着替えたんすか?まあ服はいいとして、その剣もどこから出したんすか。さっきまでなかったっすよね?」
「これ?まあどう出したかという説明は面倒だから・・・・・」
「いまの、もう一回見たい」
「私もです。綾那と同様みたいな早技は、これが二回目ですから」
「うーんとだな、こうやると・・・・・。こうだ」
と量子変換機で、戦闘服から先ほどの普段着に戻した。
「皆さん、分かりました?」
「分からない」
「も、もう一回!」
「・・・・俺のこれは見世物ではないんだが?」
「おおっ!?やるならやるって言うっす!」
「歌夜に綾那、分かった?」
「全然分からないです!」
「綾那並みに早くて、一瞬にしてだったので」
もう一回と言った柘榴に答えて普段着から戦闘服に変わったんだが、まあこれは綾那のよりくらいだからな。綾那のも仕掛けが分からんし、蜻蛉切りには、色々と収納があるくらいだし。まあここにスーパースローカメラがあれば見れると思うが、これに関しては黒鮫隊の諸君はどういう仕掛けか知っているけどな。数字で言うのなら、0.05秒ぐらいだと思うな。測った事ないし。
「今の着替え、もう一回いいっすか?一真さん!」
「いちいち細かいことは気にすんなよ、さっさと稽古付けるから庭に出ろっつうに」
で、歌夜と松葉は何やら寂しそうだったんで分身体を置いといてから俺は庭に出た。ついでに稽古の風景というか、一緒にやりたいのか綾那も瞬時に着替えてからだったけど。その間は分身体が勤めてくれたけど、分身体は翼も出せるからな。俺本体と綾那・柘榴が庭に飛び出していくのを眺めながら・・・・。
「・・・・・・。・・・・・歌夜」
残った二人は必然的に俺の腕にしがみ付いてきて、声をかけたのは反対側の腕に身を寄せている歌夜に向けてだった。
「何ですか?」
「座らないの?」
「え・・・・?」
「一真さんの膝」
「あ、そ、それは・・・・・ええっと、綾那が降りている間だけ、よろしいですか?一真様」
「無論だ」
「じゃ、じゃあ」
俺が分身体であることを、一瞬忘れているが分身しても見分けが付かないからなのか。今度は遠慮がちに俺の膝の上に座ってきた。
「・・・・えへへ。ちょっと照れますね、これ」
「無理にしなくてもいいからな?」
「あ、嫌ってわけじゃないんです」
「そんなにいい?」
「好きな人と、ずっと近くにいられる気がしますから・・・・。さっきの翼の効果もでしょうが、なんだかホッとします」
綾那ほどではないが、堂々と甘えてくるというには少々抵抗があるようだろう。胸元に背中を預けようとはしないけど、それはそれで歌夜らしいと思った。
「・・・・・そういえば歌夜」
「何ですか?」
「柘榴が俺のを教わると言ったときに、顔で分かったけど何か言いたそうだったから」
「やっぱり分かっちゃいますか。まあありますね・・・・」
今回は俺が教えるといったら、一瞬顔で何かを言っていそうだったので問うてみた。
「もしかして・・・・。教える時、人が変わる?」
「時に厳しくはあるし、優しくはあるぞ。半分戦闘狂なのは間違いないけど、歌夜は俺が教えるときそう見える?」
「そうですね・・・・。柘榴さんなら大丈夫かと思いますし、一真さんは剣術や槍術とか色々な武器を使ったとしても勝てないですからね」
「柘榴なら大丈夫。・・・・何が大丈夫かは、よく分からないけど」
とまあ、俺分身体はそう言ったらしいが。あと本体と分身体は別々に話せるように工夫をしてみた。
「さてと、柘榴は槍使いだから俺も変えようか」
といって剣から檄に変わったけど。恋が使う方天画戟だけどな、重さも恋と同様だけど俺にはちょうどいい。
「服もですけど、武器も一瞬にして変わったっす!」
「相変わらず、それについては綾那も良く分からないです」
「細かい事は気にすんな。さて、槍を構えろ」
「はいっす!」
「俺のとは違うけど、同じ動きをしてみせろ。はあ!」
「はあっす!」
と槍の構え方を見てから、無駄な動きがあると指導をしていた。で、無駄なく動きをすると、何だかさっきより違うっすとか言っていたけどそりゃそうだ。構え方は違うけど柘榴が戦う構えより無駄がない動きなのだから。本来だったら綾那が教えるらしいが、どうやら綾那は箒同様に擬音で教えるそうだ。だから、松葉には南蛮語として聞こえるそうだけど。
「柘榴、さっきより無駄がない」
「一真様のお教えは、無駄のない動きから教わるんです。ねっ、一真様?」
「ああそうだな。その動きを覚えないと、次が行けないし」
「一真さんの教えを、松葉も教わりたい」
「あとでな。今は柘榴がやっているからな」
綾那の教えよりかはマシな方だと思う。擬音語を他人に言っても分からないと思うし、そういうのは西の方で詳しそうな気がする。綾那は感性だけで突き進む天才タイプなのか、あとは市や小夜叉みたいに本能で戦っているという感じのタイプ。鞠も恐らく擬音で言えば分かりそうな気がした。一瞬美空もと思ったが、美空は夕霧の喋り方で苛ついてるからなのか、擬音で言ったらさらに苛つくタイプだな。
「そうそう、そんな感じで。さっきより無駄がなくなってきたぞ」
「そうっすか?一真さんの教えが上手いのか、すぐに分かるっす」
「俺には指導をする者たちが、たくさんいるからなー。それに教えやすくするのも、考えてやっているからな」
「と、こうっすね。だんだん分かってきたっす!というか、何で松葉は一真さん分身体の方にしがみ付いているっす?」
「綾那たちのマネ」
「うぅぅ・・・・何か羨ましいっす」
「悪くない気分」
なるほど、さっきはどうでもよかったけど何か慣れてきた松葉だった。
「あ、歌夜。一真様のお膝に座ってるです」
「え、あ、その・・・・これは・・・・」
「歌夜がそこだったら、今度は綾那が腕にくっつく番ですね『それはあとでいいだろうが、今はこうやって教えているんだから』じゃあ、後でですね!」
「・・・・いいの?」
「歌夜も一真様の妾なんですから、当たり前です。後で一緒に一真様にご褒美もらうですよー!」
「じゃあ一真さん!後ででいいっすから柘榴もくっついていいっすか?松葉もくっついてるんだから、ずるいっす!」
「いいと思うが、今は目の前のことに集中するんだな!」
隙がダダ漏れだったので、檄の代わりにハリセンで叩いたけど。そんで、一時間以上指導というか一時的な鍛錬をしてから武装を解いた柘榴に綾那。俺も解いたあとに、分身体の方に行き、一人の俺となったので片方の腕に柘榴がくっつき、背中から抱き着いてきた綾那だった。身動きは取れないけど、まあいいやと思いながら今後の指導についてを考える俺としがみ付く綾那たちであった。
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