戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
二十二章 幕間劇
陽だまりスケッチ
「二人とも、調子はどうだい?」
「はい。特に問題はありません。準備は順調に」
挨拶側に聞いてみたが、問題はなさそうだった。川中島出立までの準備は、二人がいて問題になる事はほぼないと考えている。元々一真隊は詩乃達に任せきりだ、俺は黒鮫隊の準備についての相談もあるだろう。
「それより、一真様の状況はいかがですか?」
「他の将に対しても情報収集は今の所順調かな。あとは俺ら黒鮫隊の準備もあるが、そういえば今日は珍しいな。薫と一緒ではないのか」
「今は夕霧様とお休みですが」
「夕霧も?珍しいな」
「はい。この間、一門衆の石見守殿とお話させていたのですが・・・・」
石見守殿は確か山高親之だったか。
「夕霧殿が働き過ぎという話になりまして・・・・」
「確かに夕霧は働き過ぎだな」
石見守殿は俺とこの間話したときも、夕霧の事を気にしていた。実際、いくら光璃の補佐で色々と引き受けていると言っても、頑張り過ぎはよくないし身体を壊すくらいだ。そういうのを仕事中毒と言って、ワーカーホリックとも言う。家庭や自身の健康などを犠牲とするような状態を言うことで、過労死が多いとも聞く。そういう奴は無理矢理でも休ませないといけない。
「それで、薫ちゃんとも相談して、こうなったら無理矢理にでも休ませようという話に・・・・」
「幸い、一門衆の出陣の支度は石見守殿が引き受けて下さるという事になりましたので、今日は一日休ませる事が出来ました」
「石見守殿、一真様の話を聞いて驚いておいででしたよ?」
「何て言ってた?」
「少しは夕霧殿も一真様を見習って、うまく仕事を抜けて欲しいと」
「俺はちゃんと働いているつもりなんだが。まあワーカーホリックにならないよう、俺の部下や自分自身もそう思っているが」
「ワーカーホリック?それはどういう意味でしょうか?」
「南蛮語だが、意味として仕事中毒という意味。つまり例えは夕霧であること」
雫は幸い、天守教のだから横文字を言っても発音は取れる。詩乃に分かりやすく言うとそういう意味での納得をした。今の所、俺のすべき事は情報収集ということだし。出陣準備はこの二人に任せる方が早い。
「ところで今日はどちらへ?」
「夕霧の様子見に。薫だけで苦戦中なら加勢してくる」
と言って夕霧のところに行っている間に、会話をしていた薫と夕霧。
「うぅぅ・・・・。夕霧は出陣の準備があるでやがりますよ・・・・?」
「それは石見がしてくれるって言ってたでしょ?ほら、夕霧お姉ちゃんは動いちゃダメだよ」
「それはそうでやがりますが・・・・薫も大丈夫でやがるのですか?逍遥軒衆にも準備がありやがりましょうに」
「逍遥軒衆の支度もウチの皆と詩乃ちゃん達がしてくれてるから大丈夫だってば。それに、一真隊の皆や桜花さんが言ってたよ。上の者はどーんと構えて、下が心配しないようにしっかり構えておけばいいんだって」
「そうしてどーんと構えやがるのは、姉上の仕事でやがりますよ・・・・」
「夕霧お姉ちゃんだって一門衆の筆頭でしょ?石見たちを心配させちゃダメだよ」
「一門衆は別に夕霧の部隊ではないでやがりますよー」
「ほら、動いちゃダメだってばー」
「あぅぅ・・・・・」
とまあそんな会話を聞いていたが、ようやく出れそうな場面になったので薫たちの方に行ってみる俺。
「やっているやっている」
「お兄ちゃん!」
「あ、兄上・・・・・!」
そこにいたのは床几に堂々と腰掛けている夕霧と、その前に腰を下ろして、スケッチブックを筆で絵を描いている薫だった。モデルをするのなら、夕霧も逃げたりしないだろうな。
「薫も絵を描くのか」
「うん。あんまり上手じゃないけど、絵を描くのは好きだよ」
「あんまりじゃなくて、充分上手だよ」
「えへへ。ありがとー!」
「うぅ・・・・兄上、あんまり見ないで欲しいでやがりますよ」
描いている薫ではなく、夕霧が恥ずかしがっているんだろうか。
「本当は色も付けられればいいんだろうけど、こういう所で使うのはちょっと大変だから」
「色?色ならすぐに付けられるんじゃないのか?」
「そうだよ。貝殻や花から取った色の粉を、膠で練るの。その言い草だと見た事ない?」
「ないな。俺らのはすぐに色を付けられる道具が一式揃っているからな」
この時代はまだ色鉛筆とかチューブ入りの絵の具はないからな。まああとで貸してやるつもりだけど。
「へえーそうなんだ。時間もかかるから今日はこっちなの、甲斐ではあんまり手に入らない道具だから」
これは完全に薫の作戦勝ちだな。ずーと動いていなければ、強制的に休んでいられるし。
「夕霧お姉ちゃんの絵ってなかなか描く機会がないから、ちょうど良かったよ」
「機会がないねぇ。いつも一緒にいるのに?」
「躑躅ヶ崎館にはいるけど、夕霧お姉ちゃん、じっとしてないでしょ?」
「そういうことか」
「夕霧はこういうのは落ち着かないから苦手でやがりますよ・・・・」
「おいおい。魚みたいに動くのをやめたら死ぬみたいな感覚ではあるまい」
「何だから背中がむずむずするでやがります・・・・」
大人しくじっとしているのがマジで苦手なんだろうと、顔で分かる。座ったまま、小さな身体をもじもじと動いているが。モデルなので動かない様にしているのは、薫が頼んでやっていることなんだろうけど。姉としての責任と落ち着きのない困った顔をしている夕霧は、実の妹のようで可愛らしかった。まあ娘の深雪も成長は早いが、思い出の写真という風にこちらに送ってくるデータ。
「ほら。夕霧お姉ちゃん、じっとしてなくちゃダメだよー」
「あぅぅ・・・・。何だか兄上にも見られるの恥ずかしいでやがりますよ・・・・」
「そういうのであれば、俺は離れるが。離れた方がいい?」
「別に離れなくても大丈夫だよ。夕霧お姉ちゃんも、そのうち慣れるって。ね?お姉ちゃん」
「うぅぅ・・・・そんな事ないでやがりますが・・・・。薫がいいって言うなら、いいでやがります・・・・」
「ふむ。そうおすましして座っているのも、雰囲気が違うから可愛く見えるなー」
「ふぁっ!?あ、兄上っ!?」
「そうだよねぇ。ほら、夕霧お姉ちゃん、動かないでって言っているでしょー?」
「わ、分かってやがりますけど・・・・・ぅぅ・・・・」
薫の言葉に何か諦めたようで、夕霧は床几に座り直す。俺はそうだと思ってデジカメを取り出す。そして何枚か写真を撮ったけど。
「その絡繰りみたいなのは何なの?お兄ちゃん」
「これは一瞬で撮れる写し絵を記録する物だよ。ほら、ちゃんと絵の通りに写っているだろ?」
と言いながらも、薫は絵を描いている。こちらは数枚撮ったあとに、データを俺のパソコンに送った。たまに撮れば。フォルダに入れている。
「これもそうだが、その絵は夕霧の感じが出ている」
「ふふっ。そうかな?」
「元々薫は戦よりも、書画や料理の方が好きでやがりますからな」
「乱暴な事が好きじゃないだけだよ。・・・・あ、別に夕霧お姉ちゃんやお兄ちゃんの事が嫌いな訳じゃないからね?」
「それは十分承知しているさ、なあ夕霧」
「もちろんでやがります。薫はそのぶん、姉上に内政で助言してるでやがりますから、得意な事を伸ばせばいいでやがりますよ」
正面から言われているが、次の川中島は薫も参加することになる。まあ薫が協力するのなら、別に構わないし守るだけだ。光璃は表情や言葉で読み取る事ができるが、俺みたいに色んな事を知っているのは、読み取ろうとしても無理。今回の戦いはこれからの甲斐にとっても大事な事だと分かっているようだし。そういうのをぼちぼちと考えながら話していると。
「できた!夕霧ちゃん、もう動いても大丈夫だよ!」
ようやく動いていいと言われたので、夕霧は立ち上がり薫のところへやってくる。
「ほほぅ・・・・どうなったでやがりますか?」
絵の出来映えが気になるようで、夕霧は俺の脇から薫の手元の紙を覗き込む。
「えっ。ちょっと、なんで夕霧がこんなニヤニヤ顔になってやがりますか!?」
「ニヤニヤ顔って・・・・こんなに可愛いのに?」
「うぅ・・・・もっとキリっとした顔をしてたでやがりますよ・・・・・?」
「そう?とってもいい笑顔で描けたと思うんだけど・・・・。お兄ちゃんはどう思う?」
「どう思うって言われても、自然的な笑みでよく描けてると思うが?」
三人で話している間は、ずっとこんな感じな柔らかい表情を浮かんでいたし。薫の筆遣いはなかなかなもんだと思う。
「うぅぅ・・・・」
「・・・・こんな所にいた」
「あ、お姉ちゃん!」
俺達の所に現れたのは、小さな包みを下げた光璃だった。
「一真も一緒?」
「まあな。夕霧と薫の様子見を、今日は休みと聞いたんで」
「何かご用でやがりますか?姉上」
「用兵の検討。一門衆を使いたい」
「え、お姉ちゃん・・・・・!?」
「ほほぅ。いいでやがりますよ!すぐに指揮を取るでやがります!」
「・・・・・・・・めっ」
光璃はそう小さく呟くと、元気一杯に答えた夕霧の額をちょん、とつついてみせた。
「・・・・は?え?」
「ははははっ!引っかかった引っかかった!」
何が起こったのか分からない夕霧は、光璃を見つめたままぽかんとしているけど。俺は爆笑中で、事態が飲み込んだ薫もクスクスと笑いだす。
「用兵の相談は嘘」
「う、嘘ぉ・・・・!?」
「夕霧がちゃんと休んでるか、見に来ただけ」
「あ、姉上・・・・ひどいでやがりますよ」
「おかしいと思ったよ。夕霧ちゃんが今日はお休みするの、お姉ちゃんは知ってるはずなのに・・・・何でお仕事の話を持ってくるんだろうって」
「夕霧は黙ってたら、いつまでも働いている」
「そ、そんな事はないでやがり・・・・ますよ?」
「さっき引っかかったばかりなのに?」
「うぅぅ・・・・兄上まで、酷いでやがります」
「上に立つ者は当たり前のように心配するのは当然の事みたいに、下の者たちも心配すんだよ」
光璃の心配は無理もない。休みの日だって、俺らを甲斐案内してくれたり、他の細かい仕事をしたりと、夕霧を見かけるとたいていは何かをしているからな。
「休めるときは、休み。夕霧はだいじ」
「そうだよ。薫も夕霧お姉ちゃんに倒れたりしてほしくないもん」
「姉上・・・・。薫・・・・」
「それで、何してた?」
「そうそう。お姉ちゃん。夕霧お姉ちゃんの絵を描いてみたんだよ。どうかな?」
「・・・・・」
「夕霧はもっとキリっとしていると思いやがりますが・・・・」
「夕霧お姉ちゃんはああ言ってるけど、今までで一番上手に描けたと思うんだけど」
「いい笑顔」
「だよねー?」
俺に聞かれたが、答えは一つだけだった。良い笑顔と言ってやったから、賛成派が三人いる。幸せそうだと言った光璃に薫はうんうんと頷いていた。一方夕霧は微妙で納得していない様子だったが、賛成派が三人いるから勝ち目はない。そんな様子に光璃も薫も楽しそうだ。
「あと、心のお弁当持ってきた」
「わーい!ありがとう、お姉ちゃん」
「かたじけないでやがります、姉上」
「でも・・・・三つしかない」
「あ・・・・」
「一真の分がない・・・・どうしよう」
「そう言うと思って、俺の分は俺が作ってみた弁当がある。皆でお注分けしながら、食おうぜ」
言いながら空間から俺の弁当を取り出す。まあトレミーで作った弁当が役に立つと思って作ってみた。久々に作ったから腕がなまったと思ったが、試しに味見をした部下たちはうまいとかさすがとか言ってたからなまっていないようだった。俺らは四人で弁当を食べながら、俺が作ったのも食べる光璃たち。すると予想通りに何やら落ち込みだした三人。聞いてみると、心のよりめちゃくちゃ美味くて、ズタズタにされたような感じになったと。まあ心のおにぎりとかも美味しかったが、やはり自分で作ったのが一番と思いながら食べていると、光璃たちは小さく呟いていた。
「薫、一真を台所に立たせちゃダメ」
「分かっているよ、お姉ちゃん。言わなくてもそうするよ。桜花さんの言う通りだった」
「心のより美味しいだなんて、料理界は広いでやがる」
とか言っていたけど、俺にはダダ漏れだった。
「姉上。全体の進み具合はどうでやがります・・・・あうっ」
「・・・・めっ」
これは癖になっているに違いないくらいの仕事中毒者だ。叱られたばかりなのに聞いてくるとは、また夕霧の額につつかれていた。
「今日はお役目の話、禁止」
「あぅぅ・・・・余計気になるでやがりますよ・・・・」
「問題ない。一日夕霧が休んでも、みんなが何とかする」
「そうだよ。一門衆だって、石見が動いてくれているんだから」
「嬉しいでやがるような、寂しいでやがるような・・・・」
とまあこんな感じだったが、光璃はいつものお返しだそうで。まあ色々走り回っている夕霧は、働きすぎだろと周りのメンツは思うに違いない。俺を見習えと言っている薫であったが、働いている姿を見た事ないという夕霧だった。
「俺は一真隊については何もしていない。主に前線での指示とかをしている、今する事は夕霧の監視が仕事だと思っているが。仕事中毒者を放ってはおけない。それにあるとしたらこんなところにいないで、空にいる船にいると思うが」
「一真は、部隊の管理をしていない。主に黒鮫隊の事を気にかけている」
そういうことで、今は話しながら弁当を食べているが。で、弁当を食べ終わったところで光璃は行くらしい。
「一真は夕霧の監視をしてて」
「了解・・・・」
とか言いながらも、俺に見習えというが見本にはならないと思う。
「みんなそんなに夕霧のことが信用できないでやがりますか・・・・?」
「うん」
「夕霧ちゃん働き過ぎだよ」
「俺もそう思う」
「あぅぅ・・・・」
ホントに皆からも、働き過ぎだと思われているようで。とにかく休めと、そう言い残して光璃はどこかに行ってしまったわけだ。
「さてと、今度は何しようか?」
「夕霧はもう一枚描いて欲しいでやがりますよ」
「夕霧ちゃん。さっきの絵・・・・そんなに気に入らなかった?」
「そ、そういうわけじゃないでやがりますが・・・・。夕霧としては、もう少しキリッとして顔のもでやがりますな・・・・」
相当気にしているようだ。
「ふふっ。いいよ。じゃ、もう一枚描くね」
「頼むでやがりますよ」
夕霧も薫に絵を描いてもらうのがホントに嬉しいのか、さっきと同じように機嫌良く床几に腰を下ろしてみせる。
「今度はお兄ちゃんも一緒に描いてあげようか?」
「ふぇっ!?」
「俺?それは別に構わんがいいのか?」
「いいよ。同じ構図になるより、面白そうだし」
「あ、あの・・・・ちょっと、薫・・・・!?」
「夕霧お姉ちゃんはお兄ちゃんと並ぶの、嫌?」
「い、嫌ではないでやがりますが・・・・」
「別にくっつくとか抱き合えとかじゃないだろうに。緊張しなくてもいいもんなー、薫?」
そう言ったら薫はうんうんと頷いて、夕霧は緊張などしていないというが、してるじゃんと言いたそうだ。で、俺は夕霧の脇に立った。
「こんな感じか?」
「・・・・・・・」
薫はさっきと同じところで腰を下ろして、しばらく真剣にこちらを眺める。
「うーん。やっぱり、もうちょっと近付いてみて?」
「じゃあこのくらい?」
真後ろに立っているのも面白くないから、家族写真のように並んでみた。夕霧のすぐ脇に位置を変えてみる。
「うん。そんな感じ」
「ち、近いでやがりますよ・・・・!?」
「これぐらい慣れろ。これくらい普通だと思うんだが、薫はどう思う?」
「そのくらいが普通だよー。それを言うんだったら、さっきご飯食べていた時の方がよっぽど近かったよ?」
「それはそうかもしれないでやがりますが・・・・ううう・・・・」
「じゃ、しばらく動かないでねー?」
「うううう・・・・・・」
しばらくして立っているが、夕霧はそれしか言わないかのように微妙な顔をしている。そして描き終えたのか、出来上がったようだ。
「・・・・うん。こんなものかな」
「もう動いていいでやがりますか?」
「うん。お兄ちゃんももう大丈夫だよー」
「はいよー」
「今度はちゃんとキリッとしてるでやがりますか?」
動いてもいいと言われて、夕霧は立ち上がると薫のところに駆けていく。俺はゆっくりと歩いて行くが。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「こ、こんな顔でやがりますか!?」
夕霧の後ろから薫の手元を見れば、そこには俺と、その脇ではにかみながら微笑んでいる夕霧の姿があった。
「前のよりずっといい笑顔だよ!」
「うぅぅ・・・・・夕霧がしてた顔は、これじゃないでやがりますよ・・・・」
「俺が撮った写真でもそう言う風な顔になっているが?それに可愛いと思うし」
先程の絵も自然な微笑みだったが、今回の方がもっと可愛らしいと思う。というかキリッとした顔は夕霧じゃなくて俺だったけど、なかなか上手いな。
「あ、兄上まで・・・・」
「けど、動かないままというのも、結構大変なんだな」
「ごめんね、お兄ちゃん」
「いやいいよ。経験にはなったことだし、夕霧の笑顔もたくさん撮れたし」
と何枚か写真を薫に見せたら、絵の通りになっているし色も付いていると絶賛だった。そしてまた何か作ってくるといって離れたら、姉妹だけの会話があった。なので聞きながらトレミーのお菓子を作るところで、作っていた。
『・・・・薫』
『なあに?』
『夕霧は、そんなに働き過ぎでやがりますか?』
『うん』
『即答でやがりますか・・・・』
『身体を壊すぐらいならまだマシでも、戦場で無理をして何かあったらと思うと。夕霧お姉ちゃんがいなくなるのは嫌だよ』
『その気持ちは嬉しいでやがりますよ。でも、夕霧も皆の笑顔が見たくて、色んなことをしてるでやがりますよ』
『それは分かっているけど・・・・』
『・・・・夕霧は幸せ者でやがりますな。・・・・今日の薫の絵・・・・夕霧はホントにこんなにだらしがない感じに笑っていやがったでやがりますか?』
『すっごく可愛い笑顔だと思うけど・・・・そんなに嫌だった?』
『薫の描きやがった絵でやがりますから、嫌ではないでやがりますが・・・・』
『・・・・お兄ちゃんと一緒にいる時の夕霧お姉ちゃん、とっても楽しそうだよ?』
『あ、兄上は関係ないでやがりますよ。それに一枚目は、兄上が来る前から・・・・』
『・・・・顔の所を描いたのは、お兄ちゃんが来てからなんだけどなー』
『・・・・・・薫は、兄上の事をどう思ってやがりますか?』
ほう。俺の事ね~、どう思っているのかは俺がいないと話せない事だな~。
『・・・・光璃お姉ちゃんには内緒だけど・・・・お兄ちゃんじゃなかったらなーって、ちょっとだけ思っているかも』
『・・・・姉上には聞かせられないでやがりますな』
『でもそれは、夕霧お姉ちゃんもでしょ?』
『ゆ、夕霧は・・・・。夕霧は・・・・姉上も、薫も、兄上も・・・・同じくらい大事でやがりますから・・・・』
『こないだ来たばかりのお兄ちゃんが、もうお姉ちゃんや薫と同じくらい大事なんだ?』
『いじわるでやがりますよ、薫』
『ふふっ。ごめんね。・・・・でも、それは薫も一緒だから』
『薫・・・・』
『詩乃ちゃん達は、別にいいんじゃない?って言ってくれてるけど・・・・。それにお姉ちゃんも詩乃ちゃんも同じ妾だし』
『姉上は寂しがり屋でやがりますからな』
『うん。お姉ちゃんとお兄ちゃんにも仲良くして欲しいし、薫もお姉ちゃんからお兄ちゃんを取りたいなんて思っている訳じゃないんだよ・・・・』
『薫の事も応援したくはあるでやがりますが・・・・。なんとも厄介な御仁を好いてしまったものでやがりますな』
『薫も、夕霧お姉ちゃんの事、応援しているからね?』
『だ、だから夕霧は別に・・・・っ!』
『あはは。夕霧お姉ちゃん、顔真っ赤だよー』
『だからー!そういうのではないでやがりますよーっ!』
と一部始終を聞いていた俺ではあったが、データを記録してからお菓子であるクッキーを作ってから元の場所に戻って行った。そしたら夕霧が顔を真っ赤にしているから、わざとどうしたんだ?と聞いてみたらなんでもないでやがります!と言ってきたので、作ってきたクッキーを食いながら一日を過ごしたのだった。
ページ上へ戻る