Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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A's編
第九十一話 異端の魔導師
士郎はある装置に立ち内心でため息を吐いていた。
「士郎君、もう一回リンカーコアを起動させて」
計測器の前でプレシアに並んで立つマリーことマリエル・アテンザの言葉に頷き、リンカーコアを励起させる。
「じゃあ、リンカーコアを停止させて」
マリーの言葉に再び頷き、リンカーコアの魔力循環を止めると、穏やかに体に回っていた魔力が収まる。
「間違いないようね」
「はい、こんなことは初めてですけど」
あと二回で二桁に届く数を繰り返された単純なリンカーコアの起動と停止は複数の機材とデータによりプレシアとマリーは納得したようだ。
「それでこれだけ繰り返したということはかなり特殊、ということか?」
士郎本人は一体何がおかしかったのか、まったく検討もつかないので計測器から降り、プレシア達に歩み寄る。
「正直、魔導師としてはかなりね。
とりあえずは適性と魔力ランクについて説明しましょうか」
プレシアが先ほどのデータを士郎やリンディにも見えるように展開する。
「まず魔力ランクだけどB以上A未満といったところね」
「……喜ぶところなのか? 基準がよくわからないんだが」
「魔力ランクじゃなくて魔導師ランクで言えば時空管理局の武装局員隊長でA、隊員でBランクだから、戦闘技能も踏まえて考えれば武装局員隊長レベル以上は確実よ。
ちなみにフェイトとなのはちゃんはAAAランクよ」
プレシアの言葉にわずかに肩を落とす士郎。
「魔導師の才も無かったか」
「落胆することは無いわよ。
魔導師ランクは魔力量だけじゃなくて技術能力を踏まえてのものだから、魔力ランクは目安でしかないわよ。
クロノだって魔力量じゃなのはさん達より少ないけど魔導師ランクは上だもの」
「魔力量だけではなく、技術次第ということか」
士郎にとってある程度才能が無い事は予測していたが、やはり落胆は隠せない。
だが魔導師としては魔力は別として戦闘技能などについては十二分な技術があるのでそこそこの魔導師ランクを取れるとリンディは考えている。
プレシアもリンディと同じように考えており、頷いてみせる。
士郎も無いものにくよくよ考えても仕方がいないので、プレシアに続きを促す。
「魔法適性は古代ベルカ。
ミッド、近代ベルカとの適性はいまいち、というかミッドは適性がほとんど無いわ」
「ただ古代ベルカ式との適性値は驚くほど高いです」
プレシアとマリーの珍しいものを見るような視線にわずかに士郎は首を傾げる。
「そんなに珍しいのか?」
「古代ベルカ式の使い手というだけで希少技能認定されるレベルよ」
「士郎君は既に魔術でレアスキル認定されているけどね」
「……人をそんなレアスキルの塊みたいに言われてもな」
肩を落とした士郎に笑いながら、プレシアが新たなデータを表示、咳払いと共に気を引き締めた。
それを察し、士郎の視線も新たに表示されたデータに向けられる。
「古代ベルカの適性も珍しいけど、こっちは珍しいで済むレベルじゃないわ。
このグラフはわかるわね?」
プレシアが指したグラフは魔力量のグラフ。
先ほど繰り返されていた士郎のリンカーコアのオンとオフを繰り返したものだ。
データの内容に目を通して士郎が頷く。
「このデータが問題なのよ」
言葉を発したプレシア、その場にいたリンディとマリーもどうしたものかと難しい顔をしているが、当の本人は首を傾げるばかりだ。
「俺のリンカーコアのオンとオフにあわせてグラフが上下しているから問題ないんじゃないか?」
「士郎、貴方、今私の魔力が感じられる?」
「ああ、当然じゃない……か…………」
ここに来て士郎はおかしなところに気がついた。
士郎は今ここで魔導師たちの魔力は感じている。
なのはが一般人ではないことに気がついたのも、学校でなのはの魔力を感じたのがきっかけである。
つまりは常に一定の魔力を体内で循環させているようなものであり、その魔力の循環から魔法を使わなくても魔力を感知出来る。
対して士郎の魔力グラフはリンカーコアを起動しているときは最大値になっているが、停止させるとFランク以下。
つまりは一般人と変わらないレベルなのだ。
魔術回路は起動させなければ魔力を抑えられる。
故にこれが当たり前だと思っていたが、ここに来て大きな違いに気がついたのだ。
「……一応聞くが、前例は?」
「少なくとも私が知る限り無いわね。
魔法使用時などで多少上下することはあるけど、一般人と変わらないぐらいまで低下することはまず無いわ」
士郎自身、プレシア達の反応でなんとなくだが予測していた事だがこうして言葉にされるとさすがに落ち込む。
「魔術師であることが関係しているのかしら?」
唯一考えられる原因としてリンディがポツリと呟くが
「恐らくはそうでしょう。
リンカーコアの起動する時のイメージは魔術回路の起動と似たイメージでやっているので」
その呟きはちゃんと士郎には聞こえていたようで、思い当たる原因を答える。
魔術師は魔術回路を意思にてオン、オフの切り替えを行うのが普通だが、魔導師は違う。
リンカーコアが眠っている時ならまだしも一度覚醒してしまえば、体内を魔力がめぐり続ける。
だが士郎は魔術回路の要領でリンカーコアが覚醒した状態でオン、オフの切り替えが出来てしまっているのだ。
「下地に魔術師としての魔力運用があるからこんなことになるのね。
予想外の副産物だけどこれもレアスキルになりそうね」
「はい、こんな魔力運用技術を持った人はいないですから」
プレシアとマリーのまたもやレアスキルの話にさらに士郎は肩を落とすのであった。
「さあ、出た結果は変わらないのだから次の作業に移りましょう」
「それもそうね。
マリー、基本魔法を使っての魔法特性調査を行うわ。
あと彼は不本意だろうけどテスト項目はかなり細かく細分化するわ」
「了解です!」
リンディが手を叩き気を取り直すように作業を再開する準備を促し、プレシアとマリーも頷き動き出す。
その準備を待つ間に
「魔法特性ですか?」
「そうよ。
量産型デバイスじゃなくてオリジナルデバイスだから、得意魔法や特性に合わせて調整するために特性を調べるの。
特に魔力を炎や雷に変える変換資質を持ってたら、活かせる様にデバイスを組まないと資質がもったいないもの。
テスト項目が細分化したのは士郎君が私達の予想を裏切る技能を隠し持っていたから諦めてね」
「色々と突っ込みたいところですが、了解しました」
リンディの言葉に頷きながら
(魔術が異端なのだから、魔導まで異端でなければいいんだが)
そんな心配をしていた士郎だが、その心配はこの後、現実のものとなる。
「……なんでさ」
テストが終わって士郎の大きなため息と共にそんな言葉が零れた。
「異端ね。
それもとびきりの」
「はい。
ここまでのは始めてです。
特定の魔法が得意とかいうレベルじゃなくて、特化型魔導師という表現の方があってるかもです」
「ここまで来るとすごいわね」
プレシア、マリー、リンディの呆れたような驚いたようななんともいえない発言に士郎自身頭を抱えたくなる衝動に駆られたが、否定出来ないのだから仕方がない。
まずはじめに行った魔力コントロール。
なのはが練習で行っていた魔力を手のひらで一定の出力で行い、安定させるものだが、無駄も無く、乱れることの無い見事なものだった。
魔術回路というリンカーコアより制御が難しいものを扱い続けた故か魔力のコントロール系に関してはベテランの魔導師と比べても遜色ないレベルであった。
だが問題はここからであった。
デバイスを使わず簡単に魔力弾を手のひらに生成は出来る。
しかし、それを射出しようとすると魔力弾を維持できず霧散する。
砲撃系も同様の有様であり、魔力を溜めることは出来ても放出ができない状態。
射撃、砲撃系の魔法は適性がないと士郎自身思っていた。
そんな時
「士郎、リインフォースが使ってた実体型の魔力弾の生成と射出をしてみなさい」
いきなりのプレシアの指示にわずかに困惑しながらも生成を始める士郎。
さすがに通常の魔力弾の射出がうまくいかないのだから難易度が高すぎると思ったのかマリーが
「プレシアさん、こんなことは言いたくないですが、アレは古代ベルカ式魔法でもかなり特殊で」
と口にした所で士郎のダガー型の魔力弾が空中に用意されていた的を撃ち抜いた。
「「「……」」」
通常の魔力弾の射出ができない者が、実体弾の射出ができると思っておらず放ったはずの士郎自身とマリー、リンディがそれぞれ目を丸くする。
「……魔術と似たモノに特化しているようね」
唯一の例外は指示を出したプレシアであり、その言葉を証明するように実体型の剣や矢といった魔力弾は苦無く使いこなしていた。
そして、その他の魔法も同様であった。
捕縛魔法のチェーンバインドは実体化した鎖で捕縛する。
鋼の軛に至っては地面から生えた刃が串刺しにするというもはや捕縛魔法というくくりとは思えぬものであった。
なお、同じ実体型の魔法である騎士甲冑の生成も成功するにはしたが、生成と展開に十分近く掛かるという実戦では使い物にならないレベルであり、プレシア達を驚かせた。
最終的にプレシアとマリーが出した結論は、『士郎が使う魔術と同じく剣又はそれに似たものであれば実体型として使用できる』というものであり魔法ランクをまったく無視した、魔導師の基準とはかけ離れたものとなった。
実体型の魔法以外で成功したのは飛行魔法、魔力付与魔法、防御魔法の三つ。
だが飛行魔法も騎士甲冑の生成と同様のレベルであり飛行は出来るが、ゆっくり動く的レベルの有様。
防御魔法も魔力の纏うフィールド型防御魔法に、ベルカの魔方陣を展開してのシールド型防御魔法は問題なく使用できるが、バリア型は一方向一点展開なら使用可能だが全方向などは強度不足で実用に耐えられない。
さらに全ての防御魔法でいえる事だが、士郎自身から離れた地点では展開できないという制約付きである。
対して魔力付与魔法は展開速度、精度共に問題ない。
その上、通常は拳など体の一部に纏い強化するもののはずなのだが、全身に纏っての使用も可能であり、展開した実体型の魔力弾に追加で魔力付与を行うことが出来る。
ここまで能力に偏りがあるのだからプレシア達の評価も仕方がないとしか言えないのが事実である。
「とにかく魔力特性はわかったから、士郎が苦手なところを補助できるように補助演算能力は高めにしておくわね」
「そうしてくれ。
そういえば俺のデバイスを作るうえでの何らかの制約とかプレシアは聞いているか?」
プレシアと士郎の会話を聞いていたリンディが端末を操作し、なにやら資料を投影する。
「デバイスの制約はありませんけど、正式に士郎君が嘱託魔導師になった際に通達される予定のものがあるわ。
制約項目は魔術を使用しての攻撃の禁止。
理由は」
「非殺傷設定の関係ですか」
リンディの言葉に重ねるように発したこと士郎の言葉に静かに頷くリンディ
「その通りよ。
嘱託とはいえ管理局に所属している者が殺傷設定の魔法関連技術を使用するのは問題になるもの。
といっても私達の技術で封印できるものでもないからこっそり使われるとどうしよようも無いんだけどね。
一応、使う場合は上司の許可が必要で、緊急時の使用については後日正当性の確認といったところね」
「面倒だが仕方がないか」
これも組織に属したから仕方がないとため息をつきながらも自分を納得させる士郎。
「そうなるとデバイスはやっぱりアームドデバイスかしらね。
処理速度優先でストレージデバイスというのも考えたけど、士郎が使う武器も必要でしょうし」
「そうだな。
あとカートリッジシステムをつけてほしい。
魔力量が少ない身としてはアレは魅力的だ」
「制御が難しいものだけど、士郎の制御能力なら大丈夫でしょう。
アームドならこの前話していたフォルムでいいのよね?」
「ああ、アレで問題ない。
後は魔術を行使していても飛行魔法や防御魔法を使えるようなフォルムを加えてくれると助かる」
着々と話を進めていく士郎とプレシア。
実は士郎の家での生活の中で事前にデバイスの事など説明した時にどのタイプならこうでというのが話し合われていた。
そのため魔法特性がわかってしまえば話は早かった。
もっともリンディやマリーからすればデバイスのフォルムを決める相談をしてくれなかったことが不満だったらしく、少々不機嫌だったのだが、翌日にお礼として士郎からの差し入れのおやつですぐに上機嫌に戻っていた。
それを報告のために偶然目にした局員曰く
「既に胃袋は掌握されていた」
とのこと。
ちなみに士郎の手作り料理などに胃袋を掌握されてしまった局員が増え、管理局での士郎のファンが増えたのは少し未来の話
後書き
あけましておめでとうございます!
本年もF/mgをよろしくお願いします。
結局2014年は年末最後の更新はできなかったですね。
年末年始って忙しい・・・
さて、士郎の魔導師としての特性の話になりますが、魔術と同じでかなり偏りのある能力にしています。
ちなみにリンカーコアの常に魔力が体内を巡回している云々は明確な設定が見つからなかったので、勝手にそういう設定にしてます。
さて2015年はとりあえず安定更新の再開を目指して頑張ります。
本年もよろしくお願い致します。
次話更新は三週間後の二十五日頃を予定してます。
ではでは
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