Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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A's編
第九十話 本人の知らぬ間に厄介事は忍び寄る
クリスマスが終われば世間はすぐに年末年始の姿に変わり行く。
なのは達も年越しに向かってのんびりと過ごせているかというと、残念ながらまだ色々とやることが残っていた。
特に士郎は闇の書事件の管理外世界の現地協力者としての感謝状の授与式に、来年からの嘱託魔導師としての手続き、さらに魔導師としての適正検査もある。
事前の話し合いではデバイスの準備など本格的に動き出すのは年明けになる予定だったのだが、嘱託魔導師として年明け早々から魔導師ランクの取得にデバイスが必要になる。
特に士郎のデバイスは取引で獲得した専用機になるため、開発に少しでも早く着手したいということで、適性検査が年内に前倒しになったことも関係している。
そして、現在本局では
「皆さん、お疲れ様でした」
用意された部屋で士郎、なのは、フェイト、プレシア、アルフ、リンディ、クロノ、エイミィ、ユーノがソファに体を預けていた。
さらに言えば士郎とプレシア、リンディを除く全員がぐったりしている。
というのも士郎の感謝状の授与、さらに闇の書事件の解決に大きく寄与した嘱託魔導師のなのはとフェイトへの勲章の授与、同事件の担当をしたリンディ提督率いるメンバーへの表彰まで行われたのである。
しかもその場が年末を控えた管理局の慰労をかねたパーティになっており、PT事件の時の様に少人数ではなく、かなりの人数の前で大々的に行われたのだ。
当然だがそんな場になれば管理局員は制服でいいが、士郎、フェイト、アルフ、ユーノの四人は当然そうもいかない。
そのため士郎はアリサのパーティの時に着ていたタキシードを、ユーノとアルフは用意したスーツを、なのはは淡いピンク、フェイトはブルーのパーティドレスを身に着けて参加していたのだ。
しかし、管理局のパーティなのだから周りは制服を着た人ばかりなのだから当然視線を集める。
さらに士郎となのはで言えばPT事件、闇の書事件と二つの大きな事件の解決の功労者なのだから、それになりに肩書きを持った方々も挨拶にやってくる状態。
その結果が今である。
とはいえリンディ、プレシアは立場上慣れているし、士郎は執事として男性としてエスコートの経験もある。
というわけで三人とも疲労はあるものの、なのは達ほどぐったりはしていなかった。
「じゃあ、着替えたら家まで送るからね。なのはちゃん」
「はい、お願いします。エイミィさん」
ぐったりしているとはいえ、なのはの管理局の用はこれで終わり後は年末の準備に向けて家に戻るだけである。
クロノとエイミィも今年の仕事は一段落しているので、なのはと共に海鳴の家に戻る。
フェイト達テスタロッサ家と士郎、リンディはこの後そのままクラウンと会う予定が入っている。
フェイトとアルフはそれで今年の仕事が終わりだが、士郎とプレシア、リンディは士郎の適性検査の立会い、今後のデバイス開発の打ち合わせなど今日はまだ帰れそうに無い。
「さあ、まだ予定は詰まってるから着替えたらクラウン中将のところに行きましょうか?」
「了解した」
「はい」
「了~解」
リンディの言葉に士郎達も動き出す。
ちなみに士郎の本当の年齢が三十前後と聞いた時、君付けをやめようとしたのだが
「肉体に引き摺られて経験は積んでいますが、大人びた子供程度なので今まで通りでいいですよ」
との士郎の言葉でリンディをはじめとする他の面々も特に呼び方は変えていない。
「じゃあ、また後でね」
なのは、クロノ、エイミィと別れて士郎達はクラウンの執務室に向かう。
着替えて到着した執務室の入り口で
「失礼します」
リンディが入室を求め、開いた扉にリンディを先頭に士郎、プレシア、フェイト、アルフと入室する。
「よく来てくれたね。
掛けて楽にしてくれ」
クラウンに薦められるまま、一行は執務室のソファーに腰掛けた。
そのタイミングにあわせて一人の女性がコーヒーを用意してくれる。
「そういえば彼女とは初めてだったね。
カーラ、自己紹介を」
「はい、中将の補佐官兼務秘書を勤めております。
エステート・カーラと申します」
「魔術師、衛宮士郎です」
クラウンの直接の部下が出てくることに内心でどういうことなのか思考を巡らせながら、士郎はエステートと自己紹介を済ませる。
だが士郎は、正直首を傾げていた。
「疑問かね?」
「はい。
このタイミングで彼女を私に紹介した意図が正直に言えば。
魔術師に肯定派、否定派の両方いる状況で初対面の相手をいきなり信じるのは難しい事は理解されているはずですが」
「士郎君の言うことはもっともだ。
彼女を紹介したのは私と直接連絡を取るパイプ役にと思ってだ」
クラウンの言葉にリンディ達が目を丸くするが、士郎は表情を変えることなく次の言葉を待つ。
「嘱託魔導師として士郎君が今後管理局の一員となるが、一嘱託局員が中将階級の人間と直接連絡を取るのは士郎君が魔術師ということを考慮しても目立ってしまう。
タカ派に余計な刺激を与えないというわけでも仲介役が必要だった。
本当はもう少し早く紹介だけはしておくつもりだったんだが、いいタイミングが無くてここまで遅くなってしまった」
士郎もようやくここで紹介された意味を理解した。
士郎が魔術という技術を持つが故に初対面の局員を完全に信用していないことはタカ派もハト派も既に知っている。
ましてや士郎は局の上層部の力関係や派閥など知りもしないだから、簡単にハト派だと信用するのは当然危険が伴う。
だからといって事前にエステートを紹介するための場を設けたらパイプ役にすることを周囲に言っているのと変わらない。
だが何かのついでに士郎とエステートが会っただけならば、仮にエステートをパイプ役しているだ云々言われたとしても偶然だと白を切ることはできる。
しかし同じ席にいるのがクラウンと士郎が信用できる者達のみで、話を他の人間に聞かれる心配がないという条件があるとなかなかいいタイミング無かった。
「彼女は私の従姉妹にあたる者だからな信用してくれると助かる。
当然だが魔術に関することについても私と同様の意見だ」
「了解しました。中将のご紹介です。
何か連絡を取りたい際はエステート補佐官に連絡をさせていただきます」
「よろしくお願いします」
士郎とエステートは握手を交わし、今後の連絡先を交換する。
連絡先の交換が済み。
「さて、本題に入ろうか」
クラウンの言葉にリンディ達も姿勢を整える。
その様子を見ながら士郎は一瞬、プレシア、フェイト、アルフのテスタロッサ一家を見つめる。
(フェイト達を呼んだということは魔術絡みではなさそうだが、いい話なのか、悪い話なのか。
前者であればいいが)
ジュエルシード事件の後、士郎がプレシアを自由にするために受け渡しが決まった時もフェイトの同居を認めないと言ってきたりと面倒事があったので、内心で眉をひそめる。
「プレシア・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサ、今はテスタロッサ・ハラオウンだったね。
その両名が地球に住む際の児童保護局からの話は覚えているかい?」
「ええ、『虐待という前歴を持つプレシアをフェイトと同居させることを容認できない』でしたか」
「その通りだ。
まあ、実際には魔術師という未発見の技術を所有する者に失効したとはいえ条件付SSランクにAAAランクの魔導師とその使い魔が戦力として加わることを危惧したタカ派の策略なのだがね」
やはりそうかとやれやれとため息を吐く士郎。
「だが今回、フェイトさんには闇の書事件での功労者としての勲章、さらにプレシア研究員は貴重な技術提供と新たな技術開発と管理局への貢献がとても大きい。
さらには嘱託とはいえ局に所属してくれる士郎君の機嫌を損ねるのはタカ派としても意見が分かれるから好ましくない」
士郎はクラウンの言葉にタカ派の内部の意見に察する。
タカ派の内部も一枚岩ではない。
魔術技術の解析のために嘱託などではなく、徹底的に解析をするべきだと言う者。
こちらに刃が向く心配は回避し、戦力となっているのだからしばし静観をするべきだと言う者。
どれだけ管理局に利用できる技術かわからないのだから研究などは片手間で行い、強固な戦力として利用できるように正規局員に入れることを考えればよいと言う者。
と色々と意見はあるが、士郎を管理局から手放すことはタカ派としても回避したい。
ちなみにハト派は管理外の世界の住人なのだから、戦力や研究協力してもらうに越したことはないが、所詮は本人の意識しだいだろうという意見にほとんどがまとまっており、タカ派よりは意見が絞られている状態だったりする。
そして、嘱託ながら所属した魔術師と、魔術師と親しい大きな功績を挙げた親子がいる。
結果としてタカ派のとった行動は
「児童保護局からの通達をこれまでの行動と功績より心配なしと判断し、棄却。
以後、魔術師、衛宮士郎が所有する第九十七管理外世界の住居にプレシア・テスタロッサ研究員、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン嘱託魔導師の両名が生活することに管理局として口出ししない事を約束する」
士郎に対するご機嫌取りと考えられるものだった。
タカ派としては嘱託魔導師では物足りないが、ここでさらに強要しこの話自体がなくなりでもすれば余計厄介になる。
さらにフェイトとプレシアの活躍はかなり広まっており士郎の知り合いということで圧力をかけるとハト派に付く者が増える可能性すらある。
「喜ばしいことですが、ずいぶんとフェイト達を振り回しますね」
「その事は私としても申し訳なく思うよ」
だがあくまでそれは管理局側の意向であり、振り回されるほうとしてはいい迷惑だ。
そのことに呆れるようにため息を吐いてみせる士郎。
しかし同時に大きな組織だと派閥闘争などいくらでも存在するのも事実。
実際に魔術協会でも派閥などがいくつもあり、辟易とした記憶が士郎にもある。
「リンディさんを呼んだのは養子の関係ですか」
「二人が離れないで良いように打った手なのだろうが、書類上の手続きは必要だからね」
再びため息を吐きながら、そういえばフェイト達の反応がないと思いテスタロッサ家に士郎が視線を向ける。
何を言われるのか不安だったのだろう、安堵しているフェイトだが、同時に困惑の表情をわずかに浮かべていた。
(フェイトの性格だ。養子にしてもらって母さんと呼んでいたこともあるから戸惑っているのと、これからの事といったところか)
とはいえこのままクラウンの執務室で話をするわけにもいかないので
「呼び出した用件は以上ですか?」
「ああ、以上だ。
忙しい合間に時間をもらって悪かったね」
「いえ、では失礼します」
士郎とクラウンの言葉にリンディとプレシア、わずかに遅れてフェイトとアルフも立ち上がる。
その時
「フェイトさん」
「は、はい」
クラウンがフェイトを呼び止める。
「大人の事情に君を巻き込み振り回す形になってしまい本当に申し訳ない。
管理局を代表してお詫びする」
クラウンが頭を下げ、それに倣うようにエステートも頭を深々と下げた。
突然の謝罪に慌てるフェイト。
なまじ管理局という組織を知っているだけ中将クラスの人に頭を下げられて驚くなというほうが難しいだろう。
「いえ、そんな頭を上げてください」
「ありがとう。何か困ったことがあったらいつでも頼って下さい」
「は、はい。ありがとうございます」
そんなやり取りを最後に士郎たちはクラウンの執務室を後にした。
部屋を後にした後、さすがにクラウンとの会話は緊張したのだろう。
大きく息を吐くフェイト。
そんなフェイトに歩み寄り頭を撫ぜながら視線を合わせるプレシア。
「フェイト、貴方の困惑している理由はわかっているつもりよ。
今夜、リンディと三人で話しましょう」
「はい、母さん」
プレシアの言葉に安心したように表情を緩めるフェイト。
「アルフ、フェイトを頼むわね」
「うん、任せて」
「それじゃあ、また夜にね」
「はい!」
フェイトとアルフを士郎とプレシア、リンディの三人で見送る。
二人の姿が見えなくなったときに
「クラウン・ハーカー、なかなかの人物ですね」
ポツリと士郎がつぶやいた。
その言葉にリンディとプレシアは首を傾げる。
「クラウン中将がそんなに意外だった?」
「俺が知っている組織の連中が管理局の人たちに比べて一癖も二癖もあったのは事実ですが、それでも階級があがればそれだけ頭を下げるということの意味も重くなりますから」
「そうね。クラウン中将は管理局の上層部でも変り種のほうよ」
その言葉に今度は士郎が首を傾げる。
「これだけ組織が大きいとコネも当然存在するわ。
その中でもクラウン中将は元々は現場指揮官。
指揮能力の高さで部隊長に抜擢されて、あがってきた現場派の人間だもの」
「なるほど、エリート組のやっかみはあれど、現場から支持が強いということですか」
「そういうこと。
ちなみにエステート・カーラ補佐官も同じ、クラウン中将が現場指揮官の時からの補佐役よ」
そういう種の人なら信頼はできそうだと言葉には出さずとも内心でつぶやく士郎であった。
「さあ、そろそろ行きましょうか。
予定通りだけど、まだ貴方の魔導師適正とかすることは山積みなんだから」
「了解した」
士郎達は技術開発局の方に歩き始めた。
「どう思う?」
執務室の自分のデスクに腰掛けたクラウンが初対面の士郎の印象をエステートに尋ねる。
「こちらが裏切らなければ心配はいらないと思います」
聞かれることがわかっていたのだろう。
士郎達が口にしたコーヒーを片付けながら迷うことなく答えを返す。
「そうか、管理局に正式に入ってくれるとありがたい人材なんだがな」
「それは同感ですが、彼が難色を示しているなら難しいでしょう。
子供ながら明確な信念を心に秘めているタイプです。
金銭や待遇で引き込めるとは思えません」
エステートの淡々とした言葉に
「だよね……」
がっくりと肩を落とす。
「彼自身よりも外堀を埋めたほうが良いのでは?」
「……それは脅迫や人質的なではないよね?」
「当然です。
そんなことをすれば彼は即座に敵になります。
彼の目の前で口にした時点で頭と胴体が別れることを覚悟したほうが良いでしょう」
クラウンから聞いていた魔術と士郎の揺らがない瞳を見て、やる時は躊躇わないことを感覚的にエステートは感じていた。
そういった勘はクラウンも自分より当てになる事をわかっているので特に何も言わない。
「ではどういう外堀かな?」
「家族や恋人が管理局の正規局員になればという意味です」
なるほどと納得し、過去に開かれた士郎に対する会議の資料を開く。
「最後の生き残りで家族はなし。
同居しているプレシア研究員を除くと家族となるのは元闇の書の管制人格リインフォースぐらいか」
「今の家族に限らなくても良いと思いますが?」
エステートの言葉がわからず内心で首を傾げるクラウン。
「現在、九歳なので結婚はできませんが、婚約は出来ます」
「ああ、そういうことか。
そういえば彼の誕生日ケーキずいぶんと気に入っていたな」
「年も近いので本人の意思ですが、よろしいのでは?」
「ああ、彼ならどこぞの馬鹿息子共よりよっぽど安心できる」
士郎にとっては、当の本人達がいない間でこんな話が進んでいるなど、予想にもしていないだろう。
そしてこれがまた一波乱起こすのだが、それはまた別のお話。
後書き
というわけでフェイトの養子関連とネタに関するフラグ回でした。
フェイトの養子ネタは批判も結構あったので、小説の構成ネタの話になりますが、当初F/mgではプレシア生存ルートなので、ハラオウン家に入れる必要はないと思っていました。
ですが、A's編で原作どおりフェイトが自由に行動する事を自分なりに違和感なくまわすために一旦ハラオウンの養子にして、功績で本当の意味で自由を手に入れるという流れで考えていました。
あとはプレシアとリンディの距離を縮める鍵役という意味もありました。
と構成案のネタばらしでした。
次回は士郎の魔導の話なので、その次ぐらいにこのフェイトの話は書く予定です。
なお、今回登場したエステート・カーラに関しては『キャラクター設定』に追加しています。
ちなみにですが、私のオリジナルキャラクターの名前は原作と同じ自動車関係から名前を取り、姓は穏健派なので吸血鬼関係から引用してます。
ハーカーはミナ・ハーカー
カーラは吸血鬼カーミラのミをとったものという感じです。
タカ派でオリジナルキャラクターを考える時は姓を聖堂教会騎士関係からとろうとか考えています。
それにしても、さてさて今回の陰謀でなのはたちがどう出ることやら。
このためにクラウンさんに娘がいる設定にしたんだから頑張ってもらわねば。
最後になりましたが、使用する挿絵を確認しているときに「第八十話 夜天の主」の挿絵が漏れていたのに気がついたので、追加しました。
次回更新ですが、三週間後だと年をあけちゃいますね。
出来れば今年中に最後もう一度更新したいですが、もしかしたら今回の更新が今年最後になるかもです。
それではまたお会いしましょう。
ではでは
※新たな挿絵の追加が当初八十一話となっていましたが、「第八十話 夜天の主」の誤りです。
失礼しました。
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