アネモネ
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第二章
第二章
その中でだ。アドニスは己のベッドの中にいた。アフロディーテも共だ。その彼に寄り添っている。そうしてそのうえで彼に対して囁いてきた。
「ねえ」
「何でしょうか」
「もう少し一緒にいられるわ」
「今はですか」
「あと五日」
彼を濡れた目で見ての言葉だった。
「五日いられるわ」
「五日ですか」
「そうよ。あと五日」
また言う彼だった。
「五日いられるから」
「わかりました」
アドニスはアフロディーテのその言葉に頷いた。そしてだ。
「それでは」
「楽しみましょう」
まずは髪をかきあげた。そうしてだ。
アドニスの身体を抱き寄せた。そのうえでまた囁いてみせた。
「来て・・・・・・」
「はい、また」
アドニスは彼女の言葉に応えて自分の身体も動かした。そのまま女神の上にきた。そうしてそのうえでまた愛を交えさせるのだった。
二人は愛を育んでいた。その仲は二人の周りだけしか知らないことに思われていた。しかしここでそれを知ってしまった者がいた。
戦いの神アーレスだ。彼女はアフロディーテの恋人でもあったのだ。その彼がふと話を聞いたのだ。話していたのは太陽の神アポロンと月の女神アルテミスの双子の兄妹だ。オリンポスにおいて彼等の話をたまたま聞いたのだ。
「最近アフロディーテの姿を見ないが」
「兄上、それには理由があるのです」
アルテミスはこう兄に話を出してきた。
「実は」
「何だ、また新しい恋人ができたのか」
「はい」
アーレスは二人の話を物陰から聞くことになった。丁度二人のいる広間に入ろうとしたところで話を聞いてだ。隠れて聞くことにしたのだ。
物陰に隠れそのうえで耳をそばだててだ。そうして話を聞く。
二人の神は彼に気付くことなくだ。そのまま話を聞いていた。
「そうなのです」
「やれやれだな」
アポロンは妹神の言葉を聞いて呆れたような声を出した。
そしてだ。そのうえでまた言うのであった。
「彼女も。好きだな」
「全くです。あの方は男性だけではありませんし」
「女性もか」
「はい、異なる性でも同じ性でも愛を与えられます」
ギリシアでは同性愛は普通であった。愛を司るアフロディーテがそれを知らない筈がない。そうしてそのうえでまた話をするのだった。
「ですから」
「そうだな。しかし」
「しかし?」
「それにしても好きだな」
アポロンは言葉からも首を傾げさせていることがわかった。
「本当に」
「困ったことです」
「それで今度の相手は誰なのだ?」
「内密の話ですが」
アルテミスは双子の兄だからこそ話したのだった。だがアーレスが聞いていることには気付かない。それはここでも同じだった。
「シリアの王子でして」
「シリアのか」
「アドニスといいます」
「ああ、あの少年か」
アポロンは彼の名前を聞いてすぐに頷いた。
「まるで少女の様な美少年だね」
「はい、本当に」
「彼ならアフロディーテ殿が愛するのも道理」
アポロンの言葉は今度は納得したものであった。
「それもまた」
「そうですね。私も彼が少女なら」
アルテミスは処女神だ。だから男を傍には近寄せない。だからこうした話になるのだ。
「その時は」
「御前も相変わらずだな」
「そうでしょうか」
「全く。そうしたところがな」
「誓っていますので」
アルテミスは呆れた声の兄にこう返した。
「ですから」
「そうしたところが相変わらずなんだよ」
また妹に返した兄だった。
「本当にな」
「左様ですか」
アーレスはここからの話は聞かなかった。彼の知りたいことはもう聞いたからである。そしてそのうえでだ。すぐに行動に出たのであった。
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