サマーガーデン
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第四章
第四章
「それだったらね」
「いいの」
「いいわ。それじゃあしっかりしなさい」
「ええ」
母の言葉にそのまま頷く。そうするしかない状況だった。そんな夕食だった。
二人は毎日、晴れの日はサリーの家の庭のその低い緑の木々での囲いを挟んでそのうえで楽しく話をした。深い仲ではないがそれでもだ。二人は楽しんでいた。
「そうですか。ロンドンにも行かれたことがあるんですね」
「石上君はまだですか?」
「今度行こうと思ってますけれど」
「そうですか。それだったら」
ここでだ。サリーは自分から言った。自分が年上であるということもあってだ。お姉さん的な感情を抱いてそれで言ってきたのである。
「その時は私が」
「リーマンさんが?」
「はい、案内させてもらっていいでしょうか」
こう申し出たのである。
「それで宜しいでしょうか」
「いいんですか?」
京介はサリーのその言葉を受けてだ。驚いた顔になり目をしばたかせて言うのだった。
「それで」
「はい、私でよかったら」
にこりとしての申し出だった。
「どうでしょうか」
「じゃあ」
一呼吸置いてだ。京介は言うのだった。
「御願いします」
「はい、ではそれで」
こんな話をしてであった。二人でロンドンに行ったりもした。しかしやはり二人は庭の木々を挟んで話をするのが常だった。その中でだ。
ある日だ。京介は沈んだ顔で庭の前に来てだ。そうして言うのだった。
「困りました」
「困った?」
「急に決まりまして」
こう言うのである。
「それでなんですが」
「随分と言いにくいことみたいですね」
「はい、実はですね」
それでもだ。言うのであった。彼も覚悟を決めて言った。
「帰ることになりまして」
「帰る?」
「はい、日本にです」
その沈んだ顔での言葉だった。
「日本にです」
「それは。本当ですか」
「残念ですが」
こうサリーに言うのだった。
「とても」
「あの、それじゃあ」
「もうすぐここを去ることになります」
こう言うのだった。
「もうすぐです」
「そうですか」
「また機会があれば御会いしましょう」
京介は己の気持ちを押し殺してだ。そうしてであった。
「また」
「はい」
そしてサリーもだ。己の気持ちを隠してだ。そうして言うのであった。
「それでは」
「もう少しここにいますが」
これは言うのだった。
「ですがそれでは」
「その時には」
こんな話をしてからだった。サリーは沈んだ顔になったままになってしまった。そしてアンはそんな娘を見てすぐに気付いたのであった。
「彼、日本に帰るのかしら」
「それは」
「そうね。帰るみたいね」
「そうみたいなの」
沈んだ顔のままでだ。母の言葉にこくりと頷いた。
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