サマーガーデン
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第三章
第三章
「それで昨日は」
「そういうことがあったんですね」
「はい、いや大変でした」
京介は苦笑いを浮かべてサリーに述べた。
「本当に」
「そうですよね。やっぱりイギリスの食べ物は日本の方の御口には」
「それでもかなり慣れましたけれどね」
「そうですか」
食べ物や本、そして二人のプライベートな話もしだしていた。そうしてその関係をさらに親密なものにさせた。二人の仲はかなりいい感じになってきていた。
そんなサリーを見てだ。母のアンは彼女にこう言うのであった。
「彼氏?」
「彼氏って?」
「あの子日本人よね」
夕食の時にだ。テーブルの向かい側にいるサリーに笑いながら言ってきたのである。食べているのはボイルドベジタブルとスープ、それにコールドチキンとパンである。
「そうよね」
「見てたの?」
「見えてたわよ。日本から来た人が近所にいるって聞いてたけれど」
「そうなの。あの子の家だったの」
「あの子ね」
この言葉にだ。アンは笑顔で応えてきた。
「成程ね」
「成程にって」
「いいんじゃない?あんたがよかったら」
温かい笑顔であった。その笑顔での言葉であった。
「それでね」
「それでって」
「だから。あんた今丁度彼氏とかいないでしょ」
「それはそうだけれど」
「じゃあいいわ」
母のペースだった。サリーも今はアンに言われるままだった。
「それでね」
「いいの」
「そう、いいの」
こう言うのだった。
「あんたがよかったらね。悪い子じゃないし」
「そうよ、悪い子じゃないわよ」
サリーからの言葉だった。自然に出てしまっていた。
「あの子はね」
「だからいいわ。ただ」
「ただ?」
「年下の子なんてね」
アンが次に言うことはこれだった。歳の差だった。
「意外ねえ。彼あれでしょ?ハイスクールの生徒さんでしょ」
「あっ、カレッジよ」
大学生だというのだ。
「美術のね。そっちの生徒さんなの」
「あら、そうなの」
「そうよ」
食パンにバターを塗りながらだ。そのうえで母に答える。
「そうなの」
「そうだったの。けれどそれでもね」
「私より一個下よ」
言われる前に自分で言ってしまったアンだった。ついついだ。
「実際ね」
「やっぱり年下なのね」
「そうなの。年下なの」
「意外ねえ。やっぱり」
「やっぱり?」
「あんたが年下の相手を好きになったのはね」
「別に好きになってないわよ」
それは否定するサリーだった。
「別に。あの子とは」
「あの子っていう時点でもうわかってるわよ」
必死に否定する娘の言葉は制してしまった。それも一言でだ。
「残念だったわね」
「うっ、しまったわ」
「わかってるわよ。そういうことでね」
「そういうことで?」
「いいじゃない、それでも」
「いいの」
「お互い好きだったらね」
それならばいいというのであった。こうしたことには物分りのいいアンだった。優しい笑顔でボイルドベジタブルのポテトを食べながらだ。そのうえで言うのである。
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