ロックマンX~5つの希望~
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第三十四話 彼女達の戦い
前書き
まずはエイリアから。
エイリアが向かったのは、砂色の土が剥き出しに広がる渓谷であった。
メタルバレー
宇宙開発には欠かせない貴重な鉱石が採掘される鉱山である。
そこでは作業用メカニロイドがイレギュラーと化し、採掘に携わる者達にも容赦なく暴走していた。
特にイエロー・ブロンテスというメカニロイドは聳えるような巨体を晒し、追われるエイリアの胸を不安で満たしていく。
エイリア「くっ…」
イエロー・ブロンテスが大地を踏み締めるのと同時に地面が揺れ、土がむせ返るような粉塵を上げる。
砂埃で周囲が霞み、よもや見えなくなるわけはないが、自分が砂埃に呑まれ、遠い世界に行ってしまうような錯覚を覚えた。エイリアは敵から逃れながら唇を噛む。
エイリア「(エックス…ルイン…)」
脳裏に戦場に向かうエックスとルインの後ろ姿が浮かぶ。
エイリア「(あなた達はいつもこんな不安の中で戦っていたの……?)」
S級ハンターのエックスとルインも常に自信に溢れて戦場に向かうわけではない。
エックスは寧ろ“戦いたくない”と躊躇う心を抑えながら出撃していた。
間近で見ていたから分かるのだ。
エックスの戦いを憎む気持ちと恐れを。
ハンターは死と隣り合わせという事実を今更ながらに感じ取る。
それはモニターで見るよりも遥かに違い、鮮血を直に浴びるに似た強烈な恐怖だった。
自分は今エックスと同じ立場にある。
恐怖を全身で感じながらも、信念のために、守るために戦うエックスに。
硝煙に満ちた空気を吸い、バスターを構えるエックスと同じ立場。
アイリス『エイリアさん!!』
ナビゲートを担うオペレーターのアイリスから通信が入る。
アイリス『イエロー・ブロンテスは頭部が弱点です。クレーンを利用して攻撃して下さい!!』
我に返るとエイリアは行き止まりに突き当たっていた。
見上げる土壁の上にはクレーンがある。
鉄の塊である腕は、ブロンテスの頭部を砕けるだけの強度を誇っていた。
エイリア「分かったわ!!」
壁を駆け上がり、クレーンを作動させる。
反対を向いていたアームが勢いよく振られ、ブロンテスの頭部を殴りつけた。
エイリア「やった…!!」
ブロンテスが僅かに黒煙を上げる。
まだ燻る程度の熱だが、敵に見られる変化はエイリアの士気を高めた。
エイリア「この調子でいくわよ!!」
壁を蹴り上がり、再度アームを作動させ、叩きつける。
敵は黒煙を噴き上げ、急停止すると、狂ったように来た道を戻っていった。
アイリス『イエロー・ブロンデスの内部に高エネルギー反応!!追いかけて下さい!!爆発する前に機能停止させないと!!急いで下さい!!』
エイリア「(爆発…追い掛けなきゃ…)」
追い掛ける背中がエックスとルインの姿を想起させる。
大きさも色も纏う気配もまるで違うけれどエイリアはエックスとルインの背中を追い掛けるように懸命に駆けていく。
エイリア「(エックス…ルイン…私、ようやくあなたと一緒に戦えるようになった)」
力を得て、戦う術を身につけた。
まだまだエックスやルインには遠く及ばない力だけれど。
エイリア「(あなた達には及ばないかもしれないけど、あなた達のすぐ傍で戦うことが出来る。エックス…あなたをルインと一緒に支えるために…)」
敵を追い掛けながら、エイリアは胸中で笑う。
イエロー・ブロンテスを停止させ、扉の前に立つと強力なイレギュラー反応を感じ取った。
この先にいるのは、データによれば、アースロック・トリロビッチだ。
非常に高性能な新世代型レプリロイドは宇宙開発に関わる拠点を、強大な権力と共に委任されている。
エイリア「(ここで採掘されるメタルが、ヤコブ計画に必要なのよね…)」
いかに科学が進歩しようと、人は土を離れては生きられない。
連綿と受け継がれていく自然の力をエイリアは畏怖せずにはいられない。
この先に敵が潜んでいる。
エイリアは戦場への扉を開いた。
中に入ると蟲を模したレプリロイドがいる。
土色のアーマーに身を包んだ“三葉虫”型レプリロイドだ。
長い触角と丸みを持った矮躯は、蟲の中でも特に悪感情をもたらす害虫に似ており、エイリアは恐怖よりも嫌悪感を抱く。
蟲は性格の歪みを見事に反映させた瞳をエイリアに向け、不快な声色で言った。
トリロビッチ「あぁー?何だ何だ?てっきりハンター共が攻めてくると思ったが…なんだ女か。イレギュラーハンターも人材不足だな~!!」
相手が女というだけで見下す器の小さい男だ。
この程度の挑発には乗らない。
ルインならばこの程度の挑発など軽く受け流すだろうから。
エイリア「エイリアよ。エックス達に代わってあなたを倒すわ」
トリロビッチ「はんっ…能無しのイレギュラーハンターに代わってねえ、旧世代のポンコツの癖に、言うことだけは一丁前だよな!!」
地面から黄色い柱が出現する。
エイリアは倒れる柱を間一髪でかわすと、トリロビッチに向けて言い放つ。
エイリア「新世代とかそんなのはどうでもいいわ。私はあなたを止めてみせる!!」
バスターから放たれる通常弾。
トリロビッチのアーマーはそれを容易く防いだ。
トリロビッチ「生意気な~」
軽侮の笑みをし、トリロビッチは光弾のバウンドブラスターを放った。
壁や柱に当たったそれは直角に軌道を変えて飛び交う。
エイリアは長年の経験で洗練されたデータ分析によってかわし、最大までチャージしたフルチャージショットをトリロビッチにお見舞いする。
トリロビッチ「ぐああっ!!?」
エイリア「ご自慢のアーマーも、チャージショットの前じゃ形無しね」
美しい、悪戯っぽい笑みで言ってみせる。
彼女の高度な分析能力が力の差を埋めていく。
オペレーターとして活躍し、前線のエックス達を支えてきたエイリアの“力”だ。
エイリア「(私の力は…ちゃんとあなた達の役にたってるわよね…2人共)」
脳裏にエックスとルインの勇姿を描く。
トリロビッチ「ふ、ふん!いくらアーマーを破ったからって、お前なんかに俺は倒せないさ!!」
悔しげに叫ぶと、トリロビッチは大量のクリスタルウォールを出現させた。
フルチャージショットでも破壊出来ない頑丈な柱が、空間をみるみるうちに満たしていく。
エイリア「まだそんな力が残っているの!!?」
壁に追いやられ、退路を失う。
トリロビッチ「どうだ!これが新世代型レプリロイドの真の力だ!!進化した俺達の力が世界を変えていくのさ!!お前達ポンコツが生きる世界なんてないのさ!!」
エイリア「進化…?」
彼女の胸に、初めて怒りの感情が沸き起こった。
エイリア「あなたのそんな力が進化だというの!!?ふざけないで!!」
地面を踏み締める足に力を込め、一気に跳躍。
トリロビッチの懐に飛び込んだ彼女は零距離でのフルチャージショットを放った。
フルチャージショットはトリロビッチの強固なアーマーすら砕き、敵の内部機構を破壊した。
トリロビッチ「馬鹿な…お前如きに、やられるなんて…」
エイリア「“ポンコツ”にだって意地があるってことよ」
張り詰めた空気に一石投じるように、息切れした掠れ声がエイリアの口から零れた。
柱がパリンと割れて散らばった。
ガラスのように透き通った柱は、やがて消滅していく。
トリロビッチが機能停止寸前である証だ。
トリロビッチ「ポンコツが、身の程知らず…だなあ……」
言葉は侮蔑と嘲笑に満ちていた。
死ぬ間際でさえトリロビッチは態度を変えない。
その図太さは感心すら覚える。
トリロビッチ「お前達、旧世代の世界はもう終わりさ…どんなに足掻いたって…あんた達は、古い世界と一緒にオダブツだね…」
事切れた。
歪んだ瞳が瞳孔を開き、金属の手足がだらりと投げ出された。
エイリア「そんなこと…させないわ」
届くはずのない言葉を、エイリアははっきりと告げた。
後書き
トリロビッチ撃破。
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