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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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二十二章
  甲斐案内

「歌夜。兄上は鬼退治が終わったらどうなるでやがりますか?夕霧は兄上に甲斐に残ってほしいでやがります。姉上も薫も寂しがると思うでやがりますが」

「たぶんですが、みんなには寂しい思いはさせたくないと言いますね。ですが・・・・」

それから歌夜は黙っていた。美濃に京、越後と甲斐。戦いが終われば、日本の一部での同盟を上手くやるかが問題だ。そのためには鬼を倒すこととドウターが完全にこの外史を崩壊させる気ならもうやっているだろう。おそらくドウターもこの外史の終幕の事を知っているんだと思う。それに俺は創造主であり創造神だ。外史の始まりと終わりを考えたのも俺。そう歌夜が黙っていると東の空から強い光が飛んできた。

「おー!朝日です!」

甲府盆地の彼方、真っ黒なシルエットのさらに奥。青空と山の境を、くっきりと浮かび上がらせるようにして、太陽が昇る。俺たちは雲よりも上にいるから、見えている。それにゲートの出現ポイントまであと少しで到着する。さあて、どう動く?ドウター共。まあ今は歌夜たちが見ている事も最近ではあまりない光景だな。

「あのあたりにあるのは、源次郎岳でやがりますな。その奥にあるのは大菩薩嶺や雁ヶ腹摺山でやがります」

源次郎岳・大菩薩嶺・雁ヶ腹摺山・・・・甲斐にある山の名前。

どの山も名前があるのは知っているが、詳しくは知らない。何でも狼煙がある山だそうで、噂に聞く信玄の狼煙ネットワークらしいが。ネットワークと言えるのかは定かではない。あれのおかげで川中島で変事が起きても一刻班もあれば躑躅ヶ崎館まで報が届くそうだ。

『なるほどな。だから狼煙があるのか』

「兄上!いったいどこからでやがりますか?」

『おっと声が出てたな。今はお前たちの真上にいるから会話を聞かせてもらっている』

「真上っていっても何もないですー」

『そりゃそうだろ。隠しているんだから。それより、川中島は遠いと聞いたが?』

「甲斐も信濃も山国で、早馬も知れてるでやがりますからな。だから狼煙が大事なのでやがりますよ」

『ほうほう』

躑躅ヶ崎館から春日山まで三日というのは、馬では最速なのだろうけど、こちらは母艦であるトレミーなら山を越えるだけだからすぐに着く。光璃が更なる速さを求めているのであろう。彼方にある山が高速連絡網とはね。

「綺麗なのですぅー・・・・」

「本当に。とても綺麗・・・・」

歌夜たちはしばらく馬の足を止めていた。その光景を見ていたそうな。

「それにしても・・・・綺麗だけど山ばかりですー」

「甲府はあたりを山に囲まれた地でやがりますからな。夏は暑くて、冬は寒いでやがりますよ・・・・」

「やっぱり三河とはかなり違うのですね」

「でやがりますよ。で、兄上も聞いていると思うでやがりますが、雁ヶ腹摺山の南には・・・・」

夕霧の指差す方に従って視線を巡らせていけば、そこにもずらずらと高い山が連なっている。俺らはそれより高いところにいるけど。

「そちらにありやがるのは・・・・」

『三つ峠だったか。甲斐でもそう言うのかは知らんが』

「おや。ご存じでやがりますか?」

『知っているさ。そこから富士山を挟んで、早川尾根、駒ヶ岳、鋸岳・・・・赤石の山々は一通り知っている』

どの山も一回は登ったことがある山々で、訓練とかで来るときもある。崖での救助訓練とか趣味でロッククライミングとか。

「だとすると、見て回るのは結構でやがりますか?」

『俺はだけどこの二人は見て回った方がいいだろ』

俺らは見て回ったし、現代でも過去でも違わないからな。俺より綾那や歌夜に見せておいた方がいいと思うし。おっとゲートが出現したようだ。

『悪いが、通信を切らせてもらう。こちらに来る敵が来るんでな。綾那に歌夜、お前らで楽しんで来い。ではな』

と言って通信を切ったところで、ドウターゲートが現れた。

「兄上が言うなら案内するでやがる。それより兄上の敵というのは、祝言のときのあいつでやがるか?」

「はい。一真様曰くあれを排除するのが使命だそうです。詳しくは聞いてませんが、鬼以上に厄介な敵だそうで。私たちでは倒せないと仰っていました」

「でやがるか。兄上の敵の事は後で聞くでやがるから、さっき言った辺りものんびり見て回るでやがりますよ!まずは甲斐善光寺でやがりますかね・・・・」

甲斐善光寺・・・・武田信玄が、信濃善光寺が災禍に見舞われることを恐れ、ご本尊などを移すために作った。

「・・・・で、さっきのが慈照寺でやがります」

甲斐善光寺をを後にした歌夜たちは、甲府の街から見える山を眺めたり、道すがらにある寺や神社を見て回ったと、主に聞いた。主とは寺や神社のな。で、そのままゆるゆると西へ向かう歌夜たち一行。

「おはようございます、典厩様」

「おはようでやがります」

「今日はどちらまで?」

「姉上の良人殿の妾殿に甲斐国を案内する所でやがります」

「おお・・・・。ですがその良人殿がおりませんが?」

「良人殿もと思い誘ったでやがるが、仕事があるというわけでやがる。なので、代わりに妾殿を案内しているところでやがりますよ」

とか話してたらしいとあとで聞いたけど。

「そういえば兄上はどういう感じなのでやがりますか?」

「どういう感じとはです?」

「甲斐はどこもこういう感じでやがりますが、尾張や美濃は違うと聞いたことあるでやがる」

「そういえばそうですね。無礼ではなく、武士も町人も同じ立場、と言ってましたね」

「ほほぅ・・・・。信長公は若い頃は町人に混じって遊んでいたとも聞きやがりますし、そういう違いも出るのでやがりましょうな」

まあ久遠らしいといえばらしいのか。京や越後も清州とは違うしな。

「三河はどうでやがりましたか?」

「三河も甲斐と同じような感じですね。独立したのは最近でしたし・・・・それまでは、今川家の支配下にありましたから」

三河が独立したのは、今川義元が討たれてからの出来事。つまり、俺が降り立ったときということか。

「甲斐はこうして歩いていても、どこか懐かしい感じがするのかもしれません」

「そう言ってもらえるなら何よりでやがりますよ」

「あ、川です!」

綾那が指差した先にあったのは、二つの大きな川がぶつかる合流点だった。水の量はそこまでは多くないけど、川幅は広い。九頭竜川よりも大きいのかもな。

「御勅使川と釜無川でやがりますよ。御勅使川は甲府を西に、釜無川は甲斐を南北に走る大河でやがります」

御勅使川・・・・甲斐に流れる川の名前。暴れ川のため、信玄が一所懸命に堤防を作って治水していた。

「でっかい川なのです・・・・」

なんか綾那がウズウズしているな。歌夜曰く泳ぎたいそうだ。

「良い具合に水練が向いてそうな川なのです」

「おや、分かるでやがりますか?」

「もちろんなのです。いい具合に氾濫したら、きっともっと楽しくなるのです」

「・・・・氾濫は流石に面白くはないでやがりますなぁ」

綾那曰く氾濫すると水練向きだそうだが、夕霧は氾濫で水練はないらしい。でも氾濫はするとな。

「この二つの川・・・・そして、甲斐の東にある笛吹川が、姉上の頭痛の種なのでやがりますよ。特に御勅使川が釜無川に流れ込むこの地点は、大雨が降れば辺り一帯・・・・そうでやがりますね、ここから見えるこの辺りは、軒並み水に流されるでやがります」

この辺り全部か。このくらいの規模の川の氾濫は珍しくもないらしい。三河の矢作川が氾濫するとここくらいになるとか、それで綾那は水練をするらしい。雨がたくさん降ると川の様子を見てくるとかで。綾那以外だったら死亡フラグだな。農家の人や漁師の人とかで、畦の様子や船の舫い綱が外れてないか見に行くらしいからとだから、綾那はフラグを折る側のようだ。注意したあとに散々泳ぐと。

『結局のところ泳ぐのですね』

「この声は沙紀さんです!どこですか?」

『ここですよ』

と言って光学迷彩とIS展開解除した沙紀の姿があった。

「おや、いつの間にでやがりますが」

「隊長はただいま戦闘中ですので、会話をするのなら行って来いと言われたので。もちろん馬もありますよ」

と空間から馬が出てきたけど、ここからは私である沙紀がお送りします。あちらは戦闘中ではありますが、話し相手ということでここに派遣されました。

「そういえばさっきの話ではありますが、綾那さんは上流で壊れた橋とか、倒れた木とかが流されて来たりはしませんか?」

「そこが綾那の腕の見せ所なのです!」

「・・・・三河武士はこういうのばかりでやがりますか?」

「わ、私は違いますよ・・・・!?」

「私も知りませんが・・・・」

「ふむ・・・・でも、どこも似たようなものでやがりますなー・・・・。して、その矢作川とやらは今でも氾濫しやがりますか?」

「そうですね。最近は、葵様や悠季の治水事業で、少しずつ成果が出てきているようですが・・・・」

「なんと・・・・。帰ったら、その話を詳しく聞かせて頂きたいでやがりますよ!」

普段は何だかんだ言って冷静な夕霧がここまで食いついてくるなんて、珍しいこともあるんですね。ちなみに夕霧のことは、呼び捨てでいいとの事です。隊長の妻で側室だと言ったらそうなりまして。おそらく光璃様は愛妾で私は側室だからだと思います。先程の二つの川には相当悩まされている様子ですね。

「あ・・・・すみません。実は、私もその辺りはあまり詳しくなくて・・・・。三河にいた頃に、もっと勉強しておけば良かったですね」

「むぅ・・・・では、綾那は・・・・」

「・・・・綾那、もっと知らないですよ?」

「そうよね・・・・」

「大丈夫ですよ。そういうのはこれから勉強すればいいのですから」

「そう・・・・ですね。三河に戻ったら、次はその勉強も頑張ります」

「その勉強には、夕霧もお付き合いさせて頂きたいでやがりますよ!」

「はい。その時はぜひ!」

「・・・・でも、その前にまた春が来て雨が降ったら、ここも氾濫するですよね?」

「・・・・・・・むぅ」

「ちょっと、綾那」

「それは夕霧たちも勉強不足でやがりますから、如何ともしがたい所ではありやがりますが・・・・」

元気が無くなるのは当然ですね。目の前に解決法が提示されかけた瞬間に取り払われた感じでしょうし。

「沙紀さんや一真様はご存じないのでしょうか?」

「知っているといえば知っていますが・・・・。詩乃さんか雫さんが知っていると思いますよ。雫さんは播州の城の普請をちょくちょくやってたらしいですから、堤防の知識もあるかもしれませんね」

本来ならこういうのに詳しい方がいますが、今は越後にいますから。美濃も木曽川の領域だったですしね。

「本当でやがりますか!」

「知っているかは聞いてみないと分かりませんが」

「詩乃や雫ならきっと知っているですよ」

「そうですね・・・・!」

「ふむ・・・。だとしたら、希望が見えやがったかもしれんでやがりますな。ありがたいでやがります!」

「それで、次はどこに行くですか?」

「・・・・・・・・」

綾那さんがそう聞いた瞬間、ニコニコしていた夕霧の表情がどこか引きつったように見えました。

「もう帰りますか?」

先程の堤防の件が気になるんでしょうか。それだったら気になるから帰りたいと言うと思いますし・・・・どこか遠慮している感じですね。

「いや、さすがにそれはせっかく出たので悪いでやがりますから、いいでやがりますが・・・・。沙紀さんは山はご存じでやがりますよね?」

「ここから見える範囲のはだいたい」

「・・・・お寺とかはもういいでやがりますか?」

「私はここからですけどね・・・・」

この辺りの地理は把握していますし、当時と現代でもあまり違うところはありませんし。神社仏閣にも興味はあります。

「・・・・・うむむ」

「どうしたんですか?」

「だとしたら、もうここ近辺で見られる所は概ね見て回ってしまったでやがりますよ・・・・」

「もう何もないですか?」

「朝から出掛けたのにお恥ずかしい限りでやがります」

「そんな事ないでやがりますよ!」

「綾那さん。口調が移ってますよ」

「そうですよ。町も人も三河のようで落ち着きました」

「三河も何もないですからねー」

「おおお・・・・二人とも、良い子でやがりますな・・・・!」

先程の沈んだ表情から一転して、感無量という感じの笑顔が出ましたので、デジカメで撮りましたけど。夕霧もこうやって笑ってる方がいいと思いますよ。可愛いですしね。

「で、沙紀さんは甲斐の地理にも心得があるようでやがりますが、どこか行きたい所とかないでやがりますか?」

「そうですね~・・・・」

私たちは訓練か旅行で来た感じですし、結構回りましたからね。すると隊長からある場所にという指令が届きましたが、なるほど。あそこですか。

「・・・・下山城というところは遠いですか?」

「下山でやがりますか?」

「隊長の指示というか指令ですね。前に春日が言っていた、武藤と山本と言う人に挨拶をという事らしいですが」

「・・・・・ん?」

「どうしましたか?」

「・・・・ふむ。そういう事でやがりますか。下山だと、今から向かえば着くのは夕刻頃になるでやがりますよ」

まだ朝なのにここから夕方とは遠いのでしょうか。この時代の基準としてはそれでも近いと思いますが。行くとすれば躑躅ヶ崎館に戻れるのは明日になりそうですね。

「沙紀さんは大丈夫でやがりますか?」

「私は平気ですし、空からの攻撃も夕方頃には決着も付いていますと思います。夕霧は忙しいのではないのでしょうか?」

「夕霧は平気でやがります。うーん・・・・そうでやがりますな。下山の状況も気になるでやがりますし、行くでやがりますか。けど、沙紀さんや兄上は本当に大丈夫でやがりますか?確か妾殿が二人」

「ああ。大丈夫と思いますよ。それに小波さんに繋げばいいと思いますし。小波さん、出てきて下さい」

「お側に」

「おお・・・・本当にいるでやがりますな」

「隊長が船に来たあとに指示を出したと言っていました。小波さん」

「委細承知しております。下山に行かれるのですね」

「そういうことです。まあ隊長が行く前に用件は言ってありますから大丈夫だと思いますが、帰りは明日になると伝えて下さい」

それにドウターを排除したり鬼退治に行ったあとはあまり心配はしていない様子ではありましたけど。

「承知致しました。先ほどの二つの川の治水の件はどう致しましょう?」

「そうですね。ならそれも合わせて伝えておいてください。明日の・・・・」

「躑躅ヶ崎館に帰り着くのは、夕方頃になりやがりましょうな」

「・・・・だそうです」

「はっ。・・・・では、あの・・・・」

「はい?」

「(句伝無量で伝えない方が宜しいですか?)」

小波さんが何かを言いたそうだったのは、心の声が響いてきました。それと私や桜花と結衣はよく一真隊の皆さんとは仲がいいですし、派遣されるとしたらいつもこの三人の中なので、小波さんのお守り袋をもらっていたのですよ。

「(はい。急ぎではありませんので。ゆっくりで構いません)」

それにまだ武田にはこの事を言っていませんから。それに我々の通信機とかですけど。今更隠すような相手ではありませんが、詩乃さんたちが怪しまれるのだけは避けたいと隊長も言っていましたし。句伝無量については一真隊が揃ってから言うと思いますし。

「ん?何か言いたい事があるでやがりますか?」

「いえ、その・・・・。道中お気を付けくださいませ」

「小波さんもですよ」

「はっ!」

そう言って、小波さんの姿は私たちの前から消えましたね。

「・・・・小波は良い草でやがりますな」

「隊長の代わりに言いますと、草、ではなく。気が利く隊長の妾の一人ですよ」

「草、と呼ぶとだめでやがります?」

「小波は、自分を草だと言い聞かせて抑えようとする所がありますから・・・・。出来れば、名前で呼んであげていただけると」

「ふむ。分かりやがりました。なら、次に会ったときには名前で呼びやがりましょう」

こくんと頷くと、ゆっくりと歩き始めた夕霧は、小波、小波とリズムに乗せて練習するように、その名を口に出していますが。その様子を見ると本当にどこにでもいる女の子という感じですね。癖のある喋り方も、慣れてしまえば別にどうって事もなさそうですし。

「おーい、沙紀さん。急がないと、下山に着く前に日が暮れてしまうでやがりますよ」

「・・・・そうでしたね。私たちも行きましょうか」

「はいっ」

「分かったのです!」

飛んできた声に、私たちも追いかけるのでありました。 
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