戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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十九章 幕間劇
救出作戦について×戦後の事
「どやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
門の外から聞こえたのは、その一声で分かるドヤ声であった。
「どやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ちょっと、愛菜・・・・・」
「どやー!」
「やかましいわ!ボケが!」
と言ってハリセンで殴り飛ばした。久々にいい音なったけどね。
「だ、大丈夫?愛菜」
門の外から声が聞こえたので確認しに行くと、空と愛菜がいたけど、俺はその声に少々苛立っていたから。空間に突っ込んで門を開けないで、後ろからハリセンで叩いたわけだ。門を開けたらこいつらしかいなかったけど。
「今のは愛菜さんの方が悪いですよ」
「これでも手加減したんだ。有難く思え。でなんでお前ら二人がいんだよ」
いくら春日山の動きが大人しくなっているからって、ここに二人だけで来るのも危ない。せっかく救出したのに意味がなくなるような気がする。
「いたたたたたっ。い、いくらそんなもので叩いても、空様の御身は、この越後きっての義侠人、樋口愛菜兼続が我が身に代えてもお守りしてみせるのですぞ!どーん!」
「いえ・・・・その・・・・・」
「・・・・・ちゃんといます」
「なんだ、そこにいたのか。秋子」
なぜか知らんが秋子は門の影で申し訳なさそうにしていたけど。
「そのような所で、どうなさったのですか?」
「・・・いえ。ちょっと穴があったら入りたい気分で・・・・」
「別にこそこそしなくてもいいんだけど。これの対応策はこれで何とかするし」
と手に持っていたハリセンを見せる。紙製だから金属とかは入れてないからな。拠点での駒王学園のときは散々エロ二人組に金属製のハリセンで殴り飛ばしたけど。あと門の影に隠れる秋子も、意外とかわいいなと思ったが。
「どや!『パシィィィィィィィィイン!』うぅぅぅぅぅ」
「申し訳ありません。愛菜、どや!ではなくちゃんとお礼を言いなさい。また叩かれても知りませんよ!」
「・・・・・べ」
「べ?」
「・・・・別にアンタがそんな事しなくても、この越後きっての義侠人、樋口愛菜兼続がいれば空様の御身は安全だったんだからね!どーん!」
「ちょっ!?どこでその物言いを覚えてきたのこの子は!」
「我らの御大将の作法を真似てみたのですぞ!どや!」
「御大将の言い方なんて真似しちゃいけませんっ!・・・・ああもう、あの人はーっ!」
「あの・・・・秋子・・・・?」
「あっ。いえ、その・・・・ええっと。別に御大将にどうこう言うつもりはなくてですね・・・・」
「馬鹿者!美空の喋り方で語るんじゃない!」
とまたはたり倒したけど。今度は弱めで、ハリセンを叩いた。
「すみませんすみません本当にすみません」
「まったく。今度またその口で言ってみろ、そのときは俺のこれで尻叩きの刑だからな!」
とハリセンを愛菜に向けてそう言った。と言ってもあまり効果はなさそうなんだけどね。
「ほら愛菜。一真様にお礼の言葉を言わないと、また叩かれるよ。あと護法五神を呼ぶと思うの」
「あ、ありがとうですぞ。どーん」
空の言う事だけは聞くんだよな、愛菜は。
「で、今日は何しに来た?」
「補給ならこの間していただいたばっかりですよね?」
「いえ、今日は補給ではなくて、今回の件の改めてのお礼に来ただけですから。本当は私と愛菜だけだったのですが、空様もどうしてもおっしゃいましたので・・・・」
「まあそういうのは別にいいことだ。俺達でも必要なことだったからな」
「そうですよ。補給とか、いつもすっごく良くしてもらってますし・・・・」
「そういうワケにもいきませんから。ほら、愛菜」
「どや!」
どうやら「どや!」が返事らしいが、俺的には苛立つことだが、慣れないといけないな。秋子の言葉に愛菜が出してくれたのは、きれいな風呂敷に包まれた、高級そうな箱であった。イメージ的には高級和菓子と言う感じだったが。
「これは?」
「我らが御大将が考案なさった、越後きっての名産品!笹団子ですぞ!どや!」
「笹団子・・・・」
「後で隊の皆さんの分も届けさせますが、ひとまずはご挨拶ぶんということで・・・・」
「なら、もらっておこう」
笹団子は確かに新潟県の名産になっていたはず。越後は俺達で言うと新潟県だからな。それがもらえるのはラッキーかもしれない。昔から作られていた物だから、再現しようにも難しいと華琳が言っていたけな。とりあえずサンプルとして、保存しておこうかな。それから門のところで少し話をしてから秋子は二人を連れて引き上げていった。
「性格的にもいいな。ああいうのは、きっちりとしてて」
神社にも上がろうとしなかったし、本当は春日山攻めで忙しいなか、こうやって時間を作って挨拶に来てくれたのはいい人の証拠だな。
「秋子さん、補給もきっちりしてくれるんですよね・・・・」
「だなぁ。俺や詩乃は最初警戒してたしな」
今思えば、それも全部秋子がそういう性分なんだと思う。クセの強い越後勢の中で、数少ない良心なんだろうか。
「でも、そのぶん大変そうですよね」
「棟梁が美空だからな」
その下のツートップは柘榴と松葉、攻撃特化型と防御特化型だしな。むろん悪い子ではないけど。
「まあそういうふうにしといて、これはもらっておこう」
「なら、兵のみんなの分の受け取りは人を集めて行ってきますね。一真様は綾那ちゃんや小波ちゃんの所に、それを持っていってあげて下さい」
「それはいいが、いいのか?」
「大丈夫ですよ。一番の手柄があった人達に一真様が持っていった方が喜びますよ!」
「そうか。なら、あとは任せたよ。ひよ」
「はいっ!」
「それと・・・・」
「はい?」
俺は風呂敷の中の桐箱を開けて、その隙にある笹団子を一つ取り出してと。あと保存用にもう一つ取り出して空間に入れた。入れた先は保管庫だ。主に食料やお菓子などのだけど。
「ひよも今回は大活躍をしたんだから。はいよっ」
「・・・・えへへ。ありがとうございますっ!」
ひよと別れたあとに俺は綾那や小波を探していた。いつもは呼ぶと出てくる小波も出てこなかったからな。あとは句伝無量で呼び出すぐらいの用事でもないからな。こんな用事で使うのは俺達で言うなら技術の無駄遣いと言うな。
「どやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ちょっ!愛菜も帰ったはずだぞ。まさかまだいるのか?いや冷静に考えると愛菜は空の護衛みたいな感じだから、もうここにはいないはず。だとしたら誰かが物まねで叫んだのかな。
「おい、愛菜?」
「あ、一真様。どうしたですか?」
縁側にいたのは愛菜ではなく、よく似た名前を持つメンツたちだった。
「愛菜じゃなくて綾那だったか」
「一真なのー!」
「どうかなさいましたか?」
「さっきまで愛菜が来ててな。帰ったはずのドヤ声が聞こえたんで何事かと思ってな」
「すみません。今回の件をみんなで話していまして・・・・」
「まあ気にすんな。・・・・それより小波もいたからちょうどよかった」
「任務ですか?」
「そういうんじゃないよ。先程秋子と空と愛菜が来てな。これは今回の救出作戦の礼なんだと」
風呂敷を開けて中にある桐箱を開ければ・・・・。その中には二つ分のスペースを空けて、笹の包みがみっしりと詰まっていた。
「笹・・・・?」
「越後のお菓子で笹団子なんだと」
「ホントです!笹の葉っぱでお団子が包んであるですよ!」
「美味しそうなの!小波ちゃんも食べるの!」
「自分は、別に・・・・」
「秋子は今回のお礼で持ってきたからな。今回の一番の手柄は、小波だ」
「ですね」
「なの!」
「い、いえ・・・・自分はご主人様がお命じになった事を忠実に果たしただけですから・・・・。一番の手柄というなら、それを指示を下さったご主人様です」
「俺もそうだが、実行して形にしたのは、小波や綾那だ」
「そうですよ。笹団子もおいしいですよ。・・・・むぐむぐ」
「綾那、もう食べてるの!?」
「本来ならハリセンで叩く刑だが、今回は見逃す。皆で食べようと思って持ってきたのだから、小波も一緒に食べよう。な?」
俺が差し出した笹団子をどうしようか、小波はしばらく迷った様子だったけど・・・・。
「あ・・・・ありがとうございます・・・・」
「甘い物は嫌いではなかったけ?」
と聞いたら、口に入る物は何でも食えると言っていたが、それは好き嫌いの問題ではないと思ったが。俺がハリセンの刑だと言ったら綾那が食べるのをやめたが見逃すと言ったので安心して食べていた。
「鞠もお手伝いしたかったけど、今回はずっと詩乃と一緒に美空のところだったの・・・・」
「鞠は詩乃を守ってくれただけでも大手柄だ」
「ホントなの?」
「本当だからな、はいこれ」
バクバク食べる綾那をハリセンで叩いてから、残った笹団子の一つを鞠に差し出す。
「えへへ、ありがとうなのー」
「綾那。食いすぎだ、皆の分がなくなるだろうが」
「ごめんなさいなのです!」
「たく。これは歌夜の分な」
さらにもう一つ。
「私もですか?」
「無論だ。あそこでころと退却準備をしていなかったら、今頃ちょっとした戦になっていたかもな。逃げ切れたのは歌夜のおかげだ」
「そうですね。あれは助かりました」
「・・・・ありがとうございます」
「でも一番頑張ったのは一真なの!一真もはいなの」
「ありがと、鞠」
そうして差し出された笹団子は、俺の手の中にその重みを感じる。こうやって人にもらう感じは久々だなーと思いながらだったが。
「あーっ。鞠様うらやましいです。綾那も一真様に笹団子あげたかったです・・・・」
「じゃあ、次は綾那があげるの」
「やったです。だったら、歌夜と小波もあげるですね?」
綾那はさっき食べていたが、ハリセンでやめさせたので皆の分を考えて言ったのであろうな。
「で、さっきは誰の話をしていたんだ?」
「私と鞠様は、そんなに話が出来るほどする事がなかったので・・・・」
「美空たちはずーっと一真の作戦が上手くいくか心配してて、詩乃は一真だから大丈夫だって言ってたの」
「さすが詩乃さんですね」
「鞠たちは陣地にはいたけど城攻めには参加しなかったから、他は何もなかったの・・・・」
「私も似たようなものです。崖の下でころさんとひよさんと待機していて、あと黒鮫隊の者たちと逃走経路の用意や荷物の片付けはしていましたから・・・・そのくらいで」
「で、小波の話を聞いてたですよ!」
ああ。今回の作戦のMVP賞の話か。
「それは聞きたい話だな。確か城内の調査をしてたよな」
「は、はぁ・・・・。城内の調査をした後、ご主人様のご指示で直江様のお屋敷に向かいまして・・・・」
「そういえば、あの時はお屋敷の中の兵士は全員気絶してたですね」
「全員・・・・ですか?」
「ああ。屋敷の中にいた見張りとかは、10人くらいだった気がする」
「すごいの・・・・」
さらりといって鞠がそういったが、俺達でもできることだな。並大抵の仕事じゃないし、それだけでも大手柄だけど、小波曰く任務のごく一部と言っていたし。俺達なら遠距離からの狙撃か、中に入っての闇討ちとかかな。大声出しても防音結界張っておけばいいことだし。
「外の人には気付かれなかったんですか?」
「恐らく気付かれたと思うのですが、直江屋敷は少し特殊でして・・・・」
「とくしゅ・・・・」
「中の人質がどやどやうるさかったから、外は何か物音がしても小波が忍び込んでいるって気付かなかったですよ。どやー!」
「それがさっきのどやーなの?」
「そうなのです!どーん!」
「今度はどーんってなったの!どーん!」
「「どーん」」
二人ともただそれを言いたいだけのようだ。愛菜の口癖は仲間内に広まったら強制的にやめさせる。
「それはともかく、小波が中の制圧をしたおかげで仕事が楽になったからいいじゃないか」
「です。小波大活躍ですよ!」
「ですが・・・・最後は、ご主人様と綾那様がいなければ、どうにもなりませんでしたから・・・・」
「何で?」
「ああ・・・・。なんていうか、そのどやーって言った子とは相性が悪かったみたいで」
「正直、交渉が上手く行かないだろうという予感はしていたので、その分念入りに屋敷の制圧を行っていたというのはあるのですが・・・・」
まあそう言う事にしとくか。俺もそういう予感はしてたし。
「愛菜がああいう子だとは知らなかったもんな。そういえばその格好だと怪しまれるよな。変装とかしたのか?」
「はい。一応したのですが、通用しませんでした」
綾那や歌夜はお猿なのか、武士か町娘なのかと質問攻めしてたな。すると鞠があのときの春日山での任務のときも変装していたと言った。鞠も俺も綾那も見た事ないなと言ったあと綾那は気になるとか言っていたが、いずれ見せてもらうときがくるかもしれないから。俺はそれ以上は言わなかったけどな。で、その騒ぎから夜になった。俺は船での仕事が終わったので、風呂に入ってから食事をして翼を出して地上にある神社に降り立った。すると神社の外れ、森に面した一角に腰を降ろしている小さな背中を見つけたので行ってみると。
「・・・・どうかしたのか、歌夜」
「あ、一真様・・・・。その翼は?」
「ん?ああこれか。さっき船から戻ってきたのでな、空飛んできたわけだがしまうのを忘れていた。隣座ってもいいかな?」
「どうぞ・・・・」
翼をしまってから、彼女の傍らに腰掛ける。
「何か悩み事でもあるのかな」
「そういうわけでもないのですが・・・・そう見えましたか?」
「まあな。年長者なのか、そういうのも分かってしまうのだよ」
そう答えたあとは、歌夜は何も答えない。静かに、一面の星空を見上げているだけのようだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・空様たち」
「うむ・・・・」
ぽつりとつぶやいたのを最小限にして相槌をした。
「無事にお助けできて、よかったですね」
「そうだな。それと歌夜もありがとうな」
「・・・・・・・・!!」
「・・・・先ほども不思議そうにしていたが、俺は何かおかしなことでも言ったかな?」
「・・・・気付いていらっしゃったのですね」
「ああ」
「私のような仕事を褒められるなんて、今まで思ってもいなかったので」
「歌夜たちのおかげで助かったもんだ。三河では褒められないのか?」
「草仕事の、さらに裏方ですから」
「その裏方だってちゃんとした仕事であり任務でもある。裏方が頑張ったからあの作戦は成功したようなもんだ」
「そう・・・・ですか?」
「まあそうだな。本当なら黒鮫隊だけでも出来た作戦だがあえて一真隊の力でやってみせた。あの作戦は誰の力でなくとも、上手くはいかなかっただろうな」
最前線で戦った俺や小波に綾那、バックアップとして歌夜たちや黒鮫隊の者、後でフォローをして一葉、一真隊本隊を動かした雫。美空との連携を取ってくれた詩乃や詩乃を守ってくれた鞠も。
「皆の力のおかげで作戦は成功したんだ」
「でもそれは当たり前のことで」
「当たり前のことが当たり前にできるというのは、凄いことだと思うが」
「・・・・・・」
歌夜はそれでも納得はしていなかった。どこか不思議そうな顔をして、俺の顔を見ていた。
「では昔話をしよう。一真隊のことだ」
「はい」
「最初はひよところしかいなかったんだ」
「詩乃さんは?」
「詩乃が来る前の話になるが、田楽狭間が終わり、美濃の斎藤と戦い、墨俣に一夜城を創った頃の話だ」
「三河が独立でざわついていた話ですね」
「そういえば。あの頃はそういう時期だったのか」
田楽狭間で鞠の母親が討たれたときの混乱を使い、葵は三河を独立させたんだったな。
「その頃に、皆で決めていた。・・・・一真隊は頸を取る以外の方法で手柄を立てようとな。頸を取るのは主に黒鮫隊だったが」
「頸以外で、手柄・・・・」
「俺は取れるが、ひよところは敵将の頸が取れないからな。当時は今より少ないし、鉄砲もなかった。黒鮫隊無しだったら正直ここまで良く来れたなと思うよ」
「そうだったんですか。だから、こんな不思議な部隊になったのですね・・・・」
「うむ。そのときは不便とは思わなかっただろうね。だが、やり方を間違えたなんてのは思ってもいない」
「・・・・金ヶ崎は?」
「やはり気になるか?大勢の鬼に逃げながらだったし、減りもしたが」
「はい。・・・・私たちと合流したときの一真隊は皆元気で、士気も下がるどころか上がっていたので」
「あれは俺達裏の部隊との連携があったから、士気も下がらずに済んだ。それに兵たちを休ませている間に黒鮫隊が主に戦い、一真隊は逃げると言う作戦だったし。俺たちは疲労回復の飲み物もあるし、弾も無限大。それと小波の念話みたいに俺達にもそういうのあるからな。あとは俺達の銃、ここでは鉄砲か。それがあったから助かったもんだし」
「そうですね・・・・。力に頼んで正面からぶつかるしかなかった松平衆は、おかげで大きな痛手を受けました」
「やり方を間違えているというわけではないけどな。直接の攻撃というより、俺達の銃の活躍もあった。正面突破ではなく、頭を使った戦い方でな。それに俺が神ではなかったら誰かが犠牲になっていたのかもしれなかった」
「・・・・はい」
この話はやめるか。振り返るのもいいが、過去ばかり考えるのではなく現在とその先を考えるべきだ。
「でだ、一真隊は表で裏は黒鮫隊でやることにした。だから、一真隊は頸以外の活躍をと思っているのだ。三河の者たちにとっては変わり者あるいは変わった考え方かもしれんが」
「そうですね・・・・。三河は、頸を取ってこそ、主君のために命を捨ててこそ・・・・という考えが強いですから」
そういえば綾那の母親や祖母も、そうやって主君を守ってド派手な討ち死をしたと聞いた。
「武士道と云うのは死ぬことを見つけたり、だったかな」
「・・・・どなたの言葉ですか?」
ああ、この時代の言葉ではなかったかな。
「前に読んだ本にな」
「そうですか。・・・・一真様にお伺いしたいことがありますがよろしいですか?」
「俺に答えられる範囲なら何でもいいよ」
「・・・・・一真様は、小波の事をどうお考えですか?」
「小波かー。大切な仲間だと考えている。搦め手部隊の一真隊にとっては、なくてはならない存在だ。それに俺の恋人の一人でもあるんだから」
「そうですか・・・・。よかったです」
小さく息を吐く歌夜の瞳はどこか寂しそうな感じであった。
「三河では居心地が悪いのか?」
「そ、そういうわけではないのですが・・・・。葵様はこの先の世を、武力ではなく、学問で治めようとお考えのようですから・・・・」
「小波も似たような事を言っていたな」
「そうですか・・・・」
「・・・・もしさー」
「はい?」
「行くところがないのであれば、ウチに来るがいい。いつでも歓迎するぞ」
俺は真っ直ぐに言った。まあこれはあくまで破滅に行かなかったらの場合だが、俺は俺でこのままこの世界にはいられないしな。外史の終幕があってそういうふうにならなかったの話だ。だけど今までの外史ではそうだったからな。
「ですが・・・・。戦いのない世の中に、武一辺倒の猪武者は必要ないと思います」
「別に戦場だけが戦ではないぞ」
「戦場だけが、戦ではない・・・・」
「俺の妻たちの一部は、元々戦場で過ごしてきたんだよ」
これは俺の妻で拠点のと真・恋姫†無双の外史から連れてきた桃香たち。
「・・・・天の国でも、戦が?」
「俺が今過ごしていた拠点は戦がないところだ。俺の妻の一部の者たちはほかのところから連れてきたわけだ。拠点のところは、過去に戦はあったかもしれないが、今現在は乱世でもないし鬼もいない。この時代からすれば平和なところだ」
「そのようなところで、一真様のお嫁さん方は・・・・?」
「毎日のように鍛錬したり、現代の生活になれてきたりしてるよ」
「・・・・・・」
「戦がなくとも・・・・歌夜や小波、綾那の居場所は必ずある。そういうのを実際にやってきたからな、保証するさ」
「・・・・・・」
「・・・なければ、俺が作るさ」
「一真様・・・・。そういって下さるのは・・・・私が、女の子だからですか?」
「うーん。そうともいう、が、そうとも言わない。俺は性別とかは関係なく言うと思う。何せ黒鮫隊には男女の部下が大勢いるからな。でも歌夜は可愛いからな」
「か、可愛いですか。・・・・それも一真隊の皆さんに仰ったのですよね?」
「言ったと思うが、この世界に来てからは一番最初は久遠だぞ」
「そうなのですか。では一番最初はどなたなのですか?」
そう聞かれたので即答して言った。俺の本妻である奏であると。それと困っている女の子は放っておけないからなと言ってあげた。
「そんなに・・・・私、困ってみえましたか?」
「楽しそうにして笑っている女の子は、そう言わないよ」
後ろ姿からしてあまりにもか弱く見えたのかもしれない。歌夜も小波も綾那も縁を重ねている。居場所がなくなれば、俺が力になるだけだ。こんなに困っている子がいたら放ってはおけないし、神でもな。
「・・・・歌夜」
俺の肩に掛かるのは、僅かな重み。前に抱き着いてきたときみたいな、元気と勢いのある重みではない。
「そんな事、言われると・・・・」
もっと弱々しく儚い。
「・・・・・頼りたくなって、しまいます」
「思う存分頼るがいい」
「一真様・・・・」
「頼られるのが、嬉しい」
そのまま、歌夜はゆっくりとその身を寄せてきて・・・・。
「・・・・一真様」
ゆっくりと唇を離なす歌夜が紡いだのは、ほんのりと熱を帯びた言霊だ。
「何かな?」
「その・・・・」
言いにくそうに口をつぐむ歌夜の頭を、安心させるように撫でる。それで落ち着いたのか、歌夜は小さく息を吐いて・・・・。
「・・・・申し訳、ありません」
「うむ」
歌夜の唇から出たのは、謝罪の言葉。
「私は、葵様の・・・・。松平家の、家臣ですから」
「それでいい。俺は別に葵から取ろうとかは考えていない」
本当なら本来の主に仕えた方がいいのかもしれないが。
「歌夜が困っていて、もしどうしたらいいのかわからないときがあれば、いつでも俺を頼ってくれると嬉しい」
「・・・・ありがとうございます」
と礼の言葉を聞いたら、第三者の声が聞こえた。
「きゃ、綾那・・・・っ!?」
俺達の後ろから飛んできたのは、いつもの元気な声であった。
「歌夜、ずるいですーっ。一真様と一緒にいて、何お話してたですかーっ!」
「べ・・・・別に、大した事じゃないってば」
「綾那も一真様とお話したいのですよ!」
そう言って綾那は歌夜の座っている反対側に座った。
「ふふふ。で、何を話すの?」
「そうですね・・・・。・・・・歌夜、何かないですか?」
「ええっ。そんな、いきなり言われても・・・・・困るよ」
「じゃあ何でも良いです」
「なら何を話そうかな・・・・」
シリアスぽくなったが、それを中和する綾那がいるし。その声を聞いた俺と歌夜は顔を合わせて。
「もう、しょうがないなぁ・・・・」
歌夜は今度こそ、心から笑っていた。
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