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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十九章
  人質解放×脱出

俺は目的地であるところにいた。蒼太たちは順調に登ってきている。

「あと少しだな」

「蒼太さん、お水です」

「お、ありがとさん」

今は隊長が取り付けてくれた足場で休憩中だ。下にいるバックアップは脱出の準備をしている。翼と大和は、途中で降りてからひよさんたちと脱出の準備だろうな。あと近付いてくる者がいたら、素早く射殺。サイレンサーを装備しているから音も出ない。戦場は春日山の東側だろうけどな。相変わらず派手な音が聞こえてくるが、スマホによる情報だと、城方が釣れたそうだ。やはり謀反者はバカらしいな。

「蒼太さん・・・・」

そんなことを考えていると、先行していた小波さんが心配そうな顔をして戻ってきた。

「どうかした?もしかして敵方は籠城じゃなくて門を出たのか?」

「なぜそれを?」

「意味が分からないのです」

この展開だと普通は籠城というのが定番だと思うのだが。晴景側は籠っていたほうが正解なのに、わざわざ出てくるのはおかしな感じなのか綾那が首を傾けている。

「俺達の船からの情報だ。それによると、出てきたらしいとこれに書いてあるが本当なのか?」

「なるほど。真上にいる船からの情報なら、分かりますよね。ご主人様もですが、自分も二度聞き直しましたが事実のようです。なので、もう少し柘榴殿たちを戦わせるので、ゆっくりしても構わないと」

「つまり余裕があるということか『そういうことだ、蒼太』隊長」

『余裕はあるが夜になったら危険度は増す。なので、早めに上がって来い』

「了解。ということで小波さんは隊長がいる所に着いたら、隊長の指示に従ってください。こちらも早めに登りますんで」

「分かりました!」

こちらの言う事もだけど、やはり命令するのは隊長だろうなと思いながら登って行った。ちなみに小波は隊長のところに着いてから命令したようだ。城内の様子の偵察に。

「さてと、俺達も行くぞ」

「はいです!」

暗くなるまでに隊長がいるところまでに登らないとな。一方小波はというと。

「おい、こっちから出られそうな奴らいるかー」

「こんな所の兵まで回さなきゃいけないのかよ。大丈夫なのかよ。ホントに・・・・」

「(護衛の人数は昨日調べたときと変わっていない。・・・ということは、自分の潜入はまだ露見していないということか。よし、これならいけそうだ。あとは・・・・自分たちが目標の二人に信用されることが必要だけど・・・・。ご主人様、侵入経路の確保、完了致しました。護衛の数は前回と変化ありませんが、この騒ぎでもう少し減るかもしれません)」

「(こちらも見ているから問題ない。あと少しで二人は登り終えてくるからな。先に戻ってきてくれ)」

「(はっ。承知しました)」

と言ったので、小波を先に戻すことにした。屋敷内の制圧は後でやるから問題ないし、こちらにはアサルトライフルにサイレンサーを装備させているからな。俺のハンドガンにも装着している。そして、夜になったので松明がついているが俺と蒼太は暗視ゴーグルを付けている。小波は屋敷内部にいる者たちの排除を行っているけど。

「一真様、いつでもいけますがそれは何です?」

「これか。これは暗闇の中でもまるで昼間のように見える道具だ。お前らはそれなしでも行けそうだが、俺達には必要な事だ。外にいた奴らは既に銃で狙撃したから、外の連中は片付いた。中は小波が今片付けているところだし、この屋敷内には防音結界を張っておいたから例え大声をあげても問題はない」

「さすが一真様です」

あとは懸垂下降するときのロープを降ろしている。あといつでも脱出できるように、ハーネスを付けているし手袋を装着している。綾那もだけど。懸垂下降するときだけはこの道具が必要だからだとしっかりと教え込んだのでな。それなしと道具有りだと危険度は無しの方だろうな。で、崖のすぐそばにあった曲輪の壁を乗り越える。

「これが、春日山城ですか・・・・」

「ああ。あとは小波が屋敷内の連中を始末してくれたら俺達も行くが、蒼太、一応ハンドガンは持ってあるよな?サイレンサー付きで」

「はい。アサルトライフルでは降下するときに邪魔なので、一応持ってきております」

一応武装の確認をしていたら、春日山の城内に侵入成功。地面にはハンドガンで麻酔針弾で眠らせてるから問題はない。あとは屋敷内だけど。眠らせる前に春日山足軽たちはこう言ってたな。

「なぁ、美空様が攻めてきたらしいぞ?」

「え。・・・はぁ~、うちの大将、晴景様に付いちゃったけど、大丈夫なのかよぉ・・・・」

「・・・正直、あの越後の龍と呼ばれるほどの方に勝てるとは思えないなよなぁ」

「命あっての物種だ。やばくなったらとんずらするか」

「だな・・・・うっ」

「お、おい。どうし・・・・」

「何だ?どこからのそ・・・・」

と言いながら倒して行ったけどね。麻酔針弾は、いくら鎧で防御しようが貫通力のある弾だしな。

「(ご主人様)」

「(どうした?屋敷内部の制圧は終わったか?)」

「(はっ。完了はしておりますが、少々困ったことになりまして。お助け下さい)」

「(よく分からんが今すぐに行くから待ってろ)」

「どうしたです?」

「内部の制圧は完了したらしいが、何か困り事が発生したようだ。屋敷内部に行くぞ!蒼太に綾那」

で、俺たちは屋敷内部に入ると、あちこちに見張りの兵が眠らせていたが。暗視ゴーグルをおでこの方にずらしてから、肉眼で見ると。

「どやーっ!」

何か知らんが遠くから聞こえてきた声だったが、人質が暴れているのか?

「・・・・何だあの声」

「綾那、何か嫌な予感しかしないです」

「隊長。俺もです」

「小波一人でこれだけやれるなら、綾那たちいらなかった気がするです・・・・」

確かにそうだけど、小波からのヘルプが来たからな。これは行ってみるしかなさそうだ。俺はスマホでこの屋敷の地図を見ながら進んでいく。

「貴様はどこの草だ。軒猿は我ら越後に属する草の名前!けれど、あいつらは忍び狩りや情報収集は出来ても、敵方の城への潜入工作などさっぱりなはず!どや!」

「・・・・どや?」

「ねえ、愛菜」

「あの、その・・・・」

聞こえてきた子の声には、あの時の偵察機で記憶したときの人質の声だ。

「綾那、蒼太、行くぞ!」

「はいです!」

「小波。無事か!」

小波の困った声のした部屋とスマホでの発信源がここだと判断し、俺と蒼太と綾那で勢いよく飛び込んだ。

「「あ・・・・・・」」

「ご主人様・・・・・!」

そこにいたのは小波と人質にされた二人がいた。

「あー。なんていえばいいのやら」

明らかに困った様子の小波の前にいるのは、ドヤ顔で立ちはだかった女の子と、その影に隠れるようにしているおかっぱの女の子二人組である空と愛菜だった。

「この二人が空と愛菜です?」

「呼び捨てとはなんですかー!ええい控えおろー!こちらに在らせられるのは未来の越後国主様、長尾空景勝様ですぞ!どや!」

さっきの傍迷惑な声の持ち主はこいつか。それに控えおろうとか言われてもこっちは神だぞ、控えるの逆じゃねのか。

「君が空で、君が愛菜か?」

「我が名は樋口愛菜兼続なり!直江与兵衛尉景綱の養子にして、空様の無二の家臣!どや!」

なかなかむかつく言動だな。原作は知っていたがいざ現物を見ると、腹が立つな。ハリセンでぶっ叩いていいか?こいつ。

「全ての人に愛を授け!空様に恋の心を捧げる、越後きっての義侠人!樋口愛菜とは愛菜の事ですぞー!どーんっ!」

「秋子の言った通りだな」

「変なのです」

「変ですよね」

「隊長、いつの間に出したハリセンをしまった方がよさそうかと」

あ、俺いつの間にかハリセン出してたらしいからしまっておくか。

「変とは何事ですか!愛菜の愛は心あるもの!変に心を足さなければ、愛菜の愛とは言えませんぞ!どやー!」

こいつはただのバカなのかアホなのか分からん。変に心を足しても変なのでは。

「あの、一真様・・・・」

「ああ。分かっている、小波は頑張った方だ」

「はぁ・・・・」

秋子から変人とは聞いていたのでどんなのかと思ったら語尾が変なのだけとは。あと人を指差すなよな。たぶん、こいつが騒いでいても屋敷内部にいた奴らにとっては、これが通常運転だから日常茶飯事だったのであろうな。確認だが人質なのにな。

「えーと、君が空だよな?」

秋子も無視すればいいと言われているのでとりあえずこいつは無視。

「あ、あぅ・・・・」

なるほど。情報通りの人見知りだな。

「待て待てまてーーーーーーーーい!この愛菜の許可なしに空様に声を掛けようなどと千年早いですぞ!そもそも名乗りもせずにこちらの名だけを確かめようとするなど無礼千万!どーん!」

「はぁー。しょうがないから名乗るけど・・・・・」

と言おうとしたら割り込んできたのでむかついたからハリセンを準備させた。

「しかしこのような所に忍び込み、しかも愛菜たちの素性まで知っているなどと、他国の間者に間違いなし!何せ越後の軒猿は、忍び狩りは得意でも、このような潜入仕事はからっきし!これが越後きっての義侠人、樋口愛菜の名推理!『パシイィィィィィィィィィイン!』うぅ・・・何をするんですか、どや!」

「話を聞け。馬鹿者。だいたいお前に命令される余裕はない。というわけでしばらく眠っておけっつうの!」

「ぐへ・・・・無念なり」

「たく。いちいちうるさいんだよ。こいつは」

とりあえずこいつを気絶させておいた。首筋に手刀を入れたけど。

「おー。さすが一真様です!」

「ご主人様。今の内に空様に事情を話して撤退した方がよさそうかと」

「そうだな」

うまく気絶させたから、あとはそこにいる空だな。

「ねえねえ一真様・・・・」

「ん。何だ?」

「空って子も、気を失っているですよ?」

俺は空を見たら本当に気を失っていた。たぶん、愛菜をあっさりと沈められたのがショックだったのかな。その場に立ったまま、ぴくりとも動かずにいた。

「・・・・・・」

目の前で手をひらひらさせるが意識ないな。

「手間が省けたのです」

「まあそうだな。いろいろとな」

説明しようとしたがまあいいか。

「・・・・一真様。ご指示を」

「よし。とりあえず愛菜は綾那が、空は俺が背負うから脱出するか。小波は先導を頼む」

「分かったのです」

「承知」

俺と綾那は空と愛菜を背中にしょいだした。所謂おんぶひもである。本当は赤ちゃん用のを空と愛菜用に改良させた。これで暴れても大丈夫なようにする。

「それにしても、小波も大変だったのです」

「お分かりいただけますか・・・・・」

「まあ、俺もハリセンでぶっ叩くぐらいだからな」

「隊長のそれは畏怖しますよ」

「あとはどやー!ですよ。どやー」

「綾那、静かにしろ」

続きを言おうとしたら、足軽に気付かされてしまった。とりあえず背後から来たのを撃ったが。

「綾那のバカ野郎ー。もう防音結界は解除してんだぞー!」

「ごめんなのですー!」

最初に声をかけてきた奴を急所を外して撃ったが、倒したはずのそいつが呼び子を吹きやがった。

「ご主人様、とって返して処理しましょうか?」

「崖まで逃げ切ればいいことだし、時間稼ぎをするのは小波ではない。IS隊!俺達が崖から降りるまで時間稼ぎをしろ!」

『了解!』

といって俺たちは走るが呼び子の音で集まってきた者たちを撃つのはIS隊だ。で、全力で走る。

「すっごく追っかけてくるですよー!でもこれなら余裕ですね!」

「ああ。IS隊撃つのはまだだ。まとまって出てきた方がいい。そのまま俺らの後ろで移動していろ」

『了解です。発砲許可が出ましたらすぐに撃ちます』

「待てー!」

「出会え出会え、くせ者だーっ!」

後ろから殺気立った声がするが、そんなの殺気とは呼べねえぞ。そんなしょうもないから殺気に謝れってえんだ。

「とりあえず崖に到着したら一気に懸垂下降をしろ。手袋をはめてな」

「はいです。ちゃんと持ってきているですよ!」

「ころたちに連絡は?」

「もう済んでおります!準備万端とのこと!」

と言いながら走る俺達。

「ええい、逃がすな!追え、追えぃー!」

俺達が崖から一気に降りる前にIS隊による発砲を許可したあとに降りた。そしてそのあと俺がグレネードランチャーで燃える物に向かって撃った。そのあとIS隊は崖の下に行けと命令したあとに降りた。残したロープについては問題はない。ボルトは消滅させといたし、木に引っ掛けてあるからな。こんな暗い中でこれを使って降下したなんて命知らずはいないだろうし。

「お頭ー!綾那ちゃん、小波ちゃん!」

「皆さん、無事で何よりです!そのお二人が?」

「ああそうだ。黒鮫隊の諸君は手筈通りにトレミーに帰還しろ。ひよは?」

と言いながらIS隊に抱っこされる蒼太たちは撤退していったのを見た。降りてきた俺達を見て、逃走用の馬の支度をしてたころと歌夜が駆け寄って来るが、ひよの姿はなかった。ひよは余った荷物を持って、先に本隊に戻ったと。あとは俺達だけらしいので空間から俺用の馬を出してから乗った。

「さすがひよだ。もうこんなところは長居無用だ。とっとと撤退するぞ!」

彼方を見れば、一番近い曲輪門が開いて、提灯を手にした追っ手がぞろぞろと山道を下ってきているのが見えた。

「綾那。愛菜の様子は?」

「まだ気を失っているです!」

「よし!面倒だからもし起きたら俺に言ってくれ。麻酔針弾で眠らせるから」

「分かったです!」

「ころと小波で先行をしろ。俺と綾那と歌夜と一緒に行く!」

「承知!」

「分かりました」

そしてころも馬に乗ったら勢いよく鞭を一つ入れた。

「逃げ道も確保済みか?」

「一真様たちが上にあがった後、ころさんと大地さんと海斗さんで退屈してたので」

そう言って微笑む歌夜の言う通り。ころたちに先導されて飛び込んだ森の中は、大きな枝が切り払われていた。これなら楽だな。

「・・・・良い仕事をしたぞ。諸君!」

と俺達が撤退している間に小波は長尾勢の陣にいた詩乃に連絡をした。

「美空様。小波さんからの連絡が入りました」

「なんて?」

「ひとまず第一段階は成功です。現在、一真様は空様、愛菜さんをお連れして春日山を脱出し、一真隊との合流地点に向けて崖下から逃亡中との事」

「良かったの、一真・・・・」

「す、すごいっすー!あの一真さん、ほんとにやっちゃったっす!」

「信じられない」

「・・・まだよ。まだ安心出来ない」

「そうですね。一真隊も動いてますが、合流には今しばらく時間がかかるでしょう・・・・」

「なら、柘榴たちが拾いに行くっすよ!」

「それはダメよ」

「なんでっすか!空様と愛菜もいるっすよ?」

「今の所、一真様達はただの賊の群れです。ゆくゆくは合流という流れになるにしても、こちらが戦闘中に動くのは、少々、不自然すぎます」

「ええ・・・・。無事に合流出来れば良いのですが」

「それに、こっちも良い所だしね」

「あー。まあ確かに。でも、ぼちぼち向こうも撤収始めているっすよ。どうするっすか?」

「いくら相手がバカでも、一度釣った城方をもう一度釣るのは難しいわ。かといって、城を包囲する兵力も無ければ持久戦をして良い状況でもない・・・・」

「南の武田が動いている情報も入ってきておりますし」

「この面倒な時に・・・・分かってやってるのを分かるようにしてるのが、陰険ここに極まれりって感じよね」

「この辺りで御大将とガチでやり合える、唯一の大将っすからねー。でも一真さんなら簡単って言っちゃう気がするっすー」

「さっさと春日山城を取り返す」

「詩乃さん、何か良い案はありませんか?」

「そうですね・・・・」

「・・・・ねぇ、秋子」

「・・・・その声音は、何か思いついたのですね。・・・・突拍子もないことを」

「そんなことないわよぉ。ただ、一石二鳥・・・・ううん、三鳥か四鳥か、そういう案」

「嫌な予感しかしませんが、何でしょう?」

「ちょーっと派手に行こうかなーってね」

「派手ってどういうことっす?」

「三昧耶曼荼羅?」

「そっ。本丸ぶっ壊してやろうかなって」

「あのー。その前に使えませんよ、美空様のお家流は。今は一真様が使役しておられますから」

と言ったら美空は護法五神がここにいることを忘れていたらしいけど。

「その前に一真様直属部隊である黒鮫隊が何とかしてくれますから」

「前から気にはなっていたけど、その黒鮫隊というのはどんな武器を使うの?」

「まあ私から言えるのは鉄砲の専門家ですね。あとは爆弾の専門家でも言いましょうか。私が思い浮かばない策をあの方は持っているのです」

「鉄砲の専門家でも連発はできないはずですが?」

「黒鮫隊の武器は我々が使っている鉄砲ではないのです。連発もでき、色々な種類がありますし、一々火薬を積めないらしいので」

とまあ、そんな感じだったらしいけど、黒鮫隊の力はまだ隠しておくべきだな。一方俺たちはころ達の的確な誘導もあって、あっという間に広い道に辿り着く事ができた。そこから馬の速度を上げて西へ向かってるけど。

「とはいえ、地の利は向こうにありますね・・・・」

道の後ろに見えるのは、相変わらずの提灯の群れだ。そしてその中には、群れから抜けてきた騎馬の灯りが見えるけど。対するこちらは空と愛菜をしょいながら馬を走らせているから、なかなかペースが上がらない。本来なら俺の馬は金属生命体であるゼロだから一気に加速できるが、こいつらと一緒だから加速はできないし。

「さてと、このままはやべーぞ」

当たり前だが、道が良くなった分はスピードが上がるのは俺達ではなく、後ろで必死に追っているだろう春日山足軽たちだ。たぶん軽装だし、あっちの方が有利だろうな。

「城方も必死ですね・・・。やはり今回の謀反は、空様と愛菜さんの二人を人質にしてこそ、勝利の目があったということでしょうか」

「人質が居るから絶対に勝てる、と思って、謀反に与したものもいるでしょうから・・・・」

「卑怯千万なのです!」

「そんな考えだから美空からはバカと呼ばれるんだよな。無能な姉だとは聞いてるし。それに一真隊みたいな存在は越後にいないだろう」

さっき愛菜も俺達が忍び込んできた事を散々小馬鹿のように言ってきたのはムカついたけど、他国の草ならまだしも軒猿しか持たないはずの美空がこんな事が出来るとは思わないだろうよ。

「三河でも草をこういった策では使いませんけど」

「三河ならそうかもなぁ・・・・・」

三河武士は正面突破なイメージだし。そのイメージは猪突猛進だけどな。

「ここで逃げ切れないと、俺達の作戦は水の泡となる」

「のんびり言ってる場合ではないのです。早く公方様に合流しないと、逃げ切れないのです」

「合流地点は春日山西方の峠だったな」

まだかなり距離があるな。黒鮫隊の隊員たちが、迎撃に向かいましょうかと言ってきているが、待機命令だ。俺の馬じゃなくころたちの馬の体力は限界があるからな。全力疾走は難しいなと思ったら。

「ん、んんん~~~~~~~・・・・」

俺の背負っている空が小さな声をあげた。

「あ、あれ、ここ・・・・どこ・・・・・?」

「起きたか?」

「・・・・・っ!?」

背中越しに声をかけたら、いきなり暴れ出した。

「お、おい!馬の上だから暴れるな。下を見ろ。下!」

「・・・・・ひっ!?」

さすがにその声と揺れに、今いる場所がどこか理解したのであろうな。背中からそんな息を飲むとも悲鳴ともつかない声がした。空はそれきり大人しくなる。

「大丈夫だ、俺は君の敵ではない。美空に頼まれて君を助けにきたんだ」

「・・・美空、おねえさまに?」

その名を繰り返した空の声は、警戒を緩めたように思えた。

「そうだ。君たちが城方に捕まってと、美空に勝ち目がないだろ?」

「・・・・・・」

「だから君を攫いに来たのさ。・・・・・大人しく俺に攫われてくれるかな?」

「あ、あの・・・・」

「何?」

「あなたはどなた・・・・?」

ああ、そうだったな。名乗ろうとしたらあのバカに邪魔をさせられたんだった。そして愛菜を気絶させたらいつの間にか失神したんだったな。

「・・・・俺は織斑一真という、よろしくな」

「織斑・・・・一真?・・・・あ。もしかして田楽狭間の天人と言われている・・・・?」

「越後でもそれかぁ。それしかないの?」

「三河では如来様の化身と言われているです!」

「あ・・・・愛菜!」

馬を寄せてきた綾那の背中にしょっている愛菜を見たのであろうな。

「えーとだな、美空からは君と愛菜を何としてでも助けてほしいと言われたのでね。こいつは一々うるさかったから気絶させた。で、そしたら君も気を失ってたからそのまま連れてきたと言う訳だ」

「田楽狭間の天人殿が・・・・」

せめて様をつけてほしいなー。まあいいや。本来の姿を見せればいいし。通り名的には綾那方が合っているかもしれないけど。

「で、その天人様が美空に頼まれて君たち二人を攫いに来たわけ。信じてくれるかな?」

「・・・・・・」

その問いに対して、背中からの返事はない。しばらくは馬の足音と後ろからの呼び子の音が聞こえるが。

「・・・・信じます」

ただ一言。空はそう返してくれた。

「ありがとな。だけど、あいつは信じてくれるか?」

「愛菜は大丈夫です。ちょっと、その・・・・変わった子だけど、良い子なんです。空の心はちゃんと分かってくれると思います」

「分かった。愛菜の説得は、君に任せてもいいか?」

「はい」

「よろしくな。ところでどこか痛い所とかはないか?酷い事とかされてないか?」

「はい。愛菜もいてくれましたし、軟禁されてはいましたが、賓客を遇するような扱いでしたから」

「それはよかった。あともう一つ謝らないといけないことがあったな。悪かった」

「何ですか?」

「落下防止のために身体をくくりつけている」

「あ・・・・・・・っ」

「少々きついかもしれないが、我慢してほしい。出来るだけ捕まっていろ」

「は・・・はい・・・・・っ」

やはりこれはこれで恐怖だろうな。なので、細い腕がしがみついてくる。

「一真様!」

「何だ?」

「後方がかなり距離を詰めてきています。このままでは、逃げ切れるか怪しいかと」

歌夜の言葉に後ろを振り向くと、提灯に混じって松明の数が増えているので、俺は左手で後ろに向かい手榴弾を投げた。それも安全ピンが抜けた状態で。爆発したあと、一度後ろにいったがまた詰まってきたな。そのときトレミーからの連絡と共に小波が来た。 
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