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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十八章 幕間劇
  柿餅

神社の一角からゆるりと登っているのは、一筋の細い煙だった。

「この時間に台所から煙?」

「一真様、どうかなさいましたか?」

「いやね。この時間に煙が出てるなーっと思って。昼食はさっく食ったし」

時計を見てもまだお昼に近い時間帯。昼食も食べたばかりだし、片付けならまだしももう夕食の支度という時間ではない。

「ひよさんかころさんか誰かが陣中食の研究でもしているのでは?」

「ふむ。その可能性もあるな」

「お昼を済ませたばかりでしょうに。もうお腹空いたのですか?一真様」

「それはないけど、おやつだったら美味しそうだしな。少し気になるけど」

「そうですね。ちょっと顔を出してみますか?」

「いやいい。後のお楽しみとしてとっておく。・・・・梅たちを待たせているんだろ?」

これから一真隊での戦術会議。他のメンツも揃っているらしいし、隊の長が遅れる訳にもいかない。

「はい。戦術の研究は、今後の一真隊のあり方にも関わってきますから」

で、戦術会議が終わって、解散になったところだ。これから起こりえる様々な状況を前に、なかなか白熱した議論の応酬はできたんじゃねえのかな。あとは黒鮫隊との連携についてもだ。今後も活躍はするはずだからな、なのでもし黒鮫隊の出番になったら一真隊はどう動くかをシュミレーションしてみた。あとは、一真隊の鉄砲を効率よく使うかだった。黒鮫隊のは玉薬なんてなくとも撃てるし、隊員のイメージ通りに好きな弾を選べるもんだ。薬莢も出るけど出たら自然消滅するようになっている。一真隊の鉄砲は玉薬がないとただの棒になるので、正確な射撃と効率的な鉄砲隊の運用を幾つか述べた。

「あ、一真様ー!」

「こんにちは、一真様」

俺に声をかけてきたのは、縁側にいた綾那と歌夜だった。

「よう。綾那と歌夜。・・・・何か美味しそうなもん食ってるじゃねえか」

「はい。綾那が春日山のお土産で買ってきてくれた干し柿がありましたから・・・・ちょっと、作ってみたんです」

「土産・・・・?いつの間に買ったんだか・・・・」

土産は春日山の調査最終日に買おうとしたが、ころがしくじったので結局買えなかったけど。

「えへへー。宿に帰る途中に干し柿の行商の子がいたから、買っておいたです!歌夜にはどうしてもお土産を買って帰りたかったですから・・・・」

「なるほど。ということはさっき台所を使っていたのは歌夜か」

「はい。ころさんには許可をもらっておいたのですが・・・・ダメでしたか?」

「それは別にかまわない・・・・。そうか、それを作っていたんだな」

二人の間に置いてあるのは、手のひらサイズの赤橙色の餅だった。干し柿が混ぜているからこんな色をしているのか。

「ころさんに聞いたら、一真様達は新しい戦術の研究で軍議とのことでしたから、お持ちしようかとも思ったのですが・・・・」

「入れ違いかぁ・・・・」

「はい。まだ詩乃さん達は残っていましたから、皆さんには渡しておきましたが」

「一真様、一緒に食べるですよ!半分こするです」

とか言ってたが歌夜はまだあるから半分こしなくていいそうだ。

「綾那の分は取らないからな、ありがたくもらおうか」

「はい。お口に合えばいいんですが・・・・」

「では、いただきます」

そう言って差し出された餅は、見た目以上に重さがある、中身が詰まっているのだろうな。歌夜にこういう特技があるなんてな、まあ、女子でお菓子作りが得意なのは黒鮫隊にもいるからな。俺も大得意だけどな。

「ふむ・・・・。なかなかうまいな」

口に運ぶと干し柿よりも柔らかい甘さと、周りの餅のモチモチした感触がちょうどいいな。

「本当ですか?良かったです」

「こういうのもあるんだなー。俺も暇があればお菓子を作るんだが、初めての食感だな。それにしても餅はつきたての餅なのか?」

つきたての餅は何度か食べた事があるが、そういうのとは違う気がする。俺達が来た世界は自動餅つき機だからなのか、機械と手の違いは分かってはいる。

「さあ・・・・?米は一度粉にしてからお餅にしてありますから、それでかもしれませんね。一真様はどんなお菓子を作るのですか?」

「手間かかっているんだな。俺?俺のはそうだな、例えばこれとか」

空間から出したのはお皿に盛っていたクッキーだった。綾那たちは初めて見たと言っているがそりゃそうだろうよ。これは南蛮菓子なんだから。食べてみたら美味しいと言ってくれたけど。

「今は余裕がありますから。・・・・戦になると陣中食や手間の掛からないものになりがちですから、美味しい物も食べたいじゃないですか。それにこのくっきーというのも美味しいですからね。それに甘いですから陣中食にはいいかもしれません」

俺の料理やころの料理も美味しいし、飽きないように工夫をしている。それでも美味しい物は出来るだけ食べたいしな。

「干し柿と餅は合うなー」

「それは綾那が買ってきたですよ!」

「干し柿なんて食べたのいつぶりだろうな」

この世界に舞い降りてからは食っていないな。お菓子とかも常にトレミーで食ってたし、女性隊員と一緒にケーキを作ったりしてたしな。

「久遠様がお好きなのですよね、干し柿」

「そうなんだよなー。よく知っているな」

久遠は甘い物は全般的に好きなんだが、干し柿はベスト3に入るくらい好きらしいから、結菜がちょくちょくおやつに出してたな。

「葵様が尾張に遊びに行かれた時は、いつもお土産に美濃の干し柿をたくさんお持ち帰りになっていましたから」

「確か美濃の干し柿って作り方が秘伝らしいな」

「はい。久遠様が作り方を教えろとお命じになっても、首を刎ねられても教えられないと答えたとか・・・・」

「そういえばその時は悔しいから倍注文してたんだったな。懐かしい」

「久遠様も葵様に気前良く分けて下さるものですから、綾那なんか、久遠様のことを一時期干し柿様なんて呼んだ事もあって・・・・ふふっ」

「あ、綾那、久遠様をそんな呼び方したことないですよ!干し柿のお方って呼んだ事はあるですけど・・・・」

「一緒だろ」

「ち、違うです・・・・」

まあ呼び方で怒る久遠でもあるまい。

「じゃあこの菓子もそのときに作ったわけなのか?」

「はい。干し柿も、たくさん食べるとその・・・・飽きるので」

「俺はあまり食べないが甘いと聞くな。それにしても歌夜が菓子作りが得意ということは知らなかったな」

「そうですか?自慢できるほど上手いわけではありませんが」

「だが、俺が達人級だというのは知っているよな?けっこう筋あるよ」

「ありがとうございます。一真様のお褒め頂けるなんて」

まあ俺も和菓子とかは作るけど主に饅頭とかだからな。隊員の中には食いたいという者もいるからな。男だけど。この時代に来てから食える物は限られているからな。だから、作りたいときに作らないとあとで食べたいと思っても戦のときだったら食えないしな。

「そういえば二人は何を話してたんだ?」

「綾那が春日山で何をしていたのか、聞いてたんですよ」

「ああ。綾那も活躍したもんなー」

「ですよー!一真様と鞠様と三人で、とっても頑張ったのです!」

「初日は失敗したけどな」

「え?そうなんですか?」

「綾那、芸人のはずなのに、何にもせずにただ手を振っていただけだったから」

「え?綾那、何それ。そんなの全然言ってくれなかったじゃない・・・・」

「あぅぅ・・・・」

「それどころか、初日から大成功で、拍手喝采だったって」

「初日に拍手喝采になったのは、俺の水芸と炎による芸と鞠の蹴鞠と舞だったから。綾那は途中からいなくなったし」

「えええっ。綾那、何やっているのよ・・・・」

「もーっ!一真様、そういうことは言っちゃダメなのですーっ!」

「正直に言わないとダメだろうに」

ぽかぽかと軽く叩いてくる綾那に苦笑しながら頭を撫でる。

「それに綾那がいなくなったのは、情報収集のためですよ!別に逃げ出したわけじゃないですっ」

「情報収集って、ご飯を食べに行ったっていうあれ?」

「ですよ!そのおかげで、綾那は槍の演舞するのを思いついたです!」

「徒士の人達と妙に仲良くなってたな。二日目か三日目は見物に来てたし」

「綾那、そうやって足軽の人達と仲良くなるの、得意だものね」

「綾那、ああいう人達と話すのはとっても好きなのです。話しやすかったですよ」

「それで、二日目は上手くいったんだ」

「ですです!お客さんもちゃーんと拍手喝采ですよ!ね、一真様!」

「そうだな」

「鞠様もですけど、綾那くらいの子が兵になっているのは珍しいって、みんな目を丸くしてたです」

「珍しい・・・・?」

「この越後には綾那や鞠みたいに小さな武将がいないようなんらしい。柘榴や松葉も綾那よりは少し上だろ?」

「そうですね・・・・。三河だと、綾那くらいの小兵でも戦場に立つのは珍しくありませんが・・・・」

しかも天下の本多忠勝の槍捌きとなれば、拍手喝采も当たり前のような気がしてきた。

「その辺りは尾張も一緒だな。犬子や鞠もそうだし、八咫烏隊の二人もあまり変わらないもんなぁ」

外だと高下駄を履いてるからあまり小さく見えないけど、部屋に入ったら途端に小さく見えるからな。あの二人は。あと八咫烏隊の者たちもだけど。現代から見ればただの幼女集団だしな。

「むー。綾那、ちっちゃくても一人前の武士ですよー!」

「それは分かっているよ。大きい小さいは武士にとっては関係ないからな」

「ですっ!」

「でも、綾那のことだからただの演舞じゃなかったんでしょ?」

「もちろんですよ。お客さんに薪を投げてもらって、一本が二本、二本が四本、四本が七本・・・・ってやったです!」

途中まではよかったが倍にはなっていないな。

「後は、あれです」

「ああ、あれかぁ・・・・」

「あれ?もしかして猿か?」

「猿?」

「ああーっ。一真様、それは後で話そうと思ってたですよー!」

「じゃあ何さ?」

「熊です!」

「あれね」

放り投げた薪に槍を次々と繰り出して、それが落ちる頃には木彫りの熊が出来たというのだ。

「あれは確かに凄いが、歌夜は知っているの?」

「はい。あっという間に薪が熊になりましたから。松平家の宴の余興では、一番人気なんですよ」

「そういうのがあったのなら、最初からやればよかったのに」

「うぅ・・・・。綾那も道での芸って初めてだから、何をすればいいのかよく分かんなかったですよ・・・・」

「俺も芸をするのは初めてだったけどな。でもうまくいったからよかったけど」

水芸と炎による芸は炎と水の精霊によるものだから、うまくいくか分からなかったけどな。

「でも綾那、そういうのちゃんと覚えたですから、駿河を取り戻すときにはまた諜報活動するですよ!」

「その時が来たらお願いするよ」

「です!その時は歌夜も行くですよっ」

「ええ、私?私はいいよ・・・・」

「今川は三河のお隣ですし、もともと三河は今川から独立したのですから、お隣の綾那たちが頑張るのは当たり前なのです!」

「うーん。その気持ちは分かるし、鞠様のお役に立ちたいのもそうだけど・・・・そういうのって、あんまり得意じゃないから」

「そうかな。何か練習すればできそうな気がするのだが。鞠の舞だって練習してできたことだし」

「そうなのですか。ですが、一真様や綾那の方が凄いと思います。私はこうやって綾那の話を聞くくらいしかできませんし・・・・。徒士の人達と仲良くなれる綾那の方が」

「それが大事なんだよな」

「え?」

「歌夜はそうやって、穏やかに話を聞いてくれるからな。みんなは嬉しくなってついたくさん話してくれる」

相槌のタイミングもよさそうだし、自分が自分がって前に出てこない。綾那の話し方がハマれば強いのは確かだけど、歌夜のスタイルは万能型。

「綾那だって、歌夜に話を聞いてもらえるのは嬉しいよな?」

「です!歌夜とお話しするの、一真様とお話しするのと同じくらい楽しいです!」

「はぁ・・・・。当たり前にしてるだけですけど」

「それがいいのさ。腕も立つし、色々知っているし、相槌も上手い。・・・・可愛い聞き上手は、いい諜報役になれるんだが」

「ええ・・・・っ。あの、一真様・・・・?」

「ん?何だ」

「あの、その・・・・可愛いって・・・・」

「ああ言ったな。可愛いし美人だしな。それに喋るの上手じゃなくても綾那と一緒に演舞をするか、屋台で作ったお菓子を売りながら回るというのもいい手だぞ」

「お菓子・・・・ですか」

「うむ。俺もたまに作る菓子を売ったことがあってな大評判になっていた。それに俺が認める味だから、大評判にはなるよ。なあ、綾那」

「ですよ!次は、歌夜も一緒に行くです」

「そう・・・・かな?だったらそうしてみようかな・・・・」

「決まりです!一真様、駿河にはいつ行くですか?」

「おいおい。駿河は越後を終わらせて、久遠達と合流して、ザビエルをやっつけた後だから。まだまだ先の話だな」

「・・・・あれ?そんなに先ですか?」

「そうだよ」

「だったら、それまでに色んな事の練習も出来るですよ!お猿とか!」

お猿ねぇー。すると歌夜は俺に聞いて来たから想像の通りだと言ったけど、よく分かっていないようだった。

「もー。仕方ないですねぇ、歌夜は。小波ー。おーい、小波ー。いないですかー?」

「いくらなんでも俺の周りにいるわけないと思うのだが」

ただでさえ美空の捜索で忙しいと思ったのだが。

「お呼びでしょうか?」

「いたのかい!」

どこでスタンバイしてたんだよ。小波は。

「小波小波!あのお猿の服、まだ持ってないですか?」

「いつも持ち歩いているわけないだろうに」

「持っておりますが?」

「あるんかい!」

「こんな事もあろうかと・・・・」

こんな事っていったい何の事だろうな。ははは。

「ええと、これでよろしいですか?」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「そう!これなのです!」

けど、綾那がそれを高らかにかざしてみせるより早く・・・・。

「ねえ、小波。綾那のお土産の干し柿でお餅作ったんだけど、食べない?」

「は。いただきます」

「なんで無視するですかーっ!」

干し柿の餅を受け取った小波は、さっきまでと同じように姿を消した。

「・・・・もぅ。お猿、大人気でしたのに」

「あれはちょっといいかなぁ・・・・」

さすがに猿の着ぐるみには、歌夜も苦笑いをするだけだった。

「ふう。美味しかった」

「おそまつさまでした。もう少しありますが、幾つか持って行かれます?」

「ああ。食べてない皆もいたら、配って回るつもりでいいかな?代わりにこれを置いていくが」

空間から取り出したのは、さっきとは違うクッキーの皿を置いた。

「大した物でありませんが、それと一真様のお菓子はありがたくいただきます」

「そんな事ないですよ。綾那、歌夜のおやつがまた食べられて、とっても嬉しいです。一真様のも美味しいです!」

「そうだな。三日目の夜に歌夜がいないと寂しいとか言ってたな」

「い、言ってないですよーっ!」

「あれ、そうなの?」

「それは、その・・・・変な感じ、とは言ったですけど・・・・」

「言ったではないか。それと歌夜はどうだった?綾那がいない間は?」

「そうだなぁ・・・・。こっちには、詩乃さんや梅さんもいたし・・・・」

「えええ・・・・・そうですか・・・・」

で、結局のところ心配だったらしい。綾那も寂しくはないとか言いながらも心配だったと。そのあと、歌夜が礼を言いながら微笑んだから、綾那もニコニコになる。そうやって全力で否定しながらも歌夜の事を気にしている辺りは、この二人はまるで姉妹だなと思ってしまうほどだ。

「それじゃ歌夜。ごちそうさん。餅ありがとな」

「はい。一真様もお菓子ありがとうございます、また後で」

「お夕飯も、一緒に食べるですよー!」

「ああ。また後でな」

仲のよい二人に軽く手を振りながら、俺は縁側をゆっくりと後にした。で、そのあとトレミーに行きこのお菓子を配ったら好評だったのでぜひ作ってほしいと言われたので、暇だったら作ってやるよと言ったら大いに喜んだ男性諸君。なんでも懐かしいとか言ってたけど、あいつらどこ出身なんだろうなと思いながらトレミーでの仕事をやった俺であった。そのあと久々のコーヒーを飲んでから一真隊がいるところに戻った。 
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