戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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十五章 幕間劇
夜叉と酒飲み
ふむ、何だろうな。この気持ちは。久遠と話をしたあと、落ち着いたかと思いきやまだ落ち着かない。
理由はこの先の事を知っていることなのかもしれない。部下たちも知っているのか、眠れない様子だ。
「・・・・・ん?」
そんなことを考えて歩いてたら。
「あ、一真さーん」
「どうした、雛。こんな所で」
「どうしたもこうしたもないよー。麦穂様のお使いで森衆の所に来たんだけど・・・」
「ここは森衆の陣地なのか」
暗いから旗が分からなかったけど。
「そだよー。でも何か今日、桐琴さんの機嫌がすっごい悪いんだってさ。雛、もう帰りたいよ」
「今日は桐琴は、金ヶ崎攻めには加わらなかったからな」
軍議のときは明日の一乗谷攻めで先陣を取るからいいやみたいなことを言っていたが。少し後悔でもしてんかねー。
「けど、桐琴に近づけないのなら、各務に言えばいいんじゃねえの?どうせ各務に丸投げだし」
「そうしようと思ったんだけど、なんか出かけてるんだってー。雛、早く帰りたいのにー」
「小夜叉はどうした?」
言ってみたが、小夜叉は無理か。桐琴も小夜叉も戦の事しか考えない人たちだし。
「小夜叉ちゃんも、お市様のところに遊びに行ってるみたいだよ」
「そうか。じゃあ、桐琴しかいないな」
「うぅぅ・・・・勘弁してよー」
「で、そんなに機嫌が悪いの?」
「近くに行ったらすぐ分かるよ。雛はもう近寄るの諦めたけど」
「けどな、用事があるなら頑張って桐琴のところに行くか、各務を待つしかないんじゃないの?」
「だよねー。・・・うぅ、どっかで待たせてもらおっと・・・。一真さんの所のお使いだったら、誰に言っても大丈夫だから楽なのにー」
「ははは。次は俺の所だといいな」
と言って、雛と別れたあとに森衆の奥に行くと確かになと思った。これは殺気かな?でも、俺にとってはこんなもんは平然としていられるが。雛と歌だったら無理かもな。普通の兵だったらまず近づかないな、首筋がピリピリするというより全身に伝わるほどか。
「でも、珍しいこともあるんだな」
森家の血の気が多いことは、今始まった訳ではない。柄だって、ヤクザみたいに悪いけど、ここまで殺気を垂れ流すことはなかったはず。少なくとも敵対意思を見せていない相手には(森家の基準で)優しいし、(森家の基準で)礼儀正しく接すればいきなり斬りかかってくることはない、はず。単純に考えても森家の基準は知らん。
「やあ、桐琴」
「なんだ、お主か」
じろりとこちらを睨んできたが、怖くはない。まだ生ぬるいだけだけど。
「隣、いいか?」
「・・・好きにせい」
ふむ。これは確かに機嫌が悪いようだが。イライラしてるのが見てわかる。と話していたら、急に笑い出した。
「ははは。相変わらずお主は変わっておる。ワシがここまで苛ついておっても、知らん顔で近づいて来おる」
「いや、こんなの序の口なんだけど。それに本気の殺気だったとしても、俺には中和ができるしな」
「やれやれ。最初はお主がピリピリしてるだけかと思った」
「こんなのピリピリに入らないよ。まあ、他の者だったら近づきたくないと思うけど、俺だったら和ませることはできる」
「ふむ。さすがは人生の先輩だな」
ニヤリと笑う今の桐琴は、さっきまでの殺気はもうなかった。
「あれかな。一乗谷で楽しみを待っているからか?」
「まあそうだな。今日のことは軍議で決まったことだ。前座は壬月や麦穂が務めればよい」
壬月と麦穂を前座扱いか。
「クソガキは今日の城攻めにも加わりたかったようだがの。まだまだ待つ楽しみを知らん小童よ」
「まあな。桐琴と小夜叉を比べたら経験不足なのは小夜叉の方だ。もっとも、俺もだけど。大人と子供に経験の差はあるだろうな」
「ははは。違いない。だがお主から見てワシも小童と見ておるのでは?」
まあ確かに、俺は何千年も生きているからな。桐琴も俺から見たら、まだまだ若い人だなと思う。機嫌を直した桐琴であったが、笑みを消して再び真剣な表情になった。
「正直、この流れは気に入らん」
「だねぇ。俺も戦うのは好きだけど、差し出される首までは刈らないよ。そこまで戦闘狂じゃないし」
「ワシもそうだ。戦場で刎ねるのは好きだが、刎ねてくれと懇願されて差し出されても刎ねんよ」
森一家は殺人狂ではないから、少しだけ安心はできる。戦闘狂の集まりだと思えばいいしな。
「戦狂いのワシらでも、愉しい戦とそうでない戦くらいある」
「そうだな。なんかいまいちだよな」
「不愉快極まりないな。・・・金ヶ崎あたりは、これ見よがしに餌をぶら下げられておるようであったわ。殿もそれにがっつきおって。何を焦っておるのか知らんが、いつもの殿とは思えん」
やっぱりそう思うか。俺もいや俺たちもそう思っている。目の前にぶら下がれた餌にまんまとはまることに。まるで、餌を目の前で誘導されて、後ろから何かがあるとは思っていることだ。
「エーリカに聞いたところによると、鬼達は満月が近づくと力が増すようだけど」
「ふむ。言われてみれば、確かにもうすぐ満月よの・・・。それを狙っておると」
「まあ俺からすれば、満月を狙って戦った方が歯ごたえあるけど。他の兵や将にとっては脅威らしい」
「お主の言うとおりよの。少々強くなったからと言って、捻り潰せば同じこと。それに一真と鬼退治したときは、満月であったからの」
まあ、そうなんだよね。エーリカが言うには満月前に狙った方がいいと思うけど。俺達戦の達人、というより戦闘が好きな集まりだからなのか、俺も黒鮫隊の者も十分に強いんだよね。
「一真と考えが一緒なら、弱るときを狙うなら、むしろ満月を過ぎてから仕掛ける方が賢明であろうな」
「まあな。冷静に考えればそうなんだけどさ。久遠は焦っているんだよ、越前の事で」
越前のことで気にしているから、早めに動いてから、満月前を狙って決着つけたいと思っているそうだけど。さっき桐琴も言った通り、俺が作戦を考えるなら満月後に狙うしな。
「ワシらは一真のように神でも仏でもないからの。許せんという気持ちは分からんでもないが、出来ん事まではどうにもならんわ」
「久遠は優しいからな。それに俺だって本当ならその気持ちも押さえたいがな」
「それで拙速を招いて味方を危機になるのなら、殿も所詮その程度。と言いたい所だが、例えこの先にいかなる罠があったとしても、ワシら森一家が食い破れば済む事よ」
「それについては頼む。俺も全力を持ってやろうと思う」
でも、俺たちはかなり後ろだからな。後ろからの奇襲には備えている。もしあったとしても、黒鮫隊もいるから安心できるだろう。
「そうだ。時に一真よ」
「何?」
「先日の殿の宣言で、ワシも恋人になっても良いと言ったな」
「あのときね。言ったよ、桐琴が良ければの話だけど」
「うむ。資格が鬼と戦う者が一真の恋人になれると聞いてから考えておった。だが・・・」
と言ったところで、俺は桐琴に抱きしめていた。桐琴は、いきなりのことだったが、逃げはしなかった。
「さすがの一真でも、これくらいは序の口だろうに」
「まあな。それに桐琴にこういうのするのは、他の者には見せたくないからな」
そのあと、抱き着いてキスをしたあとに。酒でも飲まないかといって、一緒に飲んでいた。
「ふむ。こういうのも悪くないの。いつも呼び捨てで呼んでいたが、今回はなんだかよい気分だ。手弱女にでも戻った気分じゃ」
「そうか。そういうところを言うと可愛いなと思うが」
「たまには・・・しおらしいのも良かろう?」
たまにはね、いつもは強気だけどこういう桐琴もいいな。この先も話したが、一乗谷で鬼を潰して、南蛮小僧を捻り潰すだそうだ。その後はと聞くがそいつらを倒したとしても、第二第三のザビエルが出てくるかもしれん。
「それに、そいつらを倒しても、そうそう平和など続くものではないわ。平家の世から、源氏、足利、そして織田に移り変わりつつある今まで・・・戦が無くなる事などありはせなんだ。人とは所詮そういうものよ」
確かにな。これまでの歴史でも、織田のこの先の歴史でも戦はあった。
「それはそれで寂しいと思うが、戦こそが森一族の居場所なんだろう?」
「言い当てられるとは、さすがやの。それにワシは人修羅じゃからな」
「・・・・人修羅?」
「うむ。ワシをそう呼ぶ者がおるらしい。修羅道、大いに結構、戦場こそが我が遊びの庭よ。まあ、南蛮坊主や乱が起こらずとも、まだ武田や上杉もおるし、中国や鎮西も手つかずだ。・・・・今川の小娘との約束も、まだ果たしておらぬのだろう?殿が天下に覇を唱えようとする以上、ワシの生きておる間くらいは戦が絶える事はなかろうて」
「そうだな。それに俺が何しここに来たのかさえ、時々忘れることもある」
天下統一は夢であって、ザビエルとは関係ないことだ。逆に今いる鬼がいなくなったあとは、各地の有力武将と戦うことになる。
「そういう平和がくればいいのだけど」
鬼の脅威が無くなれば、その先を構えなければならない。久遠も、葵も、眞琴も領土的な野心を持ってはいなさそうだしな。
「出来ればその礎となって華々しく散りたいものよ」
「そうはさせないよ。俺がいる以上は、そうはさせるかよ」
「一真。お主・・・・」
「俺は目の前で消える命は助けるものだ。それでなくとも神が許さないよ、自分で命を散るなど」
と言ってみたが、実際助けられるはずだった者たちを多く消滅させてしまったこともあった。だから、今の俺の立場では二度とそんなことさせるかよと誓ったのだ。
「一真」
「ん?」
杯の酒で軽く口を湿らせて。桐琴はさっきまで穏やかだったけど、今は厳しさの混じった様子で俺を呼んだ。ちなみに俺も飲んでるけどね、酒。
「天下布武などと囀っておるが、殿はまだまだ甘い」
「甘いか。そうだな」
「此度の一乗谷とて、確実に鬼どもを潰すのであれば、満月を過ぎてから攻めるのが上策に決まっておる」
それをしなかったのは、久遠が優しいからだ。久遠の優しさは、俺や桐琴にとっては甘いの一言だけど。
「一真も思うが、ワシも殿を嫌ってはおらん」
「それはわかっている」
桐琴、ここでは森衆かな。本当に久遠の甘さが気に入らないのなら、とっくの昔に織田から離れているだろうし。それをしないのは、桐琴が久遠のことを気に入っているからだろう。壬月や麦穂とはやり方も違うが、森家も久遠の忠臣。
「一真。お主は甘い殿の妻になるかもしれんところだ。しっかりと支えてやってくれ」
「言われなくても分かっているさ」
「さすが一真だ。いつも強気だからなのか、弱気と言う所を見ない。時には非情もあるということか」
「まあな。久遠の下せぬ判断も俺が厳しくすればいいことだし。顔色を変えれば、部下はついて来ないしな」
そうして、この後は情事をしてしまった。俺の恋人候補ならしても構わんと思ってな。でもさすがの桐琴なのか、今までしてきた者よりいい顔をしながらだった。感度もよかったし。終えたら、浄化をしたあとに服を着てから、また酒を飲んでいたのだったけど。
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