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戦国異伝

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第百八十一話 諸法度その十一

「あの家しかない」
「そうなりますな」
「そうじゃ、だからじゃ」
 それでだというのだ。
「九州は島津が制することになる」
「では我等も」
「とはいってもそれは結構先じゃ」
 今はまだ心配に及ばないというのだった。
「七年かそれ位はかかる」
「では」
「それまでにこちらの趨勢は決まっておる」
 織田家との戦の結果も、というのだ。
「それもな」
「では今は」
「案ずることはない」
 島津、そして九州についてはというのだ。
「大事なのは毛利家が残るかどうかじゃ」
「九州のことはですか」
「数年後じゃ、その頃には対する策も用意出来ておるわ」
「さすれば」
「はっきり言えば織田家に従ってもよい」
 こうもだ、元就は言うのだった。
「要は家が残ることじゃからな」
「例え織田家に従おうとも」
「家さえ残れば」
「そうじゃ、それでよいのじゃ」
 元就は天下を望んでいない、だからこそこうした考えも持てるのだ。彼はとにかく家を残すことを念頭に置いているのだ。
 だからこそだ、今も家臣達にこう言えたし言うのだ。こうも。
「戦をすることもじゃ」
「侮られぬ様にですな」
 今度は隆景が言ってきた。
「だからこそ」
「侮られては終わりじゃ」
 武士の世界、特にこの戦国の世ではだ。
「だからこそじゃ」
「一戦交えて」
「毛利家を見せるのじゃ」
「そういうことですな」
「その為の戦じゃ」
 全ては家を残す為の、というのだ。
「ではよいな」
「さすれば」
「はい、では」
 こう話してだ、そしてだった。
 元就は戦の用意を命じた、彼は家を残す為に戦わんとしていた。
 その彼だが息子達だけ残してだ、密かにこんなことも言った。
「織田信長の諸法度じゃが」
「それに民百姓に言ったですな」
「様々な法ですな」
「どれも実によく出来ておる」
 こう言うのだった。
「しかもあれは織田信長にも向かっておる」
「例え天下人でもですな」
「法の下にあるとされていますな」
「あれも見事じゃ」
 例え天下人でもだ、法の下に置くということがだ。
「まさに天下の法じゃ、そして天下人じゃ」
「では織田信長こそが」
「天下を一つにし治める者ですか」
「そうなる、しかしそれはまだ確かには言えぬ」
 まだ、というのだ。
「この度の戦で勝ってこそじゃ」
「我等と本願寺、そして東国でもですな」
「武田、上杉、北条との戦もですな」
「この大きな戦に勝つかどうか」
「それ次第ですな」
「勝てば天下が定まる」
 それで、とだ。元就は言い切った。
「織田家のものとなる」
「しかしですか」
「敗れれば」
「また天下は乱れる」
 その分かれ目だというのだ、今は。
「我等四つの家を合わせると織田家にも対することが出来る」
「あの一千万石を越える織田家にも」
「確かに」
「かろうじてじゃがな」
 それでも、というのだ。
「それが出来ておる」
「その我等が勝つか負けるか」
「天下はそれ次第ですな」
「そういうことじゃ、武田か上杉が残ればそれでまた天下は治まる」
 彼等が治めて、というのだ。
「あの二人でもな」
「天下は治まりますか」
「あの二人の御仁でも」
「出来る、どちらにしろ天下は治まる時に来た様じゃ」
 戦国からだ、そうなったというのだ。
「もう戦は終わりじゃ」
「遂に、ですか」
「この長く続いた戦国も」
「そうじゃ、ではな」
「そこからも見据えて」
「我等は」
「動いていくぞ」
 こう言ってだった、元就は織田家との戦に備えるのだった。そこから先のことも考えながら。
 天下は分け目の時を迎えていた、その中でどの者達も動いていた。複数の色が混ざり合おうとしていたのである。


第百八十一話   完


                              2014・5・8 
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