魔法少女リリカルなのは~"死の外科医"ユーノ・スクライア~
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番外編
File.2~アリサ、すずか誘拐事件~
それは、本当にただの偶然だった。
「「きゃあああああああああああああああああああああ」」
ユーノ・スクライアが二人の女性、アリサ・バニングスと月村すずかが黒服の男たちに車に連れ込まれ、連れて行かれたのを目撃してしまったのは。
1時間前。
スカリエッティとナンバーズを脱獄させたユーノは最後の休息として、彼にとって、第二の故郷とも言える、ここ、鳴海市に来ていた。
いや、そもそも、放浪の部族出身であるユーノには故郷と言う概念そのものがなく、幼少期を一番長く過ごし、多くの親友と、なにより、高町なのはと出会えた、この鳴海市こそ、真の故郷と言えるかもしれない。
そして、日用品や本などを買い、街を散策していた彼は、カフェでお茶をしていた、二人の幼馴染、アリサとすずかを目撃したとき、その瞬間に出くわしてしまったのである。
そして、話は冒頭に戻る。
二人を誘拐した黒服の男たちの手際は実によく、相当訓練された相手だと言うことがうかがえた。
(一体、何の目的で二人を?)
ユーノは思案する。
(いや。考えてみれば、二人とも大企業の社長令嬢。単純に考えれば、身代金目的か)
自分なりの結論を出すと、すぐさま、これからの対策を考える。
『・・・・ねえ、どうしてあなたは無事なの?』
「っ!?」
脳裏にかつての言葉が蘇る。
だが・・・・・。
(彼女が悪いはずはない。そんなことで、彼女を見捨てていいはずがない!!)
気を取り直し、ワイルドエリアサーチで探そうと思い、ふと考える。
(待て。ここはミッドじゃない、地球だ。不用意な魔法の使用は避けた方がいい。幸い、車のナンバーは記憶している。なら、専門家に頼るか)
そして、ユーノはある女性に連絡を取る。
(頼む、すぐに出てくれ)
幸いなことに、目当ての人物はすぐに連絡に応じてくれた。
『一体何事ですの?』
「クアットロ、頼みがあるんだ」
そう、ナンバーズの四女にして、電子操作を得意とするクアットロである。
『要件は何ですの?』
「今すぐに、僕がいる第97管理外世界の鳴海市の防犯カメラをハッキングして、今から言うナンバーの車を探して欲しいんだ。地上本部すら落とした君のハッキングスキルなら朝飯前だろ?」
『何か厄介事の匂いが漂ってきますけど、そんなこと、現地の警察にでも任せればよろしいじゃありませんの?』
「巻き込まれたのは、僕の知り合いでね、一刻も早く助けたい。それに、管理外世界じゃあ、あまり派手に魔法を使うわけにはいかないから、電子戦に優れた君の力が必要なんだ、頼む」
『分かりました。あなたには恩がありますし、すぐに調べますわ』
「ありがとう」
ユーノはクアットロに車のナンバーを伝えた。
10分後。
『見つけましたわ』
「それで?」
『場所は港の近くにある、第3倉庫ですわ』
「分かった、恩に着るよ」
ユーノは通話を切り、レンタルしていたバイクにまたがり、目的地に向かって走り出した。
その頃、アリサとすずかは。
「すずか、あんた大丈夫?」
「何とかね。ありさちゃんは?」
「これくらい、どおってことないわよ」
手足を縄で縛られ、倉庫の一室に監禁されていた。
「わたしたち、誘拐されたんだよね?」
「みたいね。こんなの小学生のとき以来よ」
「ふつうは何度も誘拐されたりはしないけどね」
誘拐の経験が初めてじゃない分、冷静に状況を分析し始める二人。
すると、扉が開き、黒服の男が入ってくる。
「・・・・安心しな、今声を聞かせてやるよ」
そう言うと、男は彼女たちに、携帯を差し出す。
「何か話して、親を安心させてやりな」
そして携帯を口元にあてられたアリサは・・・。
「倉庫よ!!どこかの倉庫!!潮の匂いがするから、港の近くよ!!」
「それだけじゃない!!犯人たちは最低でも3人はいるわ!!」
「なっ!?」
あらん限りの声を出し、少しでも情報を伝えようとするアリサ。そして、アリサに便乗し、犯人たちに目隠しをされる前に見た、犯人の情報をできる限り伝えるすずか。
人質二人の思わぬ行動に、慌てて犯人は電話を切る。
「このアマ!!」
「ぐふっ!!」
「きゃあああ!!」
犯人は激情し、アリサの腹に蹴りを入れ、すずかの頬を殴る。
「おい、何があった?」
すると扉の奥から、黒服の仲間が入ってくる。
「やられた!!このアマたちにここの情報が伝えられた!!特定されるのも時間の問題だぞ!!」
「なら、用意していたもう一つのアジトへ移そう」
「ああ、そうした方がいいかな。だが、その前に・・・」
そう言うと、男は懐から拳銃を取り出し、その銃口をすずかに向けた。
「お、おい!!それはさすがに・・・」
「うるせぇ!!なめた行動とりやがって!!気にするな、どっちの実家も金持ちだ!!どっちか片方が生きていればいいんだよ!!」
そして、男は拳銃の撃針を引く。
「気絶している金髪の嬢ちゃん。目が覚めて親友が死んでたら、どんな顔をするかな?」
薄れゆく意識の中、すずかは一つのことを思い出していた。
『もし、なのはちゃんに何かあったら、わたしは・・・・・・絶対にあなたを許さない!!』
それは、幼い頃の過ち。
ずっと後悔し、謝りたくとも今までできないでいた自分を嫌悪し続けた、あの事件。
それを思い出し、彼女は涙を流す。
(ごめんなさい。最後まで謝れなくて。本当にごめんなさい・・・・・・・ユーノ君)
そこで、すずかの意識は途切れた。
だが、彼女に対して引き金を引かれることはなかった。
なぜなら・・・・・・・。
ドッゴーン!!
「「っ!?」」
爆音とともに倉庫の扉が吹き飛び、蜂蜜色の長髪を緑のリボンで束ね、眼鏡をかけ、バカでかい日本刀を持った優男が侵入してきたからである。
「って、てめぇ!!なにもんだ!?」
「名乗る名などない。通りすがりの、悪党だよ」
話は少し遡る。
ユーノはクアットロに言われた倉庫に辿り着いた。
「ここで間違いないかい?」
『間違いありませんわ、何なら倉庫内のカメラもハッキングして調べましょうか?』
「いや、いい」
そう言って、ユーノは召喚魔法で手元に武器を召喚する。
それは、全長2m近くもの長さを誇る、『野太刀』と呼ばれる日本刀だった。
通常、日本刀と呼ばれて、真っ先に思いつく形状のものは、室町時代以降に普及した『打ち刀』と呼ばれるもので、長さは大体、1mちょっとである。
だが、ユーノの持つ『野太刀』は主に戦国時代に使われていたもので、腕力がないと使いこなせない武器である。
だが、ユーノはそれを軽々と振りまわす。
そして、手元に翡翠色のキューブを召喚した。
「エアボンバー・1フェイスリリース」
すると、激しい轟音と共に、倉庫の扉が吹き飛ぶ。
「って、てめぇ!!なにもんだ!?」
中に踏み込むと、銃口を向けてきた、犯人と思われる黒服の男に、そう言われる。
そして、ユーノは答える。
「名乗る名などない。通りすがりの、悪党だよ」
「っ!?」
ユーノはそう言うと、地面を蹴り、銃口の延長線上から、体を外すように、斜め前にかけ出す。
犯人もすぐにユーノに銃口を向けようとするが、彼の腕に、いつの間にか翡翠色のリングが掛けられ、腕を動かすことができなかった。
「リングバインド」
そう、それは、ユーノが得意とする捕縛魔法の一つである、リングバインドだった。
管理外世界では魔法の使用はご法度だが、先ほどもエアボンバーの魔法を使ったし、この程度なら大丈夫だろうと考え、相手の動きを一瞬封じている隙に、野太刀を鞘ごと振り下ろした。
「がっ!!」
野太刀は犯人の肩に当たり、痛みのあまりそのまま失神する。
そして、肩の上にある野太刀をそのまま振り回し、呆けていたもう一人の仲間の顔面に直撃させる。
「あぴゃっ!!」
そして、その場で頭と足が半回転した犯人は、床に頭を打ち付け気絶してしまった。
「ふう。確かあのとき、もう一人いたはず。あとは、その人さえ倒せば・・・・・」
「やれやれ、やってくれますねぇ」
「っ!?」
振り返ると、デバイスである杖を持った男がこちらを睨んでいた。
「魔導師?」
ユーノはその人に見覚えがあった。
何を隠そう、先ほど気絶させた男子たちと同じように、彼女たちを誘拐した実行犯の最後の一人だったからである。
「なぜ、魔導師が管理外世界に?なぜ、彼女たちの誘拐に加担する?」
「言ってしまえば、私怨ですね。彼女たちの親友、高町なのは一等空尉に恨みがあるからですよ」
高町なのはは管理局のエース・オブ・エースとして多くの事件を解決してきた。だが、逆を言えば、それだけ多くの犯罪者たちの恨みを買っているわけである。
彼もその一人なのだろう。
「私が所属していた組織が彼女のせいで壊滅してしまいましてね。今はただの流れの魔導師ですよ。しかし、私の力では彼女に敵うはずもない、そこで、せめて彼女の親友を殺して、ひと泡吹かせようと思ったのですが、あなたのせいでそれもぶち壊しですよ」
「ふん。一度の敗北で挫折し、復讐すら諦め、挙句の果てには、関係のない人間をいたぶって満足ですか。本当に三流以下のゴミ屑ですね」
「黙れっ!!」
すると、男は激しい怒気を見せ、杖から黒い炎を噴出する。
その炎に嫌な予感を感じながらも、ユーノはラウンドシールドで受け止める。
「どうです!?私のレアスキル『黒炎』の威力は!?一度着火してしまえば、対象を焼き尽くすまで、いかなる手段を用いても消えることのない地獄の業火は!?」
「ずいぶんと生ぬるい業火ですね。これなら、シグナムの炎の方がよっぽど熱いですよ」
「減らず口を!!」
炎の威力が増し、受け止めきれなくなったユーノはラウンドシールドを斜めにして、炎を上に逸らす。
炎は倉庫に燃え移り、黒い炎がみるみる広がっていく。
「ははは!!どうです!?このまま燃え広がれば、彼女たちの身が危ないですよ?どこの誰だか知りませんが、私の相手をしながら彼女たちを守ることなど不可能です!!」
男は勝利を確信し、高笑いをする。
だが・・・・。
「あまり、僕をなめるなよ」
そこに、ユーノの冷たい声が響き渡る。
そして、ユーノは右手を前に差し出し、手のひらを地面に向けた。
「ふん!!いったい何を・・・」
「ROOM」
男の声を遮り、ユーノはトリガーヴォイスを発する。
すると、ユーノの掌に小さな力場が発生し、急速に大きくなり、倉庫全体を包み込んだ。
「これは、結界魔法。封鎖結界とは違いますね。一体こんな結界で何をするつもりですか?」
男は疑問に思うが、ユーノは刀を鞘から抜き放ち、構え、そして、真横に振り払う。
男とユーノは5m以上離れているため、いくらリーチのある野太刀でも届くはずがない。だが、男はユーノの斬撃に得体のしれない恐怖を感じ、とっさに身伏せた。
すると、スパっと倉庫が横一文字に切り裂かれたのである。
男はその事実に驚愕するが、驚くのはまだ早かった。
「『タクト』」
ユーノはそう唱え、右手の人差指を下から上に向けて振るう。
すると、切り裂いた倉庫の上の部分が空に向かって飛んで行った。
「なっ!?」
男が驚愕している間に、飛んで行った倉庫を結界で包み込んだ。
「これで、彼女たちに危害が加わる恐れはない」
「き、貴様!!」
「『シャンブルズ』」
「っ!?」
もう一度、彼に向って黒炎を叩きつけようとした男の目の前に、突如としてユーノが出現する。
男は突然の事態に動揺してしまった。なぜなら、目の前の男は転移魔法の魔法陣なしで、そして、あり得ない速さで転移してきたからである。
そして、動揺により、一瞬できた隙を突き、ユーノは野太刀の柄で殴りかかる。
しかし・・・・・。
「こ、この!?」
それは、狙ってやったわけではなかった。
ただ、とっさの行動にすぎなかったはずだった。
彼の袖から仕込み小型銃が飛び出し、ユーノに向かって、弾丸が飛び出したのは。
だが、その弾丸の軌道はまっすぐとユーノの額に伸びていた。
ラウンドシールドも間に合わず、ユーノはとっさに頭を傾けて弾丸を回避したが、その弾丸は左のコメカミを掠り、額から大量の血が流れる。
血が目に入ったことで、左目の視界が遮られ、ユーノが振るった刀の柄はわずかに軌道が逸れ、空を切ってしまった。
「もらった!!」
男はユーノの左手を掴み、黒炎を発生させる。
「っ!?」
とっさにユーノは相手の手を振り払い、後退するも、すでに、左手には黒炎が発生していた。
「ぐっ。ぐああ!!」
「ははは!!良いざまですね!!黒炎が着火したが最後、あなたの体は燃え尽きるしかないのですよ!!今まで私が焼き尽くしてきた哀れな子羊同様、絶対に消えることのない炎の絶望感を味わいながら死んでください!!」
男は今度こそ勝利を確信し、天井を仰ぎ見ながら高笑いした。
そして、再びユーノを見て、呆けてしまった。
なぜなら・・・・・・・・・・・・。
「貴様!?貴様の左腕を一体何処にやったのです!?」
ユーノの左腕がひじから先が存在せず、何処にも見当たらなかったからである。
男の問いに対して、ユーノは自分を指差した。
嫌な予感がして、男は後ろを振り向く。
すると・・・・・・・・・・・・・・・。
「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああ!?」
なんと、ユーノの腕が背中にくっつき、その腕が、先ほど自分が放った黒炎で燃えていたからである。
そして、黒炎はユーノの腕を焼き尽くし、彼の体にまで着火した。
「ぐ、ぐああああああああああああああああああああああああああ!?消えろ、消えろ、消えろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
彼は必死に黒炎を消そうとするが、全く消える様子はなく、黒い炎が男を焼き尽くしていく。
「た、頼む。助けて・・・」
「あなたでさえ制御できないレアスキルを僕がどうにかできるわけないじゃないですか。今まであなたが焼き尽くしてきた人の恐怖でも味わってなさい」
冷たく突き放され、男は絶望する。
やがて、痛覚がなくなるほど焼き尽くされると、ユーノが一足で近付き、男の腹に掌打を加える。
すると、男は気を失い。彼を焼いていた炎も嘘のように消滅した。
「殺しはしない。君にはその価値もない」
ユーノはこの短時間で、彼の能力を解析し、黒炎を消滅させる即席の対抗魔法を編み出していたのである。
本来、凡庸的な魔法ならともかく、レアスキルともなれば、解析や対抗魔法の構築には月単位の時間がかかるものだが、それを僅か数分で行ってしまうのは、ひとえに、ユーノの天才的な頭脳と無限書庫での膨大な知識の賜物である。
こうして、アリサ、すずか誘拐事件は幕を閉じた。
その後ユーノは気絶しているアリサとすずかの拘束を解き、逆に犯人たちを縛り上げると、匿名で警察に連絡して、その場を立ち去った。
『それで、君は左腕を失い、頭部に重傷を負ったというわけか、間抜けにも程があるね、ユーノ』
「そう言うなよ、スカリエッティ。僕としては彼女たちが無事だったらそれでいいんだからさ」
『ふん。私には理解できないよ。どうして君は他人のためにそこまでできる?片腕をなくしてまで。本当に無欲だね、君は』
「無欲?バカ言っちゃいけないよ」
そして、ユーノは今までで一番真剣な声で答える。
「欲のない人間なんているものか。僕は君と同じくらい、いや、多分君以上に強欲な人間だよ。ただ、君の欲望のベクトルは自身に、僕の欲望のベクトルは他人に向いている、ただそれだけの違いだよ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「それよりも、スカリエッティ。君に頼みがある」
『何だい?義手の用意でもすればいいのか?』
「ああ。だけどそれだけじゃ足りない。僕を戦闘機人にしてくれ」
『正気かい?』
「生憎、そんなめんどくさいものは、とっくの昔に捨てたよ。君たちを脱獄させたあのときからね」
『それもそうだな。だけど、ユーノ・スクライア。君は『機械に適合するために、初めから遺伝子ごと調節された』ナンバーズとは違う。必ずしもISが発現するとは限らないし、最悪の場合、ひどい拒絶反応が出る可能性だってある。それでも、やるのかね?』
「当然だよ」
強い決意のこもったユーノの声が、スカリエッティの耳に届く。
『分かった。そこまで言うのなら、私からはもう何も言わない。義手は最高の物を用意するし、改造手術も全力を尽くそう。『違法科学に手を染めなければ、間違いなく歴史に名を残す科学者』の名にかけてね』
「ありがとう。恩に着るよ」
そう言って、ユーノは通信を切り、転送ポートがある隠れ家に向かう。
これは、日常と非日常の狭間を行き来する、彼らの何気ない一日の出来事であった。
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