魔法少女リリカルなのは~"死の外科医"ユーノ・スクライア~
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本編
第三話
特務6課が正式に始動してから、ちょうど1週間がたった。
現在は、久しぶりに再会したメンバーの実力を確認したり、新しく入ったメンバーを入れた新フォーメーションのための訓練が中心で、今のところ、事件に対する、出動要請はかかっていなかった。
特務6課の部隊構成や所属部隊は機動6課時代をそのまま引き継いでいる。ちなみに、新しく入ってきたメンバーは、ノーヴェとディエチとウェンディがスターズに、ルーテシアとチンクがライトニングに、セインとオットーとディードがロングアーチに所属することに決定した。
ここで、彼女たちの訓練風景を覗いてみよう。
機動6課時代は訓練を受ける隊員が4名しかいなかったこと、4名とも新人であったことが理由で、毎日のように、スターズとライトニングが合同で訓練をしていたが、特務6課では、全員がすでに、一流のストライカーズであることや、人数の増加などが原因で、スターズとライトニングが交互に訓練場を使った訓練と基礎訓練を行っている。
「・・・っそこ!!スバルは左サイド、ノーヴェは右サイドからなのはさんにクロスレンジ!!ウェンディはヴィータ副隊長をお願い!!ディエチはあたしと一緒に狙撃でみんなの援護を!!」
「「「「了解(っス)!!」」」」
今はスターズの隊員たちが、隊長と副隊長相手に模擬戦を行い、ライトニングの隊員たちは基礎訓練を行っているのである。
今回の模擬戦の内容は、隊員4人対隊長陣2人のチーム戦で、隊長のなのはに一撃有効打を当てるか、隊員側の全滅で終了とする、時間無制限方式で、今のところ、開始20分が経過している。
最新鋭のバーチャルシステムで再現された街中のビルとビルの合間をスバルのウィングロードとノーヴェのエアライナーが駆け抜ける。
なのはの誘導弾の直撃をビルを盾にしながら防ぎつつ、徐々に距離を詰めていくスバルとノーヴェ。
ヴィータがなのはに接近する二人を止めようと鉄球を打ち出すものの、ウェンディのライディングボードに阻止され、また、ティアナとディエチの二重狙撃に思うように近づけない。
そうこうしてる間に、スバルがなのはを射程圏内に捉える。
「一撃必倒!!ディバインバスター!!」
「っ!!さすがだね、スバル。でも、まだまだだよ!!」
なのはは手をかざし、桜色のラウンドシールドを展開、スバルのディバインバスターを受け止めつつ、先ほど放った誘導弾を操り、技後硬直で無防備なスバルを迎撃する。
「くはっ!!」
「大振りな攻撃を使っていいのは、本当に相手を倒せると確信したときだけだよ、スバル!!」
「っはああああああ!!」
雄叫びとともに、後ろからノーヴェの拳が放たれるが、なのははその場で身をひねることによりなんとか回避する。
「惜しかったね、ノーヴェ!!今のは有効打とは・・・」
そこで、今度は自分の後ろを何かが通り過ぎる気配がする。
「っ!?」
慌ててなのはは後ろを振り向くが、それはウェンディのライディングボードだった。
ただし、そこにウェンディは乗っていなかったが。
(っな!?一体どこに!?)
なのははとっさにウェンディの居場所を探そうとした。それゆえに、完全にライディングボードから意識を外してしまったのだ。
それこそが罠だと気付かずに。
空中でライディングボードが反転し、そこにへばりつくティアナが姿を現す。
<Master!!>
「しまった!!」
「クロスミラージュ!!カートリッジロード!!」
<Yes、master.>
レイジングハートがティアナの存在に気づき、なのはに知らせる。
なのはは慌てて防御しようとするが、その前にティアナはカートリッジロードを済ませ、後は、トリガーヴォイスを発するだけであった。
「クロスファイア―シュート!!」
ほぼ零距離からティアナのクロスファイヤーシュート(収縮砲バージョン)が放たれ、なのはに直撃、爆煙で周りが見えなくなる。
「やったの、ティア!?」
「やったのか、ティアナ!?」
「やったっスか?」
「いい加減に、放せ!!」
スバル、ノーヴェ、あと空中でヴィータに絞め技を決めているウェンディが心配そうに見守り、なかなかウェンディの技から抜け出せないヴィータが苛立たしげに叫んだ。
そして・・・。
<Congratulations.>
レイジングハートから模擬戦終了の宣言が下された。
「やられちゃったなー。もうちょっと長引くと思ったのに。今回はすっかりティアナの術中にはまっちゃたな」
いつの間にか、指揮官として、ずいぶんと成長したティアナに対し、なのはは素直に称賛を送る。
今回の模擬戦では、スバルとノーヴェが標的であるなのはに接近、ウェンディがそれを阻止しようとするヴィータの足止め、ティアナとディエチが狙撃で援護するフォーメーションを行っていた。
だがこのとき、狙撃による援護をしていたティアナは、彼女のフェイクシルエットによる幻覚で、本物のティアナはウェンディのライディングボードに、幻覚で姿を消しながらへばりついていのだ。
スバルとノーヴェがクロスレンジによる陽動を行い、その後にウェンディがライディングボードだけをなのはに向かって射出する。
なのはは一度、ライディングボードに意識を向けるが、そこに肝心のウェンディがいないことで、もうライディングボードそのものからは、完全に意識を外してしまった。また、ヴィータの方も、飛びかかってくるウェンディと狙撃の対処に精一杯でそのまま飛んで行ったライディングボードに意識を向ける余裕がなかった。
さらには、ティアナの幻覚はエリアサーチでも本物と区別が付かないほど精巧で、ライディングボードにへばりついていた本人の方も、魔力探知に引っかからないよう、最大限に魔力を抑えていたという徹底ぶりであった。
そこから、カートリッジシステムの最大の利点である『瞬間的かつ爆発的な魔力増幅』を利用して、魔力をほぼ零状態から一気に全開状態まで持っていき、攻撃に移ったのである。
「ありがとうございます、なのはさん・・・」
「こら、なのは!!なに、あっさり引っかかってるんだよ!!」
「そう言う、ヴィータちゃんだって、気が付かなかったじゃない」
「うぐっ!!そうだけど・・・」
「とにかく、今日の訓練はここまでだよ。みんなストレッチしっかりやって、体を休めてね」
「「「「「はい(っス)」」」」」
それから、みんなはシャワーを浴び、昼食を食べるために、食堂に来ていた。
「いやー。にしても、今回のティアの作戦、がっちりハマってよかったね」
相変わらずの山盛りパスタを食べながら、スバルが話しかける。
「当然でしょ。昨日あんなに打ち合わせして、念入りにシュミレーションを繰り返したんだから」
「そうっスよ。特にあたしのライディングボードとティアナのフェイクシルエットが今回の作戦の肝だったっスからね、ライディングボードを上手くヴィータ副隊長に悟られないようになのは隊長に向かって放つときなんか、冷や汗もんだったっスよー」
「ディエチも今日はお疲れさま。大変だったでしょう?いつもあたしと二人でやっている援護射撃を全部あんたに任せちゃって」
「問題ない。元々あたしは狙撃特化型の戦闘機人。あれくらいの狙撃戦くらいは造作もない」
「相変わらず固いな、ディエチ・・・。それよりもスバル。さっきの模擬戦、いくらあたしとお前の役割が、あくまで陽動とはいえ、なのは隊長にあっさりとやられすぎだろ」
「ひどいよ、ノーヴェ!!これでも、あたしは精一杯がんばっているんだよ!!」
他愛のない会話が続き、少女たちは昼食を嚥下していく。
それは、何処にでもある、平和な光景だった。
しかし・・・。
<ヴィー!!ヴィー!!ヴィー!!>
平和な喧騒をかき消すように、警報ベルが鳴り響く。
「っ!!ティア、これって」
「第1級警戒警報!!みんな急いで作戦会議室へ!!」
「「「「了解(っス)!!」」」」
その頃、作戦会議室では、八神はやてとシャリオ・フィニーノが現状の解析をしていた。
「シャーリー、この警報はなんなんや!?」
「今、分析しています!!・・・・・・出ました。ミッドチルダの次元空港にガジェット・ドローンが出現したそうです!!」
「なんやて!?」
「でも妙なんです。このガジェット・ドローン、機動6課時代と全く変化がないみたいです。外見も性能も2年前のまま、どういうつもりでしょうか?」
「たぶんやけど、挨拶代わりのつもりやろう。以前もスカリエッティは管理局の内情を知っとった。恐らく、自分を逮捕した機動六課のメンバーが再集結したことを知って、挨拶代わりにこの事件を引き起こしたってところやね」
「そんな!!そんなことのために!?」
「とにかく、スクランブルや!!すぐに、スターズとライトニング全部隊に出撃要請を!!私たち特務6課の初陣や!!一人の犠牲者も出したらあかんで!!」
「了解!!」
それからすぐに、次元空港にスターズ、ライトニングの全部隊が出撃した。
2年前と同じようにAMFが張り巡らされていたが、機動6課時代のメンバーはすでにAMF状況下での戦闘には慣れっこだし、AMFの影響を全く受けない戦闘機人も戦闘に参加していたため、今のところは一人も犠牲者を出さずに迅速に対応できていた。彼女らの実力が、この2年間で急激に上昇しているのに対し、ガジェット・ドローンの性能が2年前のままだったということもあり、何事もなく、このまま事件は終息すると思われていた。
だが・・・・・。
「エリオ君!!民間人の子供が!!」
親とはぐれてしまったのか、5、6歳位の女の子がガジェット・ドローンに襲われかけていた。
「まずい!!ストラーダ!!」
<Sonic move>
エリオは瞬時に高速機動の魔法を使い、子供を連れてガジェットの目の前を通り過ぎた。
(良かった。この子は無事だ)
しかし、子供を助けられたことに安堵し、ソニックムーブを解いてしまったのは失敗だった。
次の瞬間、エリオは複数のガジェットに取り囲まれてしまった。
(まずい!!囲まれた!?)
まさしく、四面楚歌。対してエリオは子供を守るために片腕が使えない。まして、エリオの武装は諸手で使う槍である。
連発してソニックムーブを使うことはできない。そして、エリオは敵の攻撃を強固な盾で防御するのではなく、高速機動により回避することを得意としているため、まさしくこの状況は絶体絶命であった。
「エリオ君!!」
キャロの悲痛な叫びがこだまする。
(やられる!!)
エリオは己の死を連想し、せめてこの子だけでも守ろうと、覚悟を決める。
しかし、いつまでたっても、明確な死は訪れなかった。
なぜなら・・・・・・・。
「自分を盾にして子供を守るなんて、さすがッスね」
ウェンディと同じ口調だが、明らかに違う声がエリオの耳に響く。
「でも、肝心のあんたが生き残らないと、意味ないッスよ」
ドン!!と大きな音が響き、目の前のガジェットがまるでボールのように吹き飛ぶ。
(一体、何が?)
「大丈夫ッスか?」
「あ、ありがとうございます」
目の前には自分と同じくらいの歳の少年が立っていた。
短めの黒髪、黒い瞳、少し浅黒い肌、ラフなTシャツ姿から見える、華奢な体型に見えて、しっかりと引き締められた肉体から相当鍛えられていることがうかがえる。
「あの、あなたはいったい?」
「話は後ッス、今はこの状況を切り抜けるのが先ッス」
「っ!!そうだね、悪いけど協力してもらうよ」
「もちろんッス・・・来るッスよ!!」
襲いかかってくる攻撃を回避し、せまりくるガジェットを迎撃する。
最初、エリオは子供を守っていたため、迎撃はほとんど謎の少年にまかせっきりだった。
「めんどくさいッスね!!レールフロア!!」
少年の魔法が発動すると、少年を中心に白色の床が広がっていく。
(スバルさんの魔法やノーヴェさんのISに似ている?)
エリオがそう思った矢先、信じられない光景が目の前に広がる。
今まで目の前にいたはずの少年の姿が掻き消え、次々とガジェットが破壊されていったのである。
「は、早い!!ソニックムーブを使っているときの僕と同じくらい早い!!」
だが、ここで一つの疑問が生まれる。
(でも、フェイトさんの真ソニックフォームは別として、ソニックムーブのような高速機動魔法は瞬間的にしか効果が持続しないはず!!なのに、この人は間違いなく10秒以上高速機動を続けている!!)
疑問が生まれるが、今はそれを追求しているときではない。
「キャロ、この子を頼む」
「うん!!任せて、エリオ君」
民間人の子供をキャロに預け、エリオは少年の戦いに参加する。
そこから先は一方的な展開だった。
全てのガジェットが破壊され、なんとか戦いを乗り切った3人は一息ついていた。
やがて、はやてたち隊長陣と合流し、エリオから事情を説明される。
「そうですか。民間人の事件解決の協力、感謝します。お礼がしたいんで、私たちと共に付いて来てくれますか?」
「いいッスよ。元々オイラはあんたに用があって、ミッドに来たッスからね」
「私に?」
「はいッス。八神はやて総部隊長。オイラを特務6課に入れてほしいッス!!」
「え?いくら事件解決に協力してくれたとは言え、いきなりそう言うわけには・・・」
「ここに推薦状があるッスよ」
「推薦状?」
「これッス」
そう言って、少年は懐から封筒を取り出し、はやてに渡す。
「どれどれ・・・・・・・・・・・ええっ!?嘘っ!?」
「「どうしたの?はやて(ちゃん)」」
なのはとフェイトの声が重なる。
「見て、なのはちゃん、フェイトちゃん。この推薦状、ユーノ君のや!!」
「っ!?」
「嘘、本当に?」
この2年間、必死に探し求め、ついに聞くことの叶わなかった名前を聞かされ、なのはは絶句し、フェイトは我が耳を疑う。また、この話を聞いていた、他のメンバーも突然のユーノの名前に驚きを隠せない。
実はフォアード陣やナンバーズたちもユーノとは面識があり、結構親しい仲だったのだ。
スバルとティアナ。
なのはによる紹介により知り合い、将来の夢に向けての勉強のため、無限書庫を利用するうちに、彼に勉強を見てもらっていた。
エリオとキャロ。
フェイトに引き取られたばかりの頃に紹介され、本を読み聞かせてもらったり、面白い話を聞かせもらったりしていた。
ルーテシアとナンバーズ
更生プログラムの受講中、ギンガにより紹介され、何かと外の世界について教えてもらっていた。
「君!!ユーノ君が何処にいるのか知ってるの!?」
「落ち着きい、なのはちゃん!!」
今にも少年に掴み掛かりそうななのはを抑え、はやては少年に尋ねる。
「教えて欲しいんやけど。君は一体何者や?」
「オイラの名前はユウって言うッス。ユーノ・スクライアの弟子ッスよ」
こうして物語は動き出す。
とある次元船のとある部屋で二人の男性が話していた。
「首尾よく。ユウは特務6課と合流したようだな。全ては君の計画通りと言うわけか、トラファルガー」
「まあね、ジョーカー」
一人は紫の髪に白衣をまとい、その瞳に狂気を宿したマッドサイエンティスト。対して、もう一人は長い蜂蜜色の髪に緑のヘアバンドを、額を隠すように巻き、ラフなTシャツとジーンズの格好である。
そう、ジョーカーと呼ばれた男は、1年半前に軌道拘置所を脱獄した脱獄犯、ジェイル・スカリエッティ。そして、トラファルガーと呼ばれた男は、何を隠そう、彼の幼馴染が必死に探している、ユーノ・スクライアその人である。
トレードマークだった眼鏡とリボンを外し、優しかった目つきも鋭くなり、眼の下には濃い隈ができていたが(隈は管理局にいた頃からあったが)、間違いなくユーノ本人である。
「それじゃあ。僕たちは次の行動を開始するとしよう、ジョーカー」
なぜ、彼がスカリエッティと行動を共にしているのか?
なぜ、彼がトラファルガーと呼ばれているのか?
彼とユウの関係とは?
彼の企てている計画とは?
全ては謎に包まれたまま、物語は加速する
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全ては、彼女のために」
小さすぎる彼のそのつぶやきは、誰にも聞きとられることはなかった。
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