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熱い手

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第三章


第三章

「あのドラマみたいに。駄目かしら」
「あのドラマみたいにっていうと」
 ここで直樹はそのドラマのことをまた気付くのだった。気付くと話はさらに動いた。
「不治の病になるってこと?」
「違うわよ、そんなことじゃなくて」
 それは苦笑いで否定するのだった。
「ほら、ああしたふうに。一途にって」
「一途にっていうと」
 郁美の言葉に直樹は首を傾げるのだった。
「それってつまり」
「つまり。そうよ」 
 ここぞとばかりに直樹に言う。
「例えば。手を握ってね」
「手を握るの」
「駄目かしら」
 自分と同じ位の背丈の男の子を見て問う。彼女の目線が丁度彼の目線の位置だった。やはり二人の背丈は同じ位だった。直樹の方が華奢であるが。
「それは。やっぱり」
「いや、いいよ」
 しかしここで彼は言う。郁美にそっと。
「悪いって言うわけないじゃない。郁美ちゃんの御願いなのに」
「有り難う」
「それでどうするの?」
 具体的に何をするのかを郁美に対して尋ねた。
「あのドラマみたいにっていうと」
「手・・・・・・握ってくれるかしら」
 そっと直樹に囁いた。
「私の手。握ってくれる?」
「いいよ」
 微笑んで郁美に答えた。
「じゃあ。握ろう」
「握ってくれるのね」
 直樹の言葉だけで幸せな気分になる郁美だった。
「有り難う。私が我儘言ってるのに」
「だから。郁美ちゃんの頼みじゃない」106
 このことをまた郁美本人に伝える。
「だから。いいよ」
「私だからいいのね」
「うん」
 にこりと笑っての言葉であった。
「そうだよ。郁美ちゃんだからね」
「どうして私だといいのよ」
「それはね」
 だがここで直樹は。照れ臭そうに笑って沈黙したのであった。
「何て言うかな。ちょっとね」
「ちょっと?」
「言ってもいいかな」
 その照れ臭そうな笑みのままで郁美にまた言う。
「これって。怒らないよね」
「ええ、怒らないわ」 
 そのことを直樹に強く約束した。
「だから言って。どうしてなの?」
「好きだから」
 この言葉を言った瞬間に顔を真っ赤にさせる直樹であった。
「郁美ちゃんのことが好きだから。だからね」
「だからいいのね」
「うん」 
 真っ赤な顔でこくりと頷く。
「そうだよ。郁美ちゃんが好きだからね」
「そうなの。私が好きだから」
「だから手だって何だって」
 こうまで言うのであった。
「いいよ。好きなだけ握って」
「・・・・・・ありがと」
 郁美もまた顔を赤くさせていた。その赤くなった顔で直樹に告げた。
「そう言ってもらえたら」
「僕もあのドラマ観てるし」
 これは彼も同じだったのだった。
「それにね」
「まだ。何かあるのね」
「そうだよ。郁美ちゃんも僕のこと好きだよね」
 何とこのことを彼女に直接尋ねてきたのだ。これは郁美にとっては驚くべきことだったl。
「それは。その」
「さっきあのドラマみたいにって言ったじゃない」
 ここぞといった感じで出してきた話であった。
「だからだって。それで」
「あのドラマみたいに」
「僕は郁美ちゃんのことが好きで」 
 またこのことを話す。
「郁美ちゃんは僕のことどうなの?」
「私が直樹君のことを」
「そうだよ。どうなのかな」
 多少くどいまでに尋ねてきた。
「僕のこと。どうなの?」
「あのドラマは相思相愛よね」
 俯いてやはり彼女も顔が真っ赤になっていた。直樹と同じように。
「何があっても。一緒よね」
「うん、本当に不治の病になってもね」
 だから人気のドラマになっているのだ。オーソドックスなストーリーであってもだ。それでもそこに想いがあれば人はそこに己の心を移入できるのだから。
「一緒だよね」
「私。まだ小学生だけれど」
 やはり顔は真っ赤なままであった。
「それでも。あのドラマ大好きだから」
「それで僕のこともなんだね」
「・・・・・・ええ」
 顔がさらに赤く、これ以上はないというまで赤くなってこくりと頷いた。もうそこに偽りはなかった。あるのは心からの真実の言葉だけであった。
「あのドラマ抜きにしても。私は直樹君が」
「そうなの。僕と同じだね」
「おかしいわよね。私達まだ」
 ここで郁美は自分達のことを振り返った。そのうえでの言葉だった。
 
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