熱い手
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第二章
第二章
「シチュエーションは様々よね」
ちらりと教室のある場所を見た。
「別に私が不治の病じゃなくても男の子みたいなところがあってもね」
「やっぱりおかしいかしら」
「そうかも」
皆やはりおかしなところがある今日の郁美を見て言うのだった。この日の放課後。一人下校する郁美の前にある男の子が待っていた。背は彼女と同じ位であるが線は女の子である彼女よりも細く色白で繊細そうな少年だ。俯き気味の顔は頼りなげだが奇麗なものだ。だがその奇麗さは女の子のもので男の子のものではなかった。むしろ郁美よりも女の子らしい顔立ちの男の子であった。その彼が郁美の前に壁に背をもたれさせて立っていたのだ。
「待っていたのね」
「うん」
男の子は郁美の顔を見てこくりと頷いてきた。
「少しね」
「少しってどれ位?」
「少し前に来たばかりだよ」
優しげな笑みを浮かべての言葉であった。
「だって。クラスが同じじゃない」
「ふふふ、そうね」
彼の言葉を聞いてにこやかに微笑む郁美だった。
「けれどクラスの皆には内緒よ」
「うん、わかってるよ
彼も自分の笑みで郁美に返した。
「それは気をつけてるから」
「お互い気をつけましょうね」
郁美はこのことを念押ししてきた。
「見つかったら。やっぱりね」
「困るよね」
「そういうことよ。クラスの皆には内緒よ」
顔が少し厳しいものになる。
「二人だけの秘密なんだから、これは」
「そうだね。二人だけの秘密だよね」
「直樹君」
郁美はここで彼の名前を呼んだ。
「けれどそれでいいわよね」
そっと彼の側に来て怪訝そうな顔で彼に問うた。
「秘密で。それでいいわよね」
「僕はそれでいいよ」
直樹も直樹で郁美のその言葉を受けて微笑んで頷く。
「六年二組新山直樹」
「何でそこで名前が出るの?」
「僕ってあまり存在感ないじゃない」
自分ではそう思っているようだった。
「だからさ。時々こうやって言わないと。郁美ちゃんにも覚えてもらえそうにないし」
「覚えてるわよ、っていうか絶対に忘れないわ」
歩きだした。歩きながら直樹に対して告げる。
「直樹君のことはね」
「有り難う。それでね」
「それで。何?」
「皆には見つかっていないよね」
今度は彼の方からこのことを尋ねたのだった。
「ここまで来るのに」
「大丈夫よ。それどころか皆気付いてもいないわ」
このことはしっかりと保障するのだった。
「気付かせてたまるものですか」
「僕も。郁美ちゃんがそう言ってくれるのなら」
「合わせてくれるのね。有り難う」
直樹の言葉にまた頷く。
「それじゃあ。行きましょう」
「うん」
本格的に歩きはじめる。二人だけのささやかなデートだ。郁美はそこで何故かやけにそわそわしていた。直樹もそのことに気付くのだった。
「ねえ郁美ちゃん」
「何?」
「何か待ってるの?」
そわそわした郁美を見て問うのだった。
「ひょっとして。何?」
「あのね」
ここで郁美は。彼にも昨日のドラマのことを言うのだった。
「ほら、今月曜の九時からやってるドラマあるじゃない」
「ええ、あれね」
そのドラマのことは直樹も知っているようだった。気付いてまた郁美の言葉に頷くのだった。
「あのドラマね。かなり面白いよね」
「あのドラマ観てるとね。何か」
郁美は少し恥ずかしそうに直樹に言葉を続ける。
「あの。少し」
「少し?」
「真似しておこうかしらって思って」
そのことを直樹にも言うのだった。
「それでね。よかったら」
「うん」
「少し真似してみようと思ってるのよ」
やはり恥ずかしそうに直樹に対して言う。
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