滅ぼせし“振動”の力を持って
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彼の失敗
前書き
グラグラの実ってマケンで例えれば、攻撃力や効果範囲がクソ高くて、他の項目もCは無さそうですよね。
いやはや・・・どんだけ反則な力なのか・・・。劇中でのエース救出で全力出せない状況といい、エドワード・ニューゲートが傷を負った上に衰えていた事といい、演出がちょっと残念だった事といい・・・もっと派手に活躍して欲しかった力です。
ゼハハのティーチに期待ですかね。
「ありえねえ・・・ってか納得いかねぇ」
昨日来たばかりの学園長室に再び呼び出された海童とイナホは、ヘアバンドを付けた髪色の薄い男性の言葉を聞き、しかし何の言葉も返さず黙っている。
代わりに反したのは、三人とは違いソファーに座らず机の傍に立っていた、ジャージ姿の実だった。
「残念ながらマジもんの事実よ、玄。納得いかなくてもね」
「けどな!」
玄と呼ばれた男性が、本当に納得いかないといった表情で魔検を軽く叩き、抗議の言葉を実へ掛ける。
「製作当初が十年前とは言え、この魔検『ケロンボ』は超が三つ付く程の自信作! 後から作ったどの素因測定機よりも優秀なんだぜ!?」
「廃材で作ったのに?」
「天才は材料をえらばねえのよ! それに、今まではおろか今年だって殆どの生徒は測定できたろうが!」
十年前製作で、しかも廃材で作り上げたもので今まで全ての生徒のエレメントを測ってこれたのなら、確かに天才的で且つ優秀だと分かる・・・が、それでも事実は事実、測定不能者は出てしまっているだ。
「しっかしなんでまた今年に限って三人も出やがるんだか・・・コンニャロ」
「イナホちゃんは元々魔拳持ち、もう一人はアソコから来た奴だからと納得できるとして・・・問題は最後の一人、海童なのよね・・・」
いやに真剣な様子で悩む二人を疑問に思ったか、海童が訝しげな顔で軽く手を上げる。
「すいませんが・・・エレメント特性ってのを判断できないのは問題なんですか?」
「問題中の大問題だ!」
「超が付くぐらい問題よ!」
「うおっ!?」
振り向きざまの異口同音を喰らって面喰らってしまう海童。まさかここまで真剣に帰されるとは思っていなかったので、ただ大声を出されるよりもビックリしている。
「それこそ当たり前なぐらい問題に決まってるだろ! 何せ、俺のマケン鍛冶師としての・・・天才としてのプライドが問だふぐっ!?」
「はいはい、アンタのプライドはどーでもいいから。それよりも、もっと問題な事があるでしょ・・・少し毛色が違うけどさ」
己の問題で納得が行っていなかったらしい玄の口を塞いで強制的に黙らせ、実が少しばかり困った表情で説明し始めた。
「まず最初にマケンを持っていないって事は、イコール授業から遅れるってことだが・・・エレメント関連は兎も角、実技なら何とかなるだろ・・・・・次に、入学式で君がいきなりやらかしたのは勿論覚えているよな?」
「ええ、自分事ですから」
「実はな・・・他の生徒にはお前の力は、絶大な破壊力を持つマケンだと説明して、無理やり納得させてるんだけど・・・在校生には訝しがられるだろうし、新入生も時間が経てば怪しむだろうってのは明白なのよ。何せあんなバカでかい破壊を起こしておいて、なのにエレメント皆無だからね」
「・・・」
「内蔵型マケンと誤魔化すにも限界があるし、特性をすぐに判明して何でもいいから埋め込まないと」
たった一発で何人も吹き飛ばす力なのに、エレメントが無いなど天日学園の者達からしてみれば “異質” 以外の何でもない。
実の言葉へ更に付け加えるならば、そこまでの破壊力を持ってしてまだ扱いが未熟+成長途上だという事実もある。
「それにね、もっと困るのは自衛なのよ。この学園、天日学園は生徒の学園・・・それを実現する為に自由な校風を大切にしている・・・んだけど、その所為でトラブルが絶えないって訳。マケン絡みのイザコザや『決闘』もしょっちゅう起こるしね」
「プはっ! ・・・息の根止める気かお前は!?」
如何やら今口へふたされていた事から解放されたらしい玄は息を荒くして実に抗議する。すまんすまんといった感じで手を振る実へ、今度はイナホが元気良く手と声を上げた。
「ハイハーイ! 『決闘』はお互いの同意が無ければ執行不可能だと聞きました! だから、断ればいいのではないですか?」
「・・・いや、決闘はそれでいいだろうが・・・世の中決闘で済ませてくれる奴ばかりじゃないだろ」
「お、意外と鋭いな、その通りだ海童。力を持てばそれがたとえ戦闘向きであろうとなかろうと、派手だろうと地味であろうと、やっぱり使いたくなるのが人の性。決闘無し襲ってくる輩も居るのよね」
実はそこで一呼吸置き、笑顔から再び真剣な表情へと戻して話しだす。
「まあ、お前のその『力』なら撃退なんて容易だろうが・・・同時にその破壊力から、襲った者は勿論見ていた者達からも避けられてしまう結果を生むかもしれない」
「・・・! 確かに・・・」
「私たちだって孤立する生徒を作りたくないしな」
「なるほど、だから海童様の特性が判断できないのは問題なのですね」
先程も言ったが海童は身体能力、特殊能力共にまだまだ未熟で、特に特殊能力はスタートラインに立ったばかり。
そんな状態でトラブルに対応すれば、未熟な為に思わぬ事件を引き起こす可能性もある。そうなれば後からどれだけ力をコントロール出来るようになろうと、植えつけられたイメージを払拭して塗り替えるのは困難だ。
「玄! ・・・この子のマケン、どれぐらいで作れる?」
「データは揃ってんだ、一か月もあれば充分。天才をなめんなよ!」
「・・・まあ、0スタートからだから1か月は結構速いけど・・・でも一か月かぁ・・・」
「う、評価されてっから突っ込みにくい・・・!?」
微妙な表情となる玄は頭を掻きながらどうしたもんかと首を捻っている。そんな玄を苦笑して見た後、実は海童へ振り向いた。
「と、言う訳だ・・・時間にして一か月、加減するなり逃げるなりして、何とかしのぎきってくれ」
「は、はい。分かりました」
「では・・・失礼しました!」
学園長室から海童とイナホが出て行ってから、玄はソファーから立ちあがり煙草をベルトに付いたポーチから取り出す。
そこからすぐには取り出さず、懐かしげな表情で呟いた。
「あいつが先生の息子か・・・体格もそうだが、何より目元がそっくりだぜ。そんで、隣にいた子が例の『カムド』使いか」
「ああ」
「・・・実よ、俺はな・・・今でもマケンの原型たる八マケンを超えるつもりだぜ。そろそろ模造品なんざ言えなくしてやるってな」
「へえ・・・例え、『神が造った物』だとしても?」
「おうよ」
言いながら煙草を口に咥えた玄の方を向き、実が彼への確かな信頼感を感じさせる笑みを浮かべる。
「頼むよ玄。・・・あ、そうだ」
「なんだ?」
「ここは禁煙だ。やるなら加えるだけにしな?」
そう言って実が口に咥えたパイプの様な物を叩くのを見て、玄は忘れていたぜと肩をすくめた。
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身体測定から数日後。
午前中だけの授業や、エレメントについてのさわりだけ教えてもらい、午後は部活を見て回るようにと組まれた日程の中で、天日学園新入生たちは動いていた。
自由な校風とは言えども、部活は強制的にはいらなければいけないので、このような時間を設けているのだ。
・・・が、破壊にしか使えず手探りで能力を操っているにすぎない海童は、どの部活にも入れず―――というよりも、手から火を出したり力を纏わせて矢を放ったりと、入れたものでは無かったが―――彼に付いて回っているイナホと共に、今日も部活体験を終えたものの何処に入るかを決めなかった。
そんな彼等は今、傍に植木のあるベンチで一息ついている所だった。
(・・・各々、エレメントやマケンの特性を生かした部活に入っているみたいなんだが・・・俺の力じゃあなぁ)
軽く肩を落とした海童は、ふと隣でソフトクリームをなめながら座っているイナホを見て、聞きたい事が出来たのか顔を上げて口を開く。
「なあ、イナホ・・・入る部活、決めたのか?」
「私は海童様と同じ部活に入りますです。だから、海童様が決めてください」
「・・・そうか」
イナホの笑顔に少し気が和らいだか、海童も軽く笑んで猫背だった姿勢を戻す。そして、もう一つ聞きたい事があるのか、ソフトクリームを食べ終わるのを待ってから、質問を切り出した。
「前から聞きたかったんだが・・・」
「なんです?」
「お前は、俺を守るだの許嫁だの言っていたが・・・何処かで会ったのか?」
「・・・覚えて、いないんですか?」
「・・・?」
淋しそうな表情をし、次いで顔を伏せたイナホを見て疑問に思った海童は、必死に自分の記憶を探るがやはり出て来ない。
そんな海童へ、イナホは顔を上げると先程とは一転し、ちょっと濃悪魔的な笑みを浮かべた。
「なら・・・思い出すまで秘密です♡」
「・・・はい?」
「ちゃんと思いだしてくださいね、海童様」
過去に何かあったのは間違いない・・・しかし何があったか思い出せない。
必死に首を捻って考える彼は、頬に当てられた布の感触で顔を上げた。そこには、包を二つ持った春恋が立っていた。
「・・・ハル姉か」
「ほら、お弁当。慌ただしかったから、今朝忘れて行ったでしょ。しかも二人とも」
「あはは、すいませんハルコ先輩」
「すまん」
「ところで、二人は如何して・・・あれ?」
と、地面に落ちた部活動の新入生募集広告が、春恋の眼にはいる。それから弁当を食べながら、海童とイナホの二人は入る部活が決まらないという現状を伝えた。
「ふ~ん部活かぁ・・・でも確かに、身体能力アップするけど気絶しちゃうマケンと、マケンでも無い破壊力抜群の謎の力じゃ、どの部活にも入りきれないよね」
「ああ、身体能力だけじゃ限界があるし、エレメントの授業もまださわりだけ・・・だからどうも決まらなくてな」
海童の言葉を受けて暫く考えていた春恋は、はっと何かを思い出したように口に当てていた指を放し、海童の方を向く。
「なら、検警部なんてのはどうかな」
「けんけいぶ、ですか?」
「聞いた事無いが・・・どんな部活なんだ?」
「簡単に言うと天日の警邏部隊みたいなものだけど・・・それだけじゃ分かりにくいだろうし、もうちょっと詳しく説明するわ」
一つ咳払いをして切り替えてから、春恋は指を立てて説明を開始した。
「天日学園には統生会っていって、事件や事故の解決に奮闘する人達が集まる会があるんだけど・・・もう知っての通り、トラブルが多いから統生会では対処しきれない事態が起きる事もあるの。それをサポートするのが検警部ってところかな。一応、魔導執行部っていう統生会を補佐する役割を持つ部もあるから、それの補佐も活動に含まれているの」
ちらと海童が横を見ると、イナホが説明に付いていけないのか眼を回しているのが目に入った。
大丈夫なんだろうかと思いつつも、まだ説明は終わっていないので一旦目線を外して、再び春恋の方へ戻す。
「トラブルは近年まで減っていたんだけどね、共学化した今年からは増加傾向となるだろうと予測して、私を部長に本格的な活動を再開する事にしたの。・・・ちなみに、魔導執行部と検警部を合わせて魔導検警機構とも呼ばれるけど、長いからって皆は『マケンキ』と呼んでるわ」
「・・・なるほどな、説明有難う」
その後、もうちょっと簡単に(天日の平和を守る人達云々という話しで)イナホに伝え、他に入れそうな部活も無いしそれにしようかと海童が思った・・・その瞬間。
「ぷはあっ!! ・・・へっへっへ! 何やら面白そうな話、たっぷり聞かせてもらったぜ!」
何時から居たのか、植木から男子生徒が勢いよく飛び出して来た。何処かで見た事があると海童は記憶を探り・・・思い出す。
「ああ、お前は同じクラスの・・・碓だったか」
「え? クラスメイトなの?」
「私は覚えていませんけど、海童様が覚えているなら覚えている事にします!」
「いや、イナホちゃん? それじゃ覚えてないと同義だって」
律儀に言葉と動作でイナホへ突っ込みを入れた男子生徒・碓は、植木から出て改めましてといった感じで、無駄にさわやかな笑顔で握手のつもりか手を差し出した。
「どうも、始めまして。統生会副会長、天谷春恋さん。自分は、一年生の碓健悟といいます。以後お見知りおき・・・をっ!?」
しかし、ワキワキと動いていた指の動きから察するに、どうやら春恋の胸へ手を伸ばそうとしていたらしい。
・・・その手が胸に届く前に、海童が掴んで止めた。
「・・・」ギロリ
「うおっ・・・は、ははは・・・」
腕を強く掴まれ睨まれた碓は、諦めて一歩引く。何やっているんだかと溜息を吐く海童だが、周りの二人は何がなんだかちょっと分かっていない様子。
ともかく、改めて自己紹介をしようと、碓がちょっと身成りを正す。
「ハルコせんぱーい!大変ですーっ!!」
すると・・・遠くから、女子生徒の声が聞こえてきた。サイドテールに小さく括った髪を持つ少女、うるちだ。
流石に態と近付いて海童を跳ね飛ばす何て真似はせず、斬らせていた息をある程度整えてから、慌てて駆け寄ってきた理由を話す。
「どうしたのうるちさん?」
「それが・・・校門前で、決闘が行われようとしていまして」
「ホント? ならすぐに行かなくちゃね・・・姫神さん!! マケンキとしての仕事、お願いしてもよろしいでしょうか!」
唐突に上を向いて春恋は気に向かい声を上げる。その木の太い枝の上に寝転がっていたコダマが、呼んでいた漫画を閉じて溜息を吐いた。
「はぁ・・・楽できるからとこの部に入ったんじゃがの・・・如何やら楽出来そうもないな」
「え? コ、コダマ先輩もマケンキのメンバーなんですか!?」
「そうじゃ」
「うわぁ・・・よし決めた、俺も入ろ!!」
「幾分か不純な理由だな、オイ」
では早速校門前へ・・・と、歩き出した一同とは逆の方向へ海童は歩いて行く。
「あれ? 海童様は行かないんですか?」
「おう、ちょっと野暮用があってな・・・一人にさせてくれ」
「あ・・・はい! 分かりました!」
食い下がらず素直にうなずいたイナホを見送り、海同派野望用を済ませる為歩き出した。・・・先程見送る際に、うるちが勝ち誇っている様な顔をしていたのが気に障ったが、気にしても仕方が無いと頭を振った。
海童が向かった先、それは校門以外の出入り口から行ける、学園近くのちょっと開けた場所だった。
当然の事ながら誰もおらず、背の高い草や近くに木々もあり、海童の姿すら見づらい。
「さてと・・・やるとするか」
ガツンと拳を撃ちつけて、海童は静かに深呼吸を繰り返した。
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所変わって校門前。
数多の生徒が集まって賑わい、集団はちょうど円になる様な形をを作っており、その中心に決闘を行うべき立っている二人が居た。
「ほ、ほんとうだな? オイが勝ったなら恋人になってくれるゆうんは・・・」
「ああ、私に勝てたらな。けどソッチが負けたなら金輪際近づくなよ?」
片方は番長とでも呼べそうなスタイルの、切り込みの入り穴のあいた帽子をかぶっている大きな体躯を持つ男子生徒。
もう片方は、入学式でガレット相手に勝利したが、ちょっとした隠しごとがばれてしまった、魔腱使いのアズキだった。
「全く・・・またですかアズキさん」
「お、副会長。まあいいじゃねぇか、下級生の面倒見るのも上級生の役目だろ」
「それじゃあ、お願いします」
「うむ・・・両者賭ける魂は決まっておるな?」
「オス!」
「ああ!」
両者の合意を確認して、コダマは一歩前に出て片手を軽く前に出した。
「ではこれより決闘の儀を執り行う。―――――ここに対なす二つの流れ、二つの道は交わらん。己が道を開く為、己が証を立てる為、魂賭して天日に示せ。・・・日の子の道を!」
「「天に契んで!!」」
言葉と共に拳をぶつけあわせ、男子生徒とアズキは距離を取った。途端、男子生徒は驚愕の声を上げる。
「構えもとっとらんだと!?」
「私が本気出したらすぐ終わっちまうし、新入生に気張ってても仕方ねえしマケン無しでやってやる。来いよ」
「フ・・・そう言った気の強い所がオイも惚れた魅力・・・が、後悔すっぞ!」
そのまま掴みかかる様に両手を叩きつけてきた男子生徒の攻撃をかわし、がら空きになった顔面へ蹴りを叩き込んだ。
勝負は決まったか・・・いや、そう簡単にはいかない。
「痛っ!? (堅ぇ・・・!?)」
「これがオイのマケン・・・頑ななり! 魔堅『フルメタル』!! オオっ!!」
「くっ!」
男子生徒の一撃でアズキの服前面が切り裂かれ、碓他の男子達が歓声あげた。それを冷ややかな目で見ながらも、コダマは感心した声を戦っている男子生徒へ向ける。
「中々やるのぉ。入学したてで部分硬質化が出来るとは」
「部分硬質化・・・ですか?」
「ええ。魔堅は体を鉄の如く堅くできるんだけど、普通にそれをやっちゃうと体中固まって動けなくなるの」
「それを補う為に、インパクト部分のみなど的に接する所を堅くするのが部分硬質化じゃ。入学して早々できる者など、そうはおらんぞ」
なる程。春恋達の言うとおり、蹴られた部分や地面をたたいた部分から、時折鉄の様な効果音が響いてきている。体術はまだまだ未熟だが、鍛えて行けばかなり強くなれるだろう。
防戦一方だったアズキは大きく距離を取るといきなり立ち止まり、コダマの方へ困ったような表情を向けた。
「立会人! 賭けるものの変更いいか!?」
「・・・何に変えるんじゃ?」
「近づくなから、制服代とインナー代全額弁償に!」
「・・・お主は如何じゃ?」
「オイは別に構わんが・・・」
そりゃ、思い人を万が一諦めきれず、しかし近寄れない状況となるよりは、高かろうとも弁償した方がまだマシだ。
男子生徒の即答を聞き、コダマは変更を認めて再度試合開始を宣言した。
「あはは・・・アズキさんらしいというか、なんというか。! あ、そういえばイナホちゃん」
「なんですか? ハルコ先輩」
「カッち―――じゃなくて海童君は何処に行ったの?」
「それが・・・野暮用があるとしか教えてくれなかったので」
「・・・そう」
野暮用とは一体何だろうか、検警部へ入部しても対応できるように自主トレでもしているのか、それとも・・・まさか好きな子が出来て・・・・!? などと妄想を、春恋は膨らませてしまっていた。
そんな彼女等当然知らないといった感じで、決闘は続けられ状況は変わって行く。
(部分硬質化は厄介だが・・・カウンターで固まって無い部分に蹴りいれりゃ勝てる!)
「どがんした! まだ終いじゃあなかろう!!」
「たりめーだ」
カウンターでの反撃を狙う為、態と細かい攻撃を重ねて誘っていくアズキ。男子生徒は確かに強いが、如何せん入学したてでまだ駆け引きが甘い。案の定誘い込まれて、勝負を決めるべく突っ込んで来た。
「これで・・・決闘は終いだ!!」
(きたな! 今だ!!)
アズキは素早く跳び上がる為、男子生徒はインパクトの踏み込みの為、ほぼ同時に地面を力ず良く踏み、決闘の勝敗がきまる・・・・誰もがそう思った、正にその瞬間。
「う、うおおっ!? なっなんだぁ!?」
「ぐ、じ、地震かコレはぁ!?」
「も、も、ももっ、物凄い揺れてますよぅっ!!」
「ぐぬうっ・・・何が起こっとるいきなり!?」
「先輩ーっ!?」
「うるちさん落ち着いて!」
「震度何ぼだよ、コイツはぁ!?」
地震そのものは数十秒で終わり、揺れている間が短く学園の造りが丈夫な為か、崩れたりする事は無かったものの、生徒の間に不安は走る。
一先ず決闘を済ませる為に、中央で座り込んでいる二人へ向けて、コダマは問いかけた。
「どうする・・・決闘は止めにするか?」
「いや、続ける。あんたは如何だ?」
「勿論、オイも続ける気はある!」
「分かった・・・では、三回目になるが・・・勝負再開!」
「ぬうん!!」
それと同時に男子生徒の連撃が決まり、砕かれた地面から濛々と土煙が立ち込めた。何も見えない視界の中、さすが上級生と言うべきかアズキは全て避けており、猛スピードで飛びあがると男子生徒の頭を掴んだ。
「(ぐ、硬化!)無駄たい! なんばしても!」
「・・・あ~、どいつもこいつも―――口数が多い!!」
「ぐほおっ!?」
顔面に見事な膝蹴りが決まり、男子生徒は仰向けにバタンと倒れ動かなくなる。コダマが確認のために近寄り、手をアズキの方へ掲げた。
「栗傘 塊を戦闘不能と見て・・・勝者! 志那都アズキ!」
「・・・喋ってたら硬質化出来ないだろ、口が。ったく・・・」
先程の地震での静まり返りが嘘の様に歓声を上げる生徒達。栗傘と呼ばれた生徒が多数の生徒に運ばれているのを見るに、彼等は友達なのだろう。
腰に手を当てたアズキは、にしても・・・と呟いてから、独り言の様に口にした。
「さっきの地震はなんだったんだろうな? まあ、自然災害なんてどれもイキナリだけどよ」
「物凄い揺れじゃったから震源は近いのであろうが、それにしてはすぐ終わったしの」
地震の謎が残ったまま春恋とイナホはまずアズキと、途中でうるちとコダマと、最後に友達との約束があったらしい碓と別れて、元のベンチに戻って来ていた。
すると、数分してからそこへ野暮用が終わったらしい海童が返ってきた。・・・何故か、とても気不味そうな顔をして。
「海童様! 野暮用は終わりましたか?」
「・・・ああ」
「凄い地震でしたよね!? 海童様はお怪我はありませんですか?」
「・・・いや、大丈夫だ」
「それにしても不思議な地震だったよね。大きくてすぐ終わって脈絡も無くて」
「・・・」
「あれ? どうかされました、海童様?」
さっきからずっと海童の調子がよくない様に見えたイナホは、覗き込む様な形で海童に心配そうな表情を見せる。春恋も、大丈夫だろうかと少し腰を曲げていた。
暫く黙っていた海童は・・・やがて決心したように口を開いた。
「さっきの、地震だがな・・・」
「はい? ! まさか、本当はお怪我を―――」
「怪我はしてない・・・いいか? 落ち着いて聞けよ?」
「え、ええ・・・何なの一体」
「さっき起きた地震はな・・・その―――――
多分、いや間違い無く・・・“俺の所為”だ」
「「え・・・・?」」
「さっきのは・・・俺が引き起こした地震なんだよ」
「「ええええぇぇぇええええーーー!!??」」
・
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・
遡ること数分前。
野暮用だと開けた場所に出かけていた海童は、自分の力をうまくコントロールできるように特訓していたのだ。
しかし、地面に向かって撃てば地面が粉々に。かといって目の前に撃っても景色が吹き飛ぶ。
(・・・なら空ならば大丈夫じゃないか?)
そう思いたって、ちょっとづつ力を込めながら打ち出していく練習をしていたのだ。
思った通り分かりずらいという弊害があるが、練習そのものは上手くいき景色にも被害を出さなかったのだ。
(おお、成功成功! これならいけるな!)
・・・ここで彼は、大失敗を犯す。
空中なら大丈夫だろうと調子に乗った海童は、入学式以上の力を込めて虚空へ全力で拳を叩きつけたのだ。
「うおおおおっ!!!」
空気が爆発し砕け散った様な轟音が響き、直後に膨大な量の衝撃波。力を使う本人だからか海童自身にはさして影響は無かったが、ここから先が問題だった。
衝撃波を受けて彼の周りの地面が襟れたと思った瞬間・・・・
「ぬおおっ!? 地震か!?」
まるで自分を中心にしたかのように、大きな揺れを持つ地震が発生したのだ。揺れはしたものの普通に立っていられた海童だったが・・・すぐに自分が犯した失敗を悟る。
(あの爺さんが言っていた『地震の震源』てのは・・・比喩表現じゃ無かったのかよ・・・!?)
その後、大騒ぎになっているであろう事を確信し、こそこそと天日学園へ戻ってきた、という訳である。
「・・・カッちゃん?」
「・・・ああ」
「バッッッッッッッッッカじゃないのあんた!? 何してんのよぉぉぉぉぉっ!!」
「本当に、ダメダメですよ・・・海童様?」
「うぐっ・・・すいません」
当然の事ながら春恋は大激怒し、イナホも恨めしそうな眼付で海童を睨んでいる。
この日、学園長には説明しておこうと三度目の学園長室来訪を果たした海童は、しつこく愚痴られた後に、怒りが落ち着いてからようやく彼の力の恐ろしさに気がついた春恋とイナホの、驚愕の叫びを聞くのであった。
後書き
能力過信、ダメ。絶対。
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