滅ぼせし“振動”の力を持って
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彼と幼馴染と許嫁
ガラガラと崩れおちる瓦礫の音以外、何も聞こえない程に体育館は静まり返る。
「え? はい?」
思わず呆けた声を出した実だが、彼女のこの呆け様を攻めることなど誰にも出来ないだろう。
新入生に在校生がイロハを教えて終了するだろう・・・皆そう思っていたのに、突如新入生が構えを解いて右腕を振りかぶって叩きつけ、強烈な破壊力を持って体育館をぶっ壊したのだから。
「う、お、おぉ・・・」
それを起こした張本人である海童も驚いていたが、皆の中でも特に驚愕していたのは対戦者であるコダマ。そして幼馴染である春恋だ。
(何じゃこいつは・・・一歩間違えればわしの体が・・・しかもエレメントを感じないじゃと!?)
(なによアレ・・・? あんなの、カッちゃんから聞いた事も無い・・・何なのあの力!?)
驚愕で何もいえず、静まり返っていた体育館。しかし、徐々に落ち着きを取り戻して来たか、ざわめいてきた。
暫くの間ざわめきのみが聞こえ、舞台の上では何も起こさない海童とコダマ。
と、不意にコダマが手を上げた。
「この勝負、わしの負けでよい」
敗北宣言。
それを受けて、実がおとしていたマイクを持ち直す。
『ひ、姫神コダマの棄権により・・・勝者、大山海童!』
勝者宣言がなされ、二人が舞台を降りた後も、一向にざわめきはやむ気配を見せない。破壊跡の下では、教員たちが怪我人が居ないかと走りまわっている。
結局、何とも言えない空気のまま、入学式は終わったのであった。
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当然の事ながら海童は学園長室へ呼び出され、もらった学園案内を見ながら学園長室へと足を運ぶ。
その途上、先程の試合で自分が使った力に付いて、彼は考えていた。
(・・・あの力は一体何なんだ・・・? 絶大な破壊力もだが、何より頭に響いた声が気になる・・・加減しないとダメとかいってたが・・・)
もう聞こえて来ない老人の声に首を傾げ、次いで自分の手を見る。なにがなんだか自分にもよく分かっていないが、辛うじて分かる事は二つだけあった。
海童には、アレほどの破壊を起こせる力がある事。そして老人のまだまだだという言葉から、これ以上の破壊を起こせるという事。
一部と言えどもたった一撃で体育館を破壊する力だ。使い方など間違えれば簡単に人を殺せてしまう。
あの時外れていなければ・・・思い返して身震いしながら、学園長室の前で海童は止まった。
「しつれいします」
やたらフランクな人だと挨拶の時に感じたものの、学園長は学園長。ちゃんと礼儀は持たないと・・・と、当たり前の事だが海童はノックをしてから入った。
「お、来たか」
(俺と戦った人と・・・ハル姉と・・・誰だ?)
中にいたのは学園長の実だけでなくコダマ、そして初対面となるであろう少女が居た。
「さてと、チャチャッと簡潔に言うぞ・・・今回呼んだのは他でも無い。海童、姫神 櫛八。これからお前ら三人には、一緒の部屋に住んでもらう事にした」
「ええっ!?」
「何!?」
その言葉に海童と春恋は身を乗り出すが、他二人は指して文句も無いようだった。何故そんな事にと、驚愕する海童へ、実が笑いながら声をかける。
「どうした? 嬉しくないのか? 美少女二人と同じ部屋だぞ?」
「・・・いや、普通俺は男子と同部屋だと思うのですが・・・」
「そうです! 不純異性交遊ですよこれは!?」
「一緒の部屋に住むぐらいいいじゃないか、別にさ」
自分の力の事での驚愕もあってか余り言い返せない海童だが、春恋は別段そんな事は無く、勢いよくコダマの方を向いた。
「姫神さんは如何なの!? 男の人と一緒の部屋なんて・・・」
「わしは別に気にせん」
「う・・・じゃ、じゃあそこのあなたは!?」
質問を向けられた少女は、にこりと笑って嬉しそうに答える。
「私も問題ありません! 寧ろ、海童様といっしょに慣れて嬉しいです!」
「・・・さま、だ?」
「はい! 会いたかったです、海童様!!」
「うおっ!?」
答えた後にいきなり海童へ抱きついて行く少女に、一同差異はあれどそれなりに驚いた。特に海童は、様などと呼ばれた上にこれなのだから、余計に混乱するだろう。
「決まりだな! それに寮の部屋はもともと三人部屋が多いし、一人で使うなんてご法度だ」
「そ、そんなこと! 寮長である私が許しません!!」
「ほう? けど残念だったなぁ・・・私は学園長だ!!」
「!?」
そう、寮を任されている者とはいえ、流石に頂点に君臨する者の権力には逆らえない。何やらショートしたように春恋は立ちすくむ。
(・・・別に俺も文句は無いが・・・これから暮らしにくそうだ・・・)
自分が何を言おうとも学園長に撥ねのけられそうだと感じた海童は、恐らく櫛八という名字なのであろう少女に抱きつかれたまま、抱きつかれた衝撃で落ちかけていた帽子をかぶり直した。
見た目にはアツアツな、しかし内面的には温度差の激しい抱擁を見ていたコダマは、海堂へ向けた視線を不意に鋭くする。
(奴の途轍もない力といい・・・カグヅチの言うとおり、見極められるまでしばし待つか・・・)
それじゃあ部屋に早速向かってくれ・・・そう言う為に口に加えていたパイプの様な物を外したのとほぼ同時、我慢の限界が来たようにショートから立ち直った春恋が呟く。
「私だって・・・」
「ん? どうした天谷―――」
「私だってっ! カッちゃんと一緒の部屋になりたいんだからぁっ!!」
「・・・フフフ」
「あ・・・!?」
「良いだろう・・・お望み通り“カッちゃん”と同じ部屋にしてあげようじゃないか、天谷副会長」
やっと自分が何を口走ったか分かった春恋だが、実のニヤニヤとした笑みを受けて再びショートしたように顔を真っ赤にして固まってしまう。
今だ自分に抱きついている少女を見た海童は、まだ彼女の名前を正式に聞いていない事を思い出した。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったが・・・」
「あ、はい! ・・・申し遅れました、私は櫛八イナホと申します。今日より海童様の御身をお守りする為に参りました・・・許嫁として♡」
「・・・あ?」
最後の台詞と同時に頬に受けたイナホの接吻で、部屋内には又もや大きな驚愕が走る。特に春恋は、ショートから立ち直って先程とは別の意味で一気に顔を赤くする程に。
「ふ! ふじゅ、ふじゅじゅ、不純ふじゅじゅっ! いせせ異性ここっ交際いいいいー!!」
「落ち着けって副会長、許嫁なら仕方ないだろ。キスぐらいな」
「そう言う事ではありませぇぇぇええぇぇーん!!」
(あーあー・・・ホントやかましいのぉ・・・)
春恋の叫び声は、それこそ校内に響き渡る程だったという。
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四人が騒がしく去って行ったあと、実はドアを見つめ続けて溜息を吐いた。
「それにしても・・・面倒な奴らが入ってきたもんだね、今年は」
その言葉を向けられているのは言わずもがな海童・・・だけでは無い。彼女の持っている資料には、更に二人の姿があった。
その内一人は・・・何と櫛八イナホだった。
「あの時手に出していたのは十中八九マケン・・・だけど、模造品とは違う様だったしなぁ」
そう・・・実は海童の反撃が本当にギリギリなものだった為か、戦いに乱入しようとしていたらしいイナホが、自分の持つ力を手に具現させていたのだ。勿論、その後海童のやりすぎとも言える反撃があった為、立ち止まってしまったのだが。
「一人はアソコから来た奴で、一人は魔拳『カムド』の保持者・・・まあここまでは良いんだけど、本当の問題は・・・大山海童、コイツなんだよな」
それなりに様になっていた構えを見ていた時までは、体格といい運動神経に自信がある奴なのかもしれないと、実はそう思い気楽に見ていた。
が、コダマが接近して後少しで攻撃を当てられる距離に入りかけた瞬間、後ろに拳を振りかぶってあたかも『空間を殴る』が如く拳を叩きつけ、『空気が砕けた様な』轟音が響いた顔と思うと・・・コダマの背後の壁と屋根が砕け散る、体育館のあの惨状が出来上がっていたのだ。
エレメント無し、溜め時間も短い、ただ叩きつけた攻撃でアレだ。ある程度知識不足な新入生なら兎も角、在校生達や先生達にはかなりの衝撃を与えたであろう。
「空間を殴り付けて衝撃波を生み出し、体育館の屋根と壁を粉々にする・・・全く、聞いた事無いよ、エレメントもマケンも無しで、そんな破壊力を持つ力なんて」
これから起こるであろう事を予想してか、実は深く深く・・・本当に深く溜息を吐くのだった。
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入学式も終わり、その翌朝。
美少女三人と一緒になった海童だが、本人立っての希望(と言うよりも自重)により、一人布団を引きロフトで寝る事にしたのだ。
窓から入るやわらかな日差しを受けて、海童は目を覚ました。
・・・が、自分の目の前と腕辺りに、何やらやわらかな感触が存在している事に気が付き、寝ぼけぼやけている目を治す為、グッと目を閉じてから再び目を開いた。
「何っ・・・!?」
そして正体を理解した。
顔にあった感触の正体は、海童の頭を軽く抱えながら目の前で寝ている春恋。目線を動かして腕の方を見ると、海堂の腕を自分の胸の上に載せているイナホの姿があった。
「・・・何でだ」
海童のツッコミは至極当然の物だろう。何せ彼女等は、向こうの扉を隔てた先にある部屋のベッドで寝ている筈なのに、今は此処で寝ているのだから。
それでも何とかこの状況から抜け出す為にまずイナホが抱えている腕を引き抜き、その左手を使って春恋の抱えている手を外す。
次に太ももに挟まれている腕を自由になった上半身を動かして抜くと、少しずつ体を動かして敷布団から出た。
そしてそのまま屈みこんで、息を吸い込むと・・・
「おい!」
「「ひゃっ!?」」
起こす為に怒鳴った。案の定、歌理は跳び上がる様な勢いで、悲鳴を上げて勢いよくとび起きる。
「あ、海童様。お早うございます」
「え、え? あ、えっと・・・お、お早う?」
「お早うじゃねぇよ。寝苦しかったのはお前らの所為かコラ」
男子にとってはかなり幸せな状況なのだが、如何せん寝苦しさの方が先に立っていた海童は二人を睨みつけた。
取りあえず理由は後で説明するとロフトを下り、粗方朝食の準備が終わってもまだ、海童の顔には不満が見えた。・・・いや、元から不満そうな顔をしているのでそう見えるだけ、と言う可能性も拭えないが。
「もう、悪かったってば。昨日は私も寝付けなかったし、なにより海童が一人ロフトだったから心配で・・・」
「俺『は』別に寝付きは悪く無かった。それにロフトだからって寝相で落ちるのはお前ぐらいだ、ハル姉」
「う・・・」
「私は海童様が寂しいかと思いまして」
「俺は全く淋しくないから次は止めてくれ」
目の前でイヤイヤといった感じで手を振る海童の様子は、やっぱり何処か不満げで美少女に囲まれている嬉しさなど余り感じさせない。・・・ひょっとして枯れているのだろうか、高校一年と言うこの歳で。
(あのままだったらちょいと理性が不味かったかもな・・・)
不満なのは感触を誤魔化す為でもあるらしい、欲は結構普通なようだ。
さて、パッパと朝食の準備を進めていく春恋だったが、タマネギに苦戦しながら切っているイナホを横目で見やり、昨日から考えている事が頭に浮かんだ。
(そういえば荷物の搬入とかでバタバタしてて聞けなかったけど・・・許嫁とか、海童の事を知っているとか・・・ちょっと見えたマケンとか、どういう事なんだろう?)
もしや海童と一歩踏み行った関係なのでは・・・・?
気になって仕方なくなった春恋は、タマネギを切り終えたのを見計らって善は急げとイナホに問いかける。
「ねぇイナホちゃん、ちょっといい?」
「はい! 姫神先輩を起こしてくるんですね! 任せてください!」
「あ、うん」
しかし言おうとした直前イナホの元気な返事の押され、疑問は聞く事が出来ずに終わった。起こすだけなのに腕まくりをしながらドアへと歩いて行くイナホは、ゆっくりとドアが向こうから開いた事で歩みを止める。
「朝っぱらから五月蠅いのぉ・・・お主らは」
「オハヨーございます! 先輩!」
「ん? うむ・・・」
自力で起きてきたらしいコダマが、目をこすりながらフラフラと出てきた。イナホはそんな彼女に挨拶したのだが、海童は何故か眼のあたりを手で押さえてそっぽ向いており、春恋は顔を真っ赤にしてあんぐりと言う効果音が似合う程に大口を開けていた。
「姫神さん!? 下! 下!!」
「むぅ・・・む・・・・むむっ?」
何とコダマの格好は、彼女の寝まきはかなり薄い代物で、下にはいている少しばかり似合わない大人な下着が物の見事に透けてしまっている。
未だ寝ぼけているのかすぐに気が付かないコダマだったが、春恋の視線と海童が目を背けていることから、ようやく状況を悟る。
「・・・すぐ着替えてくる」
それだけ言うと、コダマは言葉とは違い慌てた様にドアの向こうへ引っ込んでいった。数分後に着替えてきたコダマの顔は、少し赤くなっている。
「オホン・・・取りあえず、お早う」
「お、お早う姫神さん」
「お早う、ございます先輩・・・」
片手で頭を抱えている形で、海童はがっくりと頭を落としていた。多分、何でこんな事も予想できなかったのか、女と同部屋ならこういう事も起きるだろうに、という後悔からかもしれない。
「ふん」
「痛っ!?」
見られたとはいえ、姫神自身の過失や咄嗟に目をそらした事もあり、頭をバシッと叩かれるだけにとどまった。
やがて料理が出来上がり、食卓には次々と料理が並べられ、春恋とイナホも座ったので四人は朝食取る事にした。
「いただきます」
「いただきまーす!」
「頂きます」
「・・・頂きます」
ちゃんと手を合わせてから料理に手を付け始めた一同。命をもらっているのだから、形だけでも礼儀は大切だ。
先ずに物に手に取った海童は、口に運んで咀嚼し・・・自然と口から声が漏れた。
「うまい・・・」
「でしょ? 寮生活のお陰で昔よりも上達したのよ?」
「ハルコ先輩、お料理とっても上手だったんですよ」
「イナホちゃんが手伝ってくれたおかげもあるわ」
「よかったのぉ、愛しの“カッちゃん”に褒めてもらえての」
「ちょ、ちょっと姫神さん!」
和気あいあいと食事を進める一同だが、海堂が一足先に食べ終わってから衝撃の一言を口にする。
「ところで・・・あの時計は四、五十分遅れてんだが、のんびり食ってて大丈夫か?」
「そうじゃのぉ、のんびり食べておる場合では無いな」
「「えっ?」」
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もう既に殆どの生徒が登校し終えた為か、全く人の通っていない通学路。
そんな静かな道を、慌ただしく通学路を掛けて行く影が四つ存在した。
「くっ・・・何故わしまで・・・!」
「副会長である私が同室になったからには・・・遅刻など言語道断! 絶対に許しません!」
「厳しいな、相変わらず・・・」
「急がないと本当に遅刻しちゃいます!」
まず先頭を走る春恋のすぐ後にコダマ、その後ろに海童とイナホが付いてきている。このまま行けば、四人とも遅刻はせずに済みそうだ。
徐々に締まって行く門の前には、学園長の実がハリセンを構えて立っている。遅刻した生徒には、もれなくハリセンによる一撃が下るであろう。
そんな事は真っ平御免だと、四人同時にラストスパートをかけて門を勢いよく潜った。
「おーし、女子三名に男子一名ギリギリセーフって所だな! 息を整えてさっさと教室行きなよ!」
「ふぅ・・・間に合ったか」
「はい! 間に合いました海童様!」
「ぬぅぅ、別室ならばもう少しゆっくりできたのに・・・」
「さっきも言いましたけど、私が―――――」
「ハルコさん!!」
大きく溜息を吐き、遅刻はせずに済んだかと海童がホッとした矢先、目の前にいた春恋の背後から、厳しい雰囲気をたたえた声が聞こえてきた。
「副会長である貴女が、入学後日早々に遅刻ギリギリで登校とは・・・しかも今日は測定の日、だっ男子の引率もあるというのに・・・」
「あ、アハハ・・・申し訳ありませんですわ、会ちょ―――」
「ブハッ! グクククッ・・・!」
まだですわ増すわ口調に慣れていないからか、海童が入学式の時と同じく噴き出して、多少は抑えているものの傍目には隠さず笑いはじめた。
「・・・この!」
「あだっ!?」
「・・・ではいきましょう。会長」
「え、ええ。と、とにかく急ぎますわよ!」
「ではみなさん、ご機嫌よう」
会長が何やら苦手意識を持った目で海童をみていたが、これはうるちの時とは違い本当に男性が苦手なのだと、彼には理解出来た。恐怖症を持っている人間を睨みつける程、海童も心はせまく無い。
春恋が引きずられるように去って行った後・・・海童は腹を抱えてまだ笑っていた。
「ぐくくくっ・・・クソ似合わん・・・ぐくくっ・・・!」
「幼馴染ならば違和感を持っても仕方なからろうな。それよりさっさと教室へ向かわんと、学園長がそろそろ怒るぞ」
「・・・なら、行くか。櫛八」
「あ・・・私の事はイナホでよろしいですよ?」
「・・・わかった、イナホ・・・行くぞ」
「はい! 行きましょう!」
自分達がこれから学ぶ学園、その教室である1-Bへと着いた海童とイナホは、ドアを走ってきた興奮が残っている為か、海童が少々乱暴に開ける。
「すいません! 遅れました!」
「あら~~、今度から遅れちゃだめですよ~~? でも、これで全員揃った事だし~~、改めて自己紹介しますね~~」
やたらホンワカと間延びした口調の女性は、海童とイナホの席を指差し着席を促す。
「アイツ昨日の・・・?」
「ああ、確か体育館ぶっ壊した奴だ・・・」
「初日でいきなり女同伴かよ・・・」
「可愛いよなあの子・・・」
入学式のときの事件が半分、イナホの事柄が半分のヒソヒソ話しを、気にしていても仕方が無いと受け流して海堂は席に座る。そして彼等が席に着いたのを見計らって、さっきも行ったらしいが再び自己紹介した。
「皆さんお静かに~~。えっとぉ・・・私は~~、このクラスの担任で一年の文学と歴史を担当します~~、雨渡豊華といいます~~。それでこのクラスの副担任が~~・・・」
と、雨渡担任が名前を言いかけた時、海童の時にも負けない程勢いよく引き戸があき、その副担任であるらしい人物が大声を掛けてきた。
「男子諸君!! 喜びに泣け喚け!! この天日学園のアイドル、みの―――」
「では、早速ですが~~」
「スルー!? 副担任で学園長を見事にスルー!?」
その叫びも聞かない事にしたらしい雨渡担任は、今日一番最初に行う事を口にする。
「保健室で身体測定をします~~、勿論男女別々で、最初は女子からです~~~」
(入学早々身体測定か? いきなりだな)
普通、入学してからいきなり最初に身体測定を行う学校は、それこそ少ない方。海童もまだ身体測定は行わないと思っていたので、少しばかり疑問に思った。
実に連れられ廊下へ歩いて行く女子達・・・すると、最後尾にいたイナホが海童の方へ振り向く。
「海童様! では行ってまいります!」
「お、おお・・・」
名指しで様付でそうやって呼びかければ、皆の視線が集まるのは必至。女子からの視線は好奇ばかりなのでよいのだが、男子からの視線は痛い物があった。・・・それでも、視線がすぐ外れるのは、昨日の件があるからだろう。
何度目だろうかと溜息を吐いた・・・その瞬間。
「先生!」
「あら~~? 何ですか碓君~~?」
「ちょ、ちょっと腹が痛くて・・・トイレに行かせてください」
「あらあら~~、まだ時間はありますけど~~、なるべく早く帰ってきてくださいね~~?」
「は、はい・・・」
碓と呼ばれた男子生徒が教室を抜けていく時、海童は確かに見た・・・・・何かを企んでいる目を。
(・・・どうなっても知らんぞ、俺は)
暫く待っていると、女子の測定が終わったのか男性教師が入ってきて、次は男子だと廊下にならばせる。
ふと、何時の間にか帰って来ていたらしい碓の顔を見ると、靴底のような跡が付いていた。
間違いなく、覗きを行って踏みつけられたのだ。
入学して早々に何やってんだと、海童は頭を掻きながら先生について行った。
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「お嬢、どうしたんだこんな場所で」
場所は変わり木の上。
そこからは遠巻きながら1-Bの教室が見え、コダマはそこから何かを見ているらしかった。
カグヅチの言葉を聞いたからか否か、コダマは困惑した声で呟いた。
「感じぬのだ・・・昨日感じた猛りも、血のざわめきも・・・」
「何? 本当かお嬢?」
「うむ・・・あの胸元の紋、見間違う筈など無いのだが・・・」
首を傾げるコダマ。
だが、それもそのはず―――――
今保健室で測定している為短パン以外は着ていない彼の胸には・・・・・紋など何処にも無かったからだ。
コダマが悩んでいるとはつゆ知らず、身長や体重などどの学校でも行う測定を終えて、海童は最後にちょっと変わった測定を行なっていた。
「じゃあ、次のコはこの機械の穴に腕を突っ込んでね」
「はい」
保険医らしい黒髪挑発の美女は、ついつい胸元などに目が行ってしまう程スタイルも抜群であった。・・・が、それよりも海童には気になる事があるらしく、目の前の機械をじっと見ている。
「あら? どうしたのかしら?」
「いや、これで何を測っているのかと・・・」
海童の質問を聞いた保険医の女性教師は、その箱を撫でながら質問に答えた。
「これはね? 貴方達の『マケン』の適性を測っているの。どんな子の質にも合うレプリカは用意しているから安心してね? それで・・・これはそのマケン達との相性を測る、いわば魔検ってとこかしら」
「・・・なるほど」
「でも、おかしいわね・・・普通なら長くても数十秒なのに、幾らなんでも時間がかかりすぎ―――」
不審そうな顔をして機械・・・魔検を覗き込んだ途端、魔検が大きな音を立て始めた。
『判別・・・不能・・・』
「え?」
「は?」
『判別不能!判別不能! コイツに会うマケンなんて存在しねえよチクショーッ!!』
「は、はぁっ・・・!?」
「如何言う事なの・・・!? こんな事学園始まって以来始めてよ・・・!?」
何が起きているか分からないまま、海童は腕を引く事もせずただ突っ立っているままなのだった。
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