戦国異伝
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第百七十九話 集まる者達その十二
「あの将軍がです」
「兵を起こします」
「天海様、崇伝様の働きかけで」
「遂に」
「そうか、幕府もか」
「その時になればです」
「都でも動きがあります」
「ですから殿も」
松永もだというのだ。
「その時になればです」
「動きましょう」
「必ず」
「まあ動くべきと思った時にはな」
松永ははっきりとは答えなかった、今も。
「動くとしよう」
「あの、ですから」
「何故そこではっきりと言われないのですか?」
家臣達はその彼に怪訝な顔になって返した。
「最早時は来ています」
「東西、そして都でも一斉に動くのです」
「それならば中でもです」
「動くべきです」
織田家のその中でもだというのだ。
「外からも中からも動けば」
「如何に織田信長とて、です」
「倒せます」
「あの者であっても」
「そうなるかのう」
松永は家臣達のその言葉にも煮え切らない感じで返す。あくまではっきりと答えようとはしなかった。
「殿でも」
「左様です、間違いなく」
「だからです」
「ここは何としましても」
「間もなく我等も兵を挙げましょう」
「大和において」
「まあそうじゃな」
ここでもこう言うだけの松永だった、そうしてだった。
家臣達にだ、こうも言ったのだった。
「今はな」
「宴に出ますか」
「あの忌まわしい青い衣を着て」
「そのうえであの身の毛のよだつ天主に入り」
「そのうえで」
「そうするとしようぞ」
こう彼等に言うのだった。
「ではよいな」
「仕方ありませぬな」
「我等も形は織田家の家臣です」
「そうですから」
「今は」
「うむ、行くぞ」
家臣達は実際に忌まわしい顔になっている、だが松永は違っていた。彼だけは楽しそうな顔になっている。
それでだ、青の衣と冠織田家のそれを身に着けて言うのだった。
「殿のところに参上するぞ」
「仕方ありませんな」
「それでは」
「うむ、行くぞ」
こう話してだった、彼等は行くのだった。確かに不満そうではあったが。
松永はその安土城に入り天主に向かいながらだ、家臣達に言うのだった。
「心地よいのう」
「この忌まわしい城の中にあっても」
「それでもですな」
「殿ならば」
「うむ、心地よいわ」
実際にそうだというのだ。
「実には」
「それは殿だからです」
「殿お力ならです」
「例えこれだけの結界の中にあっても」
「全く動じられないでしょう」
「跳ね返して」
「わしの力は大したことはない」
だが松永はこう言うのだった。
「全くな」
「いえ、それは違いましょう」
「我等よりも遥かにです」
「殿のお力は強いですから」
「それは」
「そう思うならいいがな。ふむ」
今度は己の青い服を見て言った。
「よいな」
「?何がよいのですか?」
「一体」
「いや、何でもない」
このことは誤魔化した松永だった。
「気にすることはない」
「左様ですか」
「そのことはですか」
「うむ、気にするな」
あくまでこう言うだけだった、今は隠して。
「何でもない故にな」
「ですか、それでは」
「これよりあの者のところに」
「殿のところに参上しようぞ」
松永だけは意気揚々としていた、そのうえで彼もまた信長の前に参上した、そのうえで安土の宴に加わるのだった。
第百七十九話 完
2014・4・19
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