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美しき異形達

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第二十三話 明るい日常その八

「まだ食べるのよ」
「そうだったの」
「そう、お弁当はお肉でもね」
 本当の話である、恐ろしいことに。
「食べるし、雑誌とか捨てても」
「食べるのね」
「食べものは奪ってでも手に入れるから」
「それどんな強盗?」
「強盗は捕まるけれど鹿は捕まらないわよ」
 警察は人間だけを対象にしている組織だ、如何に奈良県といえど奈良県警も鹿を捕まえられる筈がない。
「絶対にね」
「何をしてもなの」
「それでちょっとからかうと」
 鹿達はどうしてくるかというと。
「隙を見せたらね」
「その時になの」
「仕返ししてくるのよ」
「頭いいのね」
「悪い意味でね」
 裕香は奈良県民として事実を語るのだった。
「屈んだり後ろを見せたらね」
「やり返してくるのね」
「頭突きとかでね」
 そうしてくるというのだ。
「だから油断出来ないのよ」
「ううん、そうなのね」
「観光地だから人間に慣れてるしおまけに神様の使いだから」
 つまり神獣である、奈良の然達は。
「大事にされてるというか甘やかされてるから」
「余計に態度大きいのね」
「そうした要素が重なってね」
「奈良の人達は、なのね」
「あそこの鹿好きじゃないのよ」
「そうした理由があったの」
「可愛いと思ってる人はいないわ」
 こうまで言う裕香だった。
「まあ私も奈良公園は数える位しか行ってないけれどね」
「裕香ちゃんのお家は奈良の南の方だったわね」
 菫が裕香にこのことを尋ねた。
「ご実家は」
「そう、平家の隠れ里だっていう話もある位ね」
「山の奥にあって」
「物凄い田舎だったから」
「奈良県でもなのね」
「奈良で開けているのは北の方だけよ」
 奈良市等である。
「精々桜井とか宇陀までで。御所とか王子も結構だけれど」
「南の方は、なのね」
「吉野とか十津川もね」
 そうした場所になると、というのだ。
「もう秘境だから」
「山が多くて」
「もう山が見渡すばかり連なってるから」
 緑の山達がだ、まさに何処までも続いているのが奈良の南だ。それこそ天狗でも狼でもいてもおかしくはない程だ。
「凄いわよ」
「それで裕香ちゃんは」
「ずっといたのよ、そこにね」
「中学校を卒業するまでは」
「もう帰るのも一苦労だから」
「それで夏休みとかもなんだな」
 同じ寮生である薊が言う。
「実家に帰らないんだな」
「家族がいるけれどね」
 それでもだというのだ。
「あんまりにも遠くて」
「しかも、なんだな」
「不便だから」
「水道とかガスはあるよな」
「あるけれどね」
 そうしたものは、というのだ。
「一応よ」
「一応なんだな」
「そう、かなりの僻地だから」
「日本にまだそんな場所あるんだな」
「あるのよ、それが」
 実際に、というのだ。
「だから私実家に帰らないの」
「壮絶だな」
「奈良は北と南で違うから」
「何かイタリアみたいね」
 こう言ったのは菖蒲だった。 
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