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戦国異伝

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第百七十八話 宴会その二

「何があろうともな」
「ですな、絶対に」
「次は」
「あの様な思いはしとうない」
 二度と、いうのだ。
「そうじゃからな」
「ですな。では」
「次は」
「勝つ」
 強い口調での言葉だった。
「次こそはな」
「はい、では」
「武田はですな」
「武田は強いが」
 しかし、というのだ。
「負ける訳にはいかぬ」
「若しまた敗れれば」
「我が徳川の武門が立ちませぬな」
「最早」
「それでは」
「そうじゃ、だからな」
 それでだというのだ。
「今度は必ず勝つ」
「しかし殿」
 ここでだった、酒井が家康に難しい顔で言った。その言うことはというと。
「厄介なことがありますが」
「我等の力ではじゃな」
「はい、力が足りませぬ」
 武田と戦うだけの、というのだ。
「我等は五十万石、それに対して武田は二百四十万石」
「違い過ぎるな」
「また織田殿のお力を借りることになりますな」
「むしろ織田殿とな」
「武田の戦ですな」
「そうなるのが実際か」
「残念ですが」
 酒井は己の主である家康にあえて言ったのだった。
「そうなるかと」
「そうじゃな。しかしな」
「それでもですか」
「武門の意地は見せねばならぬ」
 それは絶対にというのだった。
「さもなければな」
「我等の名折れですな」
「そのまま生きることは恥じゃ」
 恥、それは即ち命を失うことだ。武士にとってはそれに他ならぬことだから家康もこう言うのである。
「あの戦はむしろ我等を褒める声が多いが」
「はい、武田相手によく戦を挑んだと」
「そして見事な戦ぶりだったと」
「よくそう言われています」
「このことは確かです」
「間違いありませぬ」
「それはよいがじゃ」
 恐ろしいまでの強さを誇る武田に正面から向かった、このことはかえって褒められているというのだ。しかしそれもだというのだ。
「わしはな」
「恥を注ぐのですな」
「あの戦の恥を」
「それをですな」
「何としても」
「織田殿と武田の戦になろうともじゃ」
 それでもだというのだ。
「我等はな」
「この恥を注ぐ」
「そうされますな」
「必ずな。それでじゃ」
「はい、今からですな」
「あの城に入り」
「そしてですな」
「織田殿の心尽くしを受けよう」
 是非にというのだ。 
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