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戦国異伝

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第百七十八話 宴会その三

「ここはな」
「はい、では」
「これからは」
「あの城で」
「その宴ですが」
 ここでだ、本多正信が家康にこう言ってきた。
「どうやらですが」
「織田殿はこれまでとは桁が違う宴を用意しておられるとのことじゃな」
「はい、その様です」
「一体どの様な宴か」
 家康は本多のその言葉に首を傾げさせつつこう述べた。
「それはな」
「想像が尽きませぬな」
「我等の宴といえばな」
「はい」
「我等の宴はな」
 それはだった、徳川家の宴は。
「酒があり」
「焼いた魚や田楽があり」
「それだけじゃ」
「簡素なものですな」
「徳川家は贅沢はせぬ」
 これは家康もだ、そして家臣達もだ。
「決してな」
「はい、ですから」
「どうした宴かな」
「わかりませぬな」
「織田殿は千万石を超える」
 それだけの力があるからだというのだ。
「だからな」
「かなりの宴にされてもですな」
「何もない」
「民に負担をかけることもですな」
「吉法師殿はそうした方ではない」
 民に負担を強いることはというのだ。
「絶対にな」
「だからですな」
「これからの宴もな」
「民を苦しませるものではなく」
「天下にな」
「その力をですか」
「織田家の力をな」
 それをだというのだ。
「知らしめるものじゃ」
「そうしたものですな」
「そうじゃ」
 まさにそうだというのだ。
「あの方のそれはな」
「では」
「うむ、この宴は出るべきじゃ」
「それ故にですな」
「ここまで来たのじゃ」
「山海の珍味が出ますな」
 本多はこのことをあえて表情を消して述べた。
「まさに」
「そうであろうな、しかし」
「それもですな」
「織田家の富で行うものでじゃ」
「あくまで民から絞ったものではありませぬな」
「その証にじゃ」
 信長が民を苦しめていない、その証はというと。
「ここまで来た中で織田家の領内はどうじゃった」
「豊かでしたな」
「まさに」
 このことについては本多だけではない、他の家臣達も言うことだった。尾張や美濃、近江といった国々はだ。
「田畑は何処までも続き民百姓は快く汗を流しておりました」
「堤や橋も整っておりました」
「町は多く見事で」
「しかも道もよいものです」
「そうしたものを見ていますと」
「まるで戦国ではない様でした」
 これが家臣達の織田家の領内を見ての感想である。
「他の国もそうだとのこと」
「若し民百姓から絞っていれば」
 そうしていればというのだ、信長が。
「あそこまで豊かではありませぬ」
「到底です」
「そこに右大臣殿の政が出ていますな」
「善政ですな」
「吉法師殿は民を守る方じゃ」
 それが信長だというのだ。実際に彼は租税は軽くしている。そして厳しい法でならず者を取り締まっているのだ。
 家康はその彼を幼い頃より知っている、だから言うのだ。 
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