遊戯王GX~決闘者転生譚~
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初年度
学園編
TURN-05『湖上の決闘─フォトンVS魔導』
前書き
3ヶ月もお待たせして申し訳ありません(汗)
年末年始ってさぁ、忙しいでしょ? でしょ?
‥‥ホントすみません。
前回の続きで、ヒロインとのデュエル回です。
初ターンについてお忘れの場合は前話をご覧くださいm(_ _)m
では、どうぞご覧ください。
※設定を弄っていたら何故か05/07に公開されたことになっていました。本来の公開日は01/17です。初公開日と特に変わった点はございません。最新話更新と勘違いされた読者の皆様、誠に申し訳ありません。
【凛side】
「私のターン、ドロー!」
私は自分のデュエルディスクにセットされているデッキからカードをドローし、それを手札の端に加える。
明日香ちゃんにいきなり「デュエルして」って言われた時は正直戸惑ったけど、今はむしろ感謝してる。
今、私がデュエルしている光凪章刀くんは、入試当時から気になっていた存在──す、好きとか、そんなんじゃないよ!──だから。
アカデミアの実技試験当日、自分の番が終わった後に、『どうせなら十代くんのデュエルも見ておこう』と思って試験会場に残っていた私は、主人公である遊城十代くんとは別の、1人の男子受験生を見つけた。
最初は私の知らないキャラかな、とも思ったけど、彼の使ったカードを見て、それは違うんだと知ると同時に、衝撃を受けた。
彼が入試で使ったデッキ──【聖刻】は、この時代には無いカードだから。
だから私は思った。
彼ももしかしたら、自分と同じなんじゃないか‥‥。
その男子受験生こそが、光凪章刀くんだった。
さっきのターンで彼が見せた、私の【魔導】カードを見た時の反応からすると、たぶん彼も、私が同類だって気づいたはず。
ここからだ。
このデュエルが楽しくなるのは‥‥!
「私はもう1度、《魔導書士 バテル》を守備表示で召喚!」
カードを横向きでディスクにセットすると、私の目の前にモンスターが出現する。
《魔導書士 バテル》DEF400
「バテルのモンスター効果発動! その効果で私はデッキから《グリモの魔導書》を手札に加え、そして発動! 私は新たに、デッキから《魔導書院ラメイソン》を手札に加える!」
私は連続でデッキからカードを手札に加える。
このサーチ力が【魔導】の持つ最大の強みだと、私は思ってる。
‥‥まあ私のこのデッキは【魔導】とは少し違うんだけどね。
「そして、私は今手札に加えたフィールド魔法《魔導書院ラメイソン》を発動!」
私がフィールド魔法ゾーンにカードをセットした瞬間、湖面が大きく揺れ、そこから円錐形の塔のような建造物が出現した。
この世界では初めて発動したカードだ。
〝魔導書院〟という名前からして、たぶん図書館みたいなものだと思う。
けど‥‥それにしても、大きい。
幾らソリッドビジョンって言っても、さすがにバレるんじゃないかと思ってしまう。
どうかバレませんように‥‥。
「さらに、私は魔法カード《二重召喚》を発動! このターン、私はもう1度モンスターを召喚できる! 私はバテルを生け贄に《カオス・マジシャン》を召喚!」
私がカードをセットすると、湖上に漆黒の魔導師が現れる。
《カオス・マジシャン》ATK2400
「バトル! カオス・マジシャンでフォトン・スラッシャーに攻撃!」
私の攻撃宣言とともに、カオス・マジシャンが中空に飛び上がり、魔法の杖を構える。
「混沌魔導!!」
技名がこれで合ってるのかは知らないけど、カオス・マジシャンは私の命令どおり、構えた杖から漆黒の波動を放った。
放たれた波動は狙いどおりフォトン・スラッシャーに命中し、破壊した。
「ぐっ!」
章刀 LP4000→3700
「よしっ!」
「いいわよ凛!!」
「流石ですわ!」
章刀くんのライフを削った事に、私は小さくガッツポーズした。
後ろでジュンコちゃんとモモエちゃんが声を上げる。
少し照れくさい。
でもライフを削ったといっても数値はわずか300。
まだまだ気は抜けない。
「私はカードを2枚セットして、ターンエンド!」
最後にカードを1枚、裏向きでセットし、私のターンは終了した。
章刀 LP3700
手札4枚
モンスター0体
魔法・罠1枚
《セット》
凛 LP4000
手札2枚
モンスター1体
《カオス・マジシャン》
魔法・罠2枚
《セット》×2
フィールド
《魔導書院ラメイソン》(凛)
そして、ターンは彼へと移る。
「俺のターン!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
【章刀side】
「ドロー!」
ドローしたカードを手札に加え、俺は一考する。
さて、どうしたものか‥‥。
俺が前の世界にいた頃は、【魔導】というカテゴリーは酷かった。
弱いから酷かったんじゃない、強過ぎるから酷かったのだ。
前に『近年は強すぎるカテゴリー──いわゆる〝壊れテーマ〟が頻出している』と評したことがあるが、彼女の使う【魔導】もその1つである。
どれくらい前だっただろうか。
新パックにて登場した〝新カテゴリー〟と、同パックによって強化された【魔導】のたった2種のデッキが、あらゆる公認大会を席巻するという事案が発生した。
ネットの情報を見ても大会上位に食い込むのはいつもその2種のデッキのみで、フリー環境も含めそれは遊戯王史上でも中々に酷い環境だった。
まあ史上全部見ればもっと酷い環境もあるが‥‥これはこれで、案外キツイかもな。
しかし気になるのは凛の召喚したモンスター──《カオス・マジシャン》だ。
通常あのカードは【魔導】には入れないと思うんだが、どういう戦略だ‥‥?
「俺は魔法カード《戦士の生還》を発動! その効果で墓地の《フォトン・スラッシャー》を手札に加える!」
彼女の使用カードを訝しみながらも、俺はデュエルを続行する。
「そして俺は、回収した《フォトン・スラッシャー》を再び特殊召喚する!」
俺がサルベージしたカードをディスクにセットすると、またも湖上に水柱が上がり、再び白い騎士がその姿を現す。
《フォトン・スラッシャー》ATK2100
「さらに魔法カード《天使の施し》を発動! デッキからカードを3枚ドローし、手札を2枚捨てる」
俺はカードを3枚ドローし、その後手札から《ライト・サーペント》と《アクセル・ライト》の2枚を選択し、墓地へと送る。
《天使の施し》は、前の世界では〝禁止カード〟に指定されていたカード。
確かに今の御時世、ドローと墓地肥やしが同時に、そして容易にできてしまうのは、些かチートくさい。
しかし、だから強い。
「そして手札から捨てた《ライト・サーペント》の効果発動! このカードは手札から墓地に送られた場合、特殊召喚できる!」
墓地からカードを取り出してディスクにセットすると、フォトン・スラッシャーの隣に光の蛇が現れた。
《ライト・サーペント》ATK1200
──俺も彼女のことを言えないな‥‥。
そう思う原因は今し方俺が特殊召喚したモンスター──《ライト・サーペント》だ。
凛の【魔導】に《カオス・マジシャン》が入らないと考察したのと同様、俺の【フォトン】にも通常このカードは入れないだろう。
しかし〝そんな通常入れないカードを入れる理由は何か?〟と問われれば、大したことではない。
彼女の真意はわからないが、俺の場合はまあ、単純に趣味──遊び心だ。
アニメでカイトが使っていたしな。
まだ物語も序盤だし、このくらいのお遊びは構わないだろう。
念のために言っておくが、決して舐めプではないぞ、うん。
閑話休題──
「いくぞ! 俺は2体のモンスターを生け贄にして、《フォトン・ワイバーン》を召喚!」
俺のフィールドにいた2体のモンスターが姿を消し、新たに光の翼竜が現れた。
《フォトン・ワイバーン》ATK2500
「《フォトン・ワイバーン》の効果発動! このカードが召喚に成功した時、相手のセットカードをすべて破壊する!」
「えぇっ!?」
凛が驚いたような声を上げる。
もしかして効果を知らなかったのだろうか‥‥。
まあ、その辺りは後で訊いてみよう。
「フラッシュ・ハリケーン!!」
《グオオオオオオン!!!》
フォトン・ワイバーンが雄叫びを上げ、両翼をはためかせた。
湖上に凄まじい突風が巻き起こり、凛のセットカードを襲う。
カードを破壊する瞬間、ホンの少しだけカードの絵柄が見えたが、どうやら《トーラの魔導書》と《次元幽閉》だったようだ。
トーラはともかく、幽閉は危なかったと思う。
しかし、これで障害は無くなった。
「バトル! フォトン・ワイバーンでカオス・マジシャンに攻撃! ホーリーレイ!!」
俺の言葉に呼応するように、フォトン・ワイバーンの口に光が収束される。
そして一瞬後、収束された光は一筋の光芒となってカオス・マジシャンを飲み込み、破壊した。
「うっ!!」
凛 LP4000→3900
カオス・マジシャンを破壊した光芒の余波が、凛のライフにダメージを与えた。
これで僅かながらもライフ差を縮めたし、ボードアドバンテージも俺が取っている。
「いいぞー! 章刀くーん!!」
俺が優勢になったことで、翔が声援を送ってくれている。
現状は確かに俺がリードしている。
しかし、リードしている時にこそ、油断は禁物だ。
「カードを1枚セットして、ターンエンドだ」
章刀 LP3700
手札2枚
モンスター1体
《フォトン・ワイバーン》
魔法・罠2枚
《セット》×2
凛 LP3900
手札2枚
モンスター0体
魔法・罠0枚
フィールド
《魔導書院ラメイソン》(凛)
◆◇◆◇◆◇◆◇
【凛side】
「私のターン、ドロー!」
ドローしたカードを手札に加え、すかさず私はフィールド魔法の効果を発動させる。
「《魔導書院ラメイソン》の効果発動! 自分のフィールドまたは墓地に魔法使い族モンスターが存在する場合、墓地の『魔導書』1枚をデッキの一番下に戻すことで、カードをドローできる! 私は《グリモの魔導書》を戻し、カードをドロー!」
墓地のカードをデッキに戻し、再びカードをドローする。
ドローしたカードを加えた手札をザッと見て、私は思った。
この手札ならいける‥‥!
「私は《魔導戦士 フォルス》を攻撃表示で召喚!」
獅子の顔の意匠が施された斧を持った、赤を基調とした服装の戦士が現れる。
《魔導戦士 フォルス》ATK1500
「フォルスの効果発動! 墓地の『魔導書』1枚をデッキに戻すことで、魔法使い族モンスター1体のレベルを1つ上げ、攻撃力を500ポイントアップさせる! 私は《トーラの魔導書》を戻して、フォルスのレベルと攻撃力をアップ!」
《魔導戦士 フォルス》星4→5/ATK1500→2000
「さらに装備魔法《バウンド・ワンド》をフォルスに装備! これでフォルスの攻撃力がさらに500ポイントアップする!」
《魔導戦士 フォルス》ATK2000→2500
「攻撃力2500!?」
「章刀くんのモンスターと並んだっス!!」
章刀くんの後ろで十代くんと翔くんが声を上げている。
この世界では攻撃力が高いと強いモンスター、低いと弱いモンスターと見做されてしまう。
だから7つ星の《フォトン・ワイバーン》の攻撃力と並んだ今のフォルスは、十分に強いモンスターと認識されたようだ。
「バトル! フォルスでフォトン・ワイバーンを攻撃!」
攻撃力が並んだフォルスで、私はバトルを仕掛けた。
「え!? 攻撃力が同じなのにどうして‥‥」
「《バウンド・ワンド》を装備したモンスターは破壊された時、復活できるんだよ」
「つまり、章刀のモンスターを破壊してもあいつのモンスターはフィールドに残るってことか!」
「ああ。それにバトルフェイズ中の特殊召喚だから、そのモンスターで追撃がかけられるんだ」
「スゲーな!」
翔くんの疑問に章刀くんが答えて、十代くんが感心しているのが窺える。
確かに彼の出した答えは、私が仕掛けた戦略の1つではある。
──けど、戦略はもう1つ‥‥。
私は手札にある1枚のカードを一瞥した。
その間にも、フォルスはフォトン・ワイバーンの上を取っていた。
「悪いけど、相打ちはごめんだな! 速攻魔法《フォトン・トライデント》!」
フォルスが斧を振り上げたまさにその時、章刀くんがさっきのターンにセットしたカードが顕となった。
「このカードの効果で、俺のフォトンモンスター1体の攻撃力は700ポイントアップする! これで返り討ちだ!」
「‥‥‥‥」
このままだと、トライデントの効果でワイバーンの攻撃力が3200になり、フォルスが返り討ちにされる。
けどそれは、〝このまま〟だった場合の話。
「フフッ! 私はその発動にチェーンして速攻魔法を発動! 《禁じられた聖槍》!」
「何っ!?」
章刀くんの余裕の表情が一変した。
「私はこのカードの対象に《フォトン・ワイバーン》を選択。《禁じられた聖槍》で選択されたモンスターは攻撃力が800ポイントダウンする代わりに、このターン、このカード以外の魔法・罠の効果を受けない。つまり、ワイバーンはトライデントの効果を受けられず、聖槍の効果で逆に攻撃力がダウンする!」
《フォトン・ワイバーン》ATK2500→1700
「攻撃力が逆転したっスー!!」
翔くんの表情に一瞬だけど絶望が見えた気がする。
ちょっと可哀相にも感じたけど、ごめんなさい。
「バトル続行! フォルスの攻撃、魔戦斧撃!!」
フォルスの振り下ろした斧が、ワイバーンの首を切り落とした。
思ったよりも残忍な倒し方に、私は思わず引いてしまった。
「ぐうっ!!」
章刀 LP3700→2900
ともあれ、章刀くんのライフを削ることができた。
「私はこれでターンエンドです」
章刀 LP2900
手札2枚
モンスター0体
魔法・罠1体
《セット》
凛 LP3900
手札1枚
モンスター1体
《魔導戦士 フォルス》
魔法・罠1枚
《バウンド・ワンド》
フィールド
《魔導書院ラメイソン》(凛)
これでボードアドバンテージは取り戻せた。
章刀くんがアドバンテージを取り戻そうにも、【フォトン】には除去カードの類は少ないし、下級のフォトンモンスターでは今のフォルスを倒せない。
倒せるとしたら‥‥やっぱり〝あのカード〟。
もし次のターンで章刀くんに〝あのカード〟を召喚されたら、ちょっとマズイかな‥‥。
そんなことを考えながら、私のターンは終了した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【章刀side】
「俺のターン、ドロー!」
ドローしたカードを見ながら、俺は一息を吐いた。
まさかあんな返しをされるとは思わなかった。
《カオス・マジシャン》と言い、俺の予想とはだいぶ違う動きだが‥‥さて。
俺は視線を手札へと移す。
手札にあるカードは《銀河騎士》と《フォトン・サンクチュアリ》。
サンクチュアリを発動すれば、攻撃力2800のナイトを生け贄無しで召喚できる。
攻撃力は下がるが、それも次の凛のターンには元に戻る。
しかし、このターン内にフォルスは倒せない。
そうなれば、次の凛のターンでフォルスの攻撃力がさらに上がって、ナイトさえも超えられる。
普通にトークンをリリースしてナイトを通常召喚すれば、このターン内にフォルスを倒すことはできる。
だが1度召喚してしまえばナイト自体はバニラも同然。
打点は高いが、戦闘耐性や効果耐性がある訳じゃない。
仮に次のターンでナイトが破壊された場合、状況がかなり厳しくなる。
ならばいっそ──‥‥
「俺は魔法カード《トレード・イン》を発動! 手札から8つ星モンスターを捨てて、デッキからカードを2枚ドローすることができる。俺は《銀河騎士》を捨て、2枚ドロー!」
ドローフェイズに引いたカードを発動し、俺は手札交換を試みた。
そして、
「っ!!」
俺は、このデッキの切り札を引き当てた。
「よしっ! 俺は魔法カード《フォトン・サンクチュアリ》を発動! その効果により、俺のフィールドに攻撃力2000のフォトントークン2体を守備表示で特殊召喚する!」
俺のフィールドに光の球体が2つ出現した。
〝光の球体〟という点では、《神聖なる球体》を思い出す。
《フォトントークン》DEF0
《フォトントークン》DEF0
「っ!!」
これで準備は整った。
一瞬見せた表情からして、凛も俺の次の手に気づいているだろう。
だからあえて叫ぶ。
「いくぜ! 凛!!」
「ふええ!? う、うん!」
何故だか予想以上に驚かせてしまった。
よくわからないが、少し反省。
「フィールドに存在する攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄に捧げることで、このモンスターは特殊召喚できる!」
眼前に浮いていた2つの光の球体が消え、赤い十字架のような物体となって俺の許に現れた。
「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて、我が僕に宿れ!」
俺はそれを中天に放り投げ、口上を唱える。
「光の化身、ここに降臨!」
天に舞い上がった道具に、銀河の光が集約される。
「現れろ! 《銀河眼の光子竜》!!」
凄まじい光輝が夜空を照らす。
ラメイソンがあってさらにこんな光が見えたら、さすがにマズイんじゃないかとも思ってしまう。
しかし、そんな不安もよそに、化身はその姿を現した。
瞳に銀河を宿した光の竜が、夜の湖上に飛来した。
《銀河眼の光子竜》ATK3000
「攻撃力3000のモンスター!?」
今まで滅多なことでは声を上げなかった明日香が、思わず沈黙を破った。
当たり前だ。
攻撃力3000といえば、この世界においては圧倒的な数値だからだ。
クロノス教諭の《古代の機械巨人》や、海馬瀬戸の《青眼の白龍》などの伝説のレアカード──この世界限定で──にも匹敵する。
これを見て驚かない者の方が少数派だろう。
「バトル! 銀河眼の光子竜の攻撃! 破滅のフォトン・ストリィィィム!!」
周りを忘れ、一度叫んでみたかった技名を存分に叫び、攻撃を仕掛ける。
ギャラクシーアイズから放たれた光芒は、一瞬にしてフォルスを飲み込み、その姿を消し去った。
「うあああっ!!」
凛 LP3900→3400
数値で見ればわずか500ポイントのダメージだが、ソリッドビジョンの迫力が凄いためか、凛が蹌踉けている。
「ぐっ‥‥。《バウンド・ワンド》の効果発動! 装備モンスターが相手に破壊された時、そのモンスターを墓地から特殊召喚できる。フォルスを墓地から守備表示で蘇生!」
《魔導戦士 フォルス》DEF1400
凛のフィールドに舞い戻ったフォルスは、先程とは打って変わって防御の姿勢を取る。
〝守備表示〟だから当たり前か。
「俺はこれでターンエンドだ」
章刀 LP2900
手札1枚
モンスター1体
《銀河眼の光子竜》
魔法・罠1枚
《セット》
凛 LP3400
手札1枚
モンスター1体
《魔導戦士 フォルス》
魔法・罠0枚
フィールド
《魔導書院ラメイソン》(凛)
ギャラクシーアイズを召喚したことで、俺はかなり優勢となった。
とはいえ、デュエルは運の要素も強い。
そのことを踏まえていたから、そこまで気を抜いてはいなかった。
しかしまさか、次のターンですぐにコイツが除去されるとは思ってもみなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【凛side】
「わ、私のターン、ドロー!」
私は震える手でカードをドローし、それを手札に加える。
この震えは、決してギャラクシーアイズを目の前にしているからだけではない。
勿論、それも大いにあるけれど、一番の理由は別──‥‥
『いくぜ! 凛!!』
まさか同年代の、それもほぼ初対面の男の子に、面と向かって『凛』って呼び捨てにされるとは思わなかった。
別に嫌な訳ではない。
むしろ友達みたいで嬉しいんだけど、やっぱりちょっと、恥ずかしい、かな‥‥。
色々とモヤモヤしたモノはあるけど、今はデュエルに集中しよう。
「ラメイソンの効果発動! 墓地の《グリモの魔導書》をデッキに戻し、1枚ドロー!」
私はドローフェイズに続き、再びカードをドローした。
「っ! 来たっ‥‥!」
ドローしたカードを見て、私は笑みを浮かべ、内心でガッツポーズした。
「手札から《死者蘇生》を発動! 墓地のバテルを守備表示で特殊召喚!」
序盤のターンで破壊されたバテルが、再び私のフィールドに舞い戻った。
《魔導書士 バテル》DEF400
「ごめんね、章刀くん。銀河眼には驚いたけど、早々に退陣してもらうよ!」
「っ!?」
「私はバテルとフォルスを生け贄に、《魔導法士 ジュノン》を召喚!」
フィールドで屈んでいた2体の魔法使いが姿を消し、新たに白を基調とした服装の女性魔法使いが現れた。
《魔導法士 ジュノン》ATK2500
《♪》
湖上に立ったジュノンがおもむろに振り向き、私にウインクしてくる。
私は思わず苦笑してしまった。
「おいおい、ここでジュノンかよ‥‥!」
章刀くんが声を上げる。
反応からして、どうやらジュノンの効果を知ってるみたい。
「どうして慌ててるんスか? 攻撃力なら章刀くんのモンスターの方が上っスよ?」
「ジュノンの真骨頂は攻撃力じゃなくて、その効果なんだよ」
逆に翔くんは知らないみたい。
これは当たり前だけど。
じゃあそろそろお披露目だね。
「ジュノンの効果発動! 手札または墓地の『魔導書』1枚を除外することで、フィールド上のカード1枚を破壊する! 私は手札の《魔導書院ラメイソン》をゲームから除外して、《銀河眼の光子竜》を破壊!」
ジュノンが右手を翳すと、緑色の魔法球が生成された。
《ハァァッ!》
ジュノンがそれを放ち、ギャラクシーアイズを破壊した。
見た目にはあまり派手な攻撃ではないけど、威力はかなり高そうだ。
それはさておき、これで章刀くんのフィールドはがら空き。
「いくよ! ジュノンであ、章刀くんに直接攻撃! スピリチュアル・ウェーブ!! 」
相手に直接攻撃することよりも、男の子の名前を呼ぶことに対して緊張してしまう。
すこし自分が情けなく感じた。
それはともかく、ジュノンが両手を前に突き出すと、そこから光の波動が放たれた。
「ぅああああっ!!」
章刀 LP2900→400
「章刀くん!」
「章刀!」
蹌踉けた章刀くんを心配して、十代くんと翔くんが2人して立ち上がるのが見えた。
ソリッドビジョンとはいえ、相手を傷つけていると思うと何だか罪悪感を抱いてしまう。
「さっすが凛!」
「その調子ですわ!」
けれど、ジュンコちゃんやモモエちゃんが応援してくれるとやっぱり嬉しい。
明日香ちゃんは何も言わないけど、ちゃんと私たちのデュエルを見てくれてる。
何より、やっぱりデュエルって楽しい‥‥!
「私はこれで、ターンエンド!」
章刀 LP400
手札1枚
モンスター0体
魔法・罠1枚
《セット》
凛 LP3400
手札0枚
モンスター1体
《魔導法士 ジュノン》
魔法・罠0枚
フィールド
《魔導書院ラメイソン》(凛)
◆◇◆◇◆◇◆◇
【章刀side】
結局として、かなり厳しい状況になった。
俺はふと手札を見る。
今手札にあるカードは、ジュノン相手には比較的有効なカードだとは思う。
しかしこのカードだけがあっても、現状では何の意味も無い。
ここで逆転するには、何とかギャラクシーアイズを復活させなければ‥‥。
「俺のターン、ドロー!」
俺は少し力を籠めてカードをドローした。
別にそれでどうこうなるものでもないとは思うが、まあ、意気込みというヤツだ。
そして、ドローしたカードを恐る恐る見る。
(っ! コイツは‥‥)
俺はそのカードを手札に加え、そして、
「俺はカードを1枚セットして、ターンエンド」
それだけで、エンド宣言をした。
章刀 LP400
手札1枚
モンスター0体
魔法・罠2枚
《セット》×2
凛 LP3400
手札0枚
モンスター1体
《魔導法士 ジュノン》
魔法・罠0枚
フィールド
《魔導書院ラメイソン》(凛)
さて、ここからは完全に運次第だな。
頼むぜ、凛‥‥。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【凛side】
「私のターン、ドロー」
章刀くんの目が気になる。
状況的には、私の方が優勢だと思う。
けれど、彼の目はまるで諦めていない。
何かがある。
そして、何かがあるとすれば‥‥あの伏せカード。
きっとこの状況を少なからず変えることができるカードなんだと思う。
けどアレが何にせよ、私の手札は1枚だけ。
今のままじゃジュノンの効果も使えない。
取りあえず、まずは手札を増やさなくちゃ。
「私は魔法カード《強欲な壺》を発動! その効果でデッキからカードを2枚ドローする!」
手札0の状況で《強欲な壺》なんて、まるで主人公みたいなチートドローだけど、ここは素直に喜んでおこう。
私は再度デッキからカードをドローする。
引いた2枚のカードは、それぞれ〝魔導書〟カードと汎用性の高い速攻魔法。
速攻魔法の方は今は少し腐るけど、〝魔導書〟を引けたのは良い。
これでジュノンの効果発動コストを確保できた。
ジュノンの効果を使えば、章刀くんのセットカード2枚の内、1枚は破壊できる。
──けど、どっちを?
私から見て左側はさっき伏せられたカード。
右側は、最初の章刀くんのターンで伏せられたカード。
もし右側のカードがジュノンの攻撃を防ぐ、もしくはジュノン自体を除去できるカードなら、さっきの直接攻撃の時に使ってるハズ‥‥。
ジュノンの時だけじゃない。
その前にも、カオス・マジシャンやフォルスの攻撃の時だって使えたハズだ。
それでも使わなかったってことは‥‥あのカードは〝ブラフ〟!
つまり、今破壊すべき対象は──‥‥
「私はまず、今引いた《アルマの魔導書》を発動! その効果でゲームから除外されている《魔導院ラメイソン》を手札に加える! そして、ジュノンの効果発動! 今手札に加えた《魔導書院ラメイソン》を再び除外して、左側のセットカードを破壊する!」
《ハァッ!》
私の合図とともに放たれたジュノンの魔法球が炸裂し、章刀くんのセットカード──見たことも無い罠カードを破壊した。
「この瞬間、破壊された《フォトン・ヒーリング》の効果発動!」
「え!?」
「セットされたこのカードが相手によって破壊された時、自分の墓地に存在する『フォトン』と名のつくモンスターの数×500ポイントのライフを回復できる!」
《フォトン・ヒーリング》(オリカ)
通常罠
①:自分フィールドに表側表示で存在する「フォトン」モンスター1体につき、自分は1000ライフポイント回復する。②:セットされたこのカードが相手のカード効果によって破壊され墓地へ送られた場合に発動する。自分の墓地に存在する「フォトン」モンスター1体につき、自分は500ライフポイント回復する。
「俺の墓地に存在する『フォトン』モンスターは全部で4体! よって2000ライフポイントを回復する!」
章刀 LP400→LP2400
残りわずかだった章刀くんのライフが、一気に安全圏へと戻った。
《フォトン・ヒーリング》‥‥。
いわゆる〝オリカ〟っていうのだと思うけど、これは読み様がない。
やられたよ。
けれど、大局は未だ変わらない。
「ダメだ。章刀くんのライフは回復したけど、それでもジュノンの攻撃を受ければ終わりだ~!」
翔くんの嘆きのとおり、章刀くんのライフは未だジュノンの攻撃力の射程圏内にある。
つまり、
「少し驚いたけど、これで終わりだよ! ジュノンで章刀くんに直接攻撃! スピリチュアル・ウェーブ!!」
この直接攻撃が通れば、終わる。
《ハァァッ!!》
ジュノンがさっきよりもさらに力強く、光の波動を放つ。
波動は真っ直ぐ章刀くんの方へ進む。
ダァァァァァン!!!
波動が命中し、大きな爆発とともに水煙が舞い上がる。
一瞬、「これソリッドビジョンじゃなかったのかな?」と思ったけど、リアリティを追求した結果なのかも知れない。
ともあれ、デュエルは私の勝ち。
そう確信していた。
「っ!!?」
対峙するボートの上で、未だ強い瞳を見せる彼を見るまでは‥‥。
章刀 LP400
「デュエルはまだ終わってないぜ」
「ど、どうして‥‥」
訳がわからなかった。
さっき私が〝ブラフ〟だと読んだカードは伏せられたまま。
フィールドには何も変わったところは無い。
その時、気づいた。
彼が持っていた最後の手札が無い‥‥!
「気づいたみたいだな。正解はコイツさ」
章刀くんは墓地から1枚のカードを取り出し、私に見せてきた。
「《クリフォトン》。コイツを墓地に送り、2000ライフを払うことで、このターン俺が受けるダメージはすべて0になる。残念だったな」
章刀くんは不敵な笑みを浮かべる。
「うぅ~‥‥」
悔しかった。
もう少しのところで勝ちを取り損ねたから。
しかしそれ以上に、この状況で踏み止まれる勝負強さに、素直に感心してしまった。
「ターン、エンド」
章刀 LP400
手札0枚
モンスター0体
魔法・罠1枚
《セット》
凛 LP3400
手札1枚
モンスター1体
《魔導法士 ジュノン》
魔法・罠0枚
フィールド
《魔導書院ラメイソン》(凛)
けど、まだ大丈夫。
勝利が次のターンに延びただけ。
次で決める。
そんな決意を籠めて、私のターンは終了した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【章刀side】
「サンキューな、クリフォトン」
《クリクリ~♪》
自分の窮地を救ってくれた相棒に感謝しながら、カードを墓地に戻す。
「た、助かったぁぁ~‥‥」
背後では翔が脱力している。
正確にはまだ終わってないんだけどな‥‥。
そう、未だ窮地を脱した訳ではない。
逆転はここからだ。
俺の手札は0、ボードアドバンテージも取られている。
せっかくGXの世界なんだから、こんな時にこそ《強欲な壺》が欲しいと思う。
アニメの十代然り、さっきの凛も然り‥‥。
まあ、ここで引けたらそれこそチートドローだな。
「俺のターン、ドロー!」
ドローしたカードを見て、俺は思った。
──マジでチートドローあったぜ。
「俺は《強欲な壺》を発動!」
周りから「このタイミングで!?」なんて声が上がる。
声が入り混じっていて誰が言ったのかはわからないが、言えることは1つ。
──俺もそう思います。
「その効果で、2枚ドロー!!」
──チートドローなんだったら、ここで来てくれよ、逆転のカード‥‥!!
そんな思いを籠めて、俺は新たに2枚のカードをドローした。
「っ!!」
俺の手札に加えられたのは、どちらも赤い枠のカードだった。
その2枚のカード、そしてフィールドにセットされたカードを見て、
──いけるっ!!
俺は勝機を見出した。
「俺はカードを2枚セットして、ターンエンド!」
章刀 LP400
手札0枚
モンスター0体
魔法・罠3枚
《セット》×3
凛 LP3400
手札1枚
モンスター1体
《魔導法士 ジュノン》
魔法・罠0枚
フィールド
《魔導書院ラメイソン》(凛)
勝機はある。
とても小さな可能性で、それが訪れるのが次ターンか、そのまた次ターンになるかはわからない。
──が、確実にそれは存在する。
しかし、それはまたしても対戦相手──凛の選択に懸かっている。
そして、運命のターンが訪れた──‥‥
◆◇◆◇◆◇◆◇
【凛side】
「私のターン、ドロー!」
ドローしたのはまたも〝魔導書〟の通常魔法。
私はそれを手札に加えつつ、章刀くんのフィールドに目を遣る。
──少し、不安になってきた‥‥。
さっきまでは絶対に勝てると思ってたけど、前のターンで彼が新たに伏せた2枚のカードが気掛かりだ。
もう少し態勢を整えよう。
「私はラメイソンの効果を発動! 墓地の《アルマの魔導書》をデッキに戻して、1枚ドロー!」
私はドローしたカードを見る。
追加で引いたのは、モンスターの攻撃力をアップさせる装備魔法。
不安を払拭するために《大嵐》が欲しいところだったけど、そう上手くは行かないよね。
──仕方ない、ここは素直に攻めよう。
「私はジュノンの効果を発d──「ストップ!」──っ!?」
ジュノンの効果を発動しようとした時、章刀くんから制止が掛かった。
何かカードをチェーン発動するのかと思ったけど、どうやらそうではないらしい。
「な、何?」
私はその真意を恐る恐る訊いてみる。
「今から君は俺の3枚の伏せカードの内、1枚を破壊するつもりなんだろ?」
「う、うん‥‥」
「慎重に選べよ? もし失敗したら、俺が勝つぜ?」
「っ!?」
てっきり〝逆転〟って言うんだと思ったら、その口から飛び出した言葉は〝勝利宣言〟。
一瞬「ハッタリ?」とも思ったけど、章刀くんの目を見ると、違うとわかる。
《クリフォトン》の時と同様に、力強い瞳が窺える。
私は改めて考える。
向かって右側と左側のカードがさっきのターンで伏せられたカード。
真ん中のカードは最初のターンで伏せられたカード。
これは予想通り〝ブラフ〟で間違いない。
さっきのターンもそうだったけど、もし〝ブラフ〟でないならとっくに発動しているハズだ。
無視しても大丈夫だと思う。
残りはさっき伏せられた右と左。
もしこの状況で、章刀くんが逆転するとしたら、どんなカードが必要だろうか‥‥。
一番はジュノンの除去。
けど《サンダーブレイク》や《強制脱出装置》みたいなフリーチェーンの除去罠カードなら、私がジュノンの効果を発動させる前──スタンバイフェイズにでも発動しているハズ。
じゃあ次点で切り札──《銀河眼の光子竜》の復活。
となると、あの伏せカードのどちらかは、蘇生系の罠カード‥‥!
ギャラクシーアイズとの相性からも考えて、恐らく《リビングデッドの呼び声》。
じゃあもう1枚は‥‥?
フリーチェーンでないなら、タイミングが限定的な‥‥たとえば攻撃反応系の迎撃罠カード‥‥!
でもどっちを破壊するべきか‥‥。
私はふと手札に視線を落とす。
そして、1枚のカードが目に留まった。
──っ! いける!!
前のターンに引いたそのカードを持っていたことで、私が破壊するべき対象が決まった。
後はそのカードを当てるだけ。
「よし! 私は魔法カード《ヒュグロの魔導書》を発動! その効果でジュノンの攻撃力を1000ポイントアップさせる!」
私が魔法カードを発動すると、ジュノンがオレンジ色のオーラを纏う。
《魔導法士 ジュノン》ATK2500→3500
さっきジュノンの効果発動を宣言しかけたけど、章刀くんが止めたからセーフだよね‥‥?
「そして次にジュノンの効果発動! 今発動して墓地に存在する《ヒュグロの魔導書》を除外して‥‥左側のカードを破壊!」
《ハァァッ!!》
前の私のターン同様、ジュノンの放った魔法球が章刀くんの伏せカード──《聖なるバリア─ミラーフォース─》を破壊した。
「ふぁぁ‥‥。危なかったぁ~」
私は思わず身震いしてしまった。
前の世界で、私はミラーフォースの強さを嫌というほど味わっている。
世間では〝失敗フラグ〟なんて呼ばれてたみたいだけど、そんなことはない。
私は10回伏せられたら10回とも受けている。
私の油断も原因の1つなんだけど‥‥。
何はともあれ、これで不安要素は取り除けた。
──後は、攻める!
「私は装備魔法《ワンダー・ワンド》をジュノンに装備! これにより、ジュノンの攻撃力はさらに500ポイントアップする!」
オーラを纏ったジュノンが、人面の意匠が施された杖を手にすることでさらにチカラを増す。
《魔導法士 ジュノン》ATK3500→4000
「こ、攻撃力4000!?」
翔くんの心情が、より絶望的になっていくのがその声でわかる。
今の彼には、私が鬼や悪魔にでも見えているのかも知れない。
‥‥確かにライフ僅か400の相手に対して攻撃力4000──10倍の数値っていうのは、少しオーバーキル気味だろう。
けれど私の読みどおりなら、章刀くんのライフを削り切るにはこれだけの数値が必要なんだ。
「フン! これでアンタは終わりね!」
私の後ろでも、ジュンコちゃんが私の勝利を確信して声を上げる。
けど、そろそろ翔くんがホント可哀相になってきた。
でも、勝負は勝負。
私は負けない。
「決めるよ。ジュノンで章刀くんに直接攻撃!」
ジュノンが攻撃の構えを見せた時、予想どおり章刀くんがあのカードを発動させた。
「リバースカードオープン! 永続罠《リビングデッドの呼び声》! その効果で俺は墓地から《銀河眼の光子竜》を復活させる。蘇れ、《銀河眼の光子竜》!!」
数ターン前に破壊した光の化身が、再び章刀くんのフィールドに舞い戻った。
《銀河眼の光子竜》ATK3000
フィールドのモンスターの数が変わったことで巻き戻しが発生し、ジュノンの攻撃がストップされた。
「どうする? 凛。ギャラクシーアイズはバトルする時、互いのモンスターをバトルフェイズ終了時まで除外することができる。幾らジュノンの攻撃力が高くても、ギャラクシーアイズを戦闘で破壊することはできないぜ!」
章刀くんが自信満々で言い放つ。
そんな彼に対して私は、
「ごめんね章刀くん。私の勝ちだよ」
「っ!?」
最後の1手を繰り出す。
「速攻魔法《禁じられた聖杯》!!」
「っ!?」
これが私の、勝利への最後の1手。
「確かにギャラクシーアイズは戦闘から離脱できるよね。でもそれはモンスター効果。だったらこれでチェックメイトだよ。《禁じられた聖杯》の効果で、ギャラクシーアイズの攻撃力を400ポイントアップさせる代わりに、ターン終了時までその効果を無効化する!」
《銀河眼の光子竜》ATK3000→3400
チカラを封じられた所為か、ギャラクシーアイズが心なしか項垂れたような体勢を取っている。
効果を封じた代わりに攻撃力は上がってしまったけど、それでも章刀くんのライフを削り切るには十分。
「今度こそ終わりらせるよ! ジュノンで《銀河眼の光子竜》を攻撃!! ハイパー・スピリチュアル・ウェーブ!!!」
項垂れているギャラクシーアイズに向かって、ジュノンが最大級のチカラで魔法球を放つ。
この時、その場にいた誰もが、私の勝利を確信していた。
ジュンコちゃんやモモエちゃん、明日香ちゃん、十代くんや翔くんでさえも。
勿論、私自身も「勝った!」と思っていた。
ただ1人、章刀くんを除いて‥‥。
「フッ‥‥」
不意に、章刀くんが笑みを浮かべた。
どうして?
何故笑ってるの?
負けるかも知れないのに‥‥。
翔くんが退学になってしまうかも知れないのに‥‥。
そこまで考えた時、ふと章刀くんのフィールドにずっと伏せられていたカードが目に留まった。
──ま、まさか‥‥!
「これで終わりだぜ、凛!」
──〝ブラフ〟じゃない‥‥!?
「リバースカードオープン!! 罠カード《反射光子流》!!!」
章刀くんが最初の自分のターンからずっと伏せ続けてきたカードが、遂に顕となった。
「自分フィールド上の光属性・ドラゴン族モンスターが攻撃対象に選択された時に発動でき、そのモンスターの攻撃力に、相手モンスターの攻撃力を加算して迎撃する!」
「っ!!?」
章刀くんのデッキ──【フォトン】は光属性のカテゴリー。
だから《オネスト》を警戒していたけど、物語に深く関係しているカードだから使用されることは無いだろうと思っていた。
仮にデッキに入っていたとしても、《オネスト》は手札誘発の効果モンスターだ。
だから彼の手札が0だったことで、私は完全に警戒を解いていた。
だけどまさか、〝擬似オネスト〟のような罠カードがあるなんて思わなかった。
しかもそれをこのタイミングで──‥‥いや、そこじゃない。
そのカードを初ターンで既に伏せていたなんて‥‥。
──まさかこの展開を想定していた!?
将棋用語の中に〝用意された一着〟という言葉がある。
これはあらかじめにある局面を想定しておき、その局面に至った場合に放つ妙手のことらしい。
章刀くんの1手はまさにそれだ。
ギャラクシーアイズでの迎撃を想定し、初手に仕掛けられた奇手。
あまりにも奇抜な戦法で、私は唖然としていた。
「《銀河眼の光子竜》の攻撃力に、ジュノンの現攻撃力を加算!」
《銀河眼の光子竜》ATK3400→7400
『攻撃力7400!!?』
そのあまりの数値の高さに、周りから一斉に驚嘆の声が上がった。
「迎え撃て! 《銀河眼の光子竜》!! 破滅のフォトン・ストリィィィィィム!!!」
ギャラクシーアイズが放った光芒は、魔法球を容易く掻き消し、そのままジュノンをも飲み込んでしまった。
そして、光芒の余波が私の方へ襲い来る。
「きゃあああああっ!!」
凛 LP3400→0
たった1枚のカードを切っ掛けに、私はこのデュエルに敗北してしまった。
負けたのはやっぱり悔しい。
けれど、それよりもむしろ清々しい気持ちの方が、私の心をイッパイに満たしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【章刀side】
「約束どおり、翔は連れて帰るぜ」
「どうぞ、約束は守るわ。今日のことは黙っておいてあげる」
明日香の提示した〝2連勝〟の条件をクリアし、俺たちは何とか翔を取り戻すことに成功した。
「フン! まぐれで勝ったからって、調子に乗らないことね!」
デュエルに勝利した俺たちに対して、ジュンコが原作通りの悪態をつく。
思ったのだが、それって負け犬の捨てゼリフなのではないのだろうか‥‥。
「止してジュンコ」
「そうだよ。そういうのは良くないよ、ジュンコちゃん」
「明日香さん、凛まで‥‥」
「負けは負けよ。見苦しいマネはしないでね」
「それに、章刀くんは本当に強かったよ」
明日香と凛がジュンコを宥める。
何気に凛が俺のことを褒めてくれてるのは、なんだか気恥ずかしくてムズ痒い。
「いや、そいつの言うとおりかも知れないぜ」
俺がムズ痒さと戦っていると、今度は十代が口を開いた。
「アンタ、強いよ」
十代の言葉に、明日香は少し面喰らっているようだ。
そして十代に釣られるようにして、俺も口を開いた。
「凛も強かったぜ。俺の方は、あながち〝まぐれ〟っていうのも間違いじゃないしな」
これは本当だ。
今回のデュエルでは、いくつかの場面でそれが窺える。
《クリフォトン》を引いてなかったら負けてたし、そもそも《フォトン・ヒーリング》が破壊されなければその効果を使うこともできなかった。
ミラフォじゃなくリビデが破壊されていたら、ギャラクシーアイズは戻って来なかった。
最後のターンでも、あそこで凛が勝ち急がずに攻撃をストップし、聖杯をセットして迎撃態勢を整えていたら、勝敗はどうなっていたかわからない。
いやそれ以前に、凛の【魔導】がちゃんと完成された【魔導】だったら‥‥。
──‥‥ホントによく勝てたよ、俺。
「あ、う、うん‥‥ありがとう」
俺の言葉に、凛は頬を染めて縮こまってしまった。
さっきの俺と同様、何か気恥ずかしいようだ。
やっぱり褒め言葉というものは、どこかムズ痒さを孕んでいるらしい。
「じゃあな」
「おやすみ」
なんだかんだ言ったがそろそろ夜も遅いので、取りあえず就寝の挨拶だけして、俺たちはボートを漕いでその場を去った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【3人称side】
遠ざかって行くボートに乗る対戦相手を見つめながら、明日香は思った。
(遊城十代‥‥ますます面白いかも)
そしてもう1人、凛も思う。
(章刀くん、か‥‥。明日少しお話してみようかな‥‥?)
明日香は十代に、凛は章刀に‥‥。
2人ともが、その場を離れていく対戦相手たちに思いを馳せていた。
そんな2人を見て、ジュンコもまた思う。
(今日の明日香さん、なんだかいつもと違う‥‥。それに凛も‥‥。まさか──)
ジュンコの想像が的を射ているのか否かは、今はまだわからない。
しかしもしかすると、それはあながち外れてもいないのかも知れない。
3人がそれぞれ思うところがあった時、モモエはというと──‥‥
「クシュン! (少し冷えてまいりましたわ)」
夜風に凍え始めていた。
そろそろ寒くなる季節。
島の中央に火山があるとはいえ、湖上でノースリーブにミニスカートでは、それは寒いだろう‥‥。
この後4人は風邪を引いてしまう前に、早々に女子寮に戻ったという。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【章刀side】
「ふう‥‥。やっぱり船上と地上じゃ大違いだな」
船員が増え、少しばかり重くなったオールを漕ぐこと数分‥‥。
桟橋にボートを着け、俺は数十分ぶりに大地に立った。
船から降りると、俺と翔の2人は夜の澄んだ空気を存分に吸い込む。
翔のそれは無罪判決と解放からくるものだろう。
俺の方はと言うと、単純に酔いだ。
初めてアカデミアに来た時もそうだったが、俺はあまり乗り物に強い方ではない。
飛行機はもちろん、今回のような船、他には絶叫マシーンなんかも進んで乗ろうとは思いもしない。
激しく気持ち悪くなるからだ。
幸い波も穏やかだったので、そこまでグロッキーにはならなかったが、やっぱり乗り物は苦手なんだと改めて痛感した。
「アニキ、章刀くん、ありがとう! 助かったっス!」
十分に深呼吸を堪能した翔が、俺と十代の方に向き直って言う。
「気にすんなって」
「まあ、友達だしな」
翔の自業自得な部分があったとはいえ、俺の手で友達を助けられたのは嬉しかった。
もう、〝あんな思い〟はしたくない‥‥。
「‥‥じゃあ、俺は帰るぜ。明日遅刻すんなよ」
少し沈んだ感情を隠しながら、俺は2人に別れを告げる。
「おう! また明日な!」
「章刀くん、おやすみなさいっス!」
船着場で2人とそのまま別れ、俺は少し足早にイエロー寮へと向かう。
競歩ばりのスピードで俺は前に進む。
《あの~マスター、何をそんなに急いでるんですか?》
ふいにデッキケースから姿を現したヴェールが問いかけてくる。
「いや‥‥」
別に早く戻らなければならない理由は無い。
門限等はあるが、元々黙って出てきてるんだ、今さら問題無いだろう。
俺が急ぐ理由は2つ。
「眠い、寒い」
《な、なるほど》
理由はただそれだけだし、ヴェールとしてもこれ以上聞くことがなかったのだろう。
会話はそこで途切れた。
ともかく、俺は早く暖かい布団に包まって眠りたいのだ。
自慢ではないが、俺はある程度環境が整っていれば何処でも寝れるという特技がある。
しかし、さすがにこの寒空の下で寝る勇気は無い。
だから急ぐのだ。
《そういえば、さっきの『凛』って人‥‥。マスターと〝同じ〟なんですか?》
「あ? ああ、たぶんな‥‥」
そうだった。
ヴェールに言われるまで、眠さと寒さの所為ですっかり忘れていた。
まあ、明日にでも詳しい話を訊こう。
今はとにかく、暖と眠を取りたかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日の放課後──‥‥
俺は凛を、校舎に隣接する林の──特に人目につかない場所に呼び出した。
これからする話は誰かに聞かれるとマズイ。
校舎内は当たり前として、お互いの寮や自室も勿論アウトだ。
変な噂が立っても困るし、そもそも彼女に迷惑が掛かる。
そこへ行くと、林の中も多少のリスクはあるが、寮や自室と比べれば幾分かは安全だろう。
妥当な選択である。
俺が少し太めの木に寄り掛かりながら1人で待っていると、背後から誰かの走る音と、荒れた息遣いが聞こえてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥‥」
振り返るとそこには、一方の手を木に、もう一方の手を膝に置き、明らかに困憊している凛の姿があった。
「ご、ごめっ‥‥はぁ、はぁ、お、おま、はぁ、おまっ、おまたせっ‥‥はぁ、はぁ‥‥」
「うん、大丈夫。だからまずは呼吸を整えようか?」
「はぁ、はぁ、う、うん‥‥ご、ごめん‥‥」
それから数十秒間の深呼吸を経て、ようやく凛は落ち着きを取り戻した。
「ふぅ、ごめんね。それで、は、話って何かな?」
何故だろう?
凛は少しモジモジしているようにも見える。
見れば少し顔も赤い。
「どうした? 風邪気味なのか?」
「ふえ!? う、ううん! ち、違うよ!」
「そ、そうか? それじゃあ、早速で悪いんだけど、凛のこと教えてもらってもいいか?」
「わ、わわ私のことっ!?」
何故だろう?
凛は一層顔を真っ赤にして、何やらパニクってらっしゃるようだ。
「え、えっと、その‥‥う、上から89・52・77──‥‥」
「いやいやそういうことじゃなくてっ! 〝転生〟関連のこと!」
いきなりの大胆発言に、俺は思わず赤面してツッコむ。
というか改めて見ると、凛って小柄な割には結構、その‥‥出るトコ出てんだな。
‥‥俺は何を考えているんだろうか?
「ふえ? あ、え? あ‥‥う、そ、そっか! そうだよね! あ、あははは‥‥」
凛は自分が勘違いしていたことに気づき、頬を掻いて笑っている。
必死に繕っているようだが、耳まで真っ赤になっている辺り、内心は錯乱状態だろう。
会ってまだ2日目だが、この娘はなんとなく、凄く女の子らしいと思えた。
デュエルの時は打って変わって凛々しくなるのも、それはそれでギャップがあってより可愛らしい。
背も比較的低めだし、案外──いや、かなり好みかも知れない。
「んんっ! じゃ、じゃあ改めて訊くけど、凛も俺と同じなんだよな?」
「え? あ、う、うん、そうだよ」
俺の問い掛けに対して、凛は頷いて肯定する。
ハッキリとした単語こそ口にはしなかったが、意図は十分に汲み取ってもらえたようだ。
徐々に落ち着きを取り戻し始めたのか、凛の表情が柔らかくなっている。
「やっぱりそうなんだな」
「うん。私、元々体が弱かったの。普通に遊んだりする分には特に問題は無かったんだけど、風邪とか引いちゃうと長引いて‥‥。それである日、ちょっと大きな病気に罹っちゃって、それでそのまま‥‥」
「そっか‥‥」
柔らかかった凛の表情は、話している内にとても暗鬱なものになっていった。
「あ、でも女神様に転生させてもらう時に丈夫な体にしてもらったから、もう風邪とかも平気だよ!」
俺に気を遣って明るく振舞う凛。
しかし、やはりどこか無理をしている気がした。
病気という悪魔は、身体だけではなくその心まで蝕んでいく。
彼女にとっては、辛い過去なんだろう。
そんな過去を思い出させてしまったことに、俺は罪悪感を抱いた。
「‥‥けど、めずらしいな。女の子でデュエルやってたなんて」
そんな罪悪感から逃れるために、俺は話題を変えた。
この世界ならともかく、現実世界では女性デュエリストは少ない。
全国的にはどうかは知らないが、少なくとも俺の周りにはアイツ以外いなかった。
「うん。周りでデュエルやってた女の子は私だけだったの。それで同年代の男の子とデュエルするのが、なんだか恥ずかしくて、ずっと弟とかその友達とやってたんだ」
「なるほどな」
何となくだが、今まで見てきた凛の性格からして、同年代の男子に「デュエルしよう」と言えない場面が容易に想像できてしまう。
「じゃあ次、凛のデッキって【魔導】だよな?」
「うーん、【魔導】とは、ちょっと違うかな?」
「‥‥ちょっと見せてもらってもいいか?」
これは先日のデュエルの時から薄々予想していたことだが、俺は凛の言葉の意味を完全に酌めず、直接デッキを確認させてもらおうと頼む。
「いいよ。ちょっと待ってね」
凛は腰に携えたデッキケースからデッキを取り出し、俺に差し出した。
俺は彼女からデッキを受け取ると、ザッと中身を見る。
「確かに‥‥。」
結論から言えば、彼女のデッキは【魔導】ではなかった。
分類的には〝魔導〟寄り構成の【魔法使い】か‥‥。
魔法使い族のモンスターを相性のいい魔法・罠でサポートしながらビートを掛ける、割とスタンダードなデッキだ。
シンクロやエクシーズがすでに登場している環境としては、結構珍しい。
「他にカードは持ってないのか?」
「‥‥‥‥」
俺が訊ねると、凛は押し黙ってしまった。
そして少ししてから、再び口を開いた。
「女の子がカード買うのって、勇気いるよね‥‥」
「‥‥そうだな」
凛の性格からして、そういうことなんだろうな、と思ってしまった。
話を詳しく聞いてみると、今使っているデッキも、弟やその友達からもらったカードで作ったらしい。
【魔導】──特にジュノンやバテル──を上げるとは、何とも太っ腹なヤツらだ。
さらに話を訊いてみると、転生する時も女神からカードをもらわなかったそうな‥‥。
何故かと問うと、〝転生させてもらえるだけでもありがたいのに、それ以上は申し訳なくて‥‥〟だとか‥‥。
こうしてみると、二次創作でいうところの〝無限カード〟──決して無限などではないけれど──をしている自分が情けないようにも感じられる。
せめてもの罪滅ぼしとして、後日幾らかカードを上げようと思った。
「じゃあ次の質問だ。凛は元の世界の『遊戯王』の情報、どれだけ知ってる?」
昨日のデュエルの時、《フォトン・ワイバーン》の効果を知らなかったのが気になった。
別段、〝超有名〟なカードではないが、〝古いカードか?〟と問われればそういう訳ではない。
効果を知る機会は少なからずあっただろう。
俺はそのことを含め、凛に問いかけた。
「前の世界にいた時は、アニメとかは観てたよ。けど、関連書籍とかはあんまり読んでなかったかな‥‥」
「漫画とかもか?」
「うん。あるのは知ってたけど、読んだことは無かったかな。漫画自体、あんまり読んだこと無いかも」
なるほど、漫画版を読んでないなら《フォトン・ワイバーン》を知らなかったのも頷ける。
もっとも、ワイバーンが登場したのは週刊の方に掲載された特別編で、効果も違っていたのだけれど。
「女神に情報とかもらってないのか?」
「もらってるんだけど‥‥私、デュエル以外での情報の整理って苦手で‥‥」
頭を掻きながら、照れ笑いを見せる凛。
この世界では現実の情報など特に要することもないとは思うが、まあ必要とあらば俺がサポートすればいいだろう。
「じゃあ次は────」
その後も、俺たちはできる限りの情報を交換した。
話に夢中になりすぎて──途中数回ほど脱線したが──気づけば空の月がハッキリと見え始めていた。
「さすがにこの時間帯に外は厳しくなってきたな」
「そ、そうだね‥‥」
見れば、凛は小刻みに震えていた。
そこまでか、とも思ったが、どうやら寒いのが苦手らしい。
〝体が丈夫〟といっても、それは病気に関してのことだし、こういうのは感覚の問題だからな‥‥。
「まあ今はこれ以上話すことも無いし、そろそろ帰るか」
「賛成!」
視覚からの情報とは全身にまで影響を及ぼすようだ。
凛を見ていると、俺も少し肌寒くなってきた。
「送ろうか?」
「ううん、大丈夫だよ」
凛のことを気遣って、寮まで送ろうかと提案したが、断られてしまった。
「いいのか?」
「うん。それに女子寮に男の子が来るのはマズイでしょ?」
「‥‥それもそうだな」
凛の発言で前日の翔のことを思い出し、俺たちは思わず苦笑した。
翔のような目にはできれば遭いたくはないし、話し合いの場所を決めた理由同様、変な噂が立ってもやはり困る。
「昨日は有耶無耶になってたけど、〝転生者〟同士、これからよろしくな、凛」
「うん! こちらこそよろしくね、章刀くん」
俺たちは握手を交わした。
いつの間にやら自然と名前で呼び合っているし、きっと良好な関係を築けるだろう。
挨拶のついでにお互いの連絡先を交換し、その日はお開きとなった。
さて、帰って風呂にでも入るか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【3人称side】
章刀と凛が話を終えようとしていたちょうどその頃。
同じ林の中、2人から十数メートルばかり離れた場所に立つ1本の木。
その木の枝に腰掛けている人の姿があった。
黒っぽいローブで全身を被っている為、顔を窺うことはできない。
しかし、胸の辺りに特徴的な膨らみがあることからして、女性だと判別できる。
小柄な辺り、どちらかといえば〝少女〟というべきかも知れない。
時折除く細い足、白い素肌が、その少女の可憐さを想像させる。
枝に腰掛けるその少女は、話を終えて別れる章刀と凛に視線を向けながら、無邪気そうに呟いた。
「光凪章刀、綾崎 凛‥‥。女神が選んだ異生者たち‥‥。ふぅん、弱そ♪」
一瞬後、風が木々の葉を揺らしたかと思うと、そこに少女の姿はなかった。
─ To Be Continued ─
後書き
いかがだったでしょうか?
今回もオリカ、チートドロー、ご都合展開でしたね(笑)
まあ、そういう仕様なのでご勘弁ください。
さて今回章刀が使用した【フォトン】ですが、このデッキが章刀の基本デッキになります。
厳密には【フォトン銀河】ですけどね。
さらに言うと【フォトン】、【銀河】それぞれに特化したVer.も考えてありますが、当面はこれで行きます。
《ライトサーペント》のようなお遊びもありますが、まあカイトデッキ──アニメ・漫画両方──と考えてもらえればわかりやすいかも知れませんね。
次にメインヒロインたる凛のデッキですが、本編中でも述べているように【魔導】ギミックを組み込んだ【魔法使い】になります。
ですので、実際の【魔導】のようなガン回しは無いと思ってください。
(気が向いたらもしかしたら‥‥)
こちらも《カオス・マジシャン》等のお遊びがありますが、これもまた趣味ということでお願いします。
最後の描写を含め、今回の話の中には幾つか先の展開の為の伏線がありますが、今の更新速度だと回収はだいぶ先になりそうです(汗)
‥‥ハイ、頑張ります。
次回は試験デュエル回です。
今回もオリカを使いましたが、次回はなんとオリデッキを使います。
批判は出来るだけ少ないと嬉しかったりします‥‥。
今回はこの辺りで失礼させていただきます。
本作に関する感想、指摘、要望、質問等、お待ちしております。
お気軽にお寄せください。
では‥‥m(_ _)m
次回、TURN-06『月一試験─未知の強襲』
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