遊戯王GX~決闘者転生譚~
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初年度
学園編
TURN-04『もう1人のイレギュラー』
前書き
予告どおり、メインヒロインの登場回です。
デュエルもあるにはあります。
‥‥いや、あるって言えるのか?(汗)
何にせよ、どうぞご覧くださいm(_ _)m
【章刀side】
‥‥‥‥眠い。
果てしなく眠い。
さっきからそんなことばかりを考えていた。
〝考えていた〟というよりも、むしろ本当に寝ているかも知れないとさえ思う。
それほど、今の状況は退屈だった。
現在、俺たち1年生はクロノス教諭の授業を受けている。
年齢的には高校生の俺たちだが、使用している教室は一般の学校のようなものではなく、どちらかといえば大学の講義室のような感じだ。
クロノス教諭が教鞭を執る授業内容は、大雑把に言えば『カードの種類について』ってトコだろうか‥‥。
しかし元の世界にいたころ──つまり俺がまだ一般人として生きていたころは、OCGやPSPをかなりやりこんでいたので、今さらこんな授業など聞く必要も無いし、聞く気にもならない。
つまり、さっきも言ったように、俺にとっては〝退屈〟だってことだ。
聞く気云々はどうかは知らないが、必要性に関しては、恐らく他の生徒も同じだろう。
そもそもここは世界有数のデュエリスト育成機関であるデュエルアカデミアだ。
そこに入学できた奴らがこういったことを理解していない方がおかしいと俺は思う。
そんなことを考えていると、それがまるで暗示のようになり、余計に睡魔が襲ってくる。
──あ、やばい、また睡魔が。
俺がウトウトしていたその時、背後からドッと笑い声が起こった。
その声に驚いて、俺は思わずビクッと反応してしまう。
人に見られるとかなり恥ずかしい──個人の主観による──仕草だが、幸い周りの生徒は他のことに焦点を合わせていた為に、俺のことはスルーされていたようだ。
「ふぅ‥‥。なぁ三沢、何があったんだ?」
ホッとして、俺は隣の席に座っている三沢に現状を訊ねる。
「ん? 章刀、起きたのか」
「ま、まあな」
三沢の言葉に苦笑で返す。
やっぱり寝てたのか、俺‥‥。
「ま、まあそれは置いといて‥‥。何だよこの嘲るような笑い声は」
背後──オベリスクブルーの生徒たちの方──から聞こえてきた笑い声は、爆笑というよりはむしろ嘲笑に近かった。
「ああ‥‥。まあ平たく言えば、クロノス教諭のいびりだな」
そう言う三沢の表情は、あまりいい感じはしていなかった。
〝クロノス教諭のいびり〟
三沢にそう言われ、〝なるほど〟と思い出した。
翔がクロノス教諭に指名されて、答えられなかった場面だ。
ブルーの生徒が腐したこともあって、翔やその他のレッドの生徒が貶されていたのだ。
俺はチラッと翔の表情を窺う。
その表情からは、問いに上手く答えられなかったことに対する、または笑われたことに対する悔しさや恥ずかしさが見て取れる。
それでもどこか、そんな自分を仕方なしとして縮こまっているようにも見えた。
そんな翔を見て、俺はなんともやり切れない思いを抱いた。
隣の三沢も、同じような思いだったのだろう。
だからさっきあんな表情を浮かべていたんだ。
常識人であれば、こんな場面でいい気分はしないだろう。
クラスは違えど、同じ学び舎で学んでいる仲間じゃないのか?
そうだ、仲間が嗤われているのに自分も嗤っているなんて、どうかしている。
──どうかしているんだ‥‥。
そんな暗鬱な気分を、ある人物の声が掻き消した。
「でも先生。知識と実戦は、関係ないですよね?」
翔の横の席に座っていた、十代だ。
その言葉にハッとして、十代の方へと視線を移す。
今まで嘲笑の笑みを浮かべていたクロノス教諭も同じく。
「だって俺もオシリスレッドの1人ですけど、先生にデュエルで勝っちゃったし!」
頭を掻くという、まるで照れるような仕草を見せながら、十代は笑みを浮かべて言う。
「ぐぬぬぬマンマミ~ヤ~‥‥!」
十代に負けたという事実は、よほど忘れたい出来事なのだろう。
生徒の前だというのに、クロノス教諭はハンカチを噛み締めながら、既にお馴染みとなりつつあるセリフを吐く。
その直後、またしても笑いが起きた。
今度は主にオシリスレッドから。
ふと隣を見ると、三沢も笑みを浮かべている。
そして、俺が気づく事はなかったが、明日香も‥‥。
十代やその周りの雰囲気を見て、改めて俺は思う。
言い方は悪いが、レッドの成績は底辺だ。
もしかしたら、将来に響く可能性もあるかも知れない。
けど、縦え劣等生のレッテルを貼られても、あんな和気藹々とした雰囲気の中にいる方がいいと、俺はそう思った。
「えー錬金術とは、文字どおり──」
次のコマは大徳寺先生の『錬金術』の授業だ。
1時限目のクロノス教諭の授業とは違って、俺の意識はハッキリと覚醒している。
『錬金術』なんて、現実の世界では学ぶ機会がほとんど無い分野だからだ。
元々雑学なんかが好きな性分も相俟って、俺は『錬金術』の授業に嬉々として臨んでいた。
──が、そんな俺とは正反対のヤツも勿論いる。
さっきの授業で最も目立っていた十代である。
デュエルモンスターズに関してはノリノリなクセに、こういうことにはまったく無関心らしい。
最前列に座っているにも関わらず、両手で頬杖を突き、いかにも退屈だと言わんばかりにあくびをしている。
──俺としては面白い授業だと思うんだがなぁ‥‥。
途中、先生の猫──ファラオが勝手に動き回るというハプニングもあったが、それ以外に大した滞りも無く、授業は普通に進んでいった。
授業中に猫をあやすのはどうかとは思うが、授業は面白い──個人の主観による──し、人当たりもいい。
実に好感が持てる先生だと思う。
後に敵として対峙することがなければ、入学から卒業まで、一緒に楽しい学園生活が送れたかも知れないな。
大徳寺先生の授業の後は、鮎川先生が担当する体育だったが、ちょうどこの時だ。
翔が面倒事の火種を手にしてしまったのは‥‥。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【3人称side】
オベリスクブルーの女子寮。
男子寮同様に豪華絢爛な、まるで西洋の城のような建物がそれだ。
寮が豪華なら施設も豪華で、特に大浴場は圧巻だった。
まるで宮殿か何かのような厳かな佇まいで、一見すると大浴場なんて単語は出て来ないかも知れない。
そんな大浴場で今夜、1人の男子生徒が社会的なピンチを迎えるのであった。
「ホント明日香さんってば、スタイル抜群で羨ましいですわ」
「そんなにジロジロ見ないでよ‥‥。恥ずかしいじゃない」
「ももえもまた胸が大きくなったんじゃない?」
「もぉ~! ジュンコさんったら、どこ触ってるんですかぁ~?」
だだっ広い大浴場だが、現在入浴しているのはたった3人だけのようだ。
明日香とその取巻きである枕田ジュンコ・浜口ももえの3人である。
3人は──と言っても主にジュンコとももえの2人だが──入浴しながらガールズトークに耽っていた。
スタイルのことに始まり、男子学生の批評など、まさに10代女子の代表的なガールズトークだ。
男子学生の批評では、具体的に名前が出されたりしている。
まず出た名前は遊城十代。
発言者はジュンコだ。
しかし、これは悪評の例として出されたモノ‥‥。
どうやら遊城十代という人間は、エリート思考のお嬢様のお眼鏡には適わなかったらしい。
次に三沢大地。
発言者はももえ。
顔もそこそこでデュエルに関する知識や技量もあるということで、中々高評価のようだ。
明日香はまったく興味が無いようだったが、残りの2人はかなり盛り上がっている。
その時、3人の背後──大浴場の外の茂みの辺りに人の気配を感じた。
「っ! 誰!?」
真っ先に反応した明日香が外の方へと目をやる。
そこには、
「ふえ!?」
艶やかな黒髪を腰の辺りまで伸ばした少女の姿があった。
少女も入浴しに来たのだろう。
服は当然着ておらず、バスタオルで女性的な部分を隠しており、足元にはもう1枚バスタオルが落ちている。
しかし、入浴に来たにしては少女がいる位置はおかしかった。
それが気になったようで、明日香が少女に問う。
「そんなところで何してるの? 凛」
「え? あ、あはは‥‥。ちょっとね」
『凛』と呼ばれる少女は、明日香の問いに苦笑で返した。
「実は、髪を纏めようと思ってたタオルが風で飛ばされちゃって、拾いに行ってたんだ。そしたら明日香ちゃんが急に声を掛けるからびっくりしちゃって‥‥」
そう言って凛は地面に落ちていたバスタオルを拾う。
どうやら1度回収したバスタオルを、さっきの明日香の声に驚いた拍子に落としてしまったらしい。
「もぉ~! 驚かせないでよ」
「あはは、ゴメンねジュンコちゃん」
ジュンコの言葉に、凛はまたも苦笑で返す。
「ホラ、早く入りなさい。そのままだと、風邪を引くわ」
「うん、ありがと」
夜風に晒されていた凛に、明日香が入浴を促す。
言われた凛は、自身の長い黒髪をバスタオルで纏め、いそいそと湯船に浸かった。
季節も相俟って、かなり冷えたらしい。
「ハァ~~‥‥」
凛は極楽と言わんばかりに、全身で湯を堪能する。
「ねぇ、凛さんは気になる殿方はいませんの?」
「ふえ!?」
そんな凛を巻き込んで、再びガールズトークが復活した。
ももえの口から出た思わぬ問いに、凛の顔が僅かに紅潮する。
「そうね。驚かせた罰として、白状しなさい!」
「白状って‥‥まだ入学して日も浅いのに、そんな人いないよ!」
凛の言うことはもっともだ。
入学してからまだ間もないのに、そういう対象ができるのはまず無いだろう。
しかし、例外はある。
「わからないわよ。一目惚れとかならあり得るかも知れないじゃない」
「ひ、一目惚れ!?」
そう、ジュンコの言うとおり、〝一目惚れ〟という場合だ。
それなら、期間は関係ない。
ジュンコの言葉を受けた凛の顔は、破裂するのではないかというほど赤くなっている。
よほどこういった話に耐性が無いのだろうか。
ジュンコやももえと比べて、今時にしてはめずらしい性格だった。
「2人とも、あんまり凛をいじめちゃダメよ」
「いじめてなんかいませんよ、明日香さん」
「そうですわ。ただのコミュニケーションですわ」
こうなっては2人を止められないとわかっているのか、明日香は溜息をつくと、それ以上何も言わなかった。
明日香というブレーキ役が任を降りたことで、2人はますます凛に詰め寄る。
「恥ずかしがらずに教えてくださいな」
「そうよ。別に好きな人教えなさいって言ってるんじゃなくて、気になる人教えてって言ってるの!」
「そ、それって意味同じなんじゃ‥‥」
「つべこべ言わずに白状しろー!」
「きゃあああ!!」
業を煮やしたジュンコが凛の豊潤な双胸を鷲掴みにする。
明日香と比べると僅かに劣るが、凛の胸にも立派な2つの果実が実っていた。
「ァんっ! ちょ、ちょっとジュンコちゃん! や、ゥんっ! や、やめてよぉ!」
ジュンコが胸を揉みしだき、肉の果実がたわわに変形する度に、凛は妙に艶かしい声を上げる。
「ジュンコ、やり過ぎ」
さすがに黙認しかねたのか、明日香がその行為をやめさせる。
「ゴ、ゴメン」
ジュンコもやり過ぎたと感じたのか、静かに凛の胸から手を離し、彼女に謝った。
「もぉ~‥‥」
ようやくジュンコの魔の手から解放された凛は、胸を両手で隠しながら、ジュンコにジト目を向ける。
その後、暫く沈黙が続いたが、凛が意を決したように口を開いた。
「す、好きって訳じゃないけど‥‥気になる人なら、いるよ?」
「だ、誰!?」
「誰ですの? 凛さん」
「えっと、ラーイエローの‥‥光凪くん、だったかな?」
凛が興味を持った人物とは、章刀のことだった。
「あ~‥‥。あの入学試験でクロノス教諭にワンターンキルを決めたやつね」
章刀が入学試験でワンターンキルをやってのけたことは、新入生ならそのほとんどが知っている。
同学年の実力者の噂は、意外と早く広まるのだ。
勿論、ここにいる4人も知っている。
「確かにワンターンキルはすごいですし、成績も良いみたいですど‥‥特別イケメンって訳ではないのが惜しいのですよねぇ。どうしてあの方が気になるんですの?」
「うん。何て言うか、その‥‥」
ももえの問いに、凛はこう答えた。
「私と‥‥同じかも知れないから」
「? どういう意m──」
凛の発言の意味がわからず、ジュンコがその真意を訊ねようとした時、
「覗きよー!!」
「きゃあああ!!」
「チカーン!!」
大浴場の外で他の女子生徒が悲鳴を上げた。
「痴漢ですって!?」
「ちょ、ちょっと! ジュンコちゃん!? ももえちゃん!?」
凛の声をよそに、バスタオルで体を隠したジュンコとももえが大浴場を飛び出していった。
「だ、大丈夫かな」
「私たちも行ってみましょう」
「う、うん」
明日香と凛もバスタオルで身を隠すと、飛び出していった2人の後を追った。
外に出ると、そこには多くの女子生徒の姿があり、その中心には、数人の女子に取り押さえられた翔がいた。
そして、そんな翔の前に仁王立ちしていたジュンコが言う。
「もう逃げられないわよ、この痴漢!」
「まぁ! 明日香様からのラブレターですって!?」
女子寮のエントランスホールにて、明日香・凛・ジュンコ・ももえの4人による、捕縛された翔の尋問が行われている。
‥‥と言っても、尋問しているのはジュンコとももえの2人で、明日香は険しい表情で翔を見据え、凛はそんな明日香の隣で、翔の取調べを苦笑しながら見ていた。
翔は『明日香からラブレターで呼び出された』と言い、その現物まで提示したが、
「私、こんな汚い字書かないわ」
見事に一蹴されてしまう。
しかも、
「あら? これ、宛名が〝遊城十代〟になってるわ」
「え? う、嘘ぉ~」
その手紙は翔ではなく、十代に宛てて書かれたものだった。
偽のラブレターに釣られて女子寮に来て痴漢扱い、挙句自分の勘違いだったと知り、翔はガックリと項垂れた。
「このことは、学校側に報告しましょう」
「さ、さすがにそれはかわいそうじゃない? 誰かに手紙で呼び出されたのはホントみたいだし‥‥」
ジュンコの発言に、凛が待ったを掛ける。
「何言ってるんですの? 凛さん。たとえ呼び出されたのであっても、お風呂を覗くなんて、破廉恥極まりないですわ」
「そ、それは、そうだけど‥‥」
しかし、ももえもジュンコに同意見のようで、凛は押し黙ってしまった。
その間にも、翔は『だから覗いてないってばぁ!』などと必死に弁明している。
「うぅ‥‥。あ、明日香ちゃんは、どうするの?」
言葉に詰まった凛は、今まで口を閉ざしていた明日香に話を振る。
「‥‥私にちょっと考えがあるの」
話を振られた明日香は、不敵な笑みを浮かべながら言った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【章刀side】
「ハァ~‥‥」
イエロー寮の自室に戻った俺は、一目散にベッドにダイブする。
《マスター、お疲れですか?》
俺の体調を心配してくれたのか、デッキケースからヴェールが姿を現し、俺の顔を覗き込んでくる。
「違う違う。風呂にも入ってサッパリしたし、後はお呼びが掛かるまで一休みしようかな、ってな」
《お呼び?》
毎度のことだが、ヴェールは俺の発言の意図を掴めていない。
まぁ、俺も言っていないから、当たり前と言えば当たり前だが。
もっとも、今回は別にフラグを建てた訳でもないので、お呼びが掛かるかどうかは先方次第。
それが直接俺の許に来るか、間接的に来るかもわからない。
少し意味は違うが、〝果報は寝て待て〟ってやつだ。
さて、さすがに0時を回れば待つ意味も無くなるが、まだ時間がある。
何をして待つべきか‥‥。
そう思っていたが、
──プルルルル、プルルルル
「ん?」
不意に、椅子の背に掛けている制服の上着のポケットに入っていたPDAが鳴った。
俺はポケットからPDAを取り出し、着信を受ける。
『丸藤 翔 を預かっている。返して欲しくば、女子寮まで来られたし』
ボイスチェンジャーを使ったのか音声ソフトを使ったのかは定かではないが、PDAからは実に機械的な声が聞こえてきた。
俺はすぐさま椅子に掛けていた制服の上着に袖を通し、デュエルディスクと今日使うつもりのデッキが入ったデッキケースを用意する。
《あの、マスター? さっきのももしかして〝フラグ〟ってやつですか?》
「ああ、そうだ。だけど‥‥」
デュエルディスクを左腕に装着し、デッキケースを腰に携えながら、俺はヴェールの問いに答える。
「今回は、それだけって訳じゃないかも知れないな」
《え?》
そう答えてすぐ、俺は部屋を後にした。
「おーい! 章刀ー!」
先に船着場に到着していた俺の許に、十代が駆け足で寄ってくる。
別に待ち合わせしていた訳ではないが、誰にも見られずに女子寮に行くには、ここの船着場からボートで行くしかない。
だからこの遭遇は必然だ。
「章刀! お前も呼び出されたのか?」
「ああ、『翔は預かった』とか言われてな。ま、話は後だ。行くぞ、十代」
「オウ!」
俺たちは桟橋に着けられていたボートに乗り、対岸にある女子寮へと向かう。
かれこれ数分間オールを漕ぎ続け、ボートを進めていると、対岸に立つ5人の人影が見えた。
原作より1人多いところを見ると、俺の相手はそいつだな。
俺たちはボートを船着場に着け、岸に立つ。
先方の面子を見ると、明日香・ジュンコ・ももえ、そして彼女たちに捕らわた翔──
さらに、その4人とは別に見知らぬ少女が1人。
──結構可愛いけど、こんなキャラ、タッグフォースにいたかな?
俺がまじまじと見つめていると、少女は何故か顔を赤らめ、半歩後ずさりしてしまった。
──俺、何かしたかな?
《‥‥マスターは思ったより女心がわかってないですね‥‥》
──デッキケースからヴェールの声が聞こえた気がしたが、気の所為か?
それはさて置き、今は翔だ。
「アニキ~、章刀く~ん‥‥」
「翔、これはどういうことなんだよ?」
助けを訴える翔に、十代は説明を求める。
「それが‥‥話せば長いような、長くないような‥‥」
「こいつがね! 女子寮のお風呂を覗いたのよ!」
「何だって!?」
友人が覗きを働いたというのだから、それは驚くだろうな。
俺は先の展開がわかっているが。
「覗いてないって!」
翔の言い分もわかる。
自業自得とはいえ、覗きに関しては本当に無罪だからだ。
「それが学校にバレたら、きっと退学ですわ」
ももえの言い分もわかる。
さすがにこの状況では、翔の退学──良くても停学は免れないだろう。
この騒動を起こした張本人であるクロノス教諭が説明してくれれば、お咎め無しにならなくもないが、今のあの人が翔のためにそんなことをするとは到底思えない。
自分の立場も危うくなるし。
そこへ、
「ねえアナタたち、私とデュエルしない? もしアナタたちが勝てば、風呂場覗きの件は大目に見てあげるわ」
こんな条件を提示されれば、
「何だかよくわかんないけど‥‥ま、いーや! そのデュエル、受けて立つぜ!」
デュエル馬鹿である十代が乗らない訳がない。
こうやって明日香も少しずつ十代という人間を理解していくんだろうな。
「けど、どうするんだ? さっきアンタは〝アナタたち〟って言ったけど、どうやってデュエルするんだ? 2連戦でもするのか?」
十代がもっともなことを問う。
しかしまあ、大体の二次創作と同じ展開になるだろう。
せっかく役者がもう1人いるんだから。
明日香は少しばかり沈思黙考すると、口を開き、俺の予想どおりの案を持ち出した。
「じゃあこうしましょう。十代は私と、章刀は‥‥この凛と戦ってもらうわ」
「ふええ!? わ、私!?」
案の定、俺が見覚えが無かった少女──凛、という名前らしい──が相手となった。
それにしても、凛って子も驚きすぎじゃないか?
「あ、明日香ちゃん! 私聞いてないよ!?」
「いいじゃない。アナタも彼のことが気になってたんでしょ?」
「あ、ああ明日香ちゃん!?」
明日香に対してちゃん付けってのも中々めずらしいな。
それにしても凛って子は何であんなに慌てているんだろうか?
あんなに顔も赤くして‥‥。
瞬間、俺のデッキケースが少し揺れた気がしたが、まあ、気の所為だろう。
「いい機会だから、ね?」
「う、うん。わかった」
どうやら明日香に諭されたらしく、凛は俺とのデュエルを了承したようだ。
「アナタたちも、それでいい?」
「俺は別にいいぜ」
「俺もそれでいいよ。で、解放の条件は〝俺たち2人の勝利〟でいいのか?」
「ええ、そうよ。アナタたちが2人とも勝てば、翔くんは解放してあげる」
「わかった。十代もいいか?」
「ああ」
さて、2連勝がクリア条件か。
十代は勝てるとして、俺はどうだろうな。
原作キャラや有名なタッグフォースキャラならまだしも、この子は見たことがない。
故に、使用デッキが読めないのである。
まあ元々デッキは1つしか持って来てないけど、多少の不安は残るな。
そんなことを考えながら、俺と十代、そして縄を解かれた翔はボートに乗り、湖面に漕ぎ出した。
それと対峙するようにして、明日香たちも湖面にボートを出す。
「それじゃあ、一番手は俺が行くぜ!」
位置につくや否や、十代がボートの前面に立つ。
十代の対戦相手である明日香も、同じようにして立つ。
そして、
「行くわよ!」
「オウ、来い!」
「「デュエル!!」」
十代と明日香のデュエルが始まった。
「サンダー・ジャイアントで、相手プレイヤーに直接攻撃! ボルティック・サンダー!!」
「きゃああああっ!!」
明日香 LP2400→0
「明日香さん!」
「大丈夫でございますか?」
原作どおり、十代と明日香のデュエルは十代の勝利で幕を閉じた。
少し時間が飛んだ気がしないでもないが、気にしない気にしない。
「やったぁ~!!」
「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」
十代の勝利に沸く翔と、明日香に決めゼリフを言う十代。
そんな2人を、俺は後ろから静かに見ていた。
「フン! まだ終わりじゃないわ。もう1人が負ければ、アンタは立派な犯罪者なんだからね!」
歓喜する翔を腐すように、ジュンコが言う。
そして、自分の背後に立っていた凛の方を見て、一言。
「凛! 絶対に明日香さんの敵を取ってね!」
「う、うん。頑張るよ」
少し離れたここからでもわかる。
あの子、困ってるな。
内心で凛に同情しながら、俺は十代と入れ替わるようにボートの前面に立つ。
「章刀、頑張れよ!」
「章刀くん、絶対勝ってくださいっス!!」
2人の声援──翔の場合は懇願か?──を受け、
「ああ!」
意気揚々とデュエルディスクにデッキをセットし、起動する。
相手も準備が整ったようだ。
すると、
「あ、綾崎 凛 です。よ、よろしくね」
対戦相手である凛は、律儀にも自己紹介をしてきた。
「あ、ああ。俺は光凪章刀だ。こっちこそよろしくな」
「う、うん」
ここは俺も自己紹介をしておくべきだろうと思い、名乗る。
しかし、心なしか凛の顔が赤くなってるような気がする。
緊張してるんだろうか?
対峙する俺たちの間を、夜風が駆け抜ける。
そして、数秒後、
「「デュエル!!」」
章刀 LP4000
手札5枚
凛 LP4000
手札5枚
「先攻は譲るよ」
今回は先行を彼女に譲る。
レディーファースト──‥‥って言えば聞こえはいいが、本音は相手のデッキを探るためだ。
「そ、そう? じ、じゃあ遠慮なく‥‥。私の先攻、ドロー!」
凛はデッキからカードをドローし、手札に加えた。
──さあ、どんなデッキで来る‥‥?
「わ、私は‥‥《魔導書士 バテル》を守備表示で召喚!」
凛のフィールドに、青っぽい服を纏った少年が現れた。
《魔導書士 バテル》DEF400
「なっ、バテルだと!?」
相手のデッキを見極めようとした俺だったが、凛のフィールドに現れたモンスターを見て、驚愕した。
「なんだ、どうしたんだ?」
「見たことないモンスターっスけど、あのモンスターがどうかしたんスか?」
「あ、いや‥‥別に‥‥」
十代や翔が心配したのか、俺に声を掛けてくる。
俺が「大丈夫だ」と言うと、疑問の声は再び声援に変わった。
しかし、内心では驚愕したままだ。
何故なら、彼女が召喚した《魔導書士 バテル》は、この世界には無い筈のカードだからだ。
入学試験で俺が使った【聖刻】よりもさらに後に発売されたパックに収録されたシリーズが、この《魔導書士 バテル》を含むカードシリーズ──【魔導】である。
取巻きとデュエルした際に、【聖刻】がこの世界には存在していないことがわかっている。
つまり、それより後に発売された【魔導】シリーズは必然的にこの世界には存在しないハズだ。
こうなれば、考えられる理由は2つ。
凛が〝未来〟の世界から来た場合か、もしくは──
凛も俺と同じ転生者だってことだ‥‥!
「バテルのモンスター効果発動! このカードの召喚に成功した時、デッキから『魔導書』と名のつく魔法カード1枚を手札に加えることができる。この効果で、私は《グリモの魔導書》を手札に加える!」
凛はデッキから選択した魔法カードを手札に加え、そして、
「さらに私は、今手札に加えた《グリモの魔導書》を発動! この効果で、私は再びデッキから『魔導書』と名のつくカード手札に加えることができる。私はもう1枚の《魔導書士 バテル》を手札に加えるよ!」
すぐさまそのカードを発動し、手札を切らすことなく、フィールドと墓地を整えていく。
「私はこれでターンエンド!」
章刀 LP4000
手札5枚
モンスター0体
魔法・罠0枚
凛 LP4000
手札6枚
モンスター1体
《魔導書士 バテル》
魔法・罠0枚
ふと、エンド宣言をした彼女の顔を見た。
凛は笑みを浮かべている。
一見すると美少女の可憐な笑みだが、その表情は物語っているようだった。
『気づいたよね?』と‥‥。
──上等だ、燃えてきたぜ
「俺のターン、ドロー」
──そっちが示してくれたんだから、俺もちゃんと示さなきゃな!
「俺は、《フォトン・リザード》を攻撃表示で召喚!」
俺のフィールドにトカゲのようなモンスターが現れる。
《フォトン・リザード》ATK900
「!!」
彼女の表情が一瞬だが変化した。
予測が確信に変わったような、そんな変化だった。
そう、俺のデッキも、この世界には無いカード群である。
その名は──【フォトン】。
俺のお気に入りデッキ──〝一軍〟の1つだ。
互いにこの世界には無いシリーズのカードを使っていることを認識して、一瞬後、凛も俺も、共に笑みを浮かべた。
「俺は《フォトン・リザード》のモンスター効果発動! このカードを生け贄に捧げることで、デッキから『フォトン』と名のつくレベル4以下のモンスター1体を手札に加えることができる! 俺は、《フォトン・スラッシャー》を手札に加える!」
トカゲのようなモンスターが姿を消した後、俺はデッキからカードを手札に加えた。
「さらに、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、《フォトン・スラッシャー》は特殊召喚できる! 現れろ! フォトン・スラッシャー!」
俺の呼び声に呼応するかのように、水柱が吹き上がり、その中から騎士のような人型のモンスターが現れた。
《フォトン・スラッシャー》ATK2100
「行くぜ! フォトン・スラッシャーで、バテルを攻撃! ライトセイバー!!」
フォトン・スラッシャーは刃を振るい、バテルを一閃し、破壊した。
「くっ!」
守備表示だったために、凛にダメージは無い。
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
章刀 LP4000
手札4枚
モンスター1体
《フォトン・スラッシャー》
魔法・罠1枚
《セット》
凛 LP4000
手札6枚
モンスター0体
魔法・罠0枚
俺はエンド宣言をし、凛の方を見て言う。
「さあ、楽しいデュエルにしようぜ」
「うん!」
こんな発言をすると、今後十代を茶化すことができなくなるかも知れないが、仕方ない。
面白そうだろ?
転生者同士のデュエルなんてな‥‥!
─ To Be Continued ─
後書き
という訳で本作のメインヒロインこと綾崎 凛 の登場です。
彼女の性格を一言で表せば〝恥ずかしがりや〟です。
でもひとたびデュエルが始まると──?
その辺りは次回のお楽しみということで。
その次回ですが、内容はもちろん章刀VS凛のデュエルの続きです。
前回の取巻きとのデュエル以上に非現実的です(汗)
どうかご容赦ください‥‥。
今回はこの辺りで失礼させていただきます。
本作に関する感想、指摘、要望、質問等、お待ちしております。
お気軽にお寄せください。
では‥‥m(_ _)m
次回、TURN-05『湖上の決闘─フォトンVS魔導』
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