魔法少女リリカルなのはStrikerS~破滅大戦~
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1st
邂逅篇
第7話『刀vs剣』
前書き
『‥‥兄貴ってのが‥‥どうして一番最初に生まれてくるか知ってるか‥‥? 後から生まれてくる‥‥弟や妹を守るためだ!! 兄貴が妹に向かって〝殺してやる〟なんて‥‥死んでも言うんじゃねェよ!!』
────by黒崎一護(BLEACH)
【3人称side】
《模擬戦スタート!!》
はやての高らかな号令とともに、一護vsシグナムの模擬戦は始まった。
「烈火の将、剣の騎士シグナム! 参る!」
「死神代行、黒崎一護だ。お手柔らかに頼むぜ」
2人の剣士は互いに名乗り、次に前へと踏み出し、そしてほぼ同時に剣を振るった。
振るわれた2つの刃が交わり、ガキンという甲高い金属音が辺りに響き渡る。
数秒、双方の動きが停止する。
初撃の剣圧は互角。
斬撃も鍔迫り合い──互いの剣に〝鍔〟という部位が見当たらないが──も、その力は拮抗していた。
「「!!」」
そのまま競るのは無意味と読んだ2人は、同時に後方へと飛び退く──
「──っ!!」
──退いた直後、シグナムが即座に前方へと駆ける。
(相手はガジェットを一撃で殲滅するほどの手練れ‥‥。手加減は‥‥無用!)
愛剣をグッと握りしめるシグナム。
一護を全力で相手をするべき強者と認めてこその思いだ。
「レヴァンティン! カートリッジロード!」
シグナムはデバイスに搭載された〝カートリッジシステム〟を使用する。
このシステムは、現在ミッドチルダに存在する3種の魔法体系──ミッド式、古代ベルカ式、近代ベルカ式の内、古代ベルカ式に伝わるモノである。
魔力の込められたカートリッジを使用することで、爆発的な魔法能力を発揮することができるのだ。
本来なら新入り相手にいきなりこのシステムを使うシグナムではないが、対する一護がガジェットを殲滅できるほどの手練れであるからこそ、彼女は躊躇わなかった。
レヴァンティンの刀身の付け根に備え付けられたダクトパーツがスライドし、薬莢が排出さされる。
ボウッ!
瞬間、レヴァンティンの刀身が炎を纏う。
(炎っ!? あいつの魔法か!?)
シグナムの魔法を大雑把に分析する一護。
その間にもシグナムは一護に迫り、ギリギリまで肉薄した瞬間、紅蓮の炎を纏った刃を、力強く天へと振り上げる。
一護は〝瞬歩〟でその攻撃を躱し、背後に回って隙を衝こうと考えた。
そして彼女の剣が振り下ろされようとした刹那、それを実行に移す。
──が、
「──っ!?」
行動を起こそうとした瞬間、異変は起こった。
(な、なんだ──!?)
一護は自身の体──魂魄の状態なので正確には〝魂〟──に妙な違和感を覚えた。
その違和感に戸惑いを抱いたことが、一瞬の隙を生み出してしまう。
「紫電──」
「っ!?」
「一閃!!」
シグナムが渾身の力で刃を振り下ろす。
反応が遅れた一護は咄嗟に斬月を構え、迫り来る炎剣をガードする。
「ぐっ‥‥!」
が、予想以上に斬撃の威力が大きく、衝撃で数メートルばかり後退させられた。
一護はすぐさま体勢を立て直し、シグナムへと視線を向ける。
「今度はこっちから行くぜ! 月牙──」
言いながら斬月を上段に構え、シグナムの時と同様、その刃に霊圧を込める。
「天衝!!」
構えた刃を勢いよく振り下ろし、一護は攻撃を仕掛けた。
「──っ!?」
瞬間、一護はまたも妙な違和感を覚えた。
が、今度は違和感などどこ吹く風と、振り下ろされた刃から巨大な斬撃が放たれる。
巨大化した斬撃は寸分たりとも違うことなく、標的を捉え、進む。
しかし、
「はああッ!!」
ダァァンッ!!!
レヴァンティンの刀身から衝撃波が撃ち出され、飛来する斬撃を弾く。
「うおっ!?」
それだけに止まらず、衝撃波は一護の元まで到達し、その体躯に揺らぎを齎す。
一護は斬月を地面に突き立て、揺らぎに耐える。
その様子を、シグナムはレヴァンティンを中段に構えたまま見据えていた。
(‥‥今の斬撃、モニターで見た時ほどの迫力は感じられなかった。実際はあんなものなのか?)
シグナムは不意にそんなことを思った。
さっきの衝撃波──〝陣風〟という技──は、そこまで威力のある技ではない。
少なくとも、数機のガジェットを1度に破壊するなど不可能だ。
リミッターが無かったとしても、それは同じこと。
その技で──況してリミッターが付いた状態で──、数機のガジェットの破壊をやってのけた一護の斬撃を撃ち破ったことに、シグナムは得心がいかなかった。
(くそっ! なんだ!?)
そしてそれは、一護も同じく‥‥。
(なんで‥‥なんで瞬歩も月牙も使えねェんだよ‥‥!!)
〝瞬歩と月牙が使えない〟
ここまでの戦いの中で、2度に渡って一護が感じた違和感の正体がそれだ。
〝月牙天衝〟は撃てたようにも思えるが、現実としてはアレはただの大きな斬撃。
威力は本来の〝月牙〟の足元にさえ遠く及ばない。
〝瞬歩〟に至ってはソレを行うことさえ出来なかった。
自身に起きた事態の原因を模索する一護だが、心当たりは無い。
実際にガジェットとの戦闘では、瞬歩・月牙のどちらにも問題は無かった。
あの戦闘からは、まだホンの数時間ほどしか経過していない。
その間にも、これといって特別な行動は取ったとは思えない。
「だあぁぁ! くそっ! どうなってんだよ!?」
一護はグシャグシャッと乱雑に頭を掻く。
あれでもないこれでもないと考えている内に、一護の頭は完全に混乱してしまった。
「戦いの最中に何を呆けているんだ黒崎!」
「っ!?」
シグナムの凛とした怒声が、迷想する一護の思考を模擬戦の場に引き戻す。
一護の意識がシグナムに向けられた時には、彼女はすでに肉薄していた。
咄嗟に斬月を構えて防御を図る。
しかし、
「甘いっ!」
2度目の防御は許されず、シグナムの斬撃──左下から斬り上げるように放たれた──によって斬月を弾かれ、体勢を崩されてしまった。
一護の防御の手を崩したシグナムは、すぐさま攻撃に転じる。
「レヴァンティン、カートリッジロード!」
再びダクトパーツがスライドし、薬莢が排出されると、その刀身を炎が包み込んだ。
「しまっ──」
「紫電‥‥一閃!!」
ズザンッ!!
シグナムの炎剣が一護を襲う。
「ぐあぁっ!!」
一護は苦悶の声を上げ、斬撃の威力で後方へと飛ばされる。
再び斬月を地面に突き立て、加えて足に力を込めることでどうにか踏ん張り、ズザッという音を立てながら踏み止まる。
しかし思ったより斬撃が効いたのか、制動の際に思わず片膝をついてしまった。
「ハァ、ハァ、ハァ‥‥くそっ‥‥!」
一護の呼吸は荒々しく乱れており、体力を大きく削られたことが見て取れる。
しかし、ふと斬撃を受けた胸元に手をやってみると、出血が無い。
思えば鋭利な刃物による斬撃を受けたにも関わらず、〝斬られた〟というよりもむしろ〝薙ぎ払われた〟という感覚の方が的を射ている気がする。
「心配するな。今の斬撃は〝非殺傷〟に設定してある。ダメージはあれど、創傷はあるまい」
そんな一護の思考を知ってか知らずか、シグナムは自身の攻撃について説く。
「〝非殺傷〟‥‥?」
地面に突き立てた斬月を支えに立ち上がりながら、シグナムの発した単語の意味を訊き返す一護。
「ああ。無闇に他者を傷つけないために編み出された魔法技術だ」
「‥‥つまり、手加減されてるってわけか」
「〝手加減〟と言うと語弊があるが‥‥まあ、詳しくはのちほど主が説明してくださるだろう。今は私との戦いに集中しろ、黒崎」
模擬戦開始時と同様に、一護と一定の距離を取って、シグナムは剣を構える。
対峙する一護も突き立てた斬月を抜き、構える。
(思ったより全然強ぇな‥‥)
構えながら、一護は眼前に立つ女騎士の力量に改めて感心する。
もちろん一護が今までに戦ってきた敵たちよりは、殺戮能力や危険度は低い。
加えてリミッター付き──一護は後々知ることとなる──で攻撃も〝非殺傷設定〟であるため、言ってしまえば戦闘力は遥かに劣る。
その条件下でさえも、一護はシグナムに苦戦を強いられている。
(やっぱ瞬歩も月牙も無しじゃキツいか‥‥)
原因は明白‥‥。
瞬歩が無くなり、月牙天衝も格段に下がってしまったからだ。
如何に歴戦の戦士であろうともその2つに支障を来せば、敵を倒すことの難易度は上がる。
それが今の一護の状態だった。
(くそっ、グチグチ悩むのは止めだ。悩んだところで瞬歩ができるようになる訳じゃ無ぇし、月牙が撃てる訳でも無ぇ)
一護は頭の中に巣食う雑念を振り払い、斬月をグッと握りしめる。
(死神のチカラを失くしてた時よりは戦える。戦えりゃ‥‥それで十分だ‥‥!)
シグナムをキッと見据える。
《本当にそれだけでいいのか?》
「──っ!?」
不意に、世界が停止した。
時計の針は歩みを忘れ、すべての存在は等しく変化を放棄した。
──ただ1人、黒崎一護を除いて。
一護はこの現象を知っている。
そして、これを起こしている存在も‥‥。
「斬月のおっさん‥‥」
《こうして顔を合わせるのは久しいな、一護》
一護とシグナムの間に立つ、サングラスをかけた黒い長髪の男性。
男の名は斬月。
一護の斬魄刀の実体だ。
本来はこうして現実に出て来ることは無いが、一護が迷い、立ち止まった時に現れ、道標となってくれる。
そして今回もそう‥‥。
《もう1度訊こう。本当に〝戦う〟だけでいいのか?》
斬月は静かに問う。
気付けば辺りは天地が出鱈目な摩天楼の群れへと姿を変えていた。
一護の精神世界である。
2人はその摩天楼の群れの中の1つであるビルの屋上で立ち会っていた。
そこで投げかけられた問いに、一護はふと思い出す。
更木剣八と戦った時のことだ。
その時も斬月は一護の前に姿を現し、今のように問いを投げかけてきた。
一護はフッと笑みを浮かべ、たった一言の問いに隠された選択肢を選ぶ。
「そうだな‥‥どうせ戦うんなら、やっぱ勝ちたいな」
〝勝ちたい〟
かつての問答の時と同じ選択肢を選ぶ一護。
《そうか‥‥。ならばお前は知るべきだ。〝知る〟のと〝知らぬ〟のとでは、その差は明確にして歴然。勝敗は疎か、時としてソレは生死さえも左右し得る》
一護の答えが満足だったようで、斬月は静かに言葉を紡ぐ。
「知る? 何をだ?」
《お前の魂に起きた〝歪み〟だ》
「歪み‥‥?」
《この世界‥‥〝ミッドチルダ〟には、〝魔力素〟と呼ばれる物質が存在している。魔法の源となる物質だ。魔導師が失った魔力を回復するためには、この〝魔力素〟が十分に満ちた空間に居る必要があるのだ》
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
淡々と説明する斬月の言葉を遮る一護。
「なんでアンタがそんなこと知ってんのかも気になるけど、 その〝魔力素〟ってのが俺の魂の〝歪み〟と、どういう関係があるんだ?」
斬月は魔導師のチカラの元について説いているが、一護は代行とは言え死神。
〝魔法〟なんて代物には縁が無い。
故の疑問だった。
《‥‥理解らぬか?》
「何をだよ?」
《お前は知っているだろう? 失ったチカラを特別な環境に身を置くことで回復させるという行為を‥‥》
斬月の問いに、沈黙して思考する一護。
そしてその答えは、すぐに導き出された。
「──っ! ルキア!?」
《そうだ。かつてお前に死神のチカラを譲渡する形で自身のチカラを失った朽木ルキアが、尸魂界という〝霊子〟が満ち足りた世界でそのチカラを取り戻したように、この世界の魔導師もまた、〝魔力素〟が満ち足りた空間で魔力を回復させる‥‥。物質は違えど原理は同じだ。そしてそれ以上に、この〝魔力素〟という物質は〝霊子〟に似ている》
「似てる?」
《ああ。2つの物質は、存在そのものが非常に良く似ている。その証拠に、この世界にいる者たちは、死神化したお前の存在を認識できていた》
「っ!!」
言われて、一護はハッとした。
この世界に来て最初に出会った人間であるなのはとフェイトは、死神化した一護に平然と話しかけてきた。
たった今まで戦っていたシグナムも、確かに彼を認識し、実際に触れてさえいる。
その3人に霊感があるだけとも考えられるが、シグナムとの模擬戦は他の者たちも観ている筈だ。
一護のことを認識していなければ成り立たない。
斬月の言うことは的を射ている。
余りにも自然なことで、一護はすっかり失念していた。
「その〝魔力素〟ってのが、霊子の代わりになってるって訳か‥‥」
《その通りだ。魔力素が霊子の役目を担うことで、その空間内において霊体が限りなく実体に近づくという現象が起きている。故にこの世界の人間は死神化したお前の姿を視認し、言葉を交わし、触れることができるのだ。死神になるより以前のお前のように‥‥》
一護は死神になる前の頃の自分を思い出す。
霊とは無縁の生活を望み、一方で霊たちと深く関わっていた頃の自分を‥‥。
ふと、模擬戦後のことを考えてみる。
模擬戦が終われば、自分のチカラをなのはたちに説明することになるだろう。
その時に〝幽霊が見えます〟、〝幽霊と話せます〟、〝幽霊に触れます〟、〝実は自分は死神です〟などと説明すれば、彼女たちはどんな反応を見せるだろうか。
〝魔法〟なんて存在があるのだから突飛な話では決してないだろうが、果たして‥‥。
なるべく正確にかつわかり易く説明しようと、一護は人知れず決意した。
閑話休題──
「けど、まだわからねぇ。霊子に似てるってんなら、尸魂界とそんなに変わらない環境だってことだろ? それでなんで瞬歩や月牙が使えなくなるんだよ‥‥? 」
今までの斬月の説明から死神化した自分が、この世界では普通の人間となんら変わらない状態──チカラは別だが──であることはわかった。
しかし、イコール能力に制限が掛かった理由になるとは思えない。
一護は自分の魂に起きているという〝歪み〟について、核心に迫った問いを斬月に投げかける。
《‥‥私は〝似ている〟とは言った。だが〝同じ〟だと言った憶えは無い》
「? どういう意味だ?」
《お前はこの世界で既に1度、死神化して戦い、その戦闘の中で月牙天衝を放ったな‥‥?》
一護の脳裏に、ガジェットを一掃した時の光景が蘇る。
数が数だったこともあって、かなりの霊圧を放った感覚がある。
「ああ‥‥」
《お前自身気付いているかは知らぬが、お前が強大な霊圧を放つ度に、その霊圧の僅かな残滓は、周囲の霊圧を巻き込みながらお前の体へと還って行く》
斬月はこれまでと変わらず、静かに一護の問いに対する答えを説く。
《だが先の戦闘でお前が月牙を放ち、その霊圧の残滓が体へと還る際に巻き込んだのは霊圧ではなく──》
そこまで聞いて、一護は直感した。
「──っ!? 魔力素か!?」
《そうだ》
一護の言葉に頷く斬月。
「じゃあ、俺の魂の〝歪み〟ってのは‥‥」
斬月の肯定を受け、一護は自身に起こっている事態を僅かに把握した。
《さっきも言ったように、魔力素と霊子は似ているモノであって同じモノではない。一方にとってもう一方はただの〝異物〟だ。〝異物〟が混入すれば〝歪み〟が生じるのは自明の理‥‥。お前の魂に起きている〝歪み〟も、お前の霊圧に魔力素が混ざりこんでしまったが故に生じたものだ》
「じゃあ、混ざっちまった魔力素を取り除けば治るのか?」
原因がわかった今、一護が次に取るべき行動は事態の回復だ。
その方法を自身の安易な発想を交えて、単刀直入に斬月に問う。
《取り除く必要は無い。これから先もこの世界で戦うのなら、この機に魂を魔力素に慣らしておくべきだ》
「ならどうすればいいんだよ?」
《簡単なことだ。〝理解〟しろ》
「‥‥は?」
〝理解〟とは物事の道理を悟り知ること、意味を呑み込むこと、物事がわかること、を指す単純な熟語だ。
国語が得意科目──自称──な一護はもちろん、そんなことは百も承知だ。
しかし、
「えっと‥‥つまりどういう意味だ?」
この時ばかりは、〝理解〟という言葉を理解することはできなかった。
《魔法だ何だと言えど、要はお前の〝魂〟に起こったことだ。お前がそれを理解し、受け入れれば、〝歪み〟は自ずと消え失せる。迷うな、自分を──己が魂を信じろ、一護‥‥!》
口調を強め、言い聞かせるように言葉を発する斬月。
「斬月のおっさん‥‥」
真っ直ぐ斬月を見つめる一護。
その手は、力強くグッと握りしめられていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一護が斬月との対話を行っていた頃、観戦スペースでは様々な反応が起こっていた。
「う~ん‥‥やっぱりシグナム副隊長に勝つのは無理なんじゃ‥‥」
「でも副隊長の〝紫電一閃〟を2回も受けて倒れないだけでも十分にすごいですよ‥‥!」
「わたしたちじゃ絶対に無理だね‥‥」
「キュクル~」
順にスバル、エリオ、キャロの言葉だ。
ちなみに最後の動物の鳴き声は、キャロが使役する竜のフリードのものである。
スバルは先のフェイトの発言で期待を持っていた分すこしガックリとした雰囲気で、エリオは押されてはいるもののシグナムの決め技を2度も受け切った一護に感心しながら、キャロは自分たちがシグナムと戦うところを想像して〝絶対に無理だ〟と苦笑いを浮かべながら、それぞれ言葉を発した。
しかし、フォワードの中で唯一ティアナだけは、一切の言葉を発することもなく、ただただ一護の挙動を見据えている。
「思ったほど強くねーな、一護のヤツ‥‥」
「筋は良いと思いますけどね」
「おかしいな~‥‥ガジェット倒した実力があるんなら、シグナムとはええ勝負になると思ったんやけど‥‥」
今度は順にヴィータ、リイン、はやての発言だ。
フォワードの4人の隣で模擬戦を観ている。
リインは一護の戦闘は所見のため、じっくり観察する程度しかできない。
が、ガジェットとの戦闘で一護の実力──最低限──を知っている残りの2人は少々疑問を覚える。
「どうしたんだろ、一護くん‥‥。調子が悪いのかな‥‥?」
そのさらに隣では、なのはが心配そうにフィールドに立つ一護を見ている。
模擬戦が始まる前は勝つまでは行かずともいい勝負になるのでは?と思っていたのだが、現実は終始シグナムが押している。
ガジェットを一掃できる実力を持っている人物の戦闘とは思えない。
考えた末、なのはは一護が調子を落としていると予測した。
ふとナツとツナの方へと視線を移す。
「だああっ!! オレも早く戦いてェッ!!」
「落ち着けってナツ。一護の戦闘もそんなに長引かないと思うからさ」
ナツは一護が押されていることもそっちのけで闘志を募らせていた。
それを宥めるツナの発言も一見すると一護の敗北を示唆しているようにも取れるが、彼の目は仲間の敗北を疑っているようには見えない。
その時、
「大丈夫だと思うよ」
「フェイトちゃん?」
なのはの隣に立っていたフェイトが彼女に声をかけた。
「何か知ってるの?」
一護の実力が予想と違う理由を知っているのかと思い、なのはが訊ねる。
しかし、その問いにフェイトは首を横に振って答えた。
否定の動作だ。
「けど、本当の勝負はここからっていうのはわかる」
付け加えるようにフェイトが言う。
「なんでそんなことがわかるんや?」
2人の会話を聞いていたはやてが、なのはに代わって問う。
ヴィータやリインはもちろん、フォワードの4人も、フェイトの返答を聞こうとしていた。
「それは──」
その様子に応えるように、フェイトは口を開いた。
「さっきまでとは違って、強い眼になったから」
◆◇◆◇◆◇◆◇
(ふぅ‥‥〝戦いに集中しろ〟とは言ったものの、このままでは何というか‥‥少し興醒めだな)
レヴァンティンを構えながら、シグナムは内心で思っていた。
最初にモニターで戦闘を観た時も、そのあと部隊長室で顔を合わせた時も、一護に対する期待値は高かった。
しかし実際は思ったほどの手応えが無い。
(仕方ない。次の沢田やドラグニルとの戦闘もある‥‥。少し惜しいが、そろそろ決着を──)
ドォッ!!!
「──っ!!?」
そこまで至って、シグナムの思考は突如として遮られた。
今まで動きを停止していた一護から、強大なチカラが発せられている。
魔力は感じないが、こちらの動きを押さえつけるほどの圧が感じられた。
「待たせたな‥‥漸く本気でやれそうだぜ」
一護が斬月を肩に担いだ状態で言う。
その言葉からも、その眼差しからも、さっきまでとは違い、力強い雰囲気が窺える。
「‥‥今までは手加減していた、ということか?」
「いや手加減って訳じゃねーんだけど‥‥」
シグナムの問いに対し、返答に詰まる一護。
理由をどう説明すればいいのか纏められないようだ。
しかし、
「フッ、まあよい。私はお前と本気で戦えればそれでいいからな」
さっきまでの沈んだ内心とは打って変わり、嬉々とした表情で剣を構えるシグナム。
「‥‥なんだよ、結局ただの戦闘狂ってことか?」
言いながら、一護も斬月を中段に構える。
そして、
「そういうことだ‥‥!!」
その様子を見届けたシグナムが先手を打って仕掛ける。
一瞬で一護に肉薄し、右手に持った剣を横薙ぎに振るう。
左側から迫り来るシグナムの剣に対し、一護は眉一つ動かさず、斬月をスッと垂直に構え、その斬撃を防ぐ。
攻める刃と護る刃が交わり、ガキンという甲高い金属音が辺りに響き渡った。
斬撃を防がれたシグナムは、素早く剣を右手に持ち替え、逆方向に回転する動きで次の斬撃繰り出す。
その2撃目を一護は体勢を後方にずらして躱すと、同時に体の左側に構えていた斬月を振るい、弧を描く軌道でシグナムに斬りかかる。
シグナムも一護の斬撃を後方に退いて躱すと、そこから3撃目へと入った。
剣を持つ腕を僅かに引き、一護目掛けて渾身の突きを放つ。
レヴァンティンの鋒が迫る中、一護は下半身に力を込め、中空へと跳躍する。
シグナムの剣は一護の下を素通りして行く。
その様子を眼下に捉えながら、一護はシグナムの背後へと着地し、同時に回転するかのような動作で刃を振るった。
瞬時に反転したシグナムは剣を構え、一護の斬撃を防御する。
攻守の刃が入れ替わる形で交わり、再びガキンという甲高い金属音が生じた。
しかし、
「ぐぁっ‥‥!!」
一護の斬撃の威力を殺し切れず、シグナムは後方へと薙ぎ払われた。
後ろに飛ばされつつも剣を使って減速し、停止と同時に相手を見据える。
一護は追撃をかけて来ない。
(様子見、といったところか‥‥? ならば私は‥‥ひたすら攻める!)
内心で決意を固め、シグナムは剣を構える。
「レヴァンティン! カートリッジロード!」
三度ダクトパーツがスライドし、薬莢の排出を経て、剣は炎剣へと姿を変える。
一護はまだ動かない。
かと言って、シグナムの行動も変わらない。
再び一護に肉薄し、剣を振り上げる。
そして、
「紫電‥‥一閃!!」
捉えた敵を目掛けて、勢いよく振り下ろした。
しかし、炎の斬撃は空を斬り、その鋒がカツンと地面を打つ。
「なっ!?」
今しがたまで眼前にいた筈の一護が消えたことに驚愕し、シグナムの行動は停止した。
その隙を、一護は見逃さなかった。
「月牙──」
「──っ!?」
声に反応したシグナムが振り向くと、数メートル先に一護の姿を捉えた。
既に攻撃態勢に入っており、それはすぐに放たれた。
「 天 衝 !!」
ドォォォォォッ!!!
放たれた巨大な斬撃は、シグナムの僅か数cm横を飛んで行く。
「──ぐぅぅっ!! ぐあっ!!」
直撃こそ免れたが斬撃の余波が凄まじく、シグナムの体躯を易々と吹き飛ばされ、ビルの壁に叩きつけたられた。
地面に降り立ったシグナムは、ふと後ろのビル群を振り返って戦慄する。
斬撃が通った跡が一目でわかるほど、その軌跡は無となっていた。
「‥‥外しちまったな」
「っ!!」
思わず、身構えてしまう。
シグナムの戦士としての本能が、無意識に危機に対する防衛動作を取ったと推測される。
(今の斬撃‥‥最初のモノとは比較にならないほど強大だ。加えてテスタロッサと同等かそれ以上の移動速度‥‥。やはり、これが黒崎の本来のチカラか)
先ほどの斬撃やその直前の現象を思い出し、改めて一護のチカラを確認する。
(リミッターを付けたままでは正直勝てる見込みが無い‥‥。いや、リミッターが無かったとしても怪しいな‥‥)
額に冷や汗が滲む。
予想の遥か上を行く一護の戦闘力に、心のどこかで恐れを抱いている自分がいる。
しかし、
(だが‥‥それでこそ戦う意味がある‥‥!!)
それを上回るほどの高揚感をも抱いていた。
シグナムは次なる一手を打つ。
ガシャンという重厚な器械を思わせる音と共に、本日4度目のダクトパーツのスライドが行われ、薬莢が排出される。
一護はまた炎の斬撃が来ると予想し、斬月を構えて待機する。
だが、
「レヴァンティン! シュランゲフォルム!!」
「っ!?」
シグナムの剣は一護の予想に反し、鞭状の連結刃へと姿を変えた。
そして変貌するや否や、その鋒が一護目掛けて飛んで来る。
「くっ!」
一護はギリギリで飛来する鋒を躱す。
が、連結刃の攻撃がただの1度のみで終わる筈もなく、2度3度と続けざまに一護を狙う。
一護は瞬歩でその連撃から逃れようとするが、移動した傍から執拗に追って来る。
「ハッ!」
数度の回避の後、シグナムは遂に一護を捉えた。
魔力でコントロールした鋒を、螺旋を描く軌道で上昇させ、その中に一護を閉じ込めたのだ。
「っ!」
こうなってしまっては、迫り来る鋒から逃れる術は一護には無い。
「シュランゲバイセン!!」
その状態で、実に8度目となる連結刃による攻撃が放たれる。
標的目掛けて降下する鋒の様子はまるで、締め上げた獲物を喰らおうかという大蛇のようだった。
だが一護はただ黙って喰われるだけの獲物などではない。
四方を囲まれようと動じる素振りを見せず、頭上から襲来する鋒を斬月で受け止めた。
ギンッという鈍い金属音が生じたのち、連結刃は一瞬で元のサイズの刀剣へと姿を戻す。
「ふぅ‥‥今のは流石に決めに行ったつもりだったんだが‥‥まさか初見ですべて往なされるとは思わなかったぞ」
「知り合いにちょうど似たような武器使ってる奴がいたんだよ」
一護が言う知り合いとは護廷十三隊六番隊副隊長である阿散井 恋次のことだ。
彼の斬魄刀である〝蛇尾丸〟の始解の姿もまた、先のレヴァンティンのような連結刃なのである。
ただ恋次の連結刃がパワータイプであるが故、シグナムのソレと比べるとスピードやコントロールが少々劣る。
鋒の形もまるで違う。
一護の言葉どおり、〝似たような〟の域を出ない。
しかし、シグナムの連結刃はパワーも同時に備えていた。
「‥‥黒崎」
「ん?」
「次で終わらせよう」
「‥‥ああ、来いよ」
言うと、シグナムはレヴァンティン用と思われる鞘を手に取り、そのまま流れるように納刀する。
その状態のまま、5度目となるカートリッジロードが為された。
一護はその行為が何のためのものなのかわからなかったが、シグナムの魔力がこれまでで最も高まっていることは──魔力を感知することが出来ずとも──理解できた。
「行くぞ!! 黒崎!!」
雄叫びと共に抜刀されると、剣は再び連結刃へと姿を変えた。
「飛竜‥‥一閃!!!」
一見すると砲撃とも思えるほど巨大な斬撃がフィールドを奔る。
轟音と砂煙を上げ、標的である一護に向かって直進する。
そして、
ドゴォォォォォン!!!
シグナムの渾身の一撃が炸裂し、爆音と共にビルが倒壊する。
砂煙が酷くて視認はできないが、シグナムはある種の手応えを感じていた。
(終わったか‥‥)
魔力を大幅に消費したことで疲労感に襲われる。
万が一に備えておこうと連結刃を元に戻そうとした時、異変が起こった。
(ん? 鋒が‥‥まさか!?)
漸く晴れてきた視界が捉えたのは、レヴァンティンの鋒を掴む一護の姿。
「馬鹿な‥‥今の一撃を片手で防いだと言うのかっ!!?」
シグナムの技、〝飛竜一閃〟は、砲撃級に相当する強大な技だ。
リミッター付きでかつ非殺傷設定だとしても、片手で防げるような技ではない。
しかし、一護は防いでいる。
シグナムは目の前で起こっている現実を理解するのに、時間を要した。
その時間が、大きな隙を作ってしまう。
「ぅぉぉおおおおっ!!!」
「──っ!!?」
雄叫びに気づき、防御を図るシグナムだったが、時既に遅し‥‥。
「 月 牙 天 衝 !!!!」
ドォォォォォォォッ!!!!!
「うあああああああっ!!!」
放たれた斬撃は巨大な閃光となり、瞬く間にシグナムを呑み込んだ。
閃光が収まると、辺りのビルが消し飛ばされている中、シグナムだけが佇んでいた。
ギリギリのタイミングで防御魔法を使用したようで、重傷は免れたらしい。
しかし、継戦不能なことは誰の目から見ても明白だった。
「大丈夫か!?」
レヴァンティンを支えとしてどうにか立っているシグナムに駆け寄る一護。
内心〝やり過ぎた〟という思いがあるようだ。
「フッ、大丈夫‥‥とは言い難いが、気にするな。私が望んだことの結果だ」
そんな一護の内心を知ってか知らずか、シグナムは慰めの言葉を紡ぐ。
自身の言葉どおり、彼女はボロボロながらも、その表情は十分に満足気だった。
「ありがとう、黒崎」
笑みを浮かべながら手を差し伸べるシグナム。
握手を求めているようだ。
「ああ」
一護はそれに応える。
すっかり瓦礫の山と化した廃棄都市と中で、2人の剣士は堅い握手を交わした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「シグナム副隊長に‥‥」
「か、勝っちゃいました‥‥」
まるで信じられないものを見たかのような表情で驚くエリオとキャロ。
「すごい‥‥すごい、すごい、すごい! すごいよ! ねぇ! ティア! すごいよね!」
「‥‥そ、そうね」
まさかの逆転劇に大興奮のスバルと、そのテンションに引きつつ一護の実力に驚嘆するティアナ。
「一護のヤツ、くそ強ぇな‥‥」
「同意見ですけど、もう少しマシな言い方は無かったんですか?」
予想を遥かに上回る一護の実力に感心するヴィータと、その言葉遣いを咎めるリイン。
「フェイトちゃんの言ったとおりだったね」
「うん。けど‥‥さすがにこれは予想外だったよ」
あまり感情を表には出さないが、内心では予想外過ぎる結果に驚愕しているなのはとフェイト。
(これは‥‥)
なのはたちと同様に内心で驚愕しているが、それ以外にも何か思うところがあるのか1人で静かに思考に耽るはやて。
各々の反応は様々だったが、その系統はどれも〝驚き〟一色だった。
「よっしゃー! 一護が終わったんなら次はオレだ!」
「どんだけ戦いたいんだよ‥‥。はやて、次の模擬戦はどうするの?」
ナツの闘志に呆れながら、ツナははやてに訊ねる。
しかしツナの声が聞こえていないのか、はたまた自分の世界に入り浸っているのか、返事は無い。
「はやて?」
「‥‥え? あ! ごめんごめん! なんや?」
漸く反応したはやて。
やはりツナの問いを聞いていなかったようだ。
ツナはもう1度同じ問いを訊ねる。
「次の模擬戦はどうするの?」
「う~ん、そうやな~‥‥。シグナムはもう戦わさん方がいいやろうし‥‥」
腕組みをして唸るはやて。
そして1つの質問をナツとツナに問いかけた。
「2人はどんな戦い方するんや?」
一護とシグナムが共に刀剣を使う者同士だったように、チカラを測るには同系統のチカラで試す方が効果的だ。
それを踏まえての質問だったのだが、これが思わぬ展開を生み出す。
「戦い方っつわれてもなぁ~‥‥。まあ、殴る蹴るって感じだな」
「まんま喧嘩やな‥‥。要するに格闘術ってことか‥‥。ツナくんは?」
「うーん、オレも強いて言えば格闘術、かな?」
「ふんふん、ナツくんもツナくんも格闘術か‥‥!」
そこまで聞いて、はやての頭の上に不可視の電球が現れた。
閃いた!という暗黙のサインである。
そして、次の模擬戦の組み合わせが決定した。
「ほんなら、次は2人で戦ってもらおかな♪」
─ To Be Continued ─
後書き
3ヶ月もお待たせして申し訳ありません!!
ほ、ほら、年末年始って色々と忙しいじゃないですかぁ(汗)
‥‥ホントすみません。
今回の話も以前連載していた時と比べてだいぶ加筆修正しております。
主に戦闘描写なんですが、やはり難しいですねぇ、ハイ‥‥。
ある程度満足の行く仕上がりにはなったんですが、不安は残ります。
楽しんでいただければ幸いです。
さて今回登場した斬月さんですが、本作におけるBLEACHの時間軸は最終章前の設定ですので、当然一護との関係はそれ以前の状態です。
それらを含め、本作内で最終章の設定に触れることは恐らくありません。
それどころか独自設定を付け足していくこともあります。
具体的には〝虚化〟関連の設定ですかね(汗)
まあまだ先の話です。
次回はナツナコンビ──名前的にこの作品内ではこの括りで行こうと思います──の模擬戦です。
ある種似た戦闘方法の2人なので、何気に気に入っているバウトだったりします(笑)
今回はこの辺りで失礼させていただきます。
本作に関する感想、指摘、要望、質問等、お待ちしております。
お気軽にお寄せください。
では‥‥m(_ _)m
次回、第8話『火竜の炎vs大空の炎』
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