魔法少女リリカルなのはStrikerS~破滅大戦~
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1st
邂逅篇
第5話『集結』
前書き
『上から覗いてる目ン玉気にしてたら魔道は進めん。評議員のバカ共を怖れるな。自分の信じた道を進めェい!!!! それが妖精の尻尾の魔導士じゃ!!!!』
────byマカロフ・ドレアー(FAIRY TAIL)
【3人称side】
「‥‥ここが、〝ミッドチルダ〟って場所なのか?」
辺りを適当に見渡しながら、オレンジ頭の青年──黒崎一護はふと呟く。
周囲には木々が生い立つばかりで、一護の他に人の気配は無い。
現在、一護はミッドチルダの鬱蒼とした森林の中にいる。
「確かめようが無ぇな‥‥」
だが、一護にはここが本当にミッドチルダなのかどうかは、皆目見当もつかないだろう。
「しっかし暗いな」
時刻は夜。
生い茂った木々の葉が月明かりを遮っていることも相俟って、森の中は実に暗い。
数メートル先の木が辛うじて視認できる程度だ。
「送り込むのはいいけど、何もこんな場所に送ることねーだろ‥‥」
頭を無造作に掻きながら、一護は思わず愚痴をこぼす。
一護──ナツやツナも同じく──をミッドチルダへと導いたのは、『エレア』と名乗る少女だった。
『ミッドチルダへ行って欲しい』と懇願してきたエレア本人が直接送り込むのだから、当然ある程度の場所──その世界にいる仲間の許や、それに近しい場所──に送り込まれるのだろうと、一護は思っていた。
しかし実際に来てみれば、目の前は木、木、木‥‥。
緑を眺めるというのは、目の保養には効果的だろうが、右も左もわからないのが現状の一護にとっては、煩わしいことこの上ない。
「ったく──‥‥!」
ガクッと肩を落とし、ふと下を向いた時、自分の服装の違和感に気づいた。
「元の姿に戻ってる‥‥」
今の一護の恰好は、死神の正装である〝死覇装〟ではなく、普段着ている白地のTシャツに余所行き用の黒いジャケット、下はベージュのチノパン姿だった。
私服姿ということはつまり、元の人間の体だということだ。
一護は死神として戦う時、死神代行戦闘許可証──通称〝代行証〟を使用して肉体から抜け出し、霊体になって戦う。
その間、肉体は〝義魂丸〟と呼ばれる飴玉のようなモノを飲むことで仮の魂──一護の場合は〝コン〟という魂──を入れられ、本人が戻って来るまでその身体を保護するのである。
エレアに転移させられる直前も、もちろん霊体である死神の姿で戦っていたし、コンにも留守番を頼んでおいた。
それが今では、自分が肉体を保持している。
「どうなってんだ‥‥?」
一護は状況がわからずにいた。
いつの間に自分は肉体へと戻っていたのか?
自分の代わりに肉体に入っていたコンはどうしたのか?
一護はしばし考えを巡らせた。
‥‥が、
「まあいいか。どうせエレアが何かしたんだろ‥‥」
すぐに自己完結がなされる。
エレアの能力でここに来て、その時にこういう状況になっていたのなら、それは彼女が何かしたのだと思うだろう。
事実、そうである。
この世界に送り込む瞬間、エレアは一護にとある術を施した。
それは死神化に関する術なのだが、一護がそれを知る由も無い。
「けど身体も大事だけどよ‥‥だったら送る場所にも気ぃ使ってくれよ」
一護の口からは再びエレアに対する不満がこぼれた。
肉体関連のことはともかく、場所に関する問題は全く解決していないのだ。
「ハァ‥‥。しゃーねーな、歩くか‥‥」
かと言って、その場で立ち尽くしていても埒が明ける訳ではない。
そう考えた一護は、森の中を適当に散策する事にした。
「薄々わかっちゃいたけど‥‥‥‥どこまで行っても森じゃねーか!!」
歩く事およそ数十分、一護はついにキレた。
歩いても歩いても、見えてくるのは相も変わらず鬱蒼とした木々ばかり。
人工的なモノの1つも在りはしない。
それどころか人にさえも出会わない。
もっとも、こんな闇に鎖された不気味な森の中に人がいたとしても怪しいだけだが。
延々と歩き続けた代償として得た疲労感も相俟って、一護の苛々メーターはいとも簡単に限界点を振り切ってしまったのだ。
「くそっ‥‥。どうしろってんだよ」
文字通り取り付く島も無いといった具合に、一護は途方に暮れていた。
状況に変異が生じたのは、まさにそんな時だった。
──ガサガサッ
「!」
背後の草叢が大きく音を立てて揺れる。
瞬時に反応した一護が振り返ると、そこには不思議な機械があった。
「なんだ‥‥?」
カプセルにも似た円筒型の機械で、全体の色は濃い目のスカイブルーと言ったところだろうか。
しかし、形や色が把握できるからといって、その正体がわかる訳ではない。
よく目を凝らしてみれば、そんな正体不明の機械の大群が、いつの間にやら自分を取り囲んでいる。
一護は警戒レベルを一気に上げた。
瞬間、
「っ!」
一護の真正面を取っていた1機の機械が、その機体正面からレーザーを放った。
レーザーは寸分の狂いも無く標的である一護へと向かう。
しかし一瞬後、その攻撃軌道上に一護は無く、レーザーはそのまま正面にいた機械に命中し、その機体を焼き尽くしてしまった。
さらに直後、今度はレーザーを放った機械が真っ二つに割れた。
──いや、斬り裂かれた。
「あぶねぇな」
この世界で始めて能力を発現させた、死神代行・黒崎一護によって。
◆◇◆◇◆◇◆◇
同時刻──
一護がいる場所から数キロ離れた、ちょうど森の入り口付近の上空を飛行する2つの人影があった。
まず窺える特徴としては、それぞれ白を基調としたドレスのような装いと黒を基調とした軍服のような装いであること。
服に包まれてもなおその存在を主張する双胸の膨らみからして、2人とも女性だろう。
その他の外見的特徴を挙げるとすれば、2人とも髪を両サイドで結っている、いわゆるツインテールという髪型であること。
白服の女性は栗色の髪を白いリボンで、黒服の女性は金色の髪を黒いリボンで、それぞれ結っている。
そんな2人の女性が、それぞれ特殊な形状の杖を持って飛行していた。
「この辺りかな? フェイトちゃん」
2人がちょうど森の上空へと差しかかった時、おもむろに白服の女性──高町なのはが口を開いた。
「うん、多分この森のどこかだと思う」
なのはに問いかけられた黒服の女性──フェイト・T・ハラオウンが答える。
2人はある任務のため、眼下に広がるこの森を目指していた。
数時間前、ミッドチルダの森林地帯で小規模の次元震が起きており、2人はその実態と原因の調査のために来ていたのだ。
しかし、ここで任務内容が変更される。
《こちらロングアーチ! 震源地付近にてガジェットの反応を多数確認! 数はおよそ50!》
「っ! 場所は?」
《現在位置から南西800メートル地点です! 至急向かってください!》
「了解! フェイトちゃん!」
「うん、急ごう!」
機動六課の後方支援部隊《ロングアーチ》に所属するシャリオ・フィニーノ──通称シャーリー──からの入電によると、最近ミッドチルダで頻出している《ガジェット》と呼ばれる機械兵器が森林地帯に出現したらしい。
要請を受けたなのはとフェイトは、現場へと急行する。
その直後、
ドォォォン!!
2人が目指す方向で爆音が上がる。
「何?」
フェイトが訝しむと同時に、またもシャーリーから通信が入った。
《大変です! 民間人がガジェットに襲われています!》
「「っ!?」」
2人は思わず息を呑んだ。
魔導師でも苦戦するガジェット相手に、民間人では一溜りも無い。
「了解。民間人の保護を優先します」
フェイトは一考する間も無く、優先事項を、ガジェットの殲滅から民間人の保護に変更する。
《わかりました。民間人のことはこちらから八神部隊長に連絡しておきます。2人とも、気をつけてください》
「「了解!!」」
シャーリーとの通信を切り、先程爆音が上がった場所へと向かう。
事は一刻を争うと判断したのだろう。
2人は一層飛行速度を上げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【なのはside】
現場に到着したわたしたちは、中空で制止し、眼下へと視線をやる。
シャーリーから聞いたことを元に下した自分たちの判断では、急を要する事態になっているはずだった。
しかし、わたしたちの視界に映る光景は、それとはまったく異なった事態となっている。
「うらあっ!」
シャーリーの言う民間人であろうオレンジ頭の青年が、身の丈ほどもある大刀を振るい、ガジェットと戦い、圧倒していた。
黒い着物を纏っていることも相俟って、さながら時代劇などである殺陣のシーンを見ているようだった。
青年が大刀を振るうたびに、ガジェットが次々に破壊され、虚しくも鉄屑となって辺りに散らばっている。
シャーリーから聞いた話では、確認されたガジェットの数はおよそ50。
管理局の名のある魔導師でも、1人で相手取るには少々辛い数だ。
でもわたしたちの目の前で戦う青年は、たった1人で数十機のガジェットと対峙し、その数を着実に減らしている。
手こずっている様子も見受けられない。
現にガジェットの数は、シャーリーの通信から僅か数分ほどの内に半分以下にまで減っていた。
「すごい‥‥」
隣でフェイトちゃんが呟く。
わたしも無言でそれに同意した。
ホントにすごい‥‥。
けどこの時点で驚いてしまうのは、まだ早いようだった。
「くそっ、キリが無ぇな!」
想像以上に数が多かったのか、青年が舌打ち交じりに呟いたのが聞こえる。
やはり1人でこの数を相手にするのは難しかったのか‥‥。
そう思っていると、青年の顔付きが変わった。
そして、青年はガジェットの群れのすべてと対峙する位置へと移動し、持っていた大刀を天へと突き上げる。
何をするつもりなんだろう‥‥?
わたしには一瞬、青年の行動の意味がわからなかった。
そんな無防備な状態では、敵に「攻撃してください」って言っているようなものだと思ったから。
案の定、青年と対峙するガジェットの群れは、一斉に攻撃態勢に入っている。
危ない‥‥!
そう思った次の瞬間だった。
「マズい! 早く助けないと──「待って!」──‥‥っ! なのは!?」
青年の身を案じ、動こうとしていたフェイトちゃんに、わたしは制止を掛けた。
最初はわたしの制止に驚くフェイトちゃんだったけど、彼女もソレを感じたらしい。
フェイトちゃんに制止を掛けた時、わたしはある違和感を感じ取った。
大気が震えている。
それも、青年を中心に‥‥。
今、私は理解した。
何故、青年はわざわざ無防備な体勢を取ったのか‥‥。
簡単だ。
それは──
「月牙‥‥」
攻撃のためだ。
「 天 衝 !!」
ドォォォォォッ!!!
青年が真っ直ぐ振り下ろした大刀の刃先から高密度のエネルギー波が放たれ、眼前のガジェットを1機たりとも残さず、文字どおり〝殲滅〟した。
「「す、すごい‥‥」」
思わずフェイトちゃんとハモってしまう。
わたしたちにも強力な魔法はある。
でも、ガジェットは〝アンチ・マギリンク・フィールド〟──通称〝AMF〟と呼ばれる、一定範囲内の魔力結合を解くことで実質的に魔法を無効化する高位防御魔法を展開できるため、青年がやったような〝容易に一掃する〟ということは難しい。
わたしたちは正に、呆気に取られていた。
「ふぅ、やっと終わったか」
青年が持っていた大刀を地面に突き立て、一息をつく。
その行動を以って、わたしたちは正気を取り戻した。
「! なのは! 彼を保護しないと!」
「ふぇ? あ、ああ! そうだね」
フェイトちゃんに促され、わたしたちは青年を保護するべく、地上へと降りる。
浮遊していた時から感じていたことだけど、青年の辺り一帯の空気が、やはり重い。
胸の辺り──いや、むしろさらにその奥だろうか──を締め付ける、強大な何か‥‥。
でも、それでいてどこか安心するような、優しい何か‥‥。
横目でチラッと見ると、フェイトちゃんもその何かを感じているようだった。
この不思議な感覚は一体‥‥?
わたしたちは一先ずその何かを頭の隅に追いやり、青年に声を掛けようとした。
「誰だ?」
しかし先に声を発したのは、わたしたちの接近に気づいた青年の方だった。
青年は振り返り、わたしたちを視認すると、顔を僅かに顰めた。
顔つきや体格から改めて推察すると、20代前後──大体わたしたちと同年代くらいだろうか‥‥。
着物みたいな格好だし、何よりこの言語‥‥。
もしかするとわたしと同じ世界の、同じ国の人なのかも‥‥。
「さっきの奴等の仲間か‥‥?」
そんなことを考えていると、青年は突き立てていた大刀を手にし、わたしたちに問い掛けてきた。
どうやらわたしたちをガジェットの仲間だと思っているらしい。
まぁ、あんなのに襲われた後に現れれば、それは怪しいかな‥‥。
「待ってください! 私たちに戦意はありません。私たちはあなたを保護しに来たんです」
内心で自虐するわたしに代わって、フェイトちゃんが両手を挙げて青年に話し掛ける。
〝敵意は無い〟ということを表したポーズだ。
「俺を、保護‥‥?」
「はい。先程あなたが戦って倒した機械は〝ガジェット〟といって、近頃このミッドチルダで頻出している危険な機械なんです」
「‥‥‥‥‥」
「ガジェットは私たちにとっても敵に当たります。ですから、私たちはあなたの敵ではありませんし、あなたに危害を加える気も‥‥‥‥あの、聞いてますか?」
フェイトちゃんが突然説明を切り、青年の問い掛けた。
わたしも少し気になった。
青年はフェイトちゃんの話を聞いていたけど、途中で何かに驚いたような表情になって、そのままジッとフェイトちゃんの方を見つめていたからだ。
「‥‥‥‥ごめん、なのは。ちょっと‥‥代わって、くれないかな?」
青年の視線を避けるようにして、フェイトちゃんがわたしに囁く。
「え? 別にいいけど、どうしたの?」
「いや、えっと‥‥。ごめん、聞かないでくれると、その‥‥助かるんだけど‥‥」
どうしたのかと思って見ると、フェイトちゃんの顔が少し赤い。
「‥‥うん、わかった」
わたしは素直にフェイトちゃんからのバトンタッチの要求を呑んだ。
さっきの様子から察するに、フェイトちゃんは照れたんだと思う。
異性にジッと見つめられるのはわたしでも少し恥ずかしいし、そういったことにあんまり耐性の無いフェイトちゃんなら仕方ないかな。
目の前に立っている青年も、結構かっこいいしね。
親友の可愛い面が見れたわたしは、フッと笑みを零してしまう。
とはいえ、今は一応任務中。
「あの、どうかしましたか?」
わたしは気を取り直して、青年に問い掛けた。
「‥‥あ、ああ、悪い。なあ、さっきそいつ、〝ミッドチルダ〟って言ったか?」
青年がフェイトちゃんを横目で見ながら言う。
青年も我に返ったようで、わたしの問い掛けに、同じく問い掛けで返してきた。
「ええ、言いましたけど‥‥それが何か?」
「そっか! やっぱこの世界が〝ミッドチルダ〟で合ってんだな!」
「「!!?」」
わたしの答えに青年は笑みを浮かべる。
でも同時に、わたしたちは驚愕の表情を浮かべた。
さっきの青年の言葉ではまるで、〝今の今までこの世界がミッドチルダであることを知らなかった〟という風に聞こえる。
その言葉を受けたわたしは、あるいくつかの可能性を考え出した。
1つは、この青年が記憶喪失のような状態にある可能性。
でも、青年の反応から考えてそれは極めて低いと思う。
となると、考え得る可能性は──
「すみません、当初の目的と少し違いますが、ご同行願えますか?」
わたしは少し真剣な口調で、青年に言う。
フェイトちゃんも同意見のようで、同じく真剣な眼差しでわたしと青年を見据えていた。
「まあ、お前等が敵じゃないってことはなんとなくわかったし、別に構わねーぜ」
言いながら青年は辺りをきょろきょろと見渡す。
その姿は何かを探しているようだった。
「どうかされましたか?」
青年の行動に疑問を抱いたのか、隣でフェイトちゃんが問う。
「いや、ちょっとな‥‥」
言いつつも青年は辺りを見回すことを止めない。
その時、ポロっと青年の懐から五角形の板切れのようなものが落ちた。
何やら髑髏のイラストが描かれた‥‥こう言っては青年に失礼かもしれないけれど、少し気味の悪い品物だった。
青年が落とした板切れに気づき、辺りを見回すことを止め、それを拾う。
そしてその拾った板切れを胸元にやった瞬間、黒い着物が消え、青年は普通の私服姿に変わった。
私たちは突然のことで少し驚いたが、普段から自分たちがやっていることと然したる差は無い。
青年の黒い着物も、バリアジャケットのようなものなのだろうか‥‥?
わたしたちはすぐに平静を取り戻したが、対する青年は少し戸惑っているようだった。
不思議そうな面持ちで自身の体を、何かを確かめるように触っている。
何か異常でもあったのだろうか?
「あの‥‥大丈夫ですか?」
青年の行動に微かな不安を覚えたわたしは、その旨を青年に問う。
「‥‥ああ、まあ‥‥大丈夫だ」
少々の逡巡と思える間を置いて、青年が答える。
まだ気になることはあるが、深くは追及しないでおく。
今は青年の保護が先、話し合いは六課に戻ってからだ。
「そうですか。では改めて、ご同行を願えますか?」
「ああ、いいぜ」
わたしの言葉に、青年は快く答えてくれた。
「ありがとうございます」
その快諾に対して、わたしも一応感謝の意を表しておく。
「いいさ。俺も色々と訊きてぇこととかあるしな」
「わかりました。では迎えを寄越しますので、少し待っててください」
青年の了承を得たわたしたちは、ロングアーチのシャーリーと連絡を取り、任務完了の報告をすると同時に、迎えのヘリを向かわせるように要請した。
シャーリからは「了解」という返事があり、その数分後、そのシャーリーからヘリが向かったとの連絡が入る。
要請したヘリは大体30分くらいで到着するらしい。
しかしこの森林の真っ只中では、さすがにヘリの着陸は無理だ。
「じゃあ行きましょう。このままついてきてください」
わたしたちは3人連れ立ってヘリの着陸予定場所まで移動することにした。
そして、その途中のこと‥‥。
「‥‥なあ」
「どうしました?」
「そういや、お前等の名前聞いてないし、俺も名乗ってねぇな、と思ってよ」
青年の言葉を聞いて、わたしとフェイトちゃんはハッとした。
さすがにこれだけ話しておいて名前を名乗らないのは失礼だと思う。
「んんっ! 申し遅れました。わたしは機動六課所属スターズ分隊隊長、高町なのは一等空尉です」
「同じく、ライトニング分隊隊長、フェイト・T・ハラオウン執務官です」
わたしたちは畏まり、敬礼交じりに名を名乗る。
「ご丁寧にどうも。俺は黒崎一護だ」
「〝イチゴ〟? あの果物の?」
「男性にしては可愛らしい名前ですね」
「違ぇよ! よく言われるけどそんな訳ねーだろ! 一等賞の〝一〟に守護神の〝護〟で〝一護〟だ!」
「「ご、ごめんなさい‥‥」」
どうやら青年──一護くんの地雷を踏んでしまったようだ。
これからは気をつけよう。
そう心に誓いながら、わたしとフェイトちゃんは項垂れてしまう。
「そ、そんな顔すんなよ。俺が悪者みたいじゃねーか」
今まで怒っていた一護くんだが、わたしたちの表情を見て、態度を一変させた。
あの時感じた何かのように、根はやっぱり優しいのかも知れない。
「「す、すみません‥‥」」
けど、一応謝っておこう。
「ハァ、ったく‥‥まあいいや。それより、お前等できれば普通に話してくれよ。敬語抜きで」
「え?」
「たぶん歳とか近ぇだろ? どうも慣れないんだよなー、同年代の女子の敬語って‥‥(ルキアの演技の件もあって)」
「でも‥‥」
わたしとしては初対面の男性にいきなりタメ口というのもどうかと思っていたんだけど、どうやら一護くんはそれが嫌ならしい。
わたしはフェイトちゃんと目配せを交わし、数秒の後に口を開いた。
「わかった。君がそう言うなら、そうするよ」
相手が言うのなら遠慮は必要無いだろうというわたしたちの判断だ。
まあ、大した判断ではないのだけれど。
「そっちの方が楽で助かるぜ。取りあえずよろしくな、なのは、フェイト」
「うん」
「こちらこそよろしくね、一護くん」
軽く握手を交わす私たち。
そして再びヘリとの合流地点へと歩き出した。
わたしは後ろを歩いてくる一護くんを一瞥し、少し物思いに耽っていた。
話してみて改めて感じたけど、やっぱり一護くんは記憶喪失なんてことはなさそうだった。
となると、もう1つの可能性でまず間違いない。
恐らく、一護くんは自分の意に反してこの森林地帯にいたんだ。
わたしの考えが正しければ、一護くんは‥‥〝次元漂流者〟だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【3人称side】
「ス、スゲェ‥‥」
「なんや‥‥あのチカラは‥‥!?」
一護がガジェットを殲滅した時刻。
部隊長室に展開された空間モニターで一護の戦闘を観ていたはやてとヴィータが呟く。
反応は現場にいたなのはやフェイトとほとんど同じ、一護の戦闘力に驚愕しているのだ。
言葉を発しないが、シグナムやザフィーラもそれは同じ。
ましてや、
「やるじゃねーか、一護の奴!」
「あれが、オレたちのもう1人の仲間‥‥」
ナツとツナさえも驚いている。
「? 2人は彼のこと知っとるんか?」
2人の言葉を聞き取ったはやてが言う。
「ああ。アイツはオレたちの仲間だ」
答えたのはナツ。
一護と既に会っていることもあり、幾分かの仲間意識が芽生えているのだろう。
ナツの言葉を聞いたはやては、少しの沈思黙考の後、再び口を開いた。
「‥‥ほんなら、2人も何か〝チカラ〟を持ってると考えて、ええんかな?」
はやての表情は真剣そのものだった。
それを知ってか知らずか、2人ははやての問いに答える。
「ああ! あんなヘンテコロボットなんかにゃ負けやしねーよ!」
「オレも、誇張する訳じゃないけど、あの機械には負ける気がしないかな」
自信を顕にして言う2人。
それは、幾多の戦いを潜り抜け、脅威に打ち勝ち、壁を乗り越えて培った、確固たる戦士の自信だ。
2人の目が、それを物語っている。
「そっか‥‥」
はやてはそれを受け、再び沈思黙考を始めた。
(もしかしたらこれは‥‥思いもよらぬ〝援軍〟かも知れんな)
◆◇◆◇◆◇◆◇
一護がなのはたちに保護された頃と同時刻──
「ほう‥‥。ガジェットをこうも容易く破壊するとは‥‥」
隊長室ではやてたちが見ていたように、モニターを通して一護の戦闘を観ている者が他にもいた。
歳は20代後半~30代前半といったところか‥‥。
紫色の髪と白衣が特徴の男性だった。
研究室のような部屋で、男は1人モニターに視線を向けている。
「失礼します」
そこへ、浅紫色の髪の女性が部屋へ入ってくる。
「ウーノか。何だい?」
振り向いて女性を視認すると、男は問い掛けた。
男に問い掛けられ、ウーノと呼ばれる女性は畏まりながら口を開く。
「はい。先程次元震の震源地付近に向かわせたガジェットが、何者かに破壊されました」
「知っているよ。観ていたからね」
男は再びモニターへと視線を移す。
その表情はどこか、子供染みた笑みを浮かべているようにも見える。
「‥‥失礼ながらドクター。何やら楽しそうですね」
「わかるかい?」
先程の子供染みた笑みとは一変、男は不敵な笑みを浮かべながら言う。
「楽しまずにはいられないんだよ」
男の視線の先にあるモニターには、斬月を振り下ろし、ガジェットの群れを一撃で葬り去る一護の姿があった。
「せっかくこうして面白そうな〝玩具〟を見つけたんだからね‥‥! クハハハハハ!!」
モニターに映る一護を見据えながら、男──ジェイル・スカリエッティは不気味に笑った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は戻って機動六課部隊長室、時刻は日付が変わろうとしていた頃──
「ほんなら改めまして‥‥。私はこの機動六課の部隊長・八神はやてや。ほんでこっち私の家族で、右からシグナム、ヴィータ、ザフィーラや」
「シグナムだ。よろしく頼む」
「ヴィータだ。よろしくなオメェら」
「ザフィーラだ」
「ほんでこっちが機動六課の隊長陣で、私の親友のなのはちゃんとフェイトちゃん」
「高町なのはです。よろしくね」
「フェイト・T・ハラオウンです。よろしく」
「じゃあ次、そっちの番やで」
一護となのは、フェイトが合流したことで、改めて自己紹介が行われているようだ。
ちなみに、なのはとフェイトの容姿はバリアジャケット着用時と少し違っている。
どこが違っているかというと、服装と髪型だ。
なのははサイドポニーで白を基調としたスーツ、フェイトはストレートで黒を基調としたスーツを着ている。
閑話休題──
自己紹介は、六課勢のターンが終わり、次は一護たちのターンとなった。
「黒崎一護だ。よろしくな」
「〝イチゴ〟? また随分可愛らs──「「はやて(ちゃん)それはダメ!!」」──な、なんやっ!?」
例の地雷を見事に踏み抜こうとしたはやてを、なのはとフェイトがすんでのところで止める。
しかし、
「何か果物みてーな名前だな」
「「ヴィータ(ちゃん)!!?」」
はやての代わりにヴィータが見事に踏み抜いた。
「こんなんばっかか! 俺の名前は果物じゃねーよ! 一等賞の〝一〟に(以下省略)」
その後、はやてとヴィータはちゃんと一護に謝ったという。
「オレはナツ・ドラグニルだ。よろしくな!」
「沢田綱吉です。〝ツナ〟って呼んでください」
多少の脱線事故はあったものの、自己紹介は無事に終わった。
そして、はやてが続けざまに口を開く。
「じゃあ早速本題に入ってもええかな?」
「いいけど、何を話せばいいんだ?」
「そうやなぁ~。君等の置かれてる状況も説明せなアカンし、君等自身のこととかも訊きたいけど‥‥」
はやては右手を顎に当て、物思いに耽る。
数秒すると、はやての頭に何やら目には見えない電球が現れた。
「一護くんを含め、君等3人は何やら〝チカラ〟を持っとる。これは間違いないか?」
「‥‥ああ」
一護は後ろにいるナツとツナを一瞥し、無言の了承を得た後、静かに頷く。
「そっかそっか‥‥」
はやては1人で納得し、そして意味深な笑みを浮かべながら言う。
「ほんなら話の前に、3人には〝模擬戦〟をやってもらおか♪」
─ To Be Continued ─
後書き
不定期とか言っといて結局日曜に更新しましたね、すみません(汗)
前回の後書きでも説明しましたが、今話の戦闘描写を見ていただいてもわかるとおり、一護の始解姿──卍解も同様に──は銀城と戦った時のモノになります。
最新の二刀流も書いてみたいですが、それでは時系列がおかしくなるので断念‥‥orz
あと冒頭の方で出て来た一護の死神化に関する設定ですが、次話の本編と後書きで少し説明いたします。
ともあれ、これで本作の主要人物揃い踏みです。
‥‥が、まだしばらくは日常回が続きます。
あと6、7話くらいですかね(汗)
今回はこの辺りで失礼させていただきます。
本作に関する感想、指摘、要望、質問等、お待ちしております。
お気軽にお寄せください。
では‥‥m(_ _)m
次回、第6話『模擬戦』
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