大人のキス
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五章
第五章
「来て。よかったら」
「うん、それじゃあね」
「それがデートだからね」
「そうだね。男の子って女の子をお家まで送らないといけないからね」
「そうよね。そうだから」
それを理由にしてだ。隆子は琢磨の言葉を受けたのだった。
そうして二人は隆子の家まで歩いていく。手は握られたままだ。そこでだった。
ふとだ。隆子がまた言った。
「あのね」
「今度はどうしたの?」
「岩崎君って」
「うん、僕?」
「どうなの?今」
こう彼に問うのだった。
「今はどんな気持ちなの?やっぱり」
「苦しくないかって?」
「そういうのはないの?今」
「苦しいっていうかね」
「ええ」
「何か恥ずかしいかな」
顔を赤くさせての言葉だった。
「今は」
「恥ずかしいの」
「何かね。こうして女の子と一緒に歩いてるのって」
「そのことがなのね」
「何か恥ずかしいね」
また言う彼だった。
「これって」
「そうなの」
「うん、何かが違ってね」
そうだというのである。
「いつもとね」
「いつも男の子達で集まってるのとは違うからかしら」
「そうだね。けれどそれ以上に」
「それ以上に?」
「普段と全然違って」
その赤らんでしまった顔で話す。
「どうしても。何ていうかな」
「何て?」
「石黒さんと一緒にこうしているとね」
「うん」
「恥ずかしくなってくるんだ」
これが今の彼だった。
「どうしてかわからないけれど」
「そうなの」
「一緒にいたいと思うけれど」
それでもだというのだ。
「けれどそれでも一緒にいたらいけないような」
「そんな気持ちなのね」
「うん、おかしいよね僕」
今度は彼が顔を逸らしてだ。そうして話した。
「こんなこと言うなんて」
「おかしいかしら」
「おかしいよ。こんなのはじめてだし」
「私は苦しくなって」
「僕は恥ずかしくなってね」
それが今の二人であった。
「何かおかしいよね、これって」
「デートってこういうものなのかしら」
隆子はここでこんなことを思った。そうしてであった。
琢磨が急に手を強く握ってきた。するとそこから熱さを感じた。
その感じたことのない熱さにだ。隆子は思わず声をあげた。
「あっ、今のって」
「どうしたの?」
「熱くない?手が」
「うん、僕も今そう感じたよ」
これは琢磨もであった。
「何か。沸騰したやかんに触ったみたいな」
「そんな熱さよね。けれど」
それでもだった。
「離したくないの」
「僕も。家までだけれど」
「それでもね」
「うん、離したくない」
彼もだというのだ。
ページ上へ戻る