大人のキス
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第四章
第四章
隆子がこう言ってきたのだった。
「帰り道で別れるまでね」
「こうして一緒にだよね」
「ええ、歩きましょう」
そうするというのだった。
「それでいいわよね」
「ううん、それはどうかな」
しかしだった。琢磨はここではじめて自分の意見を言ってきたのだった。
「だって。僕達デートしてるんだよね」
「ええ」
「デートって。ドラマとかだと」
「ドラマだと?」
「女の子の家まで送ってるけれど」
彼が言うのはこのことだった。
「だからここは」
「私の家まで来てくれるの?」
「駄目かな、それは」
こう彼女に問うた。
「駄目だったらいいけれど」
「いえ、それだったら」
「いいの?」
「ちょっと待って」
隆子は彼がこんなことを言うとは考えていなかった。それでだ。
戸惑いながらだ。こう彼に言うのだった。
「そうね」
「うん」
「じゃあ。御願い」
思いつめそうしてから決めた顔で答えた。
「私のお家の前までね」
「うん、行っていいんだね」
「そうして。けれど何かこれって」
「どうかしたの?」
「本当にデートみたいね」
こんなことを言ったのだった。
「そうよね、これって」
「だからデートしてるんだよね、僕達って」
「それでもよ」
気恥ずかしそうな顔になって彼から顔を逸らしてだ。こう言ったのだった。
「何かこれって」
「そうなんだ」
「デートよね、本当に」
隆子はまた言った。
「私達のしてることって」
「そうだよ、デートだよ」
「何か。胸の奥が」
今だ。それを感じたのである。
「痛くなってきた」
「何かあったの?」
「わからない。けれどそれでも」
「痛くなってきたんだ」
「急に。どうしてかわからないけれど」
そうなってきたのだ。彼女の胸の奥が。
「こんなことってはじめて」
「どんな感触なの?それって」
「痛くて苦しくて」
まずあこう答える。
「それに。熱くて」
「風邪、じゃないよね」
「急にひいたりしないから」
だからそれは違うというのだった。このことは自分でもわかった。
「だからそういうのじゃないけれど」
「それじゃあ何なのかな」
「わからない。けれど痛いの」
「そうなんだ」
「ねえ。それでね」
「うん」
「やっぱり」
ここから先に言う言葉は迷った。拒むのかそれとも。そして彼女はだ。頭の中では長い間、実際は僅かなだけ迷ってこう答えたのだった。
「一緒に来て」
「お家までだね」
「ええ、お家の前までね」
そこまでだというのだった。
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