夏祭り
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第三章
第三章
「その格好で出て来てくれてな」
「有り難いぜ」
「それも皆が皆ってな」
「これってどういう天国なんだよ」
「皆で話したのよ」
えんじ色の娘がまた話してくれた。
「お祭り行くのなら。もうね」
「浴衣を着てか」
「浴衣で武装して」
「いざ戦場に」
今度は戦場になっていた。どうも話が変にテンションが高かった。
「それで来てくれたんだな」
「いや、お祭りに浴衣」
「わかってくれてるよ」
「我が生涯に一片の悔いなし!」
今度はこの漫画だった。とにかくお祭りと浴衣でだ。僕達のテンションは非常に高かった。そうなってしまっていた。
そのハイテンションのまま僕達はお祭りに向かった。その時に小林さんを見た。小林さんは。
女の子達と明るく話をしている。その笑顔を見て僕は。
僕も自然と明るい顔になる。その僕に話してくれた。
その僕に。ふとだった。
女の子達が茶化す様にして。こんなことを言ってきた。
「あれ、何かにこにこしてるけど」
「何かあったの?」
「いいことあったの?」
「あっ、別に」
女の子達に言われて。僕はすぐに顔から笑いを消した。
そしてだった。慌ててこう返した。
「お祭りだからね」
「だからなのね」
「今からもう楽しみで」
「それでなんだ」
「そうなんだ」
僕は取り繕ったまま答えた。
「今から楽しみでね」
「成程ね。それでなのね」
「確かに。私も楽しみで仕方ないしね」
「私もね」
女の子達は僕のそれに気付かないでくれて。こう言うだけだった。
「何食べる?」
「たい焼きでしょ、やっぱり」
「焼きそばもよくない?」
「それによ」
夜店の話になる。これが楽しみなのは女の子達も同じだった。
「射的しない?」
「輪投げもよくない?」
「ヨーヨーもあるしね」
「金魚すくいも」
ここまではありきたりなやり取りだった。けれど。
小林さんがだ。僕に急に声をかけてきた。
「ねえ、何して遊ぶ?」
「えっ!?」
その小林さんに声をかけられてだった。
僕は目を丸くさせてドギマギとして。こう言い返した。
「何をって!?」
「だから。何して遊ぶ?」
にこりとした笑顔で。また僕に言ってきた。
「色々とあるけれど」
「そうだね。遊びだと」
僕は必死に戸惑いながら内心を隠して。それで答えた。
「金魚すくいかな」
「そうね。金魚すくいね」
何時の間にか僕のすぐ隣に来ていた。背は僕の方が高い。けれどどういう訳か今は僕の方が小さく感じられた。彼女を同じ目線で見ながら。
その目線で。小林さんは僕に答えてくれた。
「それいいわよね」
「いいよね」
「そうね。私金魚すくい大好きなの」
明るい、本当に何の曇りもない笑顔で僕に答えてくれた。
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