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戦国異伝

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第百七十七話 安土城その七

「今度はですね」
「何かと忙しいわ」
「殿も安土に居を置いて頂きましたし」
「ここにな」
「私もこうして殿が居におられる時は」
「その時はじゃな」
「はい、共にここにいたいと思っています」
 こう言うのだった。
「そしておそらくですが」
「おそらくとは?」
「兄上はここに家臣の方々を集められ」
 そしてというのだ。
「やがて妻子の方々もです」
「集めてか」
「一年ごとにご領地と安土を行き来する様にされるかと」
「ふむ。そうされるか」
「殿の場合はです」
 長政はだ、どうなるかというと。
「小谷からこの安土まで」
「行き来してじゃな」
「そうされるかと」
「そして御主はか」
「はい、この安土に住むことになるかと」
 市はこう長政に話した。
「小谷から」
「そうなるか」
「そうなのか。殿はそうしたこともお考えか」
「そうかと」
「御主の言うことは当たる」
 市の勘は鋭い、そうしたことはすぐに見抜くのだ。
 それでだ、今もだというのだ。
「だからそのこともな」
「そうなるというのですか」
「おそらくな。しかし安土に妻子がいれば」
 家臣達のだ。
「殿のお膝元を行き来してのうえならな」
「それならですね」
「不心得な者も抱かぬな」
 妻子がそのまま人質の様なものになるからだ、それにだった。
「行き来で金が落ちる、無駄に力を蓄えることも出来ぬ」
「ですから」
「謀反を防ぐことにもなるな」
「はい、そうなるかと」
「殿はそうしたこともお考えか」
「そうした気がします」
 市は長政に述べた。
「私は」
「成程な。少なくとも今の殿はな」
「兄上はですね」
「まず天下のことを考えておられる」
「そのうえで政をされていますね」
「そうじゃ。殿の政は天下の為のものじゃ」
 まさにだ、そうしたものだというのだ。長政は信長を見てきてそのことがわかってきたのである。彼の政もまた。
「それでじゃ」
「天下を一つにされ」
「そして天下を泰平にな」
「そうしてくれるものですね」
「殿の政はな」
「確かに。兄上はお口は悪いところがありますが」
「ご自身のことよりもな」
 自分のことよりもなのだ、信長は。
「天下のことを考えておられる」
「それで、ですね」
「うむ、そうじゃ」
 それでだというのだ。
「今もな」
「その政を進めておられますか」
「うむ、わしは今その手伝いをさせてもらっている」
 長政は深いものを感じている顔で述べた。 
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