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戦国異伝

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第百七十七話 安土城その六

「わしの天下布武の城じゃからな。ではこれよりこの城で政を執るぞ」
「では殿」
 明智が言ってきた。
「あれをですな」
「出す、これまで幾分か進めていたがな」
「暫く戦が続き止まっていましたが」
「これよりあらためて進めるぞ」
 こう明智に述べるのだった。
「よいな」
「わかりました、さすれば」
「あれを天下に見せるのじゃ」
 信長は笑って言った。
「よいな」
「畏まりました」
「そしてじゃ、次郎よ」
「はい」
 信長は今度は九鬼に声をかけた、その九鬼がすぐに応えてきた。
「あの船ですな」
「どうじゃ、あれは進んでおるか」
「六隻出来まする」
 それが出来るというのだった。
「ご安心を」
「左様か」
「それをですな」
「伊勢から摂津に向けるぞ」
「その時が来ればですな」
「そうじゃ、よいな」
「ではその時までに」
 九鬼は信長に頭を垂れて誓いを立てた。
「六隻の船を完成させてみせましょう」
「そうせよ。本願寺との和が切れればな」
「その時はですな」
「うむ、本願寺は間違いなく仕掛けてくるからな」
「あの寺ともですな」
「いよいよ決着をつける」
「それでその為にも」
 九鬼の声が確かなものになっていた、そのうえでの言葉だ。
「摂津を海からも抑える為に」
「本願寺と毛利が手を結んだ様じゃ」
 既にだ、信長にこのことは伝わっていた。
「それならばな」
「毛利の水軍に対する為にも」
「あの船を使う」
「それでは」
 九鬼は信長に応えた、織田家は本願寺との戦のことも考えていた。そしてあの寺と決着をつける時が来ていることも感じていた。
 政と戦の話をしてからだった、信長は家臣達に言った。
「では今はな」
「はい、あれをですな」
「発布する為に」
「御主達には暫くあれに専念してもらう」
 そちらの政にというのだ。
「ではよいな」
「はい、さすれば」
「今は」
 家臣達も応えてだ、そうして。
 激しい立て続けの戦を終えた織田家の者達は今度は政に入った。その中には当然ながら長政もいた。その彼はというと。
 安土に用意された居に入っていた、そこで小谷から来ていた市に言った。
「いや、この城はな」
「はい、凄い城ですね」
 市も既に安土城を見ている、そのうえでの言葉だ。
「驚きました」
「全くじゃ。しかしな」
「兄上らしいですね」
「うむ、確かに殿の城じゃ」
 長政も妻のその言葉に頷く。
「まさにな」
「左様ですね。それに」
「それに。何じゃ」
「戦はとりあえずは終わりましたが」
 市は城からそちらに話を移した。 
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