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ゾンビの世界は意外に余裕だった

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12話、色々たくさん

 十一日目。午前零時。

 研究所から土建屋の駐車場までにくる間、俺は不手際だらけの第一次遠征をちょっぴり反省していた。限られた兵力を分散してあっちに行ったりこっちにきたり、第一次遠征第ニ幕はもう少し安全運転にしたいところだ。

「依然としてホームセンター付近では千体以上のゾンビが県道を塞いでいます。如何なさいますか?」

 キャリーの嬉しくない報告を聞き少し悩んだ。場合によっては自衛軍の基地から研究所に輸送隊を送るかもしれない。多少掃討しておいた方が良いのだろうが、時間はあまり使いたくない。

「邪魔なゾンビのみを排除しながら前進する。命令あるまでは銃を使わずに道を切り開け」

 戦闘アンドロイド達が車を降りて車列の周囲を固めた。アンドロイド達はすぐにゾンビを動かないご遺体に変え、手際良く道の端に追いやっていく。

 ホームセンターに再接近したら、まだ銃声が響いていた。俺はいい人達なら頑張ってと内心で応援しつつ、ホームセンターを通過する。

 午前ニ時半になり、ようやく自衛軍の基地前に到達した。暗い間に研究所に着ける輸送隊を出すことはほぼ不可能だろう。

 居残り組の指揮官カール大佐からの報告では、敷地内のゾンビが何十体か制圧地域にやってきて排除した以外、平穏だったらしい。

「車列を自衛軍の基地に入れる。撤去作業を始めろ」

 まだ二百メートル近い道が車で埋まっていたが、今度はショベルカーなどがあるから朝までに片づくだろう。

 自衛軍の基地から五百メートル地点に、ニ十台ほどの車を偽装用として壁のように配置した。道が開通していないと別の来訪者に思わせられるかは微妙だが、カモフラージュで対立を避けられるなら儲けものぐらいに考えておく。

 疲れているおかげで眠れそうなので、俺は耳栓をしてワンボックスの中で仮眠をとることにした。

「ボス、開通しました」

 まだ外はまだ薄暗い。

「今何時だ」
「四時三十分です」

「よし、自衛軍の基地に全車を入れろ」

 俺は再び自衛軍の基地にやってきた。まだ丘にある弾薬庫と入り口付近しか確保していないのでこれから本格的な制圧を進めるつもりだ。まずは昨日発砲のあった第一兵舎に優先的に部隊を送る。

「大佐。俺は一、三、四号車で第四駐車場あたりを見てくる。大佐は二十ニ体いるM-27と戦闘アンドロイドで部隊を編成して、八階建ての第一兵舎と四階建ての連隊本部の制圧を頼む。分かっていると思うがなるべく火器は使うな」 

 通常、戦闘アンドロイドは自分で考えて行動できるが、戦闘ロボットは決まった任務だけをこなす。だが戦闘アンドロイドが戦闘ロボットを指揮すれば、臨機応変に対応できる戦術分隊になる。

「了解です。グスタフ少佐に兵舎を制圧させ、レムルスに連隊本部を制圧させます」
「分かった。それからグレーブスにでも敷地の壁やフェンスに異常がないか調べさせろ。基地への入り口にはM-25とS3アンドロイドを目立たないように配置しておけ」
「了解です」

 さらに俺は技術チーフCと技術チーフZに戦車の点検を命じてから、駐車場に向かう車列を出発させた。

 空が明るくなり始めた。第四駐車場は乗用車を中心に溢れるほどの車が停車している。逃げてきた民間人の車もかなりあるようだ。

 ゾンビが百体ほどいるようなので三号車にゾンビ掃討を命じた。四等兵三号とS3三体が散らばってゾンビを排除していく。

「ボス、五台の車に人間の反応があります」

 これだけ車が居るわりに生存車は少ないと見るべきか? ふと大人数を受け入れる時に車は隔離室になるな。と思って頭の隅にいれる。さて生き残りは面倒だが、会わないわけには行かないのだろう。

「慶太。食料と水を持っていきその場に待機するよう伝えてくれ。問題無ければ俺が話す」 

 慶太が行く前に車から出てきた連中がいた。

「助かりました」

 疲れきった様子のちょっと臭う人達から礼を言われた。最初に話しかけたのは木崎という性の四人家族で、四十代の夫婦に十代の姉弟だった。

「ここがどうしてこうなったのか教えていただけますか?」

「五日前の夜に体育館や一部兵舎で病人が大発生したのです。深夜に基地全体が病人の奇襲を受けたようなものでした。私達は連れてきたペットのリスがいたのでここに居て助かりました。そして、食料と水があったので今日まで生きてこられましたが……」

 よくある内部崩壊パターンだな。明かりがあったとはいえ夜間に逃げ回る市民と追うゾンビが混在すれば、発砲をためらう兵士もいただろう。民間人の中には軽く噛まれて逃げ出し、兵舎に転がり込んで被害を拡大させた人もいたのかもしれない。

「あの、あそこの兵舎は自衛軍がたてこもっていて最終的にヘリ部隊に救出されたのですが……、シャワーだけでも浴びに行ってよろしいでしょうか」

 比較的安全に思える第四兵舎でシャワーを浴びたいという欲求は分かるが、一応警告することにした。

「止めはしませんが、中にゾンビがいないとは限りません。武装した偵察隊を送るのでもう少し待って安全を確認してからの方が良いと思います」

「分かりました。ここで待たせて頂きます」
「では、安全を確認したら知らせします」

 衛星兵一号を紹介して診断させる。問題なかったのでもうしばらく待機して貰う。

 それから俺は契約書を差し出して一緒にくるか考えるように伝えたら、すぐにサインした。

 アンドロイドから警告がありカップルぽい若い金髪男女を見ると、何故かこっちに歩いてくる。俺は念のためS3アンドロイドを四人家族に残し、ヤンキーカップルとは別の人の所に向かう。指示を無視する人達とはなるべくかかわりたくない。

「おい、待ってくれ」

 走って追っかけてきた。まだまだ元気そうだ。

 ぼ、暴力反対というか、暴力は使いたくないなあ。もう一度だけ慶太に説得させよう。

「慶太、四等兵一号を連れてヤンキーに待機するよう指示してくれ、従わなかったら基地から追い出すって」

 それから俺は一人で佇んでいる自衛軍の兵士に挨拶した。真っ先にこの人から話を聞くべきだったのかも。

「貴重な水と食糧を分けて頂きありがとうございます」
「いえ、それで体調はどうですか」
「問題ありません」

 念のため衛星兵一号に診察させたが問題ないようだ。

 ふと見ると金髪男女が不機嫌そうに待機していた。説得は成功したようだ。慶太も戻ってきた。

「あちらの兵舎まで行けばヘリで逃げられたようですね」
「そのようですね。自分は第二ゲートから体育館に向かう部隊に居たのですが、不死者……失礼、病人の波に飲みこまれて気づいたらここに逃げ込んでいました」

「ここの車は鍵がささっているようですね」
「ここの車はドアをロックせずに鍵を残すよう指導されていたのです。持ち主が従っていてくれたおかげで、命びろいしたようなものです。そうだ命拾いといえば第一兵舎と第三兵舎には生き残っりがいるかもしれません。閃光と発砲音を確認しました」
「なるほど、情報をありがとうございます」

 島田一等兵は臨時招集の予備役組らしい。普段は三十五歳で市内の工場で働いていたそうだ。契約書を見せて勧誘したら、「家族を市街地に残しているから戻る」と宣言されてしまった。

「分かりました。武器はお持ち頂いて結構です。車が必要なら手配しましすが、第二ゲートからの道しか確保できていません」

「助かります。第二から出させていただきます」

「キャリー?」
「グレーブスの手があいたようなので必要なものを用意させます。第二ゲートの大佐にも報告しておきます」

 突然、島田一等兵がギョッとしたような顔になり「大佐殿?」と喘ぐようにいった。

「ただのあだ名ですよ」
「そ。そうですか」

 俺はキャリーに小声でいくつか確認をしたり指示を出してから島田一等兵に告げた。

「ここに乗用車を回すよう手配しました。武器と食糧、防災用カバンを乗せてあります」

 すぐにS3が運転する車がやってきた。

「そうだ。言い忘れるところでしたが、向こうにある第三駐車場には武器弾薬を満載したトラックや戦車がありますよ」
「嬉しい情報です」

 俺は島田一等兵に手を差し出した。彼にはなんとなく好感を持てる。彼の家族にまで好感が持てるかわからないが、一応声だけはかけておこう。
「我々はしばらくここにいますし、自然公園東の県道合流地点の付近にある土建屋を定期的に見回る予定です。あくまでもご家族次第ですが我々と相性が悪くても別の包容力あるグループを紹介しますよ」

 俺は別荘を根城にするファーストコンタクトの学生とリーダーの高橋さん達のグループを思いだしていた。

「ありがとうございます」

 島田一等兵はもう十分休んだと行って車に乗って去った。

 さて、次の生き残りの所に向かう。人の良さそうな五十代の三島夫婦はすぐに契約書をサインした。夫は建設業の工務店を自営業でしている。慶太から夫婦は最初に体育館に居たと聞き、その時の話を夫の方から聞くことにした。

「私達はあの時体育館に居ました。就寝時間の九時で照明を弱めた直後のことです。急に一人が例の病気を発症して暴れ始め騒ぎになりました。若者や警備の兵士の方々が十人ほどを取り押さえ終え、皆噛まれていないと言って安心したのもつかの間……」

 真っ青な顔の夫はお茶を一口飲んだ。

「突然、病人を抑えていた兵士や若者の何人かが発症して、千人近い人達が混乱してしまったのです。体育館の入り口に皆が殺到してつまってしまい、外から援護にきた兵士達が中に入れなくなってしまいました。私達は幸い入り口近くに居てすぐに外に出られたのですが、背後では今でも耳に残る凄い悲鳴と怒号が響いていました。おそらく後ろで並んでいた人達が順番に病人に襲われていたのでしょう」

「それから、私達はとにかく車の中で待っていれば、軍隊が病人達をなんとかしてくれると思ったのです。結果は逆で病人が軍隊を追っ払ってしまったようですが」

 夫は話を終えると下を向き、妻の方が励ましている。

「取り押さえていた人達は本当にゾンビに噛まれていなかったのですか」
「ゾンビ? ああ、少なくとも病人に噛まれていないと、みんなが言ったことは確かです」

「そうですか、お話し下さりありがとうございます。大変参考になりました。……キャリー。研究所に帰ったら噛まれなくてもゾンビになるか情報を集めてくれ」

 さて、次は若いパソコンプログラマーの米谷青年だ。話をしてみると意外にしっかりしていて、契約書には『休み時間にパソコン使い放題の』の一文を追加した。

 これで終わりにして立ち去りたいが、もう一組みいる。

 金髪で指示を待たない男女だ。もちろん金髪は個人の自由たが指示の方は……

「それでご用件はなんでしょうか?」
「その、俺達にも車と食糧、武器をくれるのか」
 どうやら島田一等兵に提供していた様子を見ていたらしい。

「ええ武器は拳銃ニ丁を差し上げますよ」

 なんか武器を悪いことに使いそうだし、悪いお友達をたくさん連れてきそうな雰囲気がなきにしもあらずだが、それは色眼鏡と割り切り今は自主的に出て行ってくれることを喜ぼう。

「助かるわ。恩にきるから」

 まあ、一応感謝の気持ちは持っているようだ。食糧を十分に渡してやれば問題を起こさないかもしれない。

 金髪男女は気持ちよく車で去り、俺も彼らを気持ちよく送り出した。それだけだ。

 第一兵舎と第四兵舎が同時に制圧完了した。第一兵舎では兵士及び警官一人づつと五人ほどの市民が生き残っていて、ここより感動的な救出劇だったようだ。

 駐車場が気になるので彼らとの面会は後回しにする。

 四百体近いゾンビとの戦闘を経て解放した第一兵舎は血まみれらしい。一方、人間様の支配下にあった第四兵舎は、二十体のゾンビしかいなかったようだ。

 俺は第四兵舎からご遺体をビニールに包んで運びだすよう指示した。それから、駐車場に居た七人と第一兵舎で救った七人には第四兵舎で休むよう伝えた。
 
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