ゾンビの世界は意外に余裕だった
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11話、到着。
「自衛軍の基地に向かう。一号車二号車は二百メートル先行せよ」
目的はとにかく自衛軍の基地だ。周囲の調査は極力後回しにすることにする。
二つの県道が交わる交通の要衝で南に右折する。
道なりに進むと遠くから銃声が散発的に聞こえてくるようになった。
やがて、三千体以上のゾンビに囲まれている郊外型巨大ホームセンターが姿を見せた。
このゾンビの大集団の迫力には俺もびびるしかない。
冷静に考えればゾンビ相手なら勝てる気がするが、このゾンビを相手に戦っている連中が俺に好意的かまでは不明だ。
俺は改めてホームセンターの周囲を観察する。駐車場を囲むフェンスは車を横付けした後が見受けられる。入り口付近には車高の高い車が並べられていたあとがあり、ここだけでも結構な防御力だったように思える。
そして、車に残る弾丸痕……規則的にあることから、障害物として並べてから付けられたものだろう。おそらく、外から一度、人間様の攻撃を受けたことは間違いないようだ。
中に居る連中が侵略者なら会いたくない。あるいは撃退した連中だとしても、侵略者がこのあたりにうろついているし寄り道したくない。答えは一つだろう。
「基地に向かう」
俺は淡々と決断した。車のエンジン音で路上のゾンビも増えてきた。先行する一号車と二号車が交互に止まりゾンビを排除していく。さすがにニ百体をこすご遺体はどうにも出来ず、路肩に放置する。
県道はここから南から西へと少しずつ進路を変えたていく。それから間もなくして『この先不死者多数』と書かれた看板が立ち並び始めた。
本当かどうかはこの目で判断するのが研究者だと俺は内心でうそぶいているうちに、ようやく自衛軍の基地から五百メートの位置に到達した。
そこで一つ大きな問題に直面する。車が道路どころか道路を外れた森まで埋めつくしている。燃えたり、壊れたり、滅茶苦茶で血で染まった車で不気味さが増す。
「一台づつ牽引して動かすしかないな」
「ボス、我々が来たことをすこしでも隠すため、手前の方の車両は後で元通りにしてはどうでしょう」
「効果あれば儲けものか。任す」
とはいえ、全員で撤去作業をするのも効率的ではない。
ニ、三、四号車から空中偵察のブサと車撤去の指揮官として大佐を外し、俺、キャリー、レグロン、マイルズ、レムルス、四等兵三体、S3戦闘アンドロイド五体、衛生兵一号は徒歩で前進することにした。
先頭は四等兵ニ号、レムルス、四等兵三号。
次列にS3ニ体、マイルズ
三列目にレグロン、俺、キャリー、そして四列目に衛生兵、S3一体、五列目に四等兵四号S3ニ体
これを基本隊形にして、車を乗り越えたり、車と車の間をすり抜けて慎重に前進する。ここにはゾンビ化したご遺体と普通のご遺体がかなりあって、まるで墓場のように不気味だ。
気分の悪さを抑えてどうにか自衛隊の基地の第二ゲートに来ると、出入り口が大型トレーラーで塞がれている。
周囲にはかなりの数のご遺体が散乱しているが人の気配はない。 まずはご遺体の山を少し移動して道を作る。そしてトレーラーに接近した。脇の出入り口はきちんと閉まっている。
いや、それどころか鎖で縛ってあり、中で多数のゾンビがうごめいている姿を確認した。
『ゾンビ多数。危険開けるな』 という警告文があちこちに貼ってある。とはいえ、そんな張り紙なんか気にならない存在がそこにはあった。
「四号戦車か」
いきなりの戦車発見に俺のテンションは上がる。敷地に入ってすぐのところにネオ・ワイマール軍の旧型戦車二両が鎮座していたのである。
「ボス、ブサの空中偵察によると半径一キロメートル圏内の脅威はそれぞれ五百体からなる二群のゾンビだけです」
「近いのか」
近いなら作業の邪魔をされても困るから先に殲滅させねば……
「いえ、半径一キロの境界近くになります」
「今のところ背後は安全か。侵入するぞ」
と言っても俺は門の外で待機だ。侵入するのはレムルス、マイルズ、四等兵三体、S3五体で、主装備は鋼の棒だ。
彼らは早速入り口付近のゾンビ百体を殲滅した。すると戦車の後ろからゾンビがうじゃうじゃ沸いてきた。
戦闘アンドロイド達はその真価を発揮して、次々とゾンビを血祭りに上げていく。その数が三百を超えた時点で俺は見ているのが嫌になり後ろを向いた。
撃破したゾンビが八百を超えたという報告と、ゾンビの出現が目に見えて減り始めたという報告がたて続けにあり、俺は前を向いて自衛軍の敷地を観察する。
確かに俺が行っても大丈夫そうだ。まずはいつものようにご遺体の整理をさせる。とはいえ八百体ものご遺体をアンドロイド十体前後で扱えば、作業時間はかなりかかってしまう。道の確保と武器を持っているご遺体から不用品を譲っていただいくことを優先した。
既に五十丁近い突撃銃が手に入っている。弾を集めて作業班に居る戦闘アンドロイドにも持たせた。
それからようやく気になって仕方ない二両の四号戦車を確認する。片方の四号戦車は出入り自由になっていた。砲塔にはゾンビとなった一般人と兵士が三人居た。運転席も開いていたが誰もいなかった。
さて戦闘アンドロイド達にはゾンビを中から出して、戦車から離れたところでやっつけるように命じた。
もう片方は扉が開かないので叩いたり呼びかけたりして、無反応だったので放置する。
「ボス、第一兵舎の中で誰かがゾンビと交戦中のようです」
確かに第一兵舎から閃光が見えた。だが交戦というより救難信号に思える。
「何人確認できる?」
「ボス、自衛軍の施設はセンサーを妨害しています。建物内部の人数は不明です」
つまり俺達より数が多い可能性もあるのか……。
「体制を立て直してから明日、第一兵舎に制圧部隊を出そう」
武器もあるようだしもう一日くらいは無事だろう。こっちはまだ入り口を確保しただけに過ぎない。自衛隊の敷地は一キロメートルかける四百メートル。兵舎だけで四棟もあり、制圧するにも時間と兵力がいる。
「今日はここに大佐と部隊を残す。そして集められるだけの武器を集めて研究所に送り、研究所からはその分増員を連れてくる。また土建屋にいるグスタフ少佐、四等兵六号、S3二体、M-27部隊もこちらにまわす」
「了解です。ボス」
戦車二輌がいれば楽勝だろう。車の撤去作業は三百メートルほどまて来ていたが、そこで打ち切らせた。可能な限り武器・弾薬を集めるよう指示する。
「ボス、弾薬庫を制圧しました」
「みんなに配れ。それから余った物は全部車に運び込め」
今の時点で使用可能な武器は戦車一両、突撃銃百二十丁、拳銃三十丁、軽機関銃三丁。それに弾薬多数を手に入れたが、もう十六時を回っている。急いで居残り部隊を決めて一度帰ろう。
大佐、慶太、レムルス、マイルズ、四等兵一、ニ、三号。S3九体を残す。彼らに機関銃一丁と戦車一両がある。引き揚げ組には機関銃ニ丁だ。
ちょっとばかり俺の車列も居残りも頭数は貧弱になるが、武器の力でなんとかなると祈ろう。
……自衛軍基地から土建屋までの道のりはホームセンター前がやはり最大のイベントとなる。アンドロイド達が簡単にゾンビと交戦して道を切り開く。そして、辺りが夕焼けに染まるころ、俺達は土建屋に到着した。真っ先にグスタフ少佐達に武器を渡して駐屯地に送りだす。それから次々と工事車両を稼働させて、最後に火葬の準備していたご遺体に火をかけた。
「中嶋さん、ご家族を荼毘に付しますがよろしいでしょうか」
「はい」
人間三人とアンドロイド多数で中嶋さんの家族三人の短い葬儀を終えると、辺りはもう薄暗くなっていた。
辺りの街灯がつき始めている。もともと街灯の数は少なく、イタズラか意図的かわからないが壊れているものもあるため、研究所までの道筋にある点灯する街灯はせいぜい数本に過ぎない。
とはいえやはり嬉しくない存在であることも確かだ。今思えば朝来た時に全部壊してしまえば良かったと思うが、夜に壊せば目立つのでやるとしたら明日以降だろう。
今日のところは我慢して、俺は無灯火の遠征を研究所に出発させた。
「ここが研究所……素晴らしいわ」
ホッとしたという柔らかい笑みを浮かべた未亡人が嬉しそうな声を上げて研究所の本館を見上げた。娘の方がきょとんとしていて冷静だ。
「さあ、まずはシャワーでも浴びて下さい。幸子が案内します」
土建屋から二時間かけて研究所に帰ってきたが、道中何も問題はなかった。俺は留守番のレイアの報告も特に異常なしというものだ。
俺も男性更衣室に向かいシャワーを浴びた。もう意識は自衛軍基地に切り替わる。手に入れた百二十丁の突撃銃の配分だが、戦闘アンドロイドが五十四体にまず配分して、残りが六十六丁。まず五十四体のM-27に、十ニ丁がM-25用となる。それから拳銃はアンドロイドと俺で分配だ。
さらに研究所には機関銃ニ丁を置く。これだけでも以前よりはるかに強力と思える。
さて、自衛軍の基地に向かう遠征隊は最初の部隊の戻り組に十トンダンプ二台、小型ショベルカー搭載四トントラック、四トントラック二台が追加した。
さらに突撃銃装備のM-27十体とM-25十ニ体、技術チーフC、と汎用作業アンドロイド六体を追加する。
「お二人のお部屋はこちらです」
俺は中嶋親子を本館7Fの役員室へ連れてきた。研究室の重鎮の部屋だけあって、食堂と当面の運動場になる屋上に近く眺望もよいところだ。
「何から何まですみません。斎藤さん」
未亡人が頭を下げた。
「いえ、それから私のことはボスとおよびください」
「はい、ボス」
「ボスおじちゃん。ありがとう」
ボスって名前じゃねーし、せめてお世辞でお兄さんと呼べと内心で突っ込みつつ、俺は笑顔で「どういたしまして」と答えた。
「細かいルールはおいおい決めていきます。必要なものは先程紹介したレイアに相談してください。仮眠室の布団などを7Fに持っていくなら手伝ってくれるでしょう。それから許可されたところ以外には行かないように。ああ、運動は屋上ですると良いでしょう。食事は食堂で。トイレは……」
いろんな説明を終えると その後、中嶋親子と一緒にケイラの料理を食べた。さて俺は出発だ。
「お出かけするそうですね」
出発間際になり、未亡人に声をかけられた。娘はいない。
「ええ、しばらく帰れないかもしれません」
「お気をつけて」
「はい」
俺は最後に未亡人に黙礼してから出発を命じた。
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