チームは5人? いえ6人です!
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第2話 差し入れとケンカ
結局は何もおこらずに、カミトが住んでいる馬小屋の横に新しくつくられた小屋の前まできて、カミトが食事の香りにつられているのを待っている。
ここまで、リンスレットが持ってきていて、キャロルは持たされもしない。たぶん、こぼしてしまうのは確実で、3人とも頭からスープをかぶらされる危険性もあるからだ。
そうなったときになんで、よけれないのかは、謎だ。
カミトがスープのお椀に手を伸ばそうとしたら、すばやくお椀を引き離す。それをもう1回行ったら、カミトも気がついたのか、
「えーっと、なんのつもりだ?」
「ふ、おなかが空いているのでしょう? カゼハヤ・カミト」
「ああ」
カミトが素直にうなずいたので
「わん、と鳴いてわたくしの奴隷になると誓えば、このスープをさしあげますわ」
「断る。じゃあな」
パタンッとドアが閉められたが、当たり前だよな。リンスレットが次の行動に移る前に、
「この小屋の中に入れさせてもらって、キャロルが作りすぎたからあまらせたからもったいないとでも言って、部屋にでも置いて帰っていったらどう? リンスレットが行わないなら、あたし一人でも入らせてもらいますわ」
「って、ちょっと、エルダ。まさか、ぬけがけする気?」
「だから、奴隷じゃなくて、チームメイトとしてでるならってことよ。潜在能力は高いのでしょうけど、あの剣精霊を使いこなせるかどうかは、見てみないとわからないから」
「ふー。まったく、貴女らしいわね……いーわよ。私も部屋の中には興味があるから」
そう言って、ドアを開けてもらって入らせてもらったが、中は田舎の家畜小屋だな。
多少は、「私の奴隷にならない」「なる気はない」「クレア・ルージュには尻尾をふったくせに」「俺がいつあいつに尻尾をふったんだ?」とかと問答があったところで、持っていたスープが入ったお椀を床の上に置いて、
「スープはここにおいておきますわ。もともとキャロルが作りすぎてしまったものですし、あまらせるのももったいないですし。わたしの慈悲に感謝しなさい」
って、リンスレットが部屋をでていこうとするがカミトが動かねえ。
しかたがないか。
「それは、リンスレット自身が作った食事ですわ。少なくとも私は、美味しくいただかせていますわよ」
「これ、なんてことを」
「今日、作ったのは確かでしょ?」
毎日作っているっていうのも、メイドをつれてきている手前言うわけにはいかないだろうし。
「あー、そのー、リンスレット」
「なんですのっ、急に名前を呼んで――」
「あんたの下僕にはなれないけど、友人になら……なってもいいぞ」
「え?」
「本当は心配で見にきてくれたんだろ。ありがとな」
「よかったね、リンスレット。友人だってさ」
って、俺は追い打ちをかけておくと、顔を赤くしてそっぽを向いたが、まあ、まずまずだろう。キャロルも口に手をあてながら笑っているし、心情はもろばれだな。
そんなところへ
「リンスレット・ローレンフロスト……とエルダ・アッシュ」
「あたしの契約精霊を勝手に餌付けするなっ、この泥棒犬っ!」
「あ! あたし、パスね」
家の紋章はアイスタイガーだから、虎系だ。とっとと、こういうときは第三者の位置にいるのに限る。
「だ、だだ、だれが泥棒犬ですって!?」
まあ、いつもの、ふたりのケンカがはじまった。「犬」だの「残念胸」だのとののしりあっているが、結局、この2人がケンカを本気でしていることを見たことはない。
リンスレットはもっと早く、召喚できる魔氷精霊フェンリルをゆったりと呼び寄せたり、それがでてくるまで、クレアも炎精霊であるスカーレットを出すのをまっていたりと。
こちらはワルキューレとひとこと呼び出すと6体のピクシーが、一緒に呼び出せるので、これもまわりから評価はたかいのだけど。
外で戦っているフェンリルとスカーレットだが、じゃれあっているようにも最近は見える。地上では、言い争っているが、とりあえずはまきこまれるのもいやなので、距離をとって各ピクシーの能力である風のシールドを展開させておく。
「これは、風のシールド?」
「あら、気がついたのかしら。初見で気がつくってなかなかのものですわね」
「それはいいのだけど、なんで俺までまもってくれるのかな?」
「能力の見極めもできないし、剣精霊を出さないのなら、私がカミトの分までまもるかないでしょう? それとも今からでも剣精霊で、あたしたちをまもってくださるかしら?」
シールドをはるのは自分自身をまもるのもそうだが、キャロルを守るっていうのが一番だ。俺がキャロルをまもるから、2人とも安心して戦っているのかもしれないっていうのはあるのかもしれないが、いいのか、悪いのか。
俺の守れる範囲は制限があるわけで、炎精霊であるスカーレットが、小屋の上に乗ってしまった。もともと高温のスカーレットに燃えやすい木の小屋で、中には藁束。あっという間に火がまわる。それに気がついたカミトは
「お、おおおおお、お、俺の家がっ!」
それを聞いて小屋の方をみたクレアが
「リンスレット。ちょっとストップ。火事!」
「ふっ、わたくしを油断させようとしても無駄……って、ほんとみたいですね」
リンスレットがフェンリルを精霊魔装として巨大な『氷の大弓』とする。得意の『フリージグ・アロー』を放ち、1本の矢を無数の矢へとして、小屋の家事は確かに消えた。
ただし、粉々に砕け散った小屋をみて、カミトは呆けているが。
これを口実にクレアとリンスレットがケンカをしていると、困った連中がきた。エリス・ファーレンガルトと他の3人。学院の風紀を守るシルフィード<風王騎士団>たちだ。
クレアとリンスレットがケンカをしているときに、だいたい俺がそばにいるので、俺も目の敵にされている。とめる気もないが、止めさせるにはどちらかに加担して倒すしかない。そうしたら、この2人の中には、今まで以上の亀裂が入るだろう。
だから、俺はキャロルをまもるだけで、手をださないでいる。それもわかっているから、リンスレットも俺と同室で食事はするのだろう。
風系のエリス、土系のロッカ、氷系のレイシアに、火系のサリー。火系のダブルコンダクター<二重契約者>だ。私の場合、6つの契約をしていると思われているから、マルチコンダクターと言われている。
複数契約のメリットは、戦闘スタイルの弱点を補うことだが、デメリットは多い。たとえば、精霊契約の相互干渉によって、本来の力が出せない場合がほとんどだが、彼女は違うと思える。
そんなことを思っているうちに話は、リンスレットへの「辺境の田舎貴族」とクレアへの「反逆者の妹」という地雷にふれて、シルフィードの4人と決闘ということになった。4対4のチーム戦だ。
本来3対3だったはずで、それを見物するつもりだったのだが、うまくはいかないものだ。
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