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ジャズクラブ

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第四章


第四章

「ところでな」
「今度は何かしら」
「あんたの名前は何ていったかな」
「私の名前へ」
「ああ。何ていうんだい?」
 キャスリーンの名前を尋ねるのである。
「よかったら教えてくれないかな」
「キャスリーンっていうのよ」
 まずは名前から答えたキャスリーンだった。
「キャスリーン=マケンシーっていうのよ」
「キャスリーンっていうんだ」
「そうよ。いい名前でしょ」
「チャーミングっていうのかな」
 すっとした笑みを浮かべてだ。彼はこう返してきた。
「そんな感じの名前だな」
「チャーミングね」
「外見はネービーの軍服が似合う感じだけれどな」
「言うわね。私は軍には興味がないわ」
「おや、トップガンにはならないのかい?」
「銀行員で満足しているわ。空には興味がないわ」
「へえ、俺は昔はパイロットになりたかったんだがね」
 彼はこんなことも言うのだった。
「エアフォースでね」
「空軍に入りたかったの」
「まあハイスクールでホッケーに夢中になって。気付いたら忘れていてさ」
「今に至るっていうのね」
「そうさ。それで今はシカゴで真面目に働いてるって訳だ」
「成程ね。ところで私の名前を聞いたから」
 キャスリーンはそれならとだ。今日もジントニックを飲んでいる彼に対してだ。こう尋ねるのだった。
「貴方の名前は何ていうのかしら」
「俺の名前かい」
「そうよ。貴方の名前は何ていうのかしら」
「ヘンリーっていうのさ」
 笑ってだ。こう答える彼だった。
「ヘンリー=レイギンっていうんだよ」
「ヘンリーね」
「オーソドックスな名前だろ」
「オーソドックスっていえばオーソドックスね」
 確かにそうだとだ。キャスリーンも言う。
「けれど。似合ってはいるわ」
「似合ってるかい?」
「何処となくね。キザな感じがしてね」
「キザね。よく言われるさ」
「そうでしょ。感じるのは誰も同じよ」
「俺はキザかい。確かにキザさ」
「自分でも認めるのね」
 キャスリーンは音楽を聴きながら言う。今日もジャズが上奏されている。ただしその曲はだ。前の曲とは違っていた。
 その曲を聴きながらだ。その彼ヘンリーに言ったのである。
「そのことは」
「俺は素直だからな」
 そのすっとした笑みで言うヘンリーだった。
「だからさ」
「自分で自分を素直っていう人間はいないわよ」
「そういう人間こそっていうんだな」
「ええ、悪人よ」
 微笑んでヘンリーに言う。
「そう思うけれど」
「大抵の奴はそうさ」
 ヘンリーはキャスリーンの言葉にこう返した。
「けれど俺はな」
「素直だっていうのね」
「しかも正直者さ」
「どうだか。何度も言うけれど自分で言う人間こそね」 
 そうではないとだ。キャスリーンは語る。しかしだ。
 ヘンリーはそのキャスリーンにだ。こう言うのだった。
「じゃあその根拠を見せようか?」
「貴方が素直だっていう根拠ね」
「それを今見せようか?」
 微笑んでだ。こうキャスリーンに言うのである。
 
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