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ジャズクラブ

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第三章


第三章

「そして飲んでるのよ」
「飲んでる酒は違うんだな」
「そうね。私はブラッディマリーで」
「俺はジントニックな」
 そうしたところは違っていた。カクテルはだ。
 しかし聴いている音楽は同じでだ。それでだった。
「違う酒でも聴く音楽は同じか」
「面白いと思うのね」
「そうだな。じゃあ今日はこれを聴いたらな」
「どうするの?」
「家に帰るさ」
 そうするというのだ。今日はだ。
「あんたはどうするんだい?」
「私はもう少しここにいるわ」
「もう少しか」
「ブラッディマリーをもう一杯ね」
 飲んでからだというのだ。キャスリーンは酒も好きなのだ。
 それでだ、飲んでだというのだ、
「それから帰るわ」
「そうか。じゃあ俺もな」
「貴方も?」
「気が変わった。もう一杯貰おうか」
 そうするというのである。
「そうしようか」
「そうするのね」
「ああ。じゃあ飲むか」
 こんな話をしてだった。二人はだ。
 それぞれの酒を飲みながら同じジャズの音楽を聴くのだった。それから店を後にする。
 わざと暗くして独特の雰囲気を醸し出させている店の中には二人の他にも客がいる。彼等もピアノやサックスで演奏されているジャズを聴いて飲んでいる。その中を進んでだ。
 扉のところでだ。二人でだ。
「それじゃあな」
「縁があればね」
 二人で言ってであった。そうしてだ。
 それぞれ左右に別れてだ。店から消えたのだった。この日から暫くしてだ。
 キャスリーンはまたこの店で飲んでいた。この日は。
「今度は何があったんだい?」
「上司がね」
 上司の問題だというのだ。これも仕事をしていれば付き物の話だ。
「あれよ。セクハラよ」
「へえ、触られたのかい?」
「言われたのよ。胸が小さいってね」
「そんなに小さいとは思わないけれどね」
「気にしてるのよ。これでも」
 こう言うキャスリーンだった。
「結構ね」
「じゃあ言わないでおくな」
「言ったらひっぱたくから」
「じゃあその上司もかい?」
「きっと睨み返してやったわ」
 そこまではしなくともだ。そうしたというのだ。
「はっきりとね」
「へえ、ひっぱたなかったんだ」
「あれで触ってたらね」
「ひっぱたいてたんだな」
「アメリカじゃそれ位普通でしょ?」
 少なくともセクハラに厳しい社会であるのは確かである。キャスリーンもその中で生きているからだ。必要とあらばそうするのだ。
 しかしその時代はそれをせずにだ。そうしたというのだ。
 言いながらまたブラッディマリーを飲みだ。彼に問うた。
「あなたもそう思うでしょ」
「まあね。俺もセクハラは嫌いさ」
「紳士なのかしら」
「紳士のつもりはないがそういうのは嫌いなんだよ」
「じゃあどういうのが好きなのかしら」
「そうだな。ありのままかな」
 こう答える彼だった。
「ありのままの相手がね」
「オーソドックスっていうことかしら」
「そうかもな。とにかくセクハラみたいな趣味の悪いことは嫌いだからな」
 そうだというのだ。そんな話をしてだ。
 キャスリーンにだ。こう尋ねるのだった。
 
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