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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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ゼロ魔編
  036 そこはかとなく説明回

SIDE 平賀 才人

「ルイズに〝虚無〟の説明をする? ……おいおい、正気か?」

「うん。ルイズに訊かれてね。あの娘、自分が〝虚無〟だって何となくだけど気が付いてたみたい。……ルイズ曰く系統魔法を使う時、何やら〝ズレ〟を感じるらしいんだ」

ユーノの部屋で、ユーノと二人きりの密談。これは定期的に行っている事で、大体が大した内容が無い四方山話で終わるのだが、今夜ユーノがそんな事を言い出した。……それも、いきなりにだ。

「気が付いてるのならいい…のか? まぁ、俺はあんまり〝虚無〟には詳しく無いから、説明はデルフリンガー(生き証人)に任せるけど」

「生き証人? ……ああ、デルフリンガーね。確かにあれ程お誂え向けの〝虚無〟の説明人は居ないよね」

どこぞから聞こえてきた〝俺に丸投げかよっ!?〟てな声は幻聴と捨て置き、聞こえない事にした。何やらデルフリンガーが〝倉庫〟の中でキラリ、と輝いた気がしたのだが、それも気の所為にさせてもらった。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE タバサ

最近、自分の戦闘能力が──僅かずつだが、確実に上昇しているのを感じる。……それはひとえにに彼の──サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガのお陰と云えるだろう。

彼が私に教えてくれる魔法は悉く独創的で、このハルケギニアではまず出ないであろう考えを元にして作られている魔法が多い。……この前の〝凝縮〟で相手の周りに水塊を作って地上で相手を溺死させる魔法──彼曰く“ウォーター・マスク”だったか。……そんな感じの魔法が多い。

(………あれは──“ウォーター・マスク”は、まさしく盲点だった)

彼に“ウォーター・マスク”の魔法を教わる時、水塊の形成条件云々~~等の話は聞いたがあまり理解は出来なかった。……ついでなのか、相手の口元を基準としているので目に見えていない──目で追い付けない、そんな相手には効かない等の弱点も教えられた。……更にバリエーションとして、〝凝縮〟させた水を一気に凍らせて窒息させる魔法“アイス・マスク”なるオリジナル魔法も教えられた。

(………対価(?)として、彼の実験台になっているが……)

そこら辺は等価交換として甘んじて受け入れている。……中々に悲惨な目に遭うが、元は取れているので気にしないし、アフターケアも充実していて怪我をしても直ぐに治してくれる。

(………大体こんなところ……)

私から見たサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガに対する心象、能力について書かれた羊皮紙を鷹便にくくりつけて実家へと飛ばす。……お母様の精神(こころ)を壊した〝あの男〟への復讐の牙を研ぎながら…。

どうしていきなり〝あの男〟がサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガの情報を欲しがったかは、未だに判らないが。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE OTHER

――ヒュン…ヒュン…ヒュン…

それは深夜。トリステイン魔法学院の外れの、人気が無い森の中にある拓けた場所。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ──平賀 才人はそんな場所、そんな時間で一心不乱に剣を振っていた。……額に滲む汗から、所謂〝流し〟では無く、一振り一振り真剣に振っている事が窺える。

「……ふぅ、やっぱり完全に〝覚える〟には自分で剣を振るしかないな」

<眠れないのか? 相棒>

才人の左手の赤いオープンフィンガーグローブに有る緑の宝玉から声が、ドライグの声が才人に問い掛ける。

「それも有るな。……ただ、色々と思う事も有るんだよ」

才人は瞑目し、1つの目標に向かってただひたすらに──貪欲に〝力〟を求め、何度倒されても俺に立ち向かって来る、青銀髪の少女──タバサを思い浮かべる。

「……俺は死にたくなかったから、ただがむしゃらに漫然と〝力〟を着けてきたけど、その〝力〟で何かを成したいとか無いんだよ」

そういう意味で云うのならば才人の目標は現状にてある程度は既に達成されていて、〝生きている〟と云う当たり前な事にも慣れつつあった。……つまり才人は、一種の燃え尽き症候群に罹っていて、今は次の、〝力〟を求める〝理由〟について考えていたのだ。

<あのタバサとか云う女の事か>

「まぁな。……まぁ、タバサの場合は恐らく──」

<復讐、か>

才人はもうすぐ19歳になり、10歳の時に憑依してその同時期に“赤龍帝(ブーステッド・ギア)”を得て9年。……そこからドライグと才人が邂逅して9年近くになるので、ドライグと才人は文字通り切っても切れない仲と言っても差し支えが無い。……だからか、才人の考えをドライグは簡単に推し測る事も出来れば、その逆もまた然りだ。

「ドライグも気が付いていたか。……てか、見てたな?」

<最近、相棒は滅多に精神世界(こっち)に来ないからな。暇と云えば暇だ>

「……悪いとは思ってるよ。……あれ? 何でタバサの話に──あ、そうだった、俺の闘う〝理由〟の話だったな」

<………>

才人は初めての殺人以来、無意識下ではあるが、〝過程〟をすっ飛ばし〝結果〟を残せるスキルをみだりに使う事を忌避している。故に、才人は素直になるべき──自分が望んだ〝力〟を受け入れるべきだとドライグは思っている。

ドライグは既に才人が求める〝理由〟については見当を付けていたりするが、ドライグはそれを才人に伝えない。……何故ならば、これは才人自身が気付かなければならない事をドライグはこれまでの経験として知っているからだ。

――ヒュン…ヒュン…ヒュン…

「……?」

一息着いた才人は急に押し黙ったドライグに首を傾げながらも、また剣を振り始めるのだった。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 平賀 才人

そんなこんなでルイズに〝虚無〟を説明する日になった。ユーノとの相談の末、日にちは虚無の曜日で、説明する場所はトリスタニアにある【白銀の月夜】亭にてルイズに説明する事となった。

VIPルームには入る事が出来たが、ルイズ連れだったのでキーラは何かを勘違いしたのか、凄惨な視線を浴びせてきた。……それも、俺がマントを被って──貴族になっているのがどうでも良いと云わんばかりの表情で…。

閑話休題。

「取り敢えず、今から俺達が話す内容がどれだけ大言壮語だろうと、漫然と〝そういう事だ〟と呑み込んで理解してくれ」

「……? 判ったわ」

ルイズが頷いたのを確認すると、〝倉庫〟からデルフリンガーを取り出し、デルフリンガーが喋れる様にその刀身を抜いてやる。

「それはサイトが使っているインテリジェンスソード?」

「そう。銘は“デルフリンガー”。……勿論、こいつはただのインテリジェンスソードじゃない」

「〝ただの〟インテリジェンスソードじゃない?」

ルイズは言外に話の続きを促す。

「ああ。始祖ブリミルの使い魔が使っていた愛刀だ」

<おうよ。ブリミルの使い魔──ガンダールヴが使っていたデルフリンガー様だぜ!>

「……嘘よ。そんな物が在ったら、一体どれだけの価値が──」

「ルイズ、だからサイトは言ったでしょう? 〝〝そういう事だ〟と呑み込んで理解してくれ〟──と」

信じ難いと云った表情を浮かべるルイズにユーノはそう宥めた。……俺は頃合いを見て話を続ける。

「トリスタニアの武器屋に置いて有っただ。当初はただの錆付き刀だったが、その内にデルフリンガーは元の姿を──今の姿を思い出したんだ」

“リコード”の虚無魔法を使った事は教えない。今のルイズに情報を与え過ぎても混乱するだけであろう事が判りきっているから。

「だから一番詳しいであろう、生き証人のデルフリンガーに〝虚無〟について語って貰おうと思ったんだ。……ここまではいいか?」

「……ええ。納得は出来ないけど、理解はしたわ」

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE ユーノ・ド・キリクリ

あれからデルフリンガーは〝虚無〟について語った。ルイズの疑問──サイトがどうしてルイズの〝虚無〟を隠そうとした理由はサイトが語った。

―ルイズが〝虚無〟と云う事は始祖ブリミルの直系がラ・ヴァリエールに有ると云う事になる。……ならば、今の王家はどうなると思う?―

ルイズは聡明だ。故に、どうなるかが──トリステインが〝現王朝派〟と〝ヴァリエール王朝派〟に別れる事に、トリステインが〝自分を軸に〟縦に割れる可能性がある事に感付いたのだろう。その証拠なのか、その端正な顔を青ざめさせていた。

サイトの見方はシビアな面も──暴論な感じも在るが、決して有り得ない事でも無いのも確かだ。

(……はぁ…)

―脅かすような事を色々と言ったけど、取り敢えずこのままルイズが〝虚無〟を秘めておけば大丈夫だし、〝虚無〟の使い方──というか虚無魔法のルーンも俺も軽くだが教えられるからな。その内気になったら聞きに来るといい―

……こんな塩梅でルイズの〝虚無〟についての──ルイズへの説明は終わった。……サイトもルイズへのフォローもしていて、いくら前世から姿形が変わっていても──いくら真人君の外見が〝平賀 才人〟に変わっていたとしたとしても、真人君の相変わらずの手際の良さに…フォローの巧さに、笑みが漏れそうになったのは自分だけの秘密だ。

SIDE END 
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