普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
035 悪戯(ドッキリ)
前書き
遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。
こんな拙作ですが、今後ともご贔屓頂ければ幸いです。
SIDE OTHER
双月がその空で存在感を遺憾無く発揮する、草木も寝始めるであろう時間帯。キリギリス──らしき虫の、メスを惹き付けんとする鳴き声が“赤龍帝の道化の外套(ブーステッド・ギア・クラウンコート)”を纏って、〝外套〟に備え付けられているフードを深々と被った才人の鼓膜を叩いていた。
「こんばんわ。雲1つ無い──双月がよく見える、良い夜だとは思わないか?」
「「………」」
才人の問いに、才人と向かい合っている2人は答えない。……才人と向かい合っている2人もまた、才人と同じようにローブとフードを被っていて、その正体を露にしていない。
「俺は都合上、水の精霊を守らないといけないから、君達を追い払わなければならない。……と云う事になっている」
「「………」」
才人と相対している2人は、才人の言葉に答えず、杖を構えて敵対の意思を示すばかり。……いざ、2人が才人に襲い掛かろうと云う時、才人はそのフードの奥の口を徐に──会話の先導性を奪う為に開く。
「待て待て、待つんだ。……〝タバサ〟に〝キュルケ〟」
「「……っ!?」」
2人は驚く。杖を握る力が強まる。……然もありなん。ローブで顔を隠しているのに名前を言い当てられたら、それは驚くだろう。才人も姿を隠しているが、才人の格好──深紅の外套も2人の不審感を募らせていく。
「……その反応からして、ビンゴだな」
「………私達の名前を知っている。……貴方は誰?」
「俺だよ。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガだよ」
才人はそう言うと、フードを脱ぎその顔を露にする。
「嘘ッ!? サイト!? でも声が違う?」
……本来なら才人の声を聞いた時点でローブ姿の2人──タバサとキュルケは気付くはずだった。……それでは、何故タバサとキュルケの2人の気付かないのか? ……それはひとえに、キュルケが言った通りに才人が〝変声〟の魔法で声を変えているからに過ぎない。
「さてさて、悪戯大成功。……ってか?」
才人は声を元の声に戻し、朗らかに笑う。ドッキリ。……それが才人の狙いで、見事才人に嵌められたタバサとキュルケは、ただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 平賀 才人
「この湖の向こう側はガリアのオルレアン領で、そのオルレアン領にはタバサの実家が在るんだな?」
「………うん」
「合ってるけど、えらく説明口調ね」
俺の事実の擦り合わせにタバサは首肯し、キュルケは軽く呆れながらも認める。……取り敢えずタバサとキュルケに戦闘体勢を解いて貰った俺は、タバサとキュルケの2人を連れ立ってモンモランシー達と合流した。
「……で、ラグドリアン湖の水嵩が増えているから、向こう側にあるオルレアン領もヤバいので水嵩を増やしている原因っぽい水の精霊を討伐しに来たと」
「………貴方に邪魔されたけど」
タバサのジト目をスルーする。
「私達からしたら貴方達が居る方がナゾなんだけど。そこんところどうなのよ?」
「……それは大体モンモランシーの所為だ」
「ちょっ!? サイト?」
俺はモンモランシーの糾弾をよそに、キュルケにラグドリアン湖の精霊に会いに来た理由を──ギーシュがロープに巻かれミノムシ状態になっている理由を掻い摘まんで話した。
「惚れ薬、ねぇ。……これだから水メイジは野暮なのよ。惚れた男ぐらい自分で繋ぎとめなさいよ」
「………」
タバサとキュルケのリアクションはまちまちで、キュルケは呆れながらも、モンモランシーに軽く侮蔑の目を向ける。一方タバサは、珍しくもその端麗な容姿を目に見えて──モンモランシーや俺でも判るくらいに歪めている。
「……反省も後悔もしているわ。ギーシュが治ったら、私もギーシュに謝るつもり」
「よし、水の精霊に依頼が完了した事を伝えに行こうか」
四方山話をそこらで切り上げ、依頼が達成された事を伝える為にも、水の精霊にもう一度会いに行く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
恙無く水の精霊への報告も終わり、無事に水の精霊から“精霊の涙”を貰えた。現在は学院へ戻る馬車に乗っている。ついでに、と同乗していたキュルケが思い出した様に口を開いた。
因みに、ギーシュはモンモランシーが学院に着いてから治療するらしく、未だに眠っている。……タバサは自分の──近くに控えさせていたらしい、使い魔の風竜に乗って空の道を行っている。……流石に、人数的な理由で憚ったのだろう。
閑話休題。
「そういえば、水の精霊を放っておいて良かったの? あのままじゃ──そのまま水嵩増えるなら、私やタバサとは違う誰かが水の精霊にまたちょっかいを出すんじゃないの?」
「それに関しては問題無いわ。何でか知らないけど、水の精霊が水嵩を増やしてまでの探し物はサイトが持っていたから。その内、水位は引いていくと思うわ」
キュルケの問いに、モンモランシーが答える。水の精霊はオリヴァー・クロムウェルに奪われた“アンドバリの指輪”を探していたらしく、その方法が水嵩を増やして自分の領域を拡げると云った強硬策に打って出たらしい。
俺が水の精霊に対面した時、〝赤き龍を宿せし者よ。そなたから我の力の残滓を感じる〟みたいな事を言われ、俺が“アンドバリの指輪”を持っている事がソッコーにバレた。……“アンドバリの指輪”を水の精霊に返却して、ラグドリアン湖の水嵩増加の件は丸く収まった。
……ところギッチョン(?)そう話が上手い事進むはずも無く、水の精霊曰く賊──タバサとキュルケに襲われたらしい。……それを俺がちょっとしたドッキリを交えながらも止めた。……それらが今回の事件の顛末だった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ユーノ・ド・キリクリ
ギーシュ(?)とモンモランシー──それにサイトが馬車で学院を出て行くのを見た。……恐らくは惚れ薬騒動かと思うだろうけど、疑問が存在している。
「サイト、今モンモランシー達と出て行きましたよね?」
「ああ、あれは…ラグドリアン湖の方向だな」
「……ボクはそういう事を聞きたいんじゃないんだけどねぇ」
思わず口調が乱れてしまうが、それはいたしかた無いと思う。何故なら、学院を出て行ったはずのサイトがなに食わぬ顔をしながら学院に居るのだから。
(風の〝遍在〟? ……にしては──)
パッと思い付くのは自分のコピーを作る、今は亡きワルド──ヒゲヤローも得意としていた〝遍在〟の魔法。……だがしかし、実家で読んだ書物に依れば〝遍在〟を動かせる範囲は使用者の意思力に比例するらしい。
(範囲が広すぎる)
……ただ1つ疑問が有るとすれば、その一言に尽きる。
「あ、因みにこっちに居るのが〝分身体〟で、モンモランシー達とラグドリアン湖に行ったのがオリジナルな」
「ふぇっ? ……私の耳がおかしくなっていなければ、サイト今〝分身体〟と言いましたか?」
サイトのあんまりにあんまりなセリフに気の抜けた声しか出せなかった。そして気付く違和感。……若しもあのサイトが風の〝遍在〟で造ったコピーなら普通に〝遍在〟と呼称するはず。
「ああ。俺は確かに〝分身体〟と言った。……ユーノなら気付いていると思うけど、〝遍在〟じゃないのがミソだ」
「は、はぁ……?」
サイトの要領を得ない──煙に巻く様な返しに、暗に〝これ以上訊くな〟と言われた様な気がしたので会話を打ち切る事になった。……因みに、モンモランシー達が学院に帰って来たのは夜の事で、ギーシュも翌日には復帰していた。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 平賀 才人
モンモランシーの起こした惚れ薬騒動──とまではいかないが、騒動が終わって早いことに数日。ギーシュも快復し、早朝の訓練に元気良く(?)参加している。……違った事が有るとすれば──
「ふっ! “ウィンディ・アイシクル”!」
「悪くない。……が、まずは隙を作るべきだった──」
〝見聞色〟と“紙絵”でタバサが放った“ウィンディ・アイシクル”を難なく避ける。
……そう、変わった事が有るとすれば、時々タバサと組手をするようになった──というか、タバサから頼まれた。……タバサに理由を訊ねてみると、詳しい話を聞いていないが、何やら〝力〟が欲しいらしく、俺を丁度良い特訓相手に見定めた様だ。
俺も“咸卦法”等のネタ技の試し撃ちに丁度良かったため、タバサの申し出を承諾した。
「こんな風に…な! “コンディセンション”」
「ガボッ!?」
タバサの口元を覆う様にソフトボール程の大きさの水塊を〝凝縮〟させる。因みにこの〝凝縮〟、形成条件をタバサの口周りに設定(?)してあるので、タバサが動いても〝凝縮〟させた水塊もタバサの口元にトレースする様な形で動く。
「……こんな感じで、相手の虚を突く術を幾つも持っていると、戦場での生還率はかなり上がる」
ハルケギニアの魔法はイメージ次第でどうにでもなるので、かなり便利だ。……その分イマジネーションが必要だが。
タバサも俺の説明に得心がいったのか、鷹揚に頷いていた。……タバサに先ほど俺が使った〝凝縮〟を伝授して、タバサとの特訓を切り上げた。
SIDE END
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