FAIRY TAIL ―Memory Jewel―
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序章 出会い
Story4 花時の殲滅団
前書き
紺碧の海です!
今回は早くも新たなオリキャラ登場!しかも何と一度に5人もっ!?いったいどんな奴等なのか―――――!?
それでは、Story4・・・スタート!
―闇ギルド 黄色い揺り籠―
「ぐァあっ!」
「ナツ!キャアアァアッ!」
「余所見は危険だぜ、お嬢ちゃん♪」
男が、がら空きだったナツの背中に魔法弾が命中し、呻き声を上げたナツを振り返ったルーシィの隙を突いて、男が伸縮する鞭でルーシィの足首を叩く。
「コイツ等・・意外に、やるぞ・・・!」
「だから言ったろ?俺達黄色い揺り籠の魔道士は、そこらの闇ギルドの魔道士の連中とは、一味違うってな。」
「甘く見てたてめェ等の計算ミスって事だ。」
「くそっ。」
顔を顰めて呟いたグレイの言葉に、黄色い揺り籠の2人の魔道士が、超が付くほど上から目線で挑発気味に言い、悔しそうにアオイが唇を噛み締めながら青竜刀を構え直す。
「てめェ等、妖精の尻尾の魔道士だろ?尻尾を巻いてとっとと逃げやがれーっ!」
「ブハハハハハハハッ!」
「チッ。」
「うぅ・・・」
「んだとごらァァアッ!」
「おー、怒った怒ったー。」
「へっ、こんくれェの事で怒るなんて、所詮まだまだガキだな。」
別の黄色い揺り籠の魔道士の言葉に、黄色い揺り籠の魔道士全員が大爆笑する。
イブキが舌打ちをし、コグレが拳を固く握り締め、起き上がったナツが吊り目の目を更に吊り上がらせて怒鳴るが、黄色い揺り籠の魔道士はバカにするばかり。
モミジ山へのクエスト以来、すっかり馴染んでしまったナツ、ルーシィ、ハッピー、グレイ、エルザ、ウェンディ、シャルル、エメラ、コグレ、アオイ、イブキ、バンリの10人+2匹は、再び“記憶の宝石”を探しに【闇ギルド、黄色い揺り籠討伐 120万J】というクエストを受けた。
そして現在、討伐目的である黄色い揺り籠のギルドにいるのだが、予想以上に黄色い揺り籠の魔道士達が手強い上に、ハッピーとシャルルが黄色い揺り籠のギルドマスター、グリフトに捕らわれ人質(猫質?)にされてしまい、思うように手が出せない状況に至っていた。
「ウェンディー!」
「ナツー!助けてー!」
大きな椅子に深く腰掛けているグリフトの近くにある、小さな檻の中に閉じ込められているハッピーとシャルルが叫ぶ。
「シャルルとハッピーを放してっ!」
「無理だね。」
「うぁああぁあっ!」
空気の渦を纏った拳を振りながらウェンディが叫ぶが、拳は避けられてしまい、逆に魔法剣で斬りつけられる。
「人質を取るなんて卑怯よっ!」
「闇ギルドに「卑怯」という言葉は存在しねェよっ!」
「イギィィイッ!」
「それと、人じゃねェ。猫だ。」
「どーでもいいわァ!」
ルーシィは蹴られた右肩を押さえながらも、男の発言にツッコミを入れる。
「エルザ・・どうするの・・・?」
「コイツ等をすぐにでも八つ裂きにしてやりたいところだが、ハッピーとシャルルに何か危害を加えられる可能性があるからな・・・」
銀色の腕輪の窪みに青玉を嵌めた為、両手に水を纏ったエメラが敵の攻撃を上手くかわしながらエルザに問い、エルザも魔法剣で襲い掛かってくる複数の敵を1人で相手しながら答える。
「恐らくグリフトは、1人でも黄色い揺り籠の魔道士に攻撃をしたらハッピーとシャルルに危害を与えるつもりだ。」
「そんな・・・!」
「攻撃してもしなくても、俺達にとっちゃ-って事か。」
「やる事も言う事も卑怯な奴等だな。」
こんな状況でありながらも、表情を一切変える事無く呟くバンリの言葉にコテツは目を見開き、イブキは口元の血を拭い、グレイが飛んできた魔法弾をかわしながら言った。
「それにしても、正規ギルドの魔道士が使う魔法はとても便利、尚且つ、威力が高く美しい。」
大きな椅子に深く腰掛けて、目の前の光景を見入っていた黄色い揺り籠のギルドマスター、グリフトが口を開いた。
黄色い揺り籠の魔道士達の大半が所持系の魔法であり、魔法が初心者でもすぐに扱う事が出来る魔法剣や魔法銃ばかりである。能力系の魔法や、形状が変わる武器、鎧や刀などはグリフトにとって目を輝かせるほどのものなのだ。
「コイツ等を全員とっ捕まえて部下にするのも良いし、売って金にするのも悪くない。女魔道士達は脱衣ショーを見てからだな。」
魔法を見れば見るほど、グリフトの口元には不敵な笑みが浮かび上がる。
「残酷且つ下劣な奴だな。」
「全くだ。」
「可愛すぎるのも困りものだわぁ。」
「ルーシィさ~ん、帰って来て下さ~い。」
アオイとバンリが冷ややかな目をしてため息をつきながら呟き、変な事を考えているルーシィをウェンディが引き摺り戻す。
「お前達!妖精を1人残らずひっ捕らえろーっ!女は1人残らず服をひん剥いてやれーっ!」
「オオオオオオオオッ!」
グリフトの指示で、黄色い揺り籠の魔道士達は目をハートにしながら(主にルーシィとエルザとエメラに)襲い掛かる。
「ちょっ、えぇ!?本気ィ!?」
「わわわわぁ~!」
「ち・・近寄るなーーーーーっ!」
ルーシィとエメラは若干頬を染めながら必死に逃げ回り、エルザは剣を敵に当たらない程度に振り回す。
妖精の尻尾、絶体絶命!と思ったその時―――――、
「ギャーーーッ!」
「グォオオォオッ!」
「!!?」
「何事だっ!?」
黄色い揺り籠のギルドの入り口から悲鳴が聞こえ、ナツ達もグリフトもルーシィ達に襲い掛かろうとしていた男達も、視線を悲鳴が聞こえた方へ移した。見ると、次々と黄色い揺り籠の魔道士達が倒れていたのだ。
「おい!攻撃したら、ハッピーとシャルルが・・・!」
「うわーっ!」
「情けない声出さないのっ!」
イブキが青い顔をして声を荒げ、檻の中でハッピーが情けない声を出し、シャルルが腰に手を当ててハッピーを叱りつける。
「いや、攻撃をしているのは私達じゃないぞ。」
「えっ?」
「何だとっ!?」
冷静を取り戻したエルザの言葉にルーシィは首を傾げ、グリフトは驚嘆の声をを上げた。
エルザの言うとおり、妖精の尻尾の魔道士は誰も黄色い揺り籠の魔道士に攻撃をしていない。なのに次々と黄色い揺り籠の魔道士は倒れていく―――――。
「!」
「どうしたのナツ?」
「このにおい・・・アイツ等だっ!」
通常の人間より嗅覚が優れているナツが嬉しそうに顔を誇らばした。
「吹き荒れろォッ!」
「グァアアッ!」
「うがああああああああっ!」
山吹の花弁が舞う、渦巻く旋風が黄色い揺り籠の魔道士達を吹き飛ばしていく。
「闇に堕ちろ。」
「うああぁあぁぁあああっ!」
「ヒィイイィィイ!」
撫子の花弁が舞う、黒と紫色をした闇の閃光が黄色い揺り籠の魔道士達の体を貫いていく。
「儚く、砕け散れ。」
「ぐはァ!」
「うぎゃあぁぁあああっ!」
菊の花が開花するように、眩い光と灼熱の炎を噴出しながら黄色い揺り籠の魔道士達を爆発に巻き込んでいく。
黄色い揺り籠の魔道士達はあっという間に全滅してしまい、残るはギルドマスター、グリフトただ1人―――――。
「ヒュー。相変わらず、レーラの攻撃は恐ろしくて綺麗だな。」
「ジーハス、それは褒めてるの?貶してるの?」
「当然、褒めてるに決まってんだろ。」
『ジーハス』と呼ばれた、明るいオレンジ色の短髪の少年が口笛を吹いて、アフロになった黄色い揺り籠の魔道士達を面白可笑しそうに、白い歯を見せて笑う。
それを聞いた『レーラ』と呼ばれた、銀髪の髪の毛を項辺りで1本の三つ編みに束ねた少女がキッとジーハスを睨みつけて問う。
睨みつけられたにも拘らず、ジーハスは白い歯を見せながら笑って答えた。
そんなジーハスの右腕には、オレンジ色の妖精の尻尾の紋章が刻まれていた。
「お、お前等も妖精の尻尾の魔道士かっ!俺の部下達に攻撃をしたからには」
「勝手に話を進めるな。」
「!?」
グリフトの言葉を遮ったのは、額に十字の傷跡、右頬に火傷の跡がある少年だった。
「おっ、ティールのお説教タイムの時間が」
「ジーハス、毎度毎度下らない事をいちいち言う必要ない。」
『ティール』と呼ばれた少年はふざけた調子で言うジーハスの言葉を呆れながらも遮り、視線をグリフトに戻し口を開いた。
「先にお前の部下と戦っていた俺の仲間に、お前は「部下に攻撃をしたら人質を痛めつける」みたいな事を言ったんだろ。仲間はそれに従い、お前の部下には一切攻撃をしなかった。だが、今ここに駆けつけた俺達には言っていない。なら、お前の部下に攻撃しても構わない、という事だろ?」
「くっ・・・」
正論を次々と述べるティールに何も言い返す事が出来ないグリフトは顔を顰める。
「ならば、今人質を痛めつけ」
「残念だが、もう人質はいないよ。」
「何ッ!?」
グリフトの言葉を再び遮ったティールの言葉にグリフトは目を見開き、慌てて檻に視線を移すと、ティールの言うとおり、檻の中に人質になっていたハッピーとシャルルの姿は影も形もなかった。檻は粉々に砕けていて、なぜか檻の周りが水浸しになっていた。
「ティールー!言われたとおりハッピーとシャルルを助けたよーっ!」
「ナツー!」
「ウェンディー!」
「無事だったかハッピー!」
「シャルル!良かったぁ~。」
檻から解放されたハッピーはナツに飛びつき、シャルルはウェンディの腕の中に飛び込む。
「ありがとう、サーニャ。」
「どう致しまして。」
『サーニャ』と呼ばれた、ウェーブの掛かった水色の髪の毛の少女は嬉しそうに微笑んだ。
「ティール、サーニャ、ジーハス、レーラ、お前達がどうしてここに?」
「ギルドに帰って来てすぐじーさんに、クエストに行ったお前達の帰りが遅いから何かあったかもしれねェから様子を見に行ってくれって言われて、黄色い揺り籠のギルドの場所を教えてもらって、助太刀に来たって訳だ。」
エルザの問いに、白い歯を見せながらジーハスがさらっと答えた。
「ルーシィ、この人達は・・・?」
「ギルドのメンバーよ。ギルドに帰ってから紹介するわね。」
4人を初めて見て戸惑うエメラの問いに、ルーシィはウィンクを1つしながら答えた。
「お前等4人がいるっつー事は、アイツも来てるんだなっ!?」
「もちろん!」
ナツが目をキラキラ輝かせながら問い、サーニャが嬉しそうに首を縦に振ったその時、チリンという澄んだ鈴の音が聞こえてきた。
「噂をすれば、来たみたいだな。」
その場にいた全員が、視線を黄色い揺り籠のギルドの入り口に移した。
「やっぱ仕事が早いね、皆。」
視線を移した先にいたのは、背中がすっぽり隠れてしまうほどの長い黒髪を、高い位置で銀色の小さな鈴の付いた赤いリボンでポニーテールに束ねている女性が立っていた。女性の右腰には柄が赤色で、鞘に桜の花弁が描かれた刀、左腰には柄が青紫色で、鞘に銀色の線が一筋入ってる刀が差してある。
「リンさん!」
『リン』と呼ばれた女性は駆け寄って来たサーニャを抱き締めた。
「リンさん、ギルドマスター残しておきました。」
「どうぞ派手に、殺っちゃって下さい。」
ティールとレーラが冷ややかな目でグリフトをちらっと見ながら言った。
「もぉ、わざわざ残さなくていいのに。皆で殺っちゃいなよ。」
「リン姉が倒さねェと意味ねェんだよ。ナツ達もいる事だし、レーラが言ったとおり、派手に殺っちまえっ!」
ジーハスがポン!とリンの背中を押す。
「もぉ、仕方ないなぁ。」
困ったように一度笑うと、リンは右腰に差している赤い柄の刀を、音一つ立てずに桜の花弁が描かれた鞘から抜いた。銀色に輝く刀身がキラリと光った。
「名刀――――――――――焔桜。」
リンが口を開いたのと同時に、名刀・焔桜の銀色の刀身が紅蓮の焔で包まれた。
「め・・名刀・焔桜・・だと・・・!?」
グリフトの顔がどんどん青ざめていく。
「舞い散り、燃え尽きろ―――!」
リンは小さな声で呟くと、小さく地を蹴って駆け出した。リボンの鈴がチリンチリンと鳴り響く。
「名刀・焔桜?」
「あの刀の名称だ。」
首を傾げるエメラにエルザが視線がリンに釘付けになったまま答える。
「“宝石の如き、煌々と輝く焔の焼け跡に残るは桜の花弁”。大昔の鍛冶職人が造り上げた名刀だ。扱える者は、10万人に1人と言われている。」
「そ・・そんな、すご、すぎる人が、い・・いたんだ・・・」
普通に語るエルザとは裏腹に、エメラは壊れたロボットのように首をガガガと動かしながらリンに視線を戻した。
「ハァアアァァアアアアアアッ!」
「よ・・よせっ・・・!」
グリフトは1歩1歩後ずさりをするが、リンとの距離はあっという間に縮まった。リボンの鈴がチリンと鳴り響く。
「鈴の音を響かせながら、敵を殲滅する。」
「その事から生まれた、リンの異名―――――」
グレイとルーシィが呟いた。
刀身が焔で包まれた名刀・焔桜を大きく振りかざす。
「―――――鈴音の殲滅者。」
「ぐあぁああぁぁああああああっ!」
ドサッと音を立ててグリフトが力なく倒れた。斬られたグリフトの服は焼け焦げており、周りには桜の花弁が落ちていた。
「ふぅ~、討伐完了っと。」
名刀・焔桜を鞘に戻しながらリンが言った。
「相変わらずの腕前だな、リン。」
「力は衰えていない。」
左肩を回しながらイブキと、表情を一切変えずにバンリが言った。
「皆といるのに力が衰える訳ないでしょっ。バンリも面白い事言うようになったね~。」
「俺達がいなくても、リンさんの力は絶対に衰えないと思います。」
リンが笑いながら言い、ティールの言葉にサーニャ、ジーハス、レーラも首を縦に振った。
「なーんか、手柄をリン達に横取りされたみてーで、つまんねェな。」
「仕方ないよ、ハッピーとシャルルが人質になってたんだから。」
「ハッピーとシャルルは猫だけどな。」
「ゴメンね、ナツ・・・」
つまらなそうな顔をしながら呟いたナツをコテツが励まし、アオイがさり気なくツッコミを入れ、ハッピーが申し訳無さそうにしゅんとなる。
「でも、何はともあれ依頼完了ですね。」
「早く依頼主の所に報告しに行きましょう。」
ウェンディとシャルルの言葉に習い、リン達と一緒に依頼主の所へ歩き出した。
「そういえば、“記憶の宝石”見つからなかったわね。」
「何だ?“記憶の宝石”って?」
「お互い、詳しい事はギルドに帰ってから話そうじゃないか。」
―妖精の尻尾―
ナツ達はリン達と一緒に依頼主に依頼報告をし、黄色い揺り籠の魔道士達は1人残らず評議院に連行されていった。
その後妖精の尻尾に帰り、ナツ達はエメラの事を話していった。エメラが記憶を失っている事も、その記憶が、100個の宝石に封じられている事も―――――。
「なるほど、エメラも辛い日々を送ってきたって事か。」
リンが首を縦に振る度に、リボンの鈴がチリンと音を立てる。
「“記憶の宝石”は、まだ85個もあるのか。」
「探すの大変だね。」
「だが、リン姉と俺達がいれば心配無用だぜっ!」
「私達も、出来る限りの事をしてみるわ。」
「ありがとう!」
レーラの手を握ってエメラは嬉しそうに微笑んだ。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったね。私はリン・グラフィリア。よろしくね、エメラ。」
リンは愛想良く笑顔を浮かべながら名乗る。
「ティ、ティール・ラングだ。よ、よろしく。」
ティールは恥ずかしがりながら不器用そうに名乗る。
「私はサーニャ・アドミーア!仲良くしようね、エメラ!」
サーニャは満面の笑みを浮かべて名乗る。
「俺はジーハスだっ!ジーハス様と呼び」
「はいはいはい、変な事は言わなくていいから。」
冗談を混ぜながらジーハスが名乗る。
「私はレーラニア・ホール。皆からは“レーラ”って呼ばれてるから、エメラも気安く呼んで。」
三つ編みを揺らしながらレーラが名乗る。
「そういえば、リンだけじゃなくてティール達も刀を持ってるんだね。」
エメラがティール、サーニャ、ジーハス、レーラという順に4人の腰に差している刀を見ていく。リンは刀を2本持っているが、4人は1本だ。
「皆私より強くてね~。」
「俺達が“強い”なら、リンさんは“神と同じくらい強い”ですよ。」
リンが笑いながら言い、ティールの言葉にサーニャ、ジーハス、レーラも首を縦に振った。
「この5人はチームを組んでいて、全員刀を使って戦うんだ。」
「その事から生まれた、リン達5人の異名―――――」
コテツとバンリが呟いた。
リンの赤いリボンに付いている鈴がチリンと鳴り響き、ティールが刀にそっと触れ、サーニャが顔に掛かった髪を掃い、ジーハスが白い歯を見せながら笑い、レーラが三つ編みを揺らした。
「―――――花時の殲滅団。」
リンが微笑んだ。
「そんな事よりエメラ、早速聞いて良いか?」
「私が答えられる範囲の質問なら、何でも良いよ。」
「んじゃぁ聞くけど、“記憶の宝石”ってどんな物なんだ?色とか、形とか、具体的に言ってくれねーと探し様もねェからさ。」
「おぉ!ジーハスにしては真面目な事聞いてる!」
「すごぉ~い!」
「驚いたわね。」
「お前等俺をバカにしすぎだろっ!?」
漫才のような4人の言動に、その場にいた者は全員お腹を抱えて大爆笑をする。
ようやく笑いが収まったエメラが手で6角形を作りながら口を開いた。
「えーっと、宝石の色は薄ピンク色で、形は6角形。大きさは、この腕輪の窪みに嵌まるぐらい。」
ポンチョ風の白いパーカーの左袖を捲って、銀色の腕輪の窪みを見せると、リンが顎に手を当てて考え込むような姿勢を取った。
「薄ピンク色で、6角形の宝石・・・私、それ持ってるよ。」
「えっ!!?」
花時の殲滅団以外驚嘆の声を上げた。
リンは白黒のストライプ柄のスキニーパンツの左ポケットに手を突っ込み、仲から“記憶の宝石”を取り出した。ナツ達は目を見開く。
「な・・何で、リンが“記憶の宝石”を持ってんだよーーーっ!?」
「サーニャがどこからか拾ってきたんだ。」
「だって綺麗だったから、リンさんにプレゼントしたら喜んでくれると思ったんだもん!」
ナツがリンの掌に乗っている“記憶の宝石”を指差しながら問い右手で頭を掻きながらリンが答える。その隣でサーニャが頬をぷくぅと膨らます。
「とにかく、これはエメラに返すね。」
リンがエメラの掌に“記憶の宝石”をおいた。
「!」
エメラの脳裏に眩い光を放つ閃光がよぎった。
風で揺れているアネモネの花が咲いている場所の近くに、家々が建ち並んでいる―――――。
また脳裏に眩い光を放つ閃光がよぎり、家々の情景は消えた。
「エメラ?どうしたの?」
「大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込みながら尋ねるリンとティールの声で我に返った。
「また何か見たのか?」
「家・・・」
「家?」
「アネモネが咲いてる近くに、たくさん家が建ってたの・・・」
問い掛けてくるグレイの瞳を真っ直ぐ見つめながら、エメラはゆっくりと今見た情景を言葉にして紡ぎ出す。
「アネモネって、この前見つけた“記憶の宝石”にも出てきてたわよね。」
「家が建ってるって事は、アネモネの花が咲いている街とか村っていう可能性があるな。」
「でも、アネモネが咲いてる所なんて・・・」
「あったかしら?」
ルーシィ、アオイ、ウェンディ、シャルルの順に言う。
アネモネが咲いている場所を思い当たるものは誰一人としていなかった。
「何なんだろう・・・この記憶・・・・全く、思い出せない・・・」
エメラは目を瞑り、頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまう。
小刻みに震えているエメラの右肩に、ナツが優しく手を置いた。エメラが顔を上げると、口元に笑みを浮かばせたナツの顔があった。
「無理に思い出す必要はねェ。ゆっくり思い出していけば、それでいいんだ。」
「あい。“記憶の宝石”も、まだ84個もあるから大丈夫だよ。」
「リン達も探すの手伝ってくれるみてェだし、他の奴等も手伝うって言ってる奴がいるしな。」
「皆で協力して探せば、84個なんてあっという間に見つかるはずだ。」
ナツに続いてハッピー、イブキ、エルザも励ましの言葉を掛ける。
「焦る必要はねェ!エメラの記憶は、妖精の尻尾が必ず思い出させてやるっ!約束だァ!」
「オオッ!!!」
腕を突き上げて宣言するように叫んだナツに続いて、皆が威勢良く声を上げた。
「ありがとう、皆・・・!」
翠玉色の瞳を細め、嬉しそうに口元に笑みを浮かばせてエメラは微笑んだ。
「いきなり話変わっちゃうんだけど、リン達はいつまでこの街―――マグノリア―――にいられるの?」
コテツが花時の殲滅団の5人の顔を順々に見つめながら問う。
花時の殲滅団は、3年ほど前からいろいろな街や国を転々と巡り、腕の良い魔道士として活躍してきたのだ。
コテツの問いに答えたのはレーラだった。
「3年もいろんな街やいろんな国を巡って来たから、しばらくはギルドで過ごそうと思っているのよ。」
「リンさんのお陰で、3年で私達、かなり力をつけてきたからね。」
「ナツやグレイやアオイやイブキなんて、簡単に倒せちまうかもなー。」
頭の後ろで腕を組みながら言ったジーハスの言葉を聞いたナツ、グレイ、アオイ、イブキの4人はガタッと音を立てて同時に椅子から立ち上がった。
「言ってくれたじゃねーか。」
「だったらジーハス、俺と勝負しやがれェ!」
「あ!先駆けなんてずるいぞナツ!」
「何でお前が最初なんだよっ!最初は俺と勝負しろ、ジーハス!」
口角を上げながらグレイが言い、口から炎を噴出しながらナツが言い、アオイがナツに文句を言い、指の関節をポキポキ鳴らしながらイブキが言った。
「ジーハス1人じゃ、どーせ3人には勝てないから、ティールも一緒に戦ったら?」
「お、おい!サーニャ!余計な事は言わな」
「おしっ!ティール、俺と勝負しろォ!」
「ナツ、ジーハスなのかティールなのか、どっちかにしなよ・・・」
サーニャの言葉をティールは遮ろうとするより先にナツに勝負を挑まれてしまい、ジーハスとティールに勝負を挑んだナツにハッピーがツッコミを入れる。
「アオイ、久々に私と特訓しない?」
「ホントかっ!?リンと特訓なんて3年ぶりだーっ!もちろんするするっ!」
リンの特訓の誘いにアオイはすごい勢いで頷きギルドを飛び出して行った。アオイの後を、リボンの鈴をチリンチリンと鳴らしながらリンが追いかけてギルドを出て行った。
「3年前までは、アオイも刀を使って戦うから、時々リンと特訓してたのよ。」
「へぇ~。リンって、強いの?」
エメラの問いに答えたのはルーシィではなく、なぜかティール、サーニャ、ジーハス、レーラの4人だった。
「強いに決まっているだろっ!」
「刀を持ったリンさんは宇宙最強なのっ!」
「リン姉を甘く見てたら酷い目に合うからなっ!」
「リンさんをバカにする奴は、たとえ仲間でも許さないから・・・!」
「う・・うん・・・分かった・・・」
エメラは噛み付くような勢いでリンについて語るティール達の勢いに何も言う事が出来なかった。
「3年経っても、4人のリンへの愛情は全く変わらないね。」
「アイツ等、リンの事になると5時間以上語れるくらいだからな。」
「“リンLOVE”だからな。」
コテツ、グレイ、イブキの順に言う。
「だが、リンの強さは本物だ。」
「妖精の尻尾の数少ない、S級魔道士。」
「えっ!そうなのォ!?」
ガシャッと鎧を軋ませながら胸の前で腕を組むエルザと、表情を一切変えずにバンリが呟いた。
S級魔道士。
それはギルドで最も優れた魔道士だけが与えられる称号。現妖精の尻尾のS級魔道士は妖精女王のエルザ、ギルドの看板娘、ミラ、マスターの孫、ラクサス、今は旅をしているマスターに続く最強の男、ギルダーツ、鈴音の殲滅者のリンの5人だ。
「リンは強い故に、仲間から慕われているからね。」
「ギルド内では人気者なんですよ。」
シャルルとウェンディが言った。
チリン―――と、どこかで鈴の音が聞こえたような気がした。
―ギルドの正面―
「うォオラアァァアアアアッ!」
ギルドの正面で3年ぶりに特訓をしているアオイとリン。
アオイは青竜刀を大きく振りかざしリンに攻撃を仕掛けるが、鞘から抜いていない名刀・焔桜で塞がれた。
(刀を鞘から抜かずに防いだ・・・!?)
アオイが目を見開いて驚いている隙に、リンは素早く鞘から名刀・焔桜を抜くと、アオイの顔面目掛けて大きく振りかざした。
「ハアアァアァァアアアアッ!」
「!」
アオイの顔面スレスレの位置で、名刀・焔桜の剣先が止まった。アオイは怯んでしまって動くどころか息も止まってしまっている。
「ふぅ~。」
息を吐きながらリンは名刀・焔桜を鞘に戻した。アオイはへなへなぁ~とその場に座り込んでしまった。
(さ・・3年前と、全然比べものにならない・・・)
座り込んでしまったアオイの右肩にリンが優しく手を置いた。
「相手をしてくれてありがとう、アオイ。アオイも攻撃の1つ1つの威力が上がってるし、速さも拡大に上がってる。すっごく強くなってるよ!」
アオイの手を握って立たせると、手を差し出した。
「また一緒に特訓しようね。」
チリンと鈴を鳴らしながら微笑んだ。リンに釣られてアオイも微笑み差し出されたリンの手を握った。
手を離すとリンが口を開いた。
「ところで、まだ話してなかったんだね。」
リンは一度ゆっくりと目を閉じ、またゆっくりと目を開くと静かに呟いた。
「アオイの―――あなたの本当の姿・・・」
2人の間を、静かに風が吹き抜けた。
ポニーテールに束ねた2人の髪の毛が風で揺れる。しばらく2人は、何も言わずにただ、お互いの瞳を真っ直ぐ見つめ続けた。
口元に小さな笑みを浮かべ、最初に沈黙を破ったのは、
「やっぱり、リンには気づかれていたのね。」
突然女言葉になったアオイだった。女言葉で喋り出したアオイを見ても、リンは全く動じない。
「そろそろ話しても、私は良いと」
「ダメよ!」
リンの言葉を遮るように、アオイは女言葉で声を荒げた。
「まだ・・その時じゃないわ・・・まだ、ね・・・・」
後半の方になると、アオイの声がだんだん小さくなっていく。
「心配しないで、大丈夫よ。いつか必ず、皆にも話すわ。」
引き攣った、悲しそうな笑みを浮かべて、アオイはリンに笑い掛けた。何かを言おうとして口を開いたリンだったが、アオイの笑顔を見て開きかけた口を一度閉じ、
「分かった・・・」
たった一言だけ、呟いた。
「・・・さーってと、特訓も終わったし、ギルドに戻ろうぜ、リン。」
いつもの口調に戻ったアオイが、さっきの笑顔とは全然違う―――明るく、楽しそうな―――笑顔を浮かべてリンの右手を掴んでギルドに向かって走り出した。
チリン―――と、鈴の音が鳴り響いた。
後書き
Story4終了です!
新キャラ5人、リン、ティール、サーニャ、ジーハス、レーラを今後もよろしくお願い致します!
最後のアオイとリンの会話の意味とは―――――!?
次回は・・・まだアイディアが浮かんでいないので、それまでお楽しみに~!
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