FAIRY TAIL ―Memory Jewel―
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序章 出会い
Story3 アネモネの記憶
前書き
紺碧の海です!
今回は“記憶の宝石”を探す為、早速クエストに出掛けたナツ達だが、思わぬ危機に陥ってしまう!果たして、ナツ達は“記憶の宝石”を手に入れる事が出来るのか―――――!?
それでは、Story3・・・スタート!
―モミジ山―
ここはモミジ山。
その名の通り秋になるとモミジの葉が真っ赤に色づき、山の端から端を真っ赤に染め上げ観光名所としても人気のある場所だ。だが、今は夏の真盛りなのでモミジの葉は黄緑色をしている。
「火竜の鉄拳ッ!」
そんなモミジ山で灼熱の炎が燃え盛る。
「ちょっとナツ!あまり暴れないでよ!」
「お前の炎が木に点火しちまったら、クエストどころじゃなくなっちまうんだ。」
「もちろん、“記憶の宝石”探しもね。」
「また評議院から始末書が来るね。」
金牛宮のタウロスを呼び出したルーシィ、両手に冷気を溜めたグレイ、翼をはためかせながら空を飛ぶシャルル、ハッピーの順に口を開く。
「それにしても・・・」
「いくら何でも多すぎねェか?」
背中合わせのコテツとイブキが顔を顰めながら呟いた。
ナツ、ルーシィ、ハッピー、グレイ、エルザ、ウェンディ、シャルル、エメラ、コテツ、アオイ、イブキ、バンリの10人+2匹の周りには、顔が猿、体と手足が虎、尻尾が蛇という奇妙な魔物が取り囲んでいた。それも1匹や2匹ではない。大体30匹くらいはいるだろう。
「な・・何ですか、この生き物は・・・?」
「山や森に住処を作って集団で生活する、ゴバイロンという魔物だ。」
うろたえるウェンディの問いにバンリが表情を一切変えずに答える。
ゴバイロン達はゆっくりとナツ達に歩み寄り、ナツ達はゆっくりと後ずさる。
「倒しても倒しても、減った気がしないのは俺だけか?」
「どんどん数が増え続けている。このままじゃ埒が明かないぞ。」
反った白銀の刀身に、柄に青い竜の模様が刻まれた青竜刀を構えたアオイ、別空間から剣を取り出したエルザが唇を噛み締めながら呟いた。
「うぅ・・ゴメン・・・」
左手首の銀色の腕輪に黄玉を嵌めた為、両手に電撃を帯びた雷を纏っているエメラが申し訳無さそうな顔をして謝罪をする。
なぜナツ達がこんな状況にいるのかというと、
時は遡り2時間ほど前―――――。
―妖精の尻尾―
「どぉエメラ?大分ギルドには慣れてきた?」
「はい!お陰さまで!」
エメラがギルドに加入してから早くも3日が過ぎようとしていた。カウンターの1席に座ってハーブティーを飲んでいたエメラにミラが笑顔で話し掛ける。
「ギルドの皆さんはとっても優しくて、すぐにいろんな人から話し掛けてもらいましたし、ギルド内の事もいろいろ教えてくれましたし、エルザさん達のお陰で、女子寮に住む事が出来ましたから。」
身寄りの無いエメラにはもちろん家も無く、女子寮に住んでいるエルザやウェンディ、シャルルの紹介で2日前から女子寮で暮らしている。因みに家賃は月10万Jだ。
「はぁー、女子寮かー・・・」
エメラの隣に座ってレモンスカッシュを飲んでいたルーシィがため息と共にカウンターに突っ伏する。
「ルーシィさんは、何で女子寮に住んでないんですか?」
「女子寮の存在知らなかったのよ。ていうか、女子寮の家賃って10万Jでしょ?払えなかったわ、今頃・・・」
涙を流しながら語るルーシィを見て、エメラは苦笑いをするしか出来なかった。因みにルーシィが住んでいる家の家賃は7万Jだ。
「それよりエメラ、「さん」付けで呼んだり、敬語で喋らなくて良いわよ。私達仲間なんだし、堅苦しいのは止めにして、ね?」
「え、良いの?」
「うん。ていうか、もう普通に話してるじゃない。」
「あ、ホントだ。」
いつの間にか普通に会話している事に驚いているエメラを見て、ルーシィとミラは顔を見合わせて微笑んだ。
「ルーシィ、エメラ、こんな所にいたのか。」
ガシャ、ガシャッと鎧を軋ませながらエルザがカウンターの方に歩み寄って来た。
「どうしたのエルザ?」
「ほら、エメラの記憶を封じている・・・ナツは“記憶の宝石”と言ってたな。それを探しに皆でクエストに行こうと思ってな。ルーシィとエメラを誘いに来たんだ。」
「ホントに、一緒に探してくれるの!?」
「当然じゃねェか。な、ハッピー?」
「あい。」
エルザの言葉に、エメラは翠玉色の瞳を宝石のようにキラキラ輝かせる。するとそこにナツ、ハッピー、グレイ、ウェンディ、シャルル、コテツ、アオイも来た。
「まずはクエストをしながら探すのが手っ取り早いと思ったんだ。」
「まっ、そのクエストをやって“記憶の宝石”が必ず見つかるっていう可能性は十分じゃねェけどな。」
鉢巻を締めなおしながらコテツ、腰に手を当てながらアオイが言う。
「それで、どんなクエストに行くの?」
ルーシィの問いに、グレイがルーシィとエメラの顔に持っていた依頼書を近づける。
「【モミジ山の巨大生物討伐 80万J】だ。」
「家賃が払えますね、ルーシィさん。」
「うん!」
ウェンディの言葉にルーシィは嬉しそうに頷いた。
「モミジ山って?」
「マグノリア駅から列車で1時間で行ける観光名所よ。秋になると山のモミジが真っ赤に染まってすっごく綺麗なのよ。でも、今は夏だからモミジは黄緑色だろうけど。」
「へぇ~。」
シャルルの説明を聞いたエメラは依頼書に書いてある「モミジ山」という文字を指でなぞった。
「ん?お前達、どこかに行くのか?」
「あ、マスター。」
個性的な服を着たマスターがナツ達の方に歩み寄って来た。
「今からクエストに行って、“記憶の宝石”を探しに行くんだ!」
「ほぉ、何のクエストじゃ?」
「モミジ山にいる、巨大生物の討伐だ。」
「モミジ山じゃと?」
「モミジ山」と聞いたマスターの右眉がぴくっと上がった。
「どうしたのおじいちゃん?」
「お、おじいちゃん!?」
「あ、僕がそう呼んでるだけだから気にしないでよ。」
「う・・うん・・・」
コテツの「おじいちゃん」発言に驚嘆の声を上げながらエメラは翠玉色の目を見開いた。
ナツ達も他の人達も、「おじいちゃん」と呼ばれたマスター自身も全然気にしていない様子で、エメラはそれ以上何も言わなかった。
「モミジ山には今、いろんな魔物が住み着いておるからのぉ・・・」
顎に手を当てながらマスターはしばらく考え込むと、顔を上げてギルド内を見回し、ギルドの端にあるテーブルで生物図鑑を読んでいたバンリと、同じテーブルで昼寝をしていたイブキを、腕を伸ばして叩き起こし、2人の体を掴んでナツ達の所まで強引に連れて来ると、
「イブキとバンリも連れて行け。」
「はァ!?」
「な・・何でェ!?」
「・・・・・」
マスターの言葉に、ナツとイブキは驚嘆の声を上げたが、イブキの隣でバンリは口を一文字に結んだまま何も反応しなかった。
「言ったじゃろ。モミジ山には今、いろんな魔物が住み着いておると。初クエストのエメラを連れて行くというのに人数が少なすぎるじゃろ。」
「7人もいるんだぞ!?」
「8人よ、ナツ。」
「いや、ハッピーとシャルルを入れて8人+2匹だ。」
「うわぁ~ん、ナツもルーシィも酷いよぉ~!」
人数を間違えるナツをルーシィが指摘し、ハッピーとシャルルを忘れているルーシィをアオイが指摘し、ハッピーは涙を流す。
「・・・ハァ、マスターの命令であり、“記憶の宝石”探しとなりゃァ、しゃーねェか。」
「おいイブキ!さっきは「行きたくねェ!」って顔してたじゃねーかっ!矛盾してんじゃねーかっ!」
「だぁーかぁーらぁー、マスターの命令で“記憶の宝石”探しとなりゃァしゃーねェって言ってんだろーがっ!ちゃんと人の話聞きやがれっ!」
「もぉ喧嘩しないでよーっ!」
睨み合うナツとイブキの間にルーシィが割って入って喧嘩を止めようとする。
「バンリさんは来ますよね?」
ウェンディの問いに、バンリは表情を一切変えずに頷いただけだった。
「10人+2匹で行くって事で良いんだな?」
「そういう事じゃ。」
「列車で行くから、まずはマグノリア駅に行かないとな。」
「れ・・列車・・・ぉ、ぉぷ・・・」
「お、おい・・こんな所で吐いたら、ぶっ殺すからな・・・」
「列車」というナツが青い顔をして口を押さえ始めたので、イブキは慌ててナツから距離を取った。
「エメラ、初クエスト頑張ってね。」
「うん!行って来ます!」
笑顔で手を振るミラにエメラも手を振り返し、エメラは仲間と共に初クエストへ、“記憶の宝石”探しに出掛けたのだった。
それから1時間ほど列車に乗り、モミジ山に着いたナツ達はまだ赤く色づいていないモミジの葉のトンネルを潜り抜けながら山を登り続けて―――――現在に至る。ナツ達は相変わらずゴバイロンの集団に取り囲まれていた。
「討伐する魔物って、コイツ等の事じゃねェよな?」
「あぁ。依頼主のモミジ山の営林署の役人は、山の頂に、その生物はいると言っていたからな。」
「ここって、まだ頂じゃ、ないですもんね。」
イブキの問いにエルザが答え、ウェンディが自分に言い聞かせるような口調で言う。
「とにかく、コイツ等を倒さねェと先には進めねェ!一気に片付けんぞっ!」
「オォッ!!!」
ナツの威勢の良い声に続いて全員が声を上げたのと同時に、アオイが青竜刀を構え直し、目の前にいる2匹のゴバイロンに向かい打つと、
「青竜・水斬!」
白銀の刀身が淡い青色に光り出したかと思えば、アオイは青竜刀を2匹のゴバイロンの頭上に振りかざす。すると、青竜刀の軌跡から水が噴出し、2匹のゴバイロンを攻撃した。
「タウロス、お願い!」
「ルーシィさんの為なら、MOー頑張っちゃいますっ!」
ルーシィが指示を出すと、タウロスは巨大な斧を構え2匹にゴバイロンに向かって駆け出すと、
「MOオォォオオォオオオオッ!」
2匹のゴバイロンを突き飛ばした。
「アイスメイク、槍騎兵ッ!」
グレイが胸の前で両手に溜めた冷気を一斉に放ち、氷の槍が4匹のゴバイロンを攻撃した。
「変換武器・施条銃」
バンリが腰に差していた小刀を手に持つと、小刀は一瞬で施条銃に形を変えた。
表情を一切変えず、無駄が一切無い動作で、バンリは施条銃を構え襲い掛かってきた3匹のゴバイロンに狙いを定めると―――
「乱射。」
一瞬で、3匹のゴバイロンの体を弾丸が貫いた。
「天竜の咆哮ッ!」
息を吸い、頬を大きく膨らませたウェンディが空気の息を吐き出し、2匹のゴバイロンを攻撃した。
「オウガソウル・悪鬼!」
イブキの体が無数の四角に分裂し始めると、頭からは2本の角、指先には鋭く尖った爪、口には牙が生え、手には金棒が握られている。
「うおおぉらぁあぁぁあああっ!」
声を荒げながら金棒を振り回し、3匹のゴバイロンを攻撃していく。
「換装!天輪の鎧!」
翼の生えた、銀色の鎧に換装したエルザは銀色に輝く無数の剣を操る。
「舞え、剣たちよ・・・」
エルザの声に従い、銀色に輝く剣たちが円状に舞うと、
「循環の剣ッ!」
剣が回転し、5匹のゴバイロンを攻撃した。
「我・・星の世界に認められし、導かれし者・・・汝、星々の力を、我に分け与えよっ!」
目を閉じ、左手を胸に当てたコテツの足元に、金色の魔法陣が浮かび上がり、コテツの茶髪と額に巻いた赤い鉢巻の端を浮上させる。
右手を宙に高く掲げると、右掌に金色の光が纏わりついていく。
閉じていた黄玉のような黄色い瞳が、カッ!と見開いた。
「金星の閃光ッ!」
金色に光り輝く閃光が2匹のゴバイロンの体を貫いた。
「黄玉の雷撃ッ!」
両手に雷を纏ったエメラが踊るように体を捻らせ、腕を振るい2匹のゴバイロンを攻撃した。
着々とゴバイロンを倒していき、残り後5匹―――。
「やれ、ナツ!」
「言われなくてもやってやらァ!」
青竜刀を構えた状態のままのアオイが肩越しから叫ぶのとほぼ同時に、両腕に灼熱の炎を纏ったナツが駆け出した。
5匹のゴバイロン達はナツに背を向けて4足歩行で逃げ出した。
「俺達の前に出て来たのが、運の尽きだったな。」
逃げるゴバイロン達を挑発するように、口角をニィと上げて笑うと、
「火竜の翼撃ッ!」
両腕を勢いよく振るい、5匹のゴバイロンを丸焼きにする。
ナツ達の足元には気を失った30匹のゴバイロンが揃いも揃って地面に横になって伸びている。
「ふぅ~。」
「やっと片付いたぜ。」
ナツが額の汗を拭いながら息を吐き、グレイが右肩を回しながら呟く。
「木が20本ほど倒れただけで、特に目立った問題は無さそうだな。」
「いやいやいや!十分目立った事してますから!」
「でも、もう後戻りは出来ませんね・・・」
「全く。」
エルザの発言にルーシィが透かさずツッコミ、ウェンディが困ったように呟き、シャルルが腕組をして目を細めながら呟いた。
「まっ、これで邪魔者はいなくなった訳だ。」
「早くここから退散した方が良いと思うぜ。目的地ももうすぐだしな。」
接収を解きながらイブキ、青竜刀を背中にある鞘に戻しながらアオイが言った。
「バンリ、頂上まで後どれぐらいか分かる?」
「距離は分からないけど、約30分ぐらいで頂上に着くはず。」
鉢巻を締めなおしながらコテツがバンリに問い、施条銃を一瞬で小刀に変え腰に差しながら、表情を一切変えずにバンリが答える。
「クエストって、こんなに大変なんだぁ・・・」
初クエストで疲れたのか、エメラが肩で大きく息をしながら呟いた。
「魔道士として、クエストは基本中の基本だからな。これしきの事でへばっていたら、戦場の時魔力が持たないぞ。」
「大丈夫。エメラもすぐに慣れるよ。」
「分かった、ありがとう。」
エルザの言葉に納得し、ハッピーに頷きかける。
「おしっ!山の頂上まで・・・競争だァァア!」
「えぇっ!?」
「面白そうだな。」
「グレイ、服どうした?」
「うぉあ!いつの間にィ!?」
ナツの声にルーシィが驚嘆の声を上げ、グレイが賛同するが、イブキに服を脱いでる事を指摘されその場で飛び上がる。
「おっしゃァァア!走るぞーーーっ!」」
「って、ホントにやるんですかぁっ!?」
「ま、待って!僕もやるーっ!」
意気込むナツにウェンディがツッコミ、コテツが慌てて走る体勢になる。
「よぉーーーい・・・スタートォォォ!」
ハッピーの声と共にナツ、グレイ、エルザ、コテツ、アオイ、イブキが土埃を上げながら一斉に走り出した。もう6人の姿は見えなくなってしまった。
「うわぁ、皆速~い。」
「・・・って、感心してる暇じゃないでしょっ!」
「急いで私達も行かないとっ!」
「ほら、早くしないとおいてくわよっ!」
「ナツー、待ってよーっ!」
ハッピーを先頭にシャルル、ウェンディ、ルーシィ、エメラと続いてナツ達を追って走り出した。そして、1人取り残されたバンリは表情を一切変えずに肩だけを竦めると、走らずに歩き出した。
―モミジ山 頂上―
「着いたーーーーーっ!」
走って頂上まで登り切ったナツは両腕を高く掲げて叫んだ。ナツの声が木霊する。
「ハァ・・ハァ・・・ちょっ、速すぎよぉ・・・ハァ、ハァ・・ハァ・・・」
「も・・もう・・・ハァ、ハァ、走れ、ま・・せん・・ハァ・・ハァ、ハァ・・・」
後から追いついたルーシィ達はその場に座り込んで乱れた呼吸を整える。
「ん?バンリは、どうした?」
「え・・・?う、うそ・・ハァ、ハァ・・一緒に、ハァ・・・走って・・ハァ、来てると・・思った、のに・・・ハァ、ハァ、ハァ・・・」
エルザが辺りを見回してバンリがいない事に気づき、ルーシィが走って来た道のりに視線を移すが、バンリの姿は見えない。
「心配要らねェよ。バンリは常に冷静沈着だ。走る必要がねェと思って、1人ゆっくり歩いて来てるはずだ。アイツが方向音痴じゃない限り、必ず頂上まで登ってくるはずだ。まっ、めちゃくちゃ頭のキレるアイツには100%有り得ねェ事だけどな。」
まるで自分の事を語るかのように、自信満々という文字を顔に浮かべながらイブキが胸を張って言った。
「そんな事より・・・」
「ドコにもいないよ、巨大生物なんて。」
辺りを見回しながらアオイとコテツが呟いた。
モミジ山の頂上にいるはずの巨大生物の姿が影も形もないのだ。「巨大」と言うくらいなのだから、簡単に身を隠す事なんて出来ないはず。況して身を隠す事が出来る木や岩も建物も、頂上にはない。
「何だよ、せっかく走ってここまで来たっていうのによぉ。いるならいるで姿を見せ―――――んぁ?」
「!!!」
「見せろよ」と言い掛けたナツの頭に、ドロォとした半透明の液体が垂れた。
「な・・何だコレ!?ベトベトしてるし・・・つーか臭ェエ!」
頭に垂れた謎の液体を触りながらナツが鼻を摘んだその時、ナツの黒い影より遥かに大きな黒い影が、ナツの黒い影に覆い被さってきた。
「ナ・・ナ・・ナ・・ナツ、さん・・・」
目を見開き、顔を真っ青にしたウェンディが歯切れ悪くナツの名を呼ぶ。ウェンディだけではない。ハッピーもルーシィも、グレイもエルザも、シャルルもエメラも、コテツもアオイもイブキも、皆目を見開き、顔を真っ青にしてその場で固まってしまっている。
「お、おい・・どうしたんだ?」
「う・・う・・う・・後ろ・・・!」
頭を左右に振って液体を掃いながら問うと、翠玉色の目を見開いたエメラが、口元に左手を当て、震えている右手の指先でナツの背後を指差した。
「後ろォ?後ろがどうかし―――――・・・!!?」
「どうかしたのか?」と言いながら後ろを振向いたナツの声はそれ以上続かなかった。
ナツの背後にいたのは、茶色い縦縞模様が特徴的な巨大なカエルだった。半分だけ開いたカエルの口から涎が垂れ、ナツの足元に水溜りを作る。ナツの頭に垂れた液体は、カエルの涎だったのだ。半分だけ開いたカエルの口の中から青紫色の舌の先が見えた。
「こ・・これが、依頼内容の・・魔物・・なの、か・・・?」
「あ、あぁ。ま・・間違い、無い・・・」
歯切れ悪く問うアオイに、歯切れ悪くエルザが答えた。
巨大カエルが水掻きのついた手足をゆっくりとナツ達の方に近づけてくる。
「に・・に・・に・・」
「逃げろォォオオォオオオッ!」
声が上手く出せないコテツの代わりにイブキが声を荒げ、それが合図だったかのようにナツ達はモミジ山を下山し始めた。すると、巨大カエルも体の向きを変えて木々を倒しながら下山し始めた。
「追って来ますよ~!」
「あのカエル、私達を餌だと勘違いして・・・」
「振向くな!前だけを見て走れェ!」
エルザが声を荒げて叫ぶ。
「だぁーーーっ!しつけー奴だなァ!火竜の咆哮ッ!」
愚痴を吐きながら、ナツは後ろ走りになると、息を吸い頬を大きく膨らませ炎の息を吐き出した。炎の息は巨大カエルの白いお腹に直撃した―――が、
「全然効いてねェェエェエエエエッ!」
「何でーーーーーっ!?」
「いいから逃げろォォオッ!」
攻撃が全然効いていない。
ナツ達はひたすら走る、走る、走る!巨大カエルはひたすら追う、追う、追う!
「わ、きゃっ!」
「エメラ!」
木の幹にでも躓いたのか、エメラが小さな悲鳴を上げて転倒していた。悲鳴を聞いたグレイが振り返ると、巨大カエルは転倒しているエメラの背後におり、青紫色の舌を伸ばし、エメラを捕まえようとしていた。
「くそォ!」
「ちょっ、グレイ!?」
巨大カエルのいる方へ駆け出したグレイを見てルーシィが驚嘆の声を上げた。
グレイは走りながら両手に冷気を溜め、巨大カエルの青紫色の舌がエメラの体に届く前に、エメラと青紫色の舌の間に割って入ると、
「アイスメイク、床ッ!」
「ウゲロォ!」
冷気を溜めた両手を地面に着け、地面を凍らせる。
巨大カエルは凍った地面の上で足を滑らせ、ドスゥゥン!と音を立てながら派手に転倒した。巨大カエルがひっくり返っている間にグレイはエメラに駆け寄る。
「エメラ、大丈夫か?」
「うん、平気。ありがとう、グレイ。」
翠玉色をした瞳を嬉しそうに細め、口元に微笑を浮かべてエメラはグレイに礼を言う。
思考が止まってしまったかのように、グレイはその場で固まってしまった。微かにグレイの頬が赤みを帯びているのは気のせいだろうか?
「グレイ!エメラ!危ねェ!」
ナツの怒鳴るような声でようやく我に返ったグレイは上を見上げると、
「エメラ、掴まってろ!」
「え?ひゃわぁっ!」
グレイはエメラの返事を待たずにひょいっと軽々エメラの体を抱き抱えると、その場で跳んで距離を取った。すると、さっきまでグレイとエメラがいた場所に、起き上がった巨大カエルが口から緑色の液体を吐き出した。
液体が落ちた地面はあっという間にドロドロに溶けて液体化してしまった。
「じ、地面が・・溶けて・・・!」
「あのカエル、口から酸を吐き出せるのかよ・・・!」
ウェンディが驚嘆の声を上げ、イブキが唇を噛み締める。
「ウゲロォ・・・」
巨大カエルがまた酸を吐き出そうとしたその時―――――、
「ゲロッ!」
ザシュッ!と音を立てて巨大カエルの頭に1本の矢が突き刺さった。驚いたナツ達は矢が飛んできた方向に視線を移すと、
「命中。」
矢を放った瞬間の姿勢のまま太い木の枝に立っているバンリがいた。
「バンリ!」
「お前今まで何やってたんだゴラァァアッ!」
「落ち着け、ナツ。」
バンリの姿を見たハッピーが声を上げ、今にも噛み付きそうな勢いで怒鳴るナツをアオイが片手で制する。
「頂上に着いても誰もいなかったから、急いで下山したらこの有様。」
表情を一切変えずにバンリは言うと、視線を巨大カエルに移し赤い瞳にその姿を捉えた。
「ここに来る前に、生物図鑑を読んでいて正解だった。」
「このカエルを知ってるの!?」
バンリの言葉を聞いたシャルルがバンリに問う。
「アシッドロン。口からどんなものでもドロドロに溶かす事が出来る酸の液体を吐き出す、山に生息している魔物だ。そしてアイツの弱点は炎だ。」
最後のバンリの言葉にナツ達は耳を疑った。
「さっき炎で攻撃したけど、ちっとも効いて無かったぞ。」
頭の後ろで腕を組み、口を尖らせながらナツが言うと、バンリは首を左右に振った。
「アイツの体は、危害から身を守る為に攻撃やものを跳ね返す、特殊な液体で覆われているんだ。でも、その液体は頭にだけない。攻撃をするなら頭だけを狙え。」
バンリがさっき放った矢も、アシッドロンの頭に突き刺さっていた。
「それならそうと早く言ってくれよ。」
「ナツ、私も手伝うよ。」
「ナツさん、エメラさん、援護します!」
ウェンディが両手を広げ唱え始めた。
「天を切り裂く剛腕なる力を・・・アームズ!」
指の関節をポキポキ鳴らしながら口角をニィッと上げて笑うナツと、腕輪に紅玉を嵌めて両手に炎を纏うエメラに、ウェンディが攻撃力を強化させるアームズを掛ける。
「紅玉の炎ッ!」
高く跳躍したエメラは踊るように体を捻らせ、両手の炎をアシッドロンの頭上目掛けて投げつける。
「ゲロォ!」
「効いてるわっ!」
ルーシィが感嘆の声を上げる。
「ぶちかましてやれっ!ナツ!」
「おう!」
イブキの声にナツは短く返事をすると、エメラと同じように高く跳躍し、両手に炎を纏う。
「右手の炎と、左手の炎を合わせて・・・」
炎が輝きを増した。
「火竜の煌炎ッ!」
両手を大きく振りかざし、アシッドロンを地面に叩きつけるような勢いで頭を殴る。
「ゲロォォオォオオオオッ!」
アシッドロンは目を回し、ドスゥゥゥン!と音を立てて地面に倒れ込んだ拍子に口から何かを吐き出した。酸かと思ったそれは、よく見ると薄ピンク色に光り輝いている宝石だった。
「あっ!」
「“記憶の宝石”だ。」
ハッピーとエルザが呟いた。
コロンと転がった“記憶の宝石”をナツが拾い上げ、エメラに手渡す。
「!」
エメラの脳裏に眩い光を放つ閃光がよぎった。
赤、ピンク、白のアネモネの花が風で揺れている―――――。
また脳裏に眩い光を放つ閃光がよぎり、アネモネの花の情景は消えた。
「エメラ?大丈夫?」
心底不安そうな表情を浮かべてコテツが顔を覗き込んでようやく我に返った。
「何か思い出したのか?」
「ゆ・・・揺れて、る・・・・」
「何が?」
「花が―――アネモネの花が、風で・・揺れてたの・・・」
問い掛けてくるグレイの瞳を真っ直ぐ見つめながら、エメラはゆっくりと今見た情景を言葉にして紡ぎ出す。
「アネモネの花だけじゃ、何の手掛かりも掴めねェな。」
イブキが頭を掻きながら独り言のように呟いた。
「まぁとにかく、“記憶の宝石”を見つける事も出来たし、クエストもこれで完遂だ。依頼主に報告しに行こう。」
「そうですね。」
「おしっ!今度は依頼主の所まで競争だァァアッ!」
「はァ!?」
「今度は負けないからな。」
エルザの言葉にウェンディも賛同し、ナツの突然の思いつき発言にルーシィが驚嘆の声を上げ、アオイが張り切って腕の筋肉を伸ばす。
(アネモネ・・・あれ?私、どこかでアネモネを見た事が・・・・)
頭に手を当てて考え込むエメラの右肩にバンリが手を置いた。エメラはバンリを振り返ると、バンリの赤い瞳がエメラの姿を捉えていた。バンリの瞳に映るエメラの瞳は紅玉色をしていた。
「今はあまり、深く考えない方が良いと思う。」
そう言うと、バンリはイブキの横に並んで走る態勢を取った。
「おーいエメラー、何やってんだー?」
「早く早くー!」
「おいてっちまうぞー!」
ナツ、ルーシィ、グレイの順に言葉を放つ。
「うん!今行くよーっ!」
そう返事をした後皆がいる場所に向かって駆け出した。
(バンリの言うとおり、今は深く考えないで、皆と一緒にいる方が良いんだ。)
ウェンディとルーシィの間に割って入って、エメラも走る体勢を取る。
「よぉーーーい・・・スタートォォォ!」
ハッピーの声と共に、今度は全員が一斉に走り出した。
夕日がモミジの葉を、赤色に染め上げた。
後書き
Story3終了ですっ!
エメラの記憶の1つであるアネモネ。アネモネが指しているエメラの記憶とはいったい―――――!?
次回は新たなオリキャラ達が登場します。しかも何と一度に5人もっ!?
お楽しみに~!
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