アラガミになった訳だが……どうしよう
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原作が始まった訳だが……どうしよう
43話
イザナミの精神世界から出てくると、お互い意識を失っていたらしく俺がイザナミを押し倒す形になっていた。いや、それはどうでもいいんだ。
問題は俺の腰から下が随分と俺から離れた位置にあるということだ。さっきから痛くて仕方がないんだが……
「イザナミ、俺の脚取ってくれないか?」
「はいはい……なんだかお醤油取ってみたいな感覚で脚取ってっていうのも、なんだか妙な話だね」
「それは言うな……それに多分この傷はお前がやったやつだろ?」
「だね……だってマキナがこういう手段に出るなんて考えてなかったんだからさ。普通に殴ってたら無傷になるようにはしてたんだよ?」
そんな事を言いながらイザナミは上半身だけの俺を地面に置いて俺の脚を拾いに行く。うーむ……いや、まぁ仕方がないのは分かっているんだがあんな事の後の始めてやりとりが、イザナミに脚を拾ってきて貰うってなんだよ。
「仕方ないでしょ、私だってそれは思ってるんだからさ」
そんななんとも締まらない雰囲気で黙々と下半身と上半身を繋げる。よくよく考えると、あと少し上にレーザー当たっていればコアに当たって死んでいたな……
「イザナミ、ちゃんとアリサ達に謝っておけよ?誤解されたままじゃ色々問題だろ?」
「だよね……はぁ、気が重いよ。けど悪い事はしたんだから謝らないとね。じゃあ、私はエイジスの方へ行ってくるからマキナは外に集まってるアラガミを倒してきてよ。帰ってきたら家がないってオチはお粗末すぎるからね」
「分かった、お前もちゃんと謝れよ。アリサ……いや、特にユウには土下座でもする勢いでな」
「う、うん……ユウ君だったらそれを理由に演習場に連れ込まれそうだからね。下手なタイミングで行ったら支部長と戦ったテンションのまま斬られそうだし……どうしよ?」
「それに関してはどうしようもない……大丈夫だとは思うが、一回くらいは相手させられる位は覚悟しとけ」
イザナミが俯きがちにとぼとぼと重い足取りでエイジスへと歩いて行くのを見届けてから、俺は極東支部の方へと駆け出した。
はてさて、どんなアラガミがいるのやら……オラクル細胞の補充も兼ねて暴飲暴食といかせて貰おう。コアから離れた事で若干結合の緩んだ脚を走りながら再構成しつつ、俺は久し振りのアラガミらしい食事に胸を踊らせる。
確かにイザナミの作る人間らしい食事は好きだし不満のないのだが、やはりたまにはジャンクな物も食べたくなるじゃないか。
うーむ……いやさ、残ってるゴッドイーターから考えれば誰が戦ってるかなんてすぐ分かるだが、これは一体何だ?
至る所に肉片は飛び散り、辛うじて原型をとどめているアラガミも腹の中身が根刮ぎ抉られ惨殺されている。大型中型小型一切問わず、あらゆるアラガミが喰い散らかされているな。分かりやすく、かつソフトな表現で伝えるとすればしっちゃかめっちゃか、と言うのが適切か?
正直、この光景を見てしまうとアラガミが人間の捕食者と言われても、逆の間違いじゃないのかと言いたくなる。
これは一般人が見たら確実にトラウマものだな……
そんな凄惨極まりない所に血塗れの女性が一人立って、アンプルを一気飲みしているというのはミスマッチもいいところだ。加えてそれが知り合いならば尚更だ。
女性はこちらに気付くと慌てて腰のポシェットからタオルを取り出し、返り血に塗れた顔を拭いて笑顔を向けた。
「あ、マキナさん遅いですよ?この辺りのアラガミは大体片付きました、どうです?褒めて下さいよ」
「あ、ああ……うん、よく頑張ったなカノン。それにしても、これをお前一人でやったのか?」
「はい!!マキナさんがプレゼントしてくれたパーツのおかげで、ここまで戦えましたよ」
そう言ってカノンは自分の神機を俺に見せる。
それは連射性能と命中率を全て捨て去り威力にのみ特化した巨大な砲身に、銃剣というには馬鹿げた大きさと厚みの大剣を砲身に一体化させた、この世の馬鹿と冗談を総動員させたような神機だった。
俺がリッカに頼んだのは威力の向上と相手を固定するための銃剣だった筈だが、何処をどう間違えてこんなビックリ兵器になったんだ?
「……俺の思ってたパーツと随分変わったんだな?」
「はい!!リッカさんと相談している内にこんな感じになっちゃいました、持ってみますか?」
カノンに手渡された神機はしっかりと重み感じるいい具合の……ちょっと待ってくれ。
俺が重みを感じる?アラガミの俺が?仮の神機を使うにあたって色んな神機を持ち、大剣型を持っても重みを感じなかったんだぞ?
確かに基本的な大剣型が20kg前後……じゃあ、これってどんな重量だ?
「カノン、これって何kgだ?」
「120kgですけど、どうかしましたか?」
「重くないのか?」
「前よりは重いですけどそこまで気にする程じゃありませんし、性能がそれ以上に上がっているんで気になりませんよ?」
……なんだろう、どうして俺の周りのゴッドイーターは人外レベルのスペックを持ち始めるんだ?
確かに検査やらでカノンの神機の適合率は出生段階で弄られたソーマや人間卒業済みのユウとほぼ同等であるので、神機に多少無茶な性能を持たせても問題はない。
だが、いくら何でもこの武器はないだろう。一体こんなトンデモ兵器で一体何をしようと言うんだ?
そりゃカノンが強くなるというのはいい事だ、強ければその分アラガミに負ける可能性が減るんだからな。……ただ、限度は考えて欲しかった。
そんな風に遠い目をしながら軽く現実逃避していると、またワラワラとアラガミが湧いてきた。うん、食事じゃなくて色々な八つ当たりに変更だな。
「カノン、一旦下がって補給してきたらどうだ?」
「大丈夫ですよ、まだまだ余裕ありますから」
ああ、さいで……
「半分くらい残しておいてくれよ、そろそろ腹が減ってきたんだ」
「あ、はい分かりました」
カノンは神機を構えると先程までののほほんとした笑顔から一転、笑顔は笑顔でも獲物を前にした肉食獣のそれに変わった。巻き込まれたりしないよな、俺?
俺が右腕と両脚を具足に変化させる間にカノンはアラガミの群れに飛び込み、着地点にいたアラガミに至近距離で砲弾を撃ち込み爆散させた。その衝撃で周囲のアラガミがよろめくのを確認すると同時に、身を屈めてアラガミ達の足元に潜り込む。
そして彼女は移動しながら、砲身に付いた大剣でアラガミの脚を次々潰していく。あの大剣は切れ味よりも強度を優先したらしく、アラガミの脚を切断するのではなく砕いている。
俺はその間にカノンの死角にいるアラガミを叩き潰しつつ、離れた場所にいたアラガミの肩を変化させた銃を撃ち込む。
いやはや、少し離れて見ると分かるがカノンの突破力は凄まじいな。低い姿勢のまま縦横無尽に駆け回り、相手の機動力を奪いつつ必殺の砲撃でトドメを刺している。そもそもカノンにとっては逃げられないように脚を砕いているだけなのだろうが、小型アラガミはその攻撃だけで体の半分を潰されている。
とはいえ、欠点がない訳じゃない。ブラスト型神機の最大の弱点、弾切れだ。
カノンの神機には大剣が付いているものの、あれはあくまで外付けの武装に近いものでオラクル細胞の吸収量が低い。
普通のブラスト型よりは僅かではあるものも吸収できるだけマシだが、消費量も並のブラスト型より上だ。それ故にカノンは腰のポーチに大量のオラクルアンプルを入れているのだが、流石の連戦となると若干心許ないらしく先程から砲撃音が少し減っている。
こう、弱点があるってのはいいな。人間らしくて結構だ。ユウのように散歩でもするかのようにヴァジュラの群れやらウロヴォロスやらを一人で、しかも僅か数分の内に殲滅されるとアラガミよりそいつの方が怖くなってしまう。
そんな呑気な事を考えつつ、俺は右腕の具足にオラクル細胞を濃縮したものを装填してカノンに狙いを定める。カノンも視界の端で俺を捉えたらしく俺の射線上にいたアラガミを砲撃で吹き飛ばす。
俺はカノンにオラクル細胞を放ち、カノンがそれを神機で受け止めると彼女の神機は微かに光を放った。
これはリンクバーストと言って、神機の限界を超えた量のオラクル細胞を外部から供給することで軽い暴走状態を引き起こし、神機とゴッドイーターの性能を一定時間飛躍的に上げるものだ。
暴走状態とは言っても、神機自体がそれを考慮してせっけいされているので制御は可能だ。ただし、その考慮した量を上回る量となると命の保証はできないが、そんなものは自業自得なので知ったことではない。
さて、話は逸れたがあのカノンがリンクバーストによるブーストを受けるとどうなるか……コンゴウを神機で突き刺して持ち上げられるようになったと言えば分かるな?多分、今のカノンなら小型アラガミなら素手でも行動不能にできるな。
ん?妙な違和感が……後ろをふと振り返ると空に黒い触手が伸びていた。ふむ……向こうは終わったようだな。
徐々に触手が上に伸び、次々と引き千切られる。そして、黒い塊が空高く昇っていった。結果も成功……細かいところは後々聞くとして、俺は雑務処理だな。
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